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魔王先生の異世界講座2

毎度拙作に御アクセス頂き、誠にありがとう存じます。

活動報告書きましたので、よろしければご覧ください。


「馬鹿だな、ウル。そういう時は取りあえず髪型を褒めるんだよ」

「か、髪型を褒める? 俺がか?」

「お前以外に誰がいるんだよ」

「し、しかしだな」

「髪型を変えてきたらそれを褒める。服の雰囲気を変えてきたらそれを褒める。アクセサリーを変えてきたらそれを褒める。それだけやっとけば取りあえず機嫌は取れるんだって」

「魔王が勇者の機嫌を取るだと!?」

「別に無理に褒めちぎれってんじゃねえよ。言い過ぎは却って嘘くさいしな。だからまずはそういう外見の変化にちゃんと気づいて、さりげなくそれを褒める。相手だって見てほしくて変化つけてんだから」

「ぬ、ぬうぅ。しかし、俺が急にそんなことをしたら不自然ではないか?」

「ヘタレ魔王」

「ぐぬ。……このマセ餓鬼が」

「いやいやいや、俺もう23なんだけど」

「ふん。俺からみたら赤子と変わらん」

「はあん。やっぱ吸血鬼ってのは長生きなのか」

「ふむ。そうだな、折角だ。吸血鬼についても教えておこうか」

「おい。話を反らすなよ」

「先に反らしたのは貴様だろうが!」


「まず、先の質問に答えるとしたらだが、正確に言えば、吸血鬼は長生きをすることができる(・・・・・・・・)、というのが正しい」

「んん?」

「そもそもの話をすると、吸血鬼とは鬼の一種、そして鬼とは魔獣の一種だ」

「ああ。生き物が魔力に充てられて存在を変化させたのが魔獣、ってやつなんだよな?」

「そうだ。人間が魔力によって存在を変質させたものが『鬼』であり、陰の魔力によって鬼となったものを『吸血鬼』と呼ぶ。まあ、これはただの分類だがな」

「なんかちょっとイメージと違うけど、まあいいか」

「鬼でも何でもそうだが、魔獣の生命力はそのまま保有する魔力量に比例する。吸血鬼というのは他者から魔力を吸い取ることができるため、理論上は血を吸い続ける限りいくらでも生き続けることができる」

「不老不死ってやつか」

「そうではない。それでも生きていればそれなりに老いるし、殺されれば死ぬ。それに、吸血鬼の死因の半分は自死だ」

「じし? ああ、自殺ってことか。そりゃ何でまた」


「そこからはまた別の話にもなるのだがな。吸血鬼とはその成り立ちからして殆どが元々は人間だったものだ。どうやら常人の感覚では、長く生きるということはそれだけで精神を摩耗するらしい。一番多いタイミングは吸血鬼と化して7~80年程生きた頃だな」

「その数字には何か意味が?」

「死に行くものの考えなど俺は知らん。だが、どうやら人間だった頃の知り合いが誰一人いなくなる、というのが、思いのほか堪えるらしいな」

「ああ、成程、確かに」

「ふむ。やはり人間には理解できる感覚なのだな。ならばこれはどうだ。俺にとってはこれも意外なことだし、理由もさっぱり分からないんだが、どうも自分から吸血鬼にしてくれと頼んでくる奴に限って、そのくらいの時期で自死を選ぶことが多いのだ。これは何故だと思う」

「………さあ?」

「ふむ。やはり分からんか。ただな、どうも奴らは死ぬことに関して忌避感がない。それどころかどうやって自分に死を齎すか、その始末をどうするか、顔を突き合わせて相談するくらいなのだ。やれ聖騎士に挑んで返り討ちにあうだの、静かな森の中でひっそりと死にたいだの、死んだ後の灰を海に捨ててほしいだの、これから死のうとしているとは思えん程生き生きとしてな。長命の吸血鬼たちはそれを密かに『終活』と呼んで揶揄している」

「あああ……」

「何だ」

「まあ、なんだ、人生満喫してる、ってことなんだろ。こっちでもあるよ、そういうの」

「そうなのか。やはり人間の考えることはよく分からんな」

「あん? さっきの話じゃ、吸血鬼ってのは血を吸われた人間がなるんだろ。だったらお前だって元は人間なんじゃねえのか?」」

「馬鹿め、それでは最初の吸血鬼は誰に血を吸われたのだ?」

「最初の……?」


「始まりの吸血鬼、というのが存在するのだ。それは誰に血を吸われたわけでもない。生まれながらにして吸血鬼なのだ。その吸血鬼を『真祖』と呼ぶ」

「あ。あー、さっきチラッと言ってた……」

「うむ。俺の魔法の師でもある大老の吸血鬼は、正に真祖だ。そしてこの俺もまた、真祖の吸血鬼である」

「真祖ってのは、じゃあどうやって生まれるんだ?」

「実はよく分かっていない。というのも、真祖の生物学上の親は普通の人間なのだ」

「どういうことだよ」

「だから、ある普通の人間が生んだ子供が、たまたま吸血鬼であった、ということがありえる、という話なのだ。親である人間の素質はこの場合関係ない。血筋も関係ない。よくある話、という程ではないが、歴史上数回、真祖の吸血鬼は発生している。人間にとっては天災と同じであろうな」

「え、っと。じゃあ、ひょっとして俺も……」

「そうだ。お前は真祖の吸血鬼として生まれ変わることになる」

「んん? それって、でも、……どうなんだ。自分で自分が吸血鬼だって分かるのか」

「分かる。これは個人差があるようだが、或るときはっきりと自覚するのだ。俺の場合はどうだったかな、何分大昔のことなので記憶が定かでないが、初めて人を殺した時にそうと自覚したような気がする。自覚すればその瞬間から吸血鬼としての能力が使えるようになるが、そうなるともう、人間が食い物にしか見えなくなる。直ぐに慣れたがな」

「唐突に重い話するのやめろ」

「?? ああ、そうか、そっちの世界は概ね平和なんだったな」

「で? 真祖ってのは、じゃあ生まれながらに強力な吸血鬼ってことなのか」

「そうではない。寧ろ生まれたばかりの時は他の吸血鬼より貧弱なくらいだ」

「はあ?」

「だから言っただろう。吸血鬼というのは他者から魔力を吸い取ることができる、と。逆に言えばそうやって血を吸わん限りは魔力は増えん。しかし吸えば吸う程魔力は強くなっていくし、ある程度眷属を増やしてしまえば自分で吸う必要もなくなってくる」

「必要がなくなる?」


「これは種族としての吸血鬼の特徴でな、鬼の、いや魔獣の中でも特異な性質なのだ。例えば、俺がタロウという男の血を吸って眷属にしたとする。この時タロウは第二世代の吸血鬼という扱いになる。当然タロウの本来持っていた魔力は俺のものだ。

 次にタロウが自分の弟のジロウとサブロウを吸血鬼にしたとする。するとジロウとサブロウは第三世代の吸血鬼だ。この時、タロウが吸った二人の魔力の内の半分が血の繋がりを介して俺のものになる。

 更にジロウが森国に行きジョンとジョセフとジャックとジェイムスをそれぞれ吸血鬼にすると、この四人は第四世代の吸血鬼となり、その魔力はジロウ・タロウ・俺にそれぞれ分配されるようになる。

 つまりだな、ある程度眷属を増やしてしまいさえすれば、後は勝手に自分の元に魔力が集まってくる構造になっているのだ。どうだ。中々よく出来たシステムだろう。さしもの人間といえどこのような―」

「ネズミ講じゃねえか!!!」

「鼠……何だと?」

「無限連鎖講防止法違反!」

「ば、馬鹿な。そちらの世界には既に同じシステムがあるというのか。………おのれ人間、やはり侮れんな。おい萄也、詳しく教えろ」

「ふざけんな。俺は、絶・対! 眷属は作らねえぞ!」


「一体何に怒っているのだ貴様は……。まあいい、貴様の場合はそれで正解であろうな。その『静かに暮らしたい』という謎の願望を叶えるためには、なるべく眷属は作らない方がいい」

「あー、そうか、眷属を作れば作るほど寿命が延びていくから……」

「それもあるがそれだけではない。いいか、真祖の吸血鬼とはありふれた存在ではないが、ある一定の確率で確実に生まれ得る存在なのだ。だが、現存する真祖の吸血鬼は俺を抜けば三人しかおらん。これがどういうことか分かるか」

「………死ぬ確率が、高い?」

「察しがいいな。当然人間に殺されることもあるが、それ以上にその他の吸血鬼によって殺される確率が非常に高い」

「え……」

「考えても見ろ。人間の数は有限なのだ。吸血鬼にとって、他の吸血鬼はパイを奪い合う相手でしかない。それも放っておけば神獣に匹敵する競争相手など、早めに潰しておこうとするのが当然であろうが」

「何か急に生々しい話になってきたな」

「見分けるのも難しくはないしな。世代が上の方の吸血鬼が何か適当な命令をして、それに反抗することができれば、そいつは違う真祖の眷属ということになる。もしどの眷属の命令にも逆らうことの出来る奴がいれば、それは新たに生まれた真祖というわけだ。当然その場で殺される」

「怖えな。大丈夫なのか、俺」

「普通の人間のふりをしていれば問題ない。だが、眷属が増えれば当然見つかるリスクも増える。真祖が生き残ろうと思ったら、道は二つに一つ。全く眷属を作らずに孤独に死ぬか、周到に用意をして周囲の吸血鬼が迂闊に手を出せんようになるほど、一気に勢力を拡大させるかだ。お前は前者を選べばよい。歴史上そんな奴は一人もいなかったがな」


「ふうん。まあ、それならなんとかなるか」

「おい萄也。それより、そのネズミ講とやらについて教えろ。人間はどういう風にそのシステムを利用しているのだ。そちらの世界に魔力はないのだろう?」

「ああ? 金だよ、金。ほら、さっき話した商店街の米屋の娘さんが騙されちゃってさ、あんときゃ大変だったな。気づいた時にはもうすっかり洗脳されちまってて、部屋の中じゅうその会社の製品ばっかりで……俺も急いで法律覚えたっけなぁ」

「洗脳だと? 黒魔法も使わずにどうやって洗脳するのだ」

「そこが人間の怖えとこなんだって。まず、こっちで言うネズミ講っていうのは……」


 ……。

 …………。


「森国に行くなら、絶対に食べておかなきゃいけないのが竜眼葡萄ね」

「ぶ、ブドウですか?」

「何ていうかね、もうフルーツとしての次元が違うのよ。何でも青き龍の古巣に生える葡萄の木をエルフの人たちが厳重に管理して生産してるらしいんだけどね。その中でも一年でたった1房しか実をつけさせない、『渾身のひと房』っていうのがあるの。隠れ里の子供を魔獣から助けてあげたお礼に、って言って一粒だけ分けてもらったんだけど、もう食べた瞬間目からぽろぽろ涙が零れて……」

「えええ。そんなにですか」

「食べてみれば分かるわよ。そっちの世界にもブドウはあるの?」

「あ、はい。私はやっぱりシャインマスカットが一番好きですねえ」

「シャイン……光ってるの?」

「光り輝くほど美味しいんですよ! 種なしの上に皮ごと食べられるんですけど、一粒一粒がこう、ぱん、と張ってて、歯で噛んだ瞬間果汁が弾けてですね……」

「た、種無し? 皮ごと? そ、それは一体どういうことなの?」

「さあ、よく分かりませんけど、とにかくブドウならあれが一番ですね」

「むうぅ。やっぱりそっちの世界は侮れないわね。じゃあ海鮮は? 海の幸なら何と言っても港国よ。色んな港町にそれぞれ特産品があってね、私のお勧めはまずカタクの街の―」


 ……。

 …………。



註:正しくは、『無限連鎖講防止に関する法律』です。

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