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闇夜に欲望は嗤う  作者: Asuka
ホロウ編
1/6

退屈

「それで、その話の何が面白いの?」


全く…周りの連中が阿保で仕方がない。日本一の大学と言われ続けたこの帝都大学もすっかり落ちぶれたのではないかと疑ってしまうほどだ…今、私の前でだらだらと身に起こった話をした友人も私の目を見てすぐに察したのか、口をつぐんだ。


曰く、私は面白くない話をする人間には大体射殺すような眼光を放っているらしいが、あながち間違いではないのかもしれない。つまらないことはつまらないとはっきり切り捨てる。私はそういう生き方をしてきた。そして私は多くを切り捨てたと思う。


生まれながらにして私は「天才」と呼ばれる人間だった。私にその自覚は、当然ない。ただ周りが、私をもてはやすだけなのかもしれない。しかし私が生まれてから失敗したことは本当に少なかった。誰もができないと悩んでいたことをすぐに成功させた。人が一ヶ月努力してようやく基礎を作ったものを、私は三日だけで発展させるまでに至っていた。私は自惚れたくないため、自分を天才だなどと思わずに生きてきたが、周りからすれば私は紛うことなき天才だった。すぐに羨望の眼差し向けられた。あるものは私に媚を売り、あるものは逆に私を妬んだ。学校で呼び出され囲まれたこともある。もちろん喧嘩目的で。ただ、そこでも私が負けることは一切なかった。低俗な喧嘩ですら私の才能は発揮された。殴りかかってくればそれを避け、数倍の威力で拳をぶつける。それだけで周りが逃げていく。それ以降、私に何か仕掛けてくることもなくなった。ある意味の平穏を手に入れたと言えるだろう。


ただ、私は退屈だった。どうしようもないくらい退屈な毎日だった。なんでもできてしまう。葛藤も、努力もなく、なんでもこなせてしまう。この帝都大学に入る際も受験勉強など数えるほどの日数しかしていない。試験時間の半分も経たないうちに試験を終え、あとは寝ていた。それでも満点で主席合格だから本当に、世界が退屈だった。生きていても作業にしかならないこの世界で、私は生きる意味をなくしていると言えるだろう。


「麻衣って…なんか怖いよね…ごめんね、退屈な話、聞かせちゃって…帰るわ…」

友人(らしく振舞っていた他人)は私の眼光に屈しその場を去っていった。私は手元のコーヒーをすする。また一人私に近づく人間が消えた。荷が軽くなると同時に孤独に近づく。相反する二つが私の中に残る。もう何度目だろうか。もはや慣れてしまった。このまま孤独に一人の世界で生きていても悪くない。


私を楽しませる人間がいないから、この世界はつまらない。



講義もまた、つまらない御託を教授どもが愉悦でだらだら話すだけの演説に過ぎない。政治家の演説が胡散臭いと言われるようだが、まさにそれが今のこの状況だろう。ああ、つまらない。退屈だ。第一、私はもうこんなものを聞かなくても単位を取ってしまっている。だからここにいなくてもいいのだ。ただどこにいてもつまらないから、まあ何かを聞いておいてやろうといった気分でしかここにいない。それにしてもつまらないのだが。教授としてそこに踏ん反り返るだけの老害に用はない。

もはや聞く気のなくなってしまった私はその場を去った。そのことについて、誰も何も文句は言わなかった。


講義の教室から去り、私は又しても手持ち無沙汰となった。アルバイトも今日は入っていなかった。当然ながら友人との予定もない。つまり、暇だ。私からすれば毎日がほぼ暇だと言って仕舞えばいいのだが。つまらない日々がこうも続くと、悟りでも開けてしまいそうである。私は仕方なく外へ出た。そしてポケットの中にあるタバコを吸う。私は大学の三回生、喫煙に問題はない。周囲からは怪訝な目を向けられるが、阿保どもの目など気にもならない。タバコとコーヒー、これらは私に落ち着きをもたらす。つまらない毎日に貪欲に何かを求める衝動、私を私でない何かに変えてしまうような衝動から私を切り離してれる。

その煙は、ゆっくりと立ち上っていく。その匂いも今ではなくして生きられなくなった。典型的なニコチン中毒かもしれない。このまま体に毒がたまって、私は死ぬか?まぁ、こんな退屈な毎日を生きる私からすれば、すでに私は死んでいると言ってもいいかもしれない。それほど私は絶望している。このどうしようもなくつまらない毎日に。


タバコを消して、建物の中に戻る。向こうから二、三人の女子大生がやってくる。私とすれ違うと彼女らはタバコの匂いに気づき、私に嫌悪の目を向けてくる。


「美人だからってタバコとか…カッコつけてんのかよ…」

「マジ女のくせにタバコとか…元ヤンか?」

「無理だわーそういうの…マジ消えてくんねえかな?」


遠くからでも聞こえる罵声、嫉妬。こんなものが聞こえること自体恥だ。阿保どもの遠吠え。取るに足らない。だめだ。今日はもうここにいても苛まれるだけだ。阿保に囲まれてしまうとどうも頭が痛い。私は少し早い帰路につくことにした。


1LDKの自宅マンションに帰る。無機質なオートロックが私を出迎え、簡素な私の家の玄関が開かれる。リビングに入り、着替えを済ませ、早速寝ることにした。つまらない世界からの離脱。私を目を閉じた。


どれくらい、そうしていただろうか。気づけば周りは暗くなっていた。時計は7時半。すでに夜を迎え始めている。


「夕食ね…コンビニでいいか…」


私は適当に夕食を済ませるべく、財布とスマホを持って駐車場へ向かった。そこに私の相棒のバイクがある。高校卒業後、春休みに免許を取得した。すぐに取って乗り回している。ライティングもまた私の退屈を一時的に紛らわすものだ。エンジンをかけ、ヘルメットをかぶって私はバイクを走らせた。


最寄りのコンビニには十分足らずでついた。店内に入り弁当のコーナーへと向かう。すでに多くの人が買ったのか、商品棚にはほとんど何も残っていなかった。数少ない陳列の中にミートソースパスタを見つけ、ペットボトルのお茶とともにレジへ向かう。背の高い男性の店員がいた。テキパキと作業を済ませ、無機質に商品を渡した。そのまま受け取って私は店を出た。


コンビニを後にし、バイクに乗る。そのまま家までの道のりを進む。人通りも少なく事故も起こらないだろう。そう感じてスピードを少し出して走っていた時、 前方から何かが飛んできた。それは住宅街の塀に激突した。何事かと思い私はヘルメットを外し駆け寄る。


それは、人だった。いや正確には人だったものだ。それは頭部がない。何かによって吹き飛ばされたのだろう。血がとめどなく流れている。見て驚愕した。ただ、悲鳴はあげなかった。もはや悲鳴をあげる力もなかったのかもしれない。或いは、目を前の現実の処理のために、悲鳴をあげる余裕がなかったのかもしれない。そんな私の前に、何かが迫っていた。その方を見ると、


黒い、背の高い何かがいた。明らかに人ではない。顔が、表情がないのだ。日本の妖怪にのっぺらぼうという奴がいるが、まさにそれだ。そして、それは手に何か持っている。予想はしていたが、それはこの死体の頭部だった。サラリーマンの男性だったが、その目は虚空を見ている。きっと恐ろしかったことだろう。それは、男性の頭部を地面に無造作に叩きつけた。頭部は跡形もなく粉々になった。目の前で起こった凄惨な事態。

ただそれでも私は悲鳴をあげたりしなかった。なんだろう。むしろどこか待っていたような気さえする。


その黒いもの、黒いから「影」とでも呼ぼうか。それは私を見る(目が確認できないため見たのかはわからないが)とすぐに走ってきた。私は本能で逃げようと思ったが、そいつはあまりに速く、すぐに目の前に迫ってきた。そして鋭利な爪の生えた腕を振り下ろす。それを避け、私はそいつの背後に回る。そのまま背中の中心に蹴りを入れる。実は私はテコンドーの経験者で、蹴りにおいて早々私の右に出るものはいない。中学の時に全国大会で優勝して辞めたがその実力は衰えてはいなかった。強烈な一撃に影もよろめいた。効いたようだ。その隙をつき私は逃げた。


しかしすぐに何かに掴まれた。そいつが伸ばした腕に足を掴まれたのだ。そのまま引きずられそいつの元まで来てしまった。そいつは私に馬乗りになると容赦なく拳を振るってきた。防御の構えを取るもダメージは確実に入っていく。反撃しようにも、そいつは速すぎた。そしてそいつは私を掴み上げると近くの壁に投げ飛ばした。体の軽い私はそのまま壁に打ち付けられる。吐血してその場に倒れる。体の骨が折れる音がした。死も予感した。ただ、同時に興奮している。私を追い詰める存在。久しぶりとも言える戦闘。目の前のそいつが、曇天の毎日がいつしか鈍らせた私の渇望を蘇らせる。私の血を騒がせる。


ああ、もっとだ、もっと、もっと、もっともっともっともっと!私を楽しませてくれ!もっと!死に近づけさせろ!


脳の中の興奮が私に快楽さえもたらす。アドレナリンが出続けているのがわかる。奴の攻撃を受け、ダメージが残るたびにそれは大きくなる。またこちらの攻撃がヒットして奴にダメージを入れてもそれは大きくなる。戦闘が進むたび私の興奮は、快楽は大きくなっていった。


しかし、興奮に包まれた私の思考に、体はついては来なかった。何度かの打ち合いの上、私はとうとう立てなくなった。奴もまた、かなりのダメージを負ったが、それでも立っている。私は、負けたのか。でも、まあ、いいだろう。久しぶりに満足できた。久しぶりに、楽しかった。快楽を得た。それで十分だった。私は仰向けになった。もう、抵抗もしない。もう、何も感じない。


奴は、その腕を私の頭部めがけて振り下ろす。ああ、とうとう私も死ぬのか…そう信じて覚悟を決め、目を瞑る。さらばだ、つまらなかった世界。天国の楽園か、地獄の業火か私はどちらに落ちるだろうか。どちらにせよ死後も楽しませてくれる世界だといいのだが











一向に、私は生きていた。痺れを切らし、目を開ける。するとそこには、


何者かに腹を貫かれ硬直する、奴がいた。



どうも!Asukaです!

現在進めているシリーズものに続き、コンクールや賞のための本格的な現代ファンタジーを書き始めました!これに関しては結構本当に真面目に賞を目指して執筆しております。(もちろん既存の作品もそうなんですけど)皆さんの率直な感想や評価を元により優れた作品にしていこうと思っております。是非ご覧ください。

最後になりますが、いつもご愛読ありがとうございます!

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