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第5話 Act 相笠静歌


 透き通った空気を吸っては吐き捨て、心を落ち着かせる。


(さあ、二日目の始まりだ。頑張らなくては)


 隣で眠っている彼女の髪の毛に手を添えて、羞恥心に耐えながら口を開く。


「おはよう~さあ目を覚ましてお姫様~俺と今日のステージへ旅立とう~♪ 起きて、千紗」


 そうこれは、二日目指名キャラクター【相笠 静歌(あいがさ しずか)】がゲーム内で歌っていた、おはようソングだ。

 昨夜、本当ならば千紗とイチャラブな一晩を過ごす予定だったが、少し具合を悪くしてしまった千紗がすぐに眠ったので、俺は携帯ゲーム機を取り出し、相笠静歌の予習を行った。

 中々上手く歌えたと心の中で自画自賛していると、不意に髪の毛に伸ばしていた腕を勢いよく掴まれた。此方を見る千紗は満面の笑みを浮かべている。


「おはよう、紘君。素敵な歌声だったけど、静歌君は、ヒロインの女の子を呼び捨てにはしないよ? ちゃんをつけて名前を呼ぶよ? さあ、もう一回寝たふりするね」


 有無を言わせないやり直しに苦笑を浮かべた。

 おはようございます。箱根からお送りしております、山下紘貴です。

 今回も唐突に始まるが、山下紘貴の説明しようの会の時間です。

 今日、俺が演じているのは【相笠 静歌】十八歳。歌の学校に通っている三年生で『君と作るハーモニー』に登場するキャラクターの一人である。性格は明るく、笑顔が多く、そして何より名前の一部に歌という文字が入っているだけに、歌う事が大好きなキャラクターだ。

 思いを即興して伝える所があり、三次元に彼が居れば、白い目で見られる事は間違いない。

 そんな彼のキャッチコピーは、『愛を奏でる歩く音楽』

 気持ちを即興しなくてはいけない点で、永坂蒼月よりも難しいキャラだ。

 それにしても彼のキャラクターは二次元で許されるのであって三次元には厳しいものがある。

 だが、彼女は寝たふりを貫き、その瞳を開けようとはしてくれないので俺は一度小さな溜息を吐き捨て、もう一度彼のおはようソングを口ずさんだ。

 歌い終わると同時にピロンという音が鳴り、思わず首を傾げれば、嬉しそうに笑顔を浮かべた千紗が俺の目の前に携帯の画面を見せた。


「紘君、完璧っ! ばっちり録音しておいたよ」


 親指を立てた千紗に対して俺は一気に血の気が引いた。


(け……消してくれええええええええええええ!!!!!)



                ◆◇



 その後も散々だった。


 朝食時。

「紘君、ご飯美味しいね。今の気持ち、歌で聴かせて?」

「ああ~美味しいよ~ご飯はなんて美味しいんだ~」

「何か、この料理の良さが全然伝わってこない歌だったから、もう一回ね」


 朝風呂時。

「ね、大浴場も凄い良かったね。紘君も温まってきた? それじゃ、温泉の感想聴かせて? あ、私はバックコーラス担当するから任せて! 三、二、一どうぞ」

「箱根のお風呂はいいお風呂~だって、お肌もツルツルで、それから~」

「ルールーフフー」

「朝日を浴びて~木の香りに包まれて~俺は今日も頑張れる」

「ルルルー」


 しまいにはバックコーラスも入ってきて、至る所で即興を要求された。いや、これが相笠静歌というキャラクターの個性なので仕方がないといえばそれで終わりだ。

 何とか演技をこなして、俺達は部屋に戻ってチェックアウトの準備を始めた。


「ねえ、紘君」


 不意に背後から名前を呼ばれ、俺は荷物の整理をしていた手を止めて千紗の方へ顔を向けた。


「ん? どうした? 今日行く場所の確認とか?」


 口を開かない千紗にそう問いかければ、静かにその小さな頭を横に振ったので、思わず俺は首を傾げた。


「さて此処で問題です」


 言葉を発したかと思うと、千紗は人差し指を立てながら口角を上げた。その言葉に俺は唾を呑み込み、続きを待った。


「永坂蒼月君は温泉好きで自分大好きのナルシストだったのは知ってるよね?」

「ああ、それがどうしたんだ?」

「さて、問題は静歌君についてです。紘君も、君ハモで静歌君をクリアしたよね? 静歌君は一度主人公から離れようとします。それは何故でしょう?」


 突然の質問だったが、俺は困惑する事も無く、一度鼻で笑い、両手を横に広げる。


「愚問だな。静歌は歌手デビューを目前に控えていたが、表舞台に立つならば主人公との恋を諦めなくてはいけなくなった。でも主人公も歌も手放したくない。そんな時、主人公が背中を押したんだよな」


 俺は得意げに答えた。元々ゲームや小説は好きなので、何だかんだ乙女ゲームをクリアしている自分がいる。興味の無かった男性声優もここまでくれば分かってくるものだ。

(君ハモやって思ったけど、歌も歌って明るく振る舞って、このキャラも声優も結構疲れるだろうな……)


 そんな事を脳裏で考えていると、千紗から拍手が返ってきた。


「紘君、静歌君の事、完璧だね」

「まあな……」

(このキャラを把握するのは難しかったからな! 特に歌!)


 心の中で答えていると、千紗がまた俺に疑問を投げかけてきた。


「それじゃ、もう一つ。静歌君と主人公が最後に行ったデートはどこだったでしょうか?」

「え……あっと……横浜の桜木町だったかな」


 ゲームの記憶を掘り出し、額に手を添えながら答える。俺が答えると、パチンと指を鳴らす音が聞こえ、顔を上げれば千紗が満面の笑みで「大正解」と言った。


「と、いうことはですよ、紘君」


 まさか。まさか、この流れは……。

 嫌な予感がして、思わず顔が引きつった。まさか、千紗は箱根の旅行を切り上げ――。

 心の中で推測を述べる前に、千紗が恐ろしい言葉を口にした。




「今日のキャラは静歌君ってことで、箱根は切り上げて横浜に移動します☆」




「はあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 思わず、大声で叫んでしまった。だがしかし、これは昨日から計画されていたのかもしれない。何故なら、明日の予定を考えようと言っても彼女は心此処にあらずで、上の空だったからだ。(体調不良もあったのだろうが)


「いやいやいや、千紗さん……横浜なんて洒落た場所に行ったら俺」

「え? 何か言った? ごめん、聞こえなかったなあ。さ、早くチェックアウトして行こうね、紘君」


 ニヤリという言葉が似合う程、口元を歪まさせた千紗に、改めて恐怖を抱いた。

 俺は彼女に強引に引きずられながら、このホテルを後にした



           

               NEXT LOVE!TO BE CONTINUE...


久しぶりの更新になりすみません!

彼の応援、宜しくお願いします!

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