雨夜と星迎え
パッと思いついて練習がてらパッと書いた超ショートストーリー
読み終わってから洗車雨という言葉がわからなければググッたりしてみてください
Twitter @yuki_machi1118
「都会に住むとさー、垢抜ける? っていうの? なんていうか、やっぱ雰囲気変わっちゃったりするのかなー? 」
そんなことを呟きながら、スタバのコーヒーを啜り、友人と駄弁っていたのはいつ頃だっただろうか。アイツが東京に行ってから初めてこっちに帰ってこれると連絡が入ったのは、だいたい二週間前の午後十時頃。
その日の仕事でちょっとドジって沈んでた気分も吹っ飛んじゃうくらいに、連絡を受けたときは嬉しかったけど、いざ会える日を翌日に迎えると少し不安も抱く。もちろん、明日会えるっていう喜びのほうが占める割合はずっと多いけれど。どちらにせよ今夜は眠るのに時間がかかりそうだ。明日久々に会えるのに目の下に隈? イヤイヤ、それは絶対にいやだ。でも寝れそうにないな.......。
七月六日の夜。外では打ち付ける雨が絶え間なく音を響かせ続けている。雨音が耳に心地よく、いつからか思考の渦から解き放たれた私は、意識の縁からゆっくりと落ちていった。
朝だ。隈は......よし、なんとか大丈夫そう。寝ている間に雨も止んだようで、心地よいほどに澄み渡った空と朝日は、私の目覚めに一役買ってくれたようだ。
洗顔とか朝ごはんとかそういったものたちを終えたあと、クローゼットの中から昨日悩みに悩んだ末勝利の栄光を勝ち取った服を手に取る。やっぱりあっちの方がいいかな......という迷いが再び浮かんでくるが、いや! 大丈夫! とその迷いを振り切った。朝の支度を全て終え、家を出る時間を時計が示す。玄関のドアの前で一度深呼吸して意気込み、家を出る私を柔らかな日差しが迎えた。
待ち合わせ場所に着いたのは、約束の時間の二十分前。アイツはデートの時、いつも十五分前に着いているのを知っていた私は、今日はなんとなく待つ側でいたくて、アイツより五分先に着くようにしたのだった。もう少しで会える! とはやる気持ちを抑えようとするが、確実に抑えきれずに漏れ出ていただろう。周りから見ても、明らかにそわそわしてるなあの人。と思われるのが想像出来てしまうほどに自分がそわそわしているのがわかった。大きな期待と一抹の不安を胸に抱きながら、時間の確認を何度も繰り返した。五回目を迎えたそのとき、バタバタと走る音が近づいてきて真後ろで止まり、少し焦ったような声がかけられた。
「ごめん! 沙織!もしかして、結構待った!?」
かけられた声に、思わずフフっと笑ってから、私は後ろを向いた。その一声だけで、変わっていないであろうアイツが想像できてしまったから。
アイツ=雅彦の姿が目に入った。少し息を切らしながら、焦り顔で私を見つめる雅彦。先にいる私を見つけて走ってきたのであろうことは容易に想像できた。私がこの状況をつくったのだけれど、なんだかかっこつかないところが雅彦らしくて、服なんかもほんとに東京住んでるの!? ってくらい雰囲気とか変わってなくて、私はもう嬉しくなってしまって「おかえり!! ごめんごめん、大丈夫だよ! 」そう言って、これ以上ないってくらいの満面の笑みで、雅彦を迎えたのだった。
それから未だに東京駅で迷うって話や、私に会えるってことで頭がいっぱいになって今日が七夕って忘れてたこととか、全然標準語に変わってない喋り方を聞いて、不安を抱いてた自分が馬鹿らしくなった。ほんとにこれっぽっちも雅彦は変わっていなくて、雅彦を近くに感じられて、嬉しくて嬉しくて、笑いながらほんの一雫だけ涙が零れてしまった。雅彦からは見えない位置だったけれど。
家に帰り、今は本当に、本当に嬉しくて楽しかった今日一日のことを日記に書いている。雅彦は私が大好きな雅彦のままで、久しぶりに直接聞く声は優しく私を包み込んだ。
雅彦はなにひとつ変わっていなかった。あるいは昨日降った洗車雨が、都会っぽさとかそういったものを洗い流してくれたのかも......なんてロマンティックな感傷に浸ってしまっても、今日くらいバチは当たらないだろう。
短いですがもし感想とかあれば教えてくださいm(__)m