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魔王先生の異世界講座

毎度拙作に御アクセス頂き、誠に有難う存じます。

今回は説明回となりますので、苦手な方はご注意下さい。

「ふはははは。それで、その悪徳チェーン店のマネージャーとやらはどうなったのだ?」

「頭に鮭の切り身貼っ付けて、スーツの股間に油のシミつけたまんま逃げてったよ」

「ふはは。商店街というのも中々面白いところのようだな」

「あそこの人たちは異常だけどな。ていうか、ウル。さっきから俺の話ばっかじゃねえか。お前の世界の話も聞かせろよ。俺がこれから生きてくんだから」

「ふむ。まあよかろう。何が聞きたい」

「いや一から十まで聞きたいけど、そうだな。取り敢えず、その、さっきからちょいちょい言ってる魔法ってのを教えてくれ」

「そちらの世界に魔法はないのか?」

「さあ。言葉としてはあるんだから、ないことはないのかもしれないけど、俺は見たことないな。そっちの世界なら、俺でも使えるのか?」

「無論だ。お前は吸血鬼になるのだから、陰魔法を使える」

「種類があるのか」

「まあな。だが、それを説明するには、まず魔力の説明からせねばならん。無教養の小僧には難しい話かもしれんな」

「いいから聞かせろよ」

「偉そうな奴だな」

「お互い様だろ」

「ふはは。それもそうだ。よかろう。よく聞くがいい」


「はじめに言っておくと、魔力というものの正確な正体はわかっておらん」

「はあ? なんだよそれ」

「一説には極小の粒のようだというものもいれば、別のものは波形のようなものだという。あるいは弦の振動のようなものだという説もある」

「訳分かんねえな」

「そうなのだ。まあ俺が一番好きなのはそれは広がりを一切持たない単純な実体であるという説なのだがな。それは互いに独立し、窓を持たないのだ」

「一番分かんねえよ。粒でいいじゃねえか」

「ロマンを解せん小僧だな。まあ、とにかく、どの説でも言えることは、それは物質世界を構成する質量以前のエネルギーだということだ。それはつまり世界の表象に干渉する力を持っている」

「不思議なエネルギーってことだな」

「………まあ、それでいい。でだ。魔力というのは五つの色に分類することができる」

「色?」

「赤・青・黄・白・黒だな。これを五色(ごしき)の魔力という」

「戦隊ヒーローか。見たことねえけど」

「訳のわからん茶々を入れるな。古い書物にはこうある。『一は二を生じ、二は三を生じ、三は四を生じ、四は五を生じ、五は万物を生ず』、とな」

「六以降めんどくなっただけじゃねえのか」

「昔、同じ質問をして大老の吸血鬼に殴り飛ばされたよ。まあ、これにも意味がある。まずは『一』。これは万物の起源としての一であり、究極の有。始まりの数字だ。しかし、何かが『有る』ということは、同時にその何かが『無い』状態というものを意味的に内包している」

「もっと分かりやすく」

「例えば、生まれてこのかた暗闇の洞窟から出たことのない男がいたとして、そいつは『影』という概念を知っていると思うか。影とは光がなくては存在できん。逆にいえば、光しかない空間においては、その光は存在していないのと一緒だ」

「もっと分かりやすく」

「腹が減ってる状態を知っているから満腹を幸福と捉えることができるのだ」

「ああ。成る程、腹が減らないんだったら空腹だ満腹だって考えがそもそも浮かばないってことか」

「そういうことだ。つまり、『一』という存在があるのであれば、それと対比する意味での『無』が存在している。無が有るというのは矛盾しているように思えるが、とにかく、これが『二』だ」

「待て、これを一個一個説明してくのか」

「次は『三』だ」

「はあ」


「ここからはそう難しくない。有るということと無いということが知覚できたなら、次に『どれくらい有ってどのくらい無いのか』ということを考えなくてはならん。つまり存在の分量を測るということだ。これがものの存在に立体感を与える」

「三次元の三ってことか」

「何だ、幾何学を知っているのか。ならば話は早い。では、例えば今まで3有って7無かったものが、6有って4無い状態になったならば、それはもののあり方が変化したということ。つまり、空間的な広がりに時間的な広がりが加わったということだ。これが『四』」

「四次元ってやつだな」

「そうだ。そして、時間の流れによってものの性質が五つに分類され、五色の魔力として、森羅万象を構成する。これが『五は万物を生ず』だ」

「その、五色の魔力を操るのが魔法ってことなんだな」

「まあ逸るな。では次に魔力の性質について説明する」


「これを説明するにも諸説あるのだが、少し前に帝都の学者が唱えた『性命理論』というものが、体系立っていて分かりやすい。それによれば、魔力に限らずあらゆるものは『性』と『命』を持って生まれるという」

「ん? 苗字と名前ってことか」

「姓名ではない。『性』とは自身が生来身につけている性質のこと、『命』とは自身に備えられた運命のことだ」

「それは何か、……違うのか?」

「例えて言えば、そうだな。ここに己の使命に忠実な『性』を持った男がいるとする。そいつの生まれが武家ならばその男は当然騎士団に所属することになる。それがそやつの『命』だ。しかし、そいつが商家の生まれならば商人になる。では、その男とは別に、とにかく家や親に反抗的な『性』を持つ男が同じ生まれをしたなら、それは先の男とは逆の職につくことになるやもしれん」

「つまり、そいつ自身の性質と、生まれ落ちた環境によって、そいつの人生は決定づけられる」

「何だ、今度は理解が早いな」

「まあ、身につまされる話だ」

「ふむ。それを魔力に当て嵌めるとこんな感じになる」


 赤の魔力は『情熱』を表し『加護』を司る。

 青の魔力は『純真』を表し『変化』を司る。

 黄の魔力は『慈愛』を表し『不動』を司る。

 白の魔力は『知性』を表し『破壊』を司る。

 黒の魔力は『冷静』を表し『侵食』を司る。


「そして、全ての魔力は循環している」


 『情熱』は『慈愛』を生み、

 『慈愛』は『知性』を生み、

 『知性』は『冷静』を生み、

 『冷静』は『純真』を生み、

 『純真』は『情熱』を生む。


「また、それらは互いに克し合う」


 『加護』は『破壊』を癒し、

 『破壊』は『変化』を断ち、

 『変化』は『不動』を崩し、

 『不動』は『侵食』を阻み、

 『侵食』は『加護』を融かす。


「この、生被生・克被克の関係によって、全ての魔力はその他の魔力と何らかの関係性を持っていることになる。これが五色の魔力の相関関係だ」

「悪い、最初からもっかい言ってくれ」

「ふざけるなよ。次にいくぞ」

「いや無理だって! 訳わかんね、……待てよ。俺が使えるのは陰魔法だとか言ってなかったか。それはどういう魔法なんだ」

「だから、それを今から説明するのだ。先に言った通り、五色の魔力とは表象世界に影響を与える力がある。それに対し、陰陽二極の魔法とは、魔力そのものに影響を与える性質を持つ」

「魔力そのもの?」

「性命理論では二極の魔法を次のように定義する」


 陽の魔力は『高潔』を表し『解放』を司る。

 陰の魔力は『欲望』を表し『束縛』を司る。


「なんだよ、随分な言われようじゃねえか。重たい女か」

「ふむ。言い得て妙だな。しかし、俺に言わせれば陰の魔力の性は『欲望』というよりは『渇望』と言ったほうが本質に近い気もするが、まあこれはあくまで帝都の学者の唱えた理論だからな。当然人間の言うことだ。吸血鬼(われわれ)の感覚とは違っているだろう。大体、それを言ったら世の聖騎士の連中の一体どれだけが高潔な精神など持ち合わせているのかという話だしな」

「教える側が私情を挟むなよ」

「お前もこちらの世界で生きていれば分かる。まあ、当然例外はいるが、上に行けば行くほど腐敗臭が凄まじいぞ。魔王が鼻を抓むほどだからな。相当だ」


「ふうん。で? その、魔力そのものに干渉するってのはどういうことなんだ?」

「話が少し戻るが、五色の魔力が『五』なら二極の魔力は『二』だ。つまり、より原初のもののあり方に近いエネルギーだと言える。具体的に言うと、引力と斥力だな」

「んん? ああ、磁石か」

「そうだ。陽の魔力は五色の魔力の結合を分解し、拡散させ、逆に陰の魔力は五色の魔力を吸着させ、強化する効力がある」

「………それ、結局どういう魔法なんだ?」

「陽魔法はただただ魔力を無効化するだけだ。形は様々だが、やってることは全て同じ。魔力の無効化、そして破壊だ。それに比べて陰魔法はバリエーションが豊富だぞ。吸血だって陰魔法の一種だ。あれは血を介して他者の魔力を吸い取る技だからな。逆に、自分の魔力を他者に分け与える魔法もある。また、己の眷属を手元に呼び寄せる召喚魔法。自分が影を使って移動する転移魔法。影に魔力を付与する操影魔法。血に魔力を付与する操血魔法。これらは拘束魔法や幻惑魔法として使うことが多い」

「だから覚えらんねえって」

「ふん。座学で魔法を覚えるなど土台無理な話だ。後は自分で会得するのだな」

「へいへい」

「魔法の分類の概要はこんなところだ。かなり大雑把な説明だからな。詳しく学びたければ生まれ変わった後で魔道書を漁るがいい」


「そうか。まあいいや。何とかなるだろ。じゃあ次は聖騎士のことを教えてくれよ」

「聖騎士だと? 何でそんなことを聞きたがる」

「具体的にはお前と相打ちした勇者のことだ」

「だから、なんでそんなことを―」

「できてたんだろ?」

「………………何だと?」

「だから、できてたんだろ? お前と勇者がさ。さっきから勇者の名前を出す度、表情が違ってたぞ」

「ふ。ふはははははは。中々面白いことを言う。俺があの訳の分からん女と恋仲だっただと?」

「ミツキさん、って言うのか。綺麗な名前じゃねえか」

「名前と顔だけだ。あの女はな、口を開けば甘味のことと飼い猫のことばかり。砦に乗り込んでは初物の林檎を掻払い、戦場に立ってはひらひらと派手な服装で暴れ回り、脈絡もなく僻地に現れたと思ったらこちらの重将を懐柔したりとやりたい放題だ。全く、俺がどれだけ苦労して停戦の話まで漕ぎ着けたと思って……おい、聞いてるのか」

「聞いてる聞いてる」

「ならばそのにやけた顔をやめるがいい!」

「ははっ。いいじゃねえか。もっと聞かせてくれよ」

「おのれ小僧、調子に乗りおって……」

「おいおい。余裕がねえぜ、魔王先生」

「いいだろう。ならば分かるまで語ってやる。いいか、あの女はそもそも……」


 ……。

 …………。

次回は「夏の話~始まりは夏蜜柑のスムージー」です

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