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第4話 Act 永坂蒼月part2

「ほらほら、外見てみて! 木とか豆粒のように見えるよ、紘君」


 携帯を片手に窓の外を眺めている千紗に対し、俺は自分の足元しか見ることが出来なかったそう、察しの通り、俺は高所恐怖症なのだ。小さい頃に全面ガラス張りの観覧車に乗ってから高い所が恐怖で仕方が無い。

 前髪を掻きあげながら「いちいちうるせえな。外じゃなくて俺だけを見てろよ」と言う、蒼月君の台詞が頭に浮かんではいるものの、どんどん高くなるこのロープウェイに余裕は無く、手汗が止まらない。

 ふと千紗が俺の手を握ってきたので驚いて、彼女を見れば、人差し指を唇に添えていた。


「そういえば、紘君は高い所が苦手だったね。だから今は一時休戦。手、離さないから大丈夫だよ」

「千紗……ごめん、また大涌谷に着いたら蒼月君になりきるからさ」

「うん、ありがとう。紘君ね、彫刻の森では蒼月君になりきるのが段々上手になってたよ。写真に夢中になりすぎて長居しすぎちゃったけどね」


 そう、現在の時刻は午後四時。大涌谷の最終リフトは午後五時までとなっているので、大慌てで俺達は大涌谷へと向かっているのだ。


「俺はあれで合っているのか時々不安になるけどな」

「大丈夫だよ。ところでさ、大涌谷っていったら火山! 今こそ蒼月君の出番だよ」


 千紗が拳を握りながら、目を輝かさせた。何だか嫌な予感しかしない俺は千紗から目線を逸らしたが、不意に耳にイヤホンを付けられ、携帯の画面を勢いよく目の前に持ってこられた。

 嫌でも流れる映像を試聴する。

 そこには、永坂蒼月が恰好つけながら壁に寄りかかっており、ライバルらしき人物が目の前に現れると、呪文を唱え、炎の剣を出している。

 そして急に雨が降っているその場所でライバルと剣を交えている。少しすると、剣は雨に消され、次は永坂蒼月が歌を歌いだした。雲間が晴れ、虹が空に掛かった。どんな魔法を使ったんだ、このキャラは。ツッコミ所が満載すぎる。

『お前が居れば、俺は何もいらない。だからずっと傍に居ろ』という言葉でそのムービーは終わりを告げた。

 千紗を見れば、頬に手を添えてうっとりとした表情で画面を見ている。


(いやいやいや、今のどこにトキメキ要素があったんだよ。どこから見ても中二病だろ――!!)


 心の中でそう呟き、眉間に皺を寄せて千紗を見る。


「どう? 格好良いでしょ?」


 イヤホンを外しながら千紗が俺に微笑んだ。俺は苦笑を浮かべながら疑問を投げかける。


「あ……えっとこれは? 確かに呪文はゲームでも唱えていたけど、曲は初めて聴いたな」

「当たり前だよ! だってこれはアニメ化に伴って作られた蒼月君のテーマ曲だからね。あ、ちなみにライバルは『龍ヶ崎 木葉』って新キャラなんだけどこれがアニメ限定の悪キャラだからゲームには出ないんだよ」


 しょぼーんと効果音がつきそうな程、千紗は溜息と共に肩を竦めた。


「残念だったな」


 苦笑しながらそう言えば、千紗は首を横に勢いよく振った。


「ううん、それは良いんだ。そうじゃなくて私がさっき見せたプロモを、大涌谷で紘君にやってほしいんだ」

「……は? えっ!? いやいや、無理だろ!! 俺炎出せないし、歌とか歌えないし」

「あ、炎とか歌はいらないよ。ただ、呪文を唱えて炎を出す振りと最後のあの決め台詞を言ってくれれば良いんだ。ほら、お土産とかはちゃちゃっと選んで、演技してもらって、黒玉子を食べて帰って来よう」


 有無も言わせず、千紗は計画を立てると鼻歌を歌いだした(しかも先ほど見た、永坂蒼月のキャラソンだ)

 気づけば、頂上に辿り着き、「さあ、紘君行こう! 大涌谷が私達を待ってるよ」と千紗が俺の手を引いた。

 俺はこれから挑む地獄のクエストに放心状態となっていた。



「はい、カットー。紘さん、もう少し力強く呪文唱えてもらって良いですかね? 何か違うんだよねえ」

(いや、もうこれ何の罰ゲームなの。俺が何したっていうの)


 思わず、両手に顔をうずめる。平日とはいえ、外国人や日本人の観光客が俺と千紗のやり取りを横目で見ている。


「――紘君、一つ聞くけど。紘君の特技は何?」


 千紗監督がまっすぐ俺を見据えて問いかけてきた。

 俺の特技? それは一つしかない。俺の特技はプログラムを作る事だ。そう答えようとすれば、「そう、紘君の特技はプログラムを作る事!」と先に言われたので喉まで出てきていた言葉を飲み込む。


「紘君がプログラムに注ぐその情熱を今は演技に注げば良いのよ!」


 その言葉が全身を駆け巡り、一陣の風が吹いた(気がする)


「そうか……そのキャラの行動パターンをリストアップしてアルゴリズムを組み立てれば良いのか。そのキャラの真似をしようしようと思うから思うように演技が出来ないんだ」


 小さな声で自分の考えを呟いていると、千紗が俺の頭を優しく撫でる。

 顔を上げれば、そこには困惑した表情の千紗が居り、俺は千紗の両頬を片手で思い切り掴んだ。


「俺様を……誰だと思ってるんだよ」

「きゃ――――――!! スイッチ入った? スイッチ入ったの? 紘君」

「俺はお前にいつでも笑っていて欲しい。お前を笑顔にするのは俺だ。だから、ずっと俺の傍に居ろ。そして一回しかやらないからその目を見開いて見てろよ! 炎の精霊何とかよ、俺に力を貸してくれ!」


 片手を夕焼け空に向かって勢いよく伸ばした。数秒の間の後、目の前から拍手が聞こえ、ホッと胸を撫でおろす。


「凄い、凄い恰好良かったよ、紘君! 蒼月君が紘君に乗り移ったようだった。夢を叶えてくれてありがとう!」


 目に溜まった涙を拭いながら千紗が言ったので俺も頬が少し緩んだ。


「でも、突然すぎて動画撮り忘れたからもう一回お願いします、紘君……いや、蒼月君! はい、いくよ三秒前~」

「ねえ、一回しかやらないって俺の話聞いてた!?」



                 ◇◆



「綺麗な所だね~」


 宿に荷物を置くと、嬉しそうに室内の写真を撮り始めた千紗。


(ふふふ、今日の為に良い宿をめちゃくちゃ探したからな。満足してもらって当然だ)

「千紗、こっち見てみろよ。この部屋に露天風呂がついてるんだぜ」


 綺麗な部屋に二人だけの露天風呂。下心が無いと言えば嘘になる。この部屋で俺達は――。

 いかんいかん、頭の中で如何わしい想像をしてしまった。首を横に何度も振り、気持ちを整えていると、千紗が俺の横を通り抜け、温泉に手をつけた。


「部屋に露天風呂がついてるなんて、凄い素敵だよ、紘君!」

「まあな」


 自慢げにそう答えると、不意に千紗がタイツを脱ぎだしたのでその行動に目を開いた。次には俺の服のボタンを脱がせ始めたので急なお誘いに思考が着いて行かない。


「え? あ、え? どうしたの千紗。ちょ、ちょっと待って。まだ荷物の整理とかもしてない」

「でも、我慢出来ないよ、紘君……」


 お風呂の湯気の効果だろうか。千紗が色っぽく見えて俺の鼓動が速まる。


「じゃあ、千紗も一緒に――」

「だって、温泉は蒼月君が大好きなんだよ! いやいや、紘君、客室に露天風呂がある場所選ぶなんてチョイス最高だよ。周りを気にせず思うぞんぶんになりきってもらえるね。ほら、早く脱いでタオル巻いて。もうカメラの準備はバッチリだよ」


 携帯を構え、親指を立てながらそう言った千紗に俺は溜息を一つ吐き捨てた。


(お前と二人で入る為に此処予約したのに―――――!!!!)


 心の中で叫びながらも、千紗が喜ぶなら仕方が無いと、俺はタオルを腰に巻いた。

 ほぼ全裸になると気持ちも開放的になり、俺は蒼月になりきる。


「全てのシャッターチャンスを逃すんじゃねえぞ」

「はい、紘隊長! だがしかし私はムービーを撮る!」


 お互い狂ったように思い切り弾け、そしてのぼせた。






              Next Love...To be continu!

箱根温泉は良いですよね

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