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闇夜に欲望は嗤う  作者: Asuka
ホロウ編
3/6

煉獄

悪魔に魂を売る、とはよく言ったものだ。


それは想像を絶する痛みを伴う。


自身を消すような痛み、体の全てが焼けるような熱さ


それでも、この世界で私が満たされるというのなら


私は、消えてでも魂を売ってやろう



「では、取引をしないか?お前を楽しませてやる取引を…」


「取引だって?」


目の前の「死神」が、突如持ちかけた取引。私はそれが何を意味するのか、まだわからなかった。


「やはり、命でも奪うつもりなのか?」


「そんなことはしない、ただ貴様が痛みを負うのは確実か…」


なるほど、命は奪わないにせよ、何かしらのデメリットはあると。まあ、取引と銘打つくらいならばそんなことは容易に想像できるものだが。


「じゃあ、お前のいう取引っていうのは一体なんなんだ?」


奴は静かに言った。


「取引か、まずお前が受けるメリットから教えてやろう。一つ目は、お前は死神の力を得られること。お前に死神や影たちの気配が察知できるようになる。そして戦闘能力は今の倍は跳ね上がるだろうな。そして私たち特有の力、ホロウも行使できる。」


「ホロウ?」


「見せる方が早いか…」


そう言って彼は右手を出す。するとその右手に青い炎が上がった。


「この炎一つで、まずこのマンションとやらは全焼するな。つまるところ、ホロウというのは私たちが固有にもつ属性の力だ。私は火の力を持つ故、このような芸当ができる。」


「なるほど、それが水になったり、雷になったりもするわけか。」


「そういうことだ。そしてお前が取引をするならば、私たちの力を行使できる人間となれる。つまり、死神の能力を持った人間になり、影たちと戦えるわけだ。」


「ほう…」


麻衣は興味深そうにその話を聞いていた。死神の力を得る。そして影たちを倒せる…と。確かに今より退屈は無くなりそうだ。影たちはこの世界に蛆のように巣食っている。ならばそれを一匹残らず狩り尽くす。そうすればこんなつまらない世界でも満たされるものがあるかもしれない。何より、私を楽しませ死の淵に立たせたあの戦闘をまたしたいと思った。


「ただ…」


しかし、死神が遮る。


「貴様にはそれなりの対価を払ってもらうことになる。」


「対価…一体何が起こる?」


「まず、貴様は力を得ることでその身を苦しめることになる。ただでさえ人間と私たちは違う。その力を私たちはあくまで貴様らに貸し与えるだけだ。それが貴様に合うかどうかその責任は私たちにはない…それで死ねば貴様の自業自得だ。要は力を得たあとに生きているという保障がないということだ。さらに力を得ても貴様は死神の力と己の肉体との乖離に苦しむぞ。その身にはいつも痛みが伴いその痛みは身を焦がすほどだ。それに耐えられなければ、どのみち死ぬ。」


死神の力の代償は常に伴う痛みと、死ということか。確かに、そのような強大な力を得て人間が生きていられるという保障はない。自分の身と力の差に大きく乖離が生じる以上、負担も大きいだろう。そんなことはわかっている。それでも、私は…


そこで奴はまた言った。


「それでも、貴様は力を発すだろう。ただ、代償はまだ存在する。死神として生きる以上お前は死ぬまでその力を行使して影を殺さなくてはならないぞ。影を全て殺すか、先に貴様が死ぬかということになる。さらに、貴様の思考は時が経つにつれ、どんどん死神としてのそれに近くなっていく。人間のような思考など常人なら三日もあれば捨ててしまう。そして残るのは、獣のように何かを殺したいという欲のみ。ある意味で影に近くなる。そのような瑞穂らしい生き方をしなくてはならなくなるかもしれんということだ。

そして最後に、貴様がその力を行使できるようになった瞬間から、私は貴様に戦闘において一切手助けはしない。その力でのみ敵を倒すようになるぞ。」


行使すればするほど思考も奪われていくということか。そして生涯、孤独に、影を殺すために生き続けなくてはならない。人間らしい生活への渇望など、捨てなくてはならないというわけだ。


確かに、恐ろしい気もした。死を覚悟しなくてはならない。そう感じた。



ただ、私はそれ以上にこの世界が退屈だった。馬鹿な人間ども。役に立たない情報。汚い欲望。そして、それらに殺されるというなんとも哀れな人間ども。そのような世界で生きていくことの方が、よっぽど地獄だった。まだ死神の力を行使できず死ぬ方がマシなのかもしれない。そう思うほど、人間という生き物は腐っていた。


答えはただ一つ、迷いなんて存在しなかった。自分がたとえ死のうと、永遠の苦しみを味わおうと、人としての生き方を捨てようと何が待っていようと私は、その死神の力を得たい。そして退屈な世界に終止符を打つ。それが私の願いだ。


「死神…取引だ!」


私は力強く言った。


「…成立。」


不敵に笑った死神が呟いた。



死神は右手で作り出した錬成陣のようなもの(そういう漫画を読んでいた時に見たものとよく似ていたが実際は違うのかもしれない)を床に生じさせ、その上に私を立たせた。


「貴様がこの上にいる間に、力を授ける。ただ、もう一度だけ聞くが、本当に覚悟はできているんだろうな?この取引の時点で貴様が死ぬ可能性もあるぞ?そして生きたとて貴様は苦しむことになる。それでも本当に後悔はないな?」


「当たり前だ。」私はきっぱりと言った。


「…ならいい。せいぜい無事を祈れ。」


その言葉を最後に、彼は私に一言も話さなくなった。本当に取引を始めるようだ。

命をかけた取引、勝つか負けるか、それはもはや私の運に賭けられている。いいだろう…面白い!


「では、いくぞ…」


そう言って彼は私にはわからない言葉を話し始める。奴らの独自の言葉なのだろうか。そんな疑問を抱いていたが、床に綴られていた錬成陣が光り出した瞬間、そのような思考をする余裕がなくなった。




「なっ…!うっ!ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


体を突如、煉獄のような熱いが襲う。これが地獄の業火だと言われれば、私はそれをすんなりと受け入れてしまえる。それくらいの熱さが私を襲っている。私の悲鳴を無視して、奴は取引を続ける。奴は確かに言った。命の保証はないと。そう言った以上一切の責任を持ちはしない。私がどれだけ苦しんでも、奴には関係ない。


「うっ…あああっ!はぁ、はぁ、はぁ…」


熱い…熱い!熱さとともに襲ってくる痛みにも耐えながら私は取引を続ける。まだ生きている。


「あと半分といったところだ。流石だな。並のものなら既に死ぬ。」


「なるほど…っ!ああっ…それは、名誉なことだな…」


強情にも言葉を返すが、本当はそんな余裕は一切なかった。耐えるだけで精一杯だ。


「これからが一番の瀬戸際だ。せいぜい、死ぬなよ。」


奴が言った次の瞬間、体にかつてないほどの激痛と熱さを感じた。本物の地獄を味わわされる。地獄の業火すら温いような、本物の熱さ。体が焼けるような熱さだ。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


熱い…痛い…もう限界か…

体が、感覚が消えていく。死を予感した次の瞬間。



体の奥から、何かを感じた。それは、明らかに今食らっている熱さや痛みなんてものではない。むしろ心地よさすら感じさせる何か。まるでどこまででも飛び立てるような翼を手に入れたような感覚。自分の中の、空になっている聖杯を満たす何かが沸き起こる。つまらなかったこの世界に一筋の光が射した。


その時、私に襲いかかる煉獄は全て消えた。熱さも痛みも消えたのだ。あるのはその熱さを意のままに操れる自分。そして体から沸き起こる、かつてないほどの力。


「ほう!素晴らしい!まさか本当に力を吸収するとは!」


奴は歓喜していた。


「つまり、取引は成立した、と?」

「ご名答。お前はたった今、私たちと同じホロウの力を手に入れた。そしてお前も死神の仲間入りを果たしたというわけだ。」


なるほど、とうとう私はこのつまらない人間としての生活を捨てられたのか。私は歓喜した。やっと、私を満たすものとの戦いに参戦できる。私は、満たされる!楽しめるのだ!


「ありがとう、死神…この力、大切に使わせてもらうよ…」


私の目は、不敵に光った。月のない闇夜、一人の死神がこの世界に降臨した。

どうも!Asukaです!

このシリーズも早3話目を迎えました。楽しめているでしょうか?

さて、今回はとうとう主人公の麻衣が死神と取引をして力を手に入れます。退屈とばかり言っていた彼女の運命は、ここから狂い出し、彼女のいう「楽しめる世界」へと加速していきます。まずは本格的な戦闘シーンから書き出さねば…

最後になりますがいつもご愛読、誠にありがとうございます。

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