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第8話 Act 芳野 雪part1

  


 黄身が潰れていない目玉焼きに茹でたウィンナー、それから昨日スーパーで買ってきたサラダパックをあたかも自分が作ったように盛り付けた。それから、マーガリンをのせたトースト、温めるだけで簡単に出来あがったコーンスープを添えて……、


「後は千紗を呼びに行くだけだ」


 出来上がった朝食に自己満足をして、俺は千紗を呼びに寝室へ向かう。寝室の扉を開ければ、そこには欠伸をしながら携帯を弄っている千紗がおり、此方に気づくとその手を止めて、


「あ、ごめんね。今から寝た振りするからそこからお願いします」


 と言って、千紗は携帯を顔の横に置いて再び目を閉じたので俺は苦笑を浮かべた。

 おはようございます。山下紘貴の説明しようの会の時間です。

 乙女ゲームのキャラになりきり三日目の今日は『僕と君の秘密の恋』に登場する王子キャラクターの【芳野 雪】二十四歳。安定の文武両道、イケメンの御曹司設定。

 母親は女優で父親はIT関連会社の社長。そして当の本人は俳優活動をしているお坊ちゃま。

 そんな彼のキャッチコピーは、『アルティメット完璧王子』

 王子様キャラは何故か最初から主人公に好意的で文武両道でハイスペックが多い。更に無駄にお姫様抱っこが好きでライバルキャラがいる。許嫁もいる(勿論お嬢様で美人)そして大好きな御曹司、金持ち設定が多い。だが実際、二十五年間生きてきた中で、彼のような王子様は漫画やゲームの中でしか見たことがない。もしかしたら世の中の隅から隅まで探せば、一人くらいは居るかもしれないが、そうそう居ないのは確かだ。

 今日一日、芳野雪を演じる事にストレスや疲労感を既に感じているが、千紗の為だ。致し方ない。どちらにせよ、今日は仕事なので朝と夜だけ頑張れば良いのだ。

俺は腹をくくり、狸寝入りをしている千紗の元に近づき、その頬にそっとキスをした。


「ぐ……goodmorning、myprincess」


 自分の言動に嫌気が差して思わず額に手を添えた。穴があったら入りたい。

 対して千紗は満面の笑みを浮かべながら俺に親指を立てていた。


「ご、ご飯出来てるから一緒に食べよう」


 本来ならば、「ご飯出来てるから」と言って終わる所を、今日は芳野雪なので優しく微笑んでみる。千紗は大きく頷くと、


「嬉しい! そこまで再現してくれるとは……紘君も中々やるね。私も準備バッチリだよ!」


 そう言って、千紗は自分から布団を思い切り剥がして起き上がった。対して俺はその姿に思わずフリーズしてしまい、千紗を指差しながら疑問を投げかける。


「え……っと、千紗さんはどうしてもう私服着てバッチリなんですか?」

「何でって、紘君の会社まで着いていくからだよ。その後は秋葉原や池袋に行ってウハウハしようと思ってるんだ」


 よく見れば、髪形や化粧もバッチリ決まっている。いや、それよりも、彼女の恐ろしい発言に一気に血の気が引いていく。


(会社までくるって……どんな拷問だよ!!)


「どうせ紘君の事だから、朝と夜だけ雪君になりきれば良いって思ってたかもしれないけど、現実はそう甘くないよ、紘君。さ、仕事に送れちゃうから紘君の作ってくれたご飯、食べに行こう」


 俺の肩に手を添えてから、千紗はそう言うと、腕を伸ばしながら隣の部屋へと移動した。残された部屋で俺は膝から崩れ落ち、これから待ち受けている試練に、考えが甘かった自分に落胆した。



                 ◆◇



「美味しかったな、紘君の朝食。また作ってね」


 駅までの道を歩きながら、千紗が笑顔で言った。


「あ、ああ。そう言ってもらえて嬉しいよ。平日は忙しくて中々作れる日がないけど、休みの日ならまた千紗の為に作るよ」

「紘君……今日は格段と優しいね。何だか雪君に見えてきたよ。髪形もバッチリなんだけど、顔だけが紘君なんだよね。ま、当たり前なんだけどさ」

(ごめんね!! 顔はどうにも出来ないから!!)


 だが正直、芳野雪に似せたこの髪形は全然落ち着かないだけではなく、自分にとって違和感でしかない。普段の俺は自分で言うのもあれだが、サラサラのストレート気質なのだが、それが今日はアイロンを使って外はねと内巻きを混合したパーマのような髪形だ。初めての試みに職場の同僚達が何というか今から不安で仕方がない。


(どうしよう、お前今日の髪形どうしたんだ、変だぞとか言われたら、俺、今日はもうプログラム書けないかもしれない)


 作り笑いを浮かべながら、内心かなり不安で仕方がない。


「紘君のくるくるした髪形ってあまり見た事ないけど、意外と似合うから驚いちゃった。自信持って大丈夫だよ」


 俺の心の声が漏れていたのだろうか。千紗のフォローに心が軽くなった。まあ、芳野雪にならなければこんな思いをする事はなかったとは口が裂けても言えない。

 しかし、駅までの道を笑顔で聞く以外、芳野雪らしく振る舞う事が出来ない気がして、俺は昨夜頭の中に叩き込んだ「芳野雪」という人物の言動を思い返していれば、、ふと隣を歩いていた千紗が足を止めた。


「どうしたの?」

「ごめんね、紘君。私、大事な設定忘れてた……」


 口元に手を添え、さも深刻そうに千紗が言ったので俺は心配になって彼女の肩に手を添える。

 千紗は鞄の中を漁ると、いつの間に用意していたのか伊達眼鏡とマスクを取り出し、俺につけた。

 混乱していると、千紗は両手を握りしめながら口を開く。


「だって今日の紘君は俳優の雪君だから、私といる所、スクープされたら……大変でしょ?」

(えっ!? 誰に!!!!!!!!!!!!!!!? てか千紗は一般ピーポーの俺に何を言ってるんだ!? とうとう現実と二次元の区別がつかなくなったのか!? あ、いやそれは前からだった)


 俺を置いて一人、妄想に先走っている千紗に唖然としていると、不意に手を引かれ、気が付けば駅に辿り着いていた。


「さ、紘君。パパラッチに捕まらないように私に隠れて」

「え、あ、ああ……あ、ありがとう」


 架空のパパラッチに警戒した様子の千紗に思わず呆れた目線を送ってしまう自分が居る。


「ちょ、ちょっと待ってよ、千紗。誰も俺達を撮る奴なんていないよ」

「紘君……?」


 千紗に落ち着いてもらう為だ。

 俺は千紗の髪の毛を少しだけ掬い、昨夜頭に叩き込んだ芳野雪の糖分多めの台詞集から一言抜粋する。


「俺が映るのは千紗の瞳にだけだ……よ?」


 ピッという音が不意に鳴ったので思わずそちらへ目を向ければ、見覚えのある人物が携帯を俺達に向けていた。


「あ、俺にお構いなく続けて、紘貴じゃなかった、雪君」


 そう言ったのは同僚であり同期であり、大学からの親友である『桐嶋陽平』だった。俺は持っていた通勤鞄をその場に落とし、心の中で大声で叫んだ。


(な、な、何でよりによってお前が此処に居るんだよおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!)





          To be continue...!

新しいキャラクター、始まりますw

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