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sisterly Right

作者: 赤実はる

 私たち姉妹は、遥か昔に魔王を討伐した勇者の末裔。私たちの一族は倒しても倒してもたびたび復活してくる魔王を倒す役目を代々担ってきた。

 そんな一族の中で私は、100年位前に魔王を倒して最強と謳われていたひいおじいちゃんを遥かに超すほどの才能を持っていると言われていて、今代で魔王が復活したとしても世界は絶対に安泰だろうなんてみんなから言われて幼い頃からもてはやされてきた。

 私には2つ下の妹、リサがいる。彼女だって決して弱いわけではないのだけど、私と比べてしまうとどうしても見劣りしてしまうようで、昔からあらゆる意味であまり目立つことはなかった。

 それはちょっとかわいそうではあるけど、私はそれでいいと思ってる。だってもしリサがモンスターなんかと戦うことにされたら彼女が傷ついちゃうかもしれないでしょ。それだけは絶対に許せない。

 戦って傷つくのは私だけで十分。リサは私が守るの。



「お姉ちゃんは今日もお仕事?」

 朝、リサは寝起きで、私とおそろいのプラチナブロンドの髪をところどころはねさせたまま、大きく伸びをしている。

「うん。今日はマ…女王様から大事な話があるからってお城に呼ばれてるの。で、そのあとは街の外れにある畑を荒らしてるっていうモンスターたちの退治」

 私はお城に行くための勇者の正装こと、軽めの鎧をきっちりと身にまとって、ブーツを履く。背には鞘に納めた大剣も装備する。

「モンスターの退治ならリサも連れてって! そのくらいならリサでもできるでしょ?」

「危ないからダメっていつも言ってるでしょ」

 上目遣いに頼んでくるリサはかわいくて、なんでも願い事を叶えてあげたくなっちゃうけど、これだけは絶対に譲れない。

「むー、お姉ちゃんのケチー」

 そんなことを言いながら、ほおを膨らませる子供らしい姿もとても愛らしい。

「じゃあさ、明後日のお姉ちゃんのお誕生日はおうちにいられる?」

 リサはいまだにむくれた様子ではあるものの、それとは別に表情には期待と不安の色が見て取れる。

 そういえば最近仕事ばっかりで、なかなか家にいる時間がない気がする。それで誕生日くらいは一緒に過ごしたいってことかな?

 それにしてもリサはよく私の誕生日なんて覚えてたな。

 私の仕事の都合で、いままで私の誕生日なんて祝ったことなかったし、私自身もそんなことすっかり忘れてたっていうのに。

「明後日ならなにも予定はないよ、ずっと家にいられる」

「やったぁ! じゃあ、じゃあ、リサがケーキ作ってあげるから楽しみにしててね」

 リサのこんなに嬉しそうな顔を見たのはいつ以来だっただろうか。

 その場でピョンピョンと跳ね回って喜んでいるリサ。それを見ているとなんだかこっちまで嬉しくなってくるね。

「ありがと、楽しみにしてるね」

「うん! 絶対、約束だからね」

 リサが小指を立てて差し出してきた手に、私は小指を絡めてゆびきりする。

「じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい!」

 すっごく嬉しそうに大げさに手を振るリサに、軽く手を振りかえして家を出た私は、お城を目指す……とは言ってもお城は、いざというときに私たちが護れるように家のすぐ隣にあって、数分もかからずに着いちゃうんだけどね。

「おはようございます」

 大きな城門の左右の立っている門番さんたちにぺこりとあいさつすると、彼らはピシッと背筋を伸ばして敬礼をしてくる。

 これはいつものことなんだけど、大人の人にこうもかしこまった態度で接されるのには慣れないよね。小さいころはお菓子くれる優しいおじさん達って程度にしか見てなかったから違和感も倍増だ。

「リオちゃん、待ってたよ」

 きれいな金髪を短く切って、見るからに高貴な服を着ている彼女は、最近王位を継承されたばかりなのに、仕事ができすぎるせいで暇を持て余してると噂の女王様ことマリーだ。

 門まで迎えに来てくれてたらしい。

「女王陛下は時間を持て余してらっしゃるようですね。しっかりお仕事はしておられるのでしょうか?」

「もう、そんな改まった喋り方しなくていいってば、普段は今まで通りでいて。ただでさえお城は窮屈なのに、幼馴染のリオちゃんまでそうなったらたまったものじゃないわ」

「はいはい、それにしてもマリーは仕事ができるって城下では噂になってるけど、ほんとに真面目にやってるの?」

 歩き出したマリーに私がついていくような形でややうしろから疑いのまなざしを向ける。

「ちょっとその言い方失礼なんじゃない?」

「じゃあ、噂は本当なの!?」

 まさか幼いころから遊んでばっかりで、毎日のように先代の王様に怒られてたマリーが、しっかり仕事をしているとは、彼女も成長したんだ―――

「もちろん、私はなにもしてないよ」

「は?」

「だからぁ、私はなにもしてないよって、お仕事は全部みっちゃんがやってくれるからね」

 一瞬でもマリーが真面目に働いていると思ってしまった自分がバカらしくなるね。

 よく言えば彼女らしいけど、それは一国を治める者としていかがなものなのか。

「それじゃあみっちゃんも大変だ。マリーの仕事全部押し付けられてるんだもんね」

「押し付けてないよ。みっちゃんがやりたいって言うからやらせてあげてるの」

「はいはい」

 ため息まじりに適当にいなす私に「信じてないなぁ」なんて言ってくるマリーとは、しばらく会ってなかったけど、元気そうでなによりだ。

 ちなみにみっちゃんというのは、私やマリーの幼馴染で、小さいころには3人でよく遊んでいた。

 みっちゃんはお城に仕える占い師かなんかの娘で、彼女自身もよく未来を言い当てたりするものだから、それをマリーにおもしろがられて昔からおもちゃのように扱われてるというかわいそうな子だ。

 まあ、それは仲がいいからこそっていうのもあるかもしれないけどね。

 昔のことを思い出してた私が、マリーによって連れてこられたのは玉座の間。

 バカみたいに大きな扉を開けると、赤を基調とした装飾に、二つ並んだ玉座が奥にあるだけの部屋で、装飾や色は豪華絢爛という言葉がピッタリではあるものの、どこかシンプルさも感じさせる空間になっている。

 私がここに通される時にはだいたいなんらかの功績を称される場合か、凶暴なモンスターが近辺で暴れているなどの、国に危機が訪れようとしている場合かのどちらかだ。

 できれば前者であってほしいけど……。

 部屋の真ん中辺りで立ち止まって、玉座に向かって膝をついた私に、玉座にすっぽりと座ったマリーが真剣な面持ちで告げたのは、

「近いうちに魔王が復活する可能性が高い」

 という内容で、どうやら今回の話は後者だったみたいだ。しかもかなりやばいやつ。

 その言葉は、部屋に数人いる兵士たちも初耳だったようで部屋がややざわつく。

「詳しい話は今からミツルにしてもらうから、心して聞くように」

 マリーがそういうと奥からミツルことみっちゃんがそそくさと、相変わらずどんくさそうな足取りで出てきて、マリーの隣に立つ。

「では、わたくしから説明させていただきます。とは言ってもあまり情報はないのですが、わたくしの予知によれば、数日以内に魔王が復活します。レベルは5ですから、これはほぼ確実に当たるものとお考えください」

 気の弱そうな声で告げられたレベル5という言葉に私も心中穏やかではいられない。

 みっちゃんの予知では結果の他にレベルも見える。それが高ければ高いほど予知の的中率が高いという仕組みだ。つまり逆に言えば予知とはいっても確実なものではないのだ。

 とはいっても、経験上みっちゃんの予知は最低レベルの1でも50パーセントくらいの確率で当たっていて、最も頻繁に出る数字である3では9割程度当ててくる。

 4ですらめったに聞かないのに、5っていったらもう彼女の言う通り、決定事項と受け取っても問題ないだろう。

「そこでリオには魔王が復活し次第、討伐に向かってほしい」

 マリーの表情は真剣そのものだけど―――

「お言葉ですが陛下、私はまだ15です。聖剣を持つことは許されません故、そのお役目は父が果たすべきかと存じ上げます」

 聖剣は16歳にならないと持ってはいけないというのが私たち一族の決まりになっている。それは聖剣の力は凄まじく、下手をすれば力を制御できずに自らの身を滅ぼしてしまいかねないからだ。

 でも、実際は私もリサももう聖剣を持っても問題ないであろう力は持っていて、いつでも使えると思われる。だけどルールはルールだからそこはしかたない。

「失礼ながら、リオ様のお父上では力不足ではないかと……。こちらの予知はレベル3なのですが、今代の魔王は今までで最強クラスだとか。魔刀の力なしでもあなた方姉妹……少なくともリサ様程度の力を持っていることが予想されます」

 相変わらずの弱気な声で発言したのはみっちゃんだ。それを聞いた兵士たちはまたざわつく。

 リサは私の陰であまり実力が目立たないけど、それでも私を抜きにすると国では最強を名乗れるレベルで、たまに一緒に剣術なんかの稽古をしているお城の兵士たちはそれをよく知っている。

 ちなみに魔刀というのは魔王の扱う刀のことなんだけど、それなしでリサ程度っていうのはとんでもない強さだろう。

 それにパパももう結構歳いっちゃてるし、確かに彼に行かせるには厳しいものがあるかもしれない。そもそもパパは娘である私たちに勝てないしね。

「そういうことだ。それに年齢も問題はない。明後日はリオの誕生日だ、明後日に帯剣の儀を執り行おう」

「その……明後日は用事が……」

 私は家を出る前にリサとの約束を思い出しながらそう言うけど、

「どんな用事かは知らないが、リオの頼みでもそれは聞けない。私には女王としてこの国を護る義務がある。いいか、これは命令で最優先事項だ」

「いつ魔王が復活するかわからない以上、一刻も早く儀式をやるべきです……」

 マリーだけじゃなく、みっちゃんまでも申し訳なさそうに言ってくる。

 これはやむを得ないか……。国より個人を優先するべきじゃないことくらい私にもわかってる。

 はぁ、リサになんて謝ればいいかな? あんなに嬉しそうにしてたからきっとショックだろうな。

「……承りました」

「よろしい」

 マリーはそう言ったのを最後に、「ふぅ」と空気を抜くように息をはいた。

「リオちゃんはこのあと、なにかあるの?」

 一方、私は兵士たちの手前さすがにいつもの態度で接するわけにもいかず、

「モンスターの討伐の仕事があります。ですから、今日はこれにて失礼させていただきます」

 私は丁寧にそう告げてから立ち上がる。するとマリーは非常に残念そうな顔をする。

「そっか、気を付けてね」

「はい」

 返事をして一礼した後に、私は振り返り、出入り口へ向かった。

 私が玉座の間を出る直前で、

「じゃあ、今日はみっちゃんで遊ぼうかな」

 なんて声がうしろから聞こえた気がする。『と』と『で』を聞き間違えるなんて私の耳、ちょっとおかしいのかな? なんか閉まった扉の向こうからみっちゃんの悲鳴が聞こえた気がしたし。

 ………あの子たち大丈夫かな?


 私は予定通り、畑を荒らしているというモンスターを討伐するために街の外れの畑に来た。明後日の約束を守れなくなったことを、リサに謝ろうと一度家に帰ったものの、家にリサの姿はなかった。

(でも、リサがいなくてよかったかも)

 いたらいたでなんて謝ればいいかわからないしね。

 それにしてもなんて謝ろう。ゆびきりまでして、あそこまで喜んでくれたのに……。

 こんな約束ひとつ守れない私は姉失格だ。

 なんて考えつつ、畑にいた弱いモンスターの群れをバッサバッサと切り伏せていく。

 倒したモンスターは光になって消えてしまうのだけど、どこに行くのかは誰も知らない。学者の間では長年研究されてるらしいけど、そんなこと今はどうでもいい。

 はぁ、ため息が止まらなよ。私だってリサが誕生日祝ってくれるのは楽しみにしてたのに。

 ストレスを解消するように、ブンブン大剣を振るうこと数分、気づけばウジャウジャといたモンスターたちは1匹たりともいなくなっていた。

 こんな力がなければ魔王討伐なんかじゃなくて、リサと誕生日パーティーをできてたのかな?

 ……でも、今は魔王を倒せるのは私だけなんだもんね。しっかりしないと。

 なんて自分を鼓舞しながら帰宅したのはもう夕方。街の外れって言っても結構距離はあるんだよね。

 馬でも借りればよかったかも。

「お姉ちゃんおかえり! お仕事お疲れさま」

 家に帰ってまず声をかけて出迎えてくれたのは、今朝とと違ってしっかり髪を整えて、かわいらしくピッグテールにまとめているリサで、左側の髪をまとめる青いリボンがとても似合っている。

 それに続いてママがリビングの方から、

「リオちゃん、おかえりなさい。夕飯できてるから二人とも早く来なさいな」

 と声をかけてくれる。

「「はーい」」

 なんて二人で短く返事ををハモらせてリビングに行き、そろってテーブルについた。

 パパとママが並んで向かい座って、私の横にリサが座るという、いつも通りの配置に全員がつくと、リサが「いただきます」とカレーにスプーンを滑り込ませるのを合図にしたかのように、みんなで食事を始める。

 今日の夕飯は山菜が大量に使われているカレーライスだ。

「明後日はお姉ちゃんのお誕生日だからリサがケーキ作るの。ママには言ったけど、お姉ちゃんとパパもキッチンに用意しておいた材料は触らないでね」

 いきなり明後日の誕生日の話をリサが始めたから、私はむせてしまう。

 ただでさえ、なんて謝ろうか考えてたのに、これじゃあ言い出すことすらできない。しかももう材料まで用意してるなんて……。

「あら、それは楽しみね」

「がんばれよ」

 なんてママとパパにもリサが私のためにケーキを作ってくれるということが伝わってしまい、さらに言い出しにくくなる。

「ふふん、楽しみにしててよね!」

 リサがピシッと私の方に指さしてくるのに、

「う、うん」

 と私もつい返事をしてしまって最後は自分自身で首を絞める展開になってしまった。

 そして、その様子に一瞬「?」という顔をしたリサはすぐ満足げな表情になり、「ごちそうさま!」と勢いよく立ち上がった。

「はや……」

 リサのお皿をみるともうカレーはきれいになくなっていた。

 そしてリサはダッダッダと走って自分の部屋に戻ってしまった。

「今日、お城で聞いてきたんだけど、数日以内に魔王が復活するかもって……」

 私はリサがいなくなったタイミングを狙って、先代勇者候補(魔王が復活しなかったから聖剣を持つことはなかった)のパパに打ち明けた。

「ほう、ミツルちゃんの予知か? レベルは?」

 パパは興味深いといった感じに聞いてくる。

「レベルは5だって、それで今回の魔王はすっごく強いらしいよ。そっちはレベル3だって言ってたけど」

「なるほどな。明後日、帯剣の儀があるんだろ? それで元気なかったのか、明後日はリサがケーキを作ってくれるって言ってたから」

 さすがパパ、鋭い。全部お見通しって感じだ。

「……なんて謝ればいいかな? リサすごく楽しみにしてるから」

「ふふっ、リオちゃんとリサちゃんは本当に仲良しだね。ちゃんと謝ればきっとわかってくれるわよ」

「そうかもしれないけど……」

 ママは簡単に言ってるけど、実際わかってくれたとしても、リサは絶対に落ち込んじゃうことだろう。できれば落ち込むのも見たくないんだけど……。

「リオの気持ちもわからんでもないが、時間が経つと謝りにくくなるぞ」

 たしかに、こうやってなにも言わずに期待させといて、直前になって断るよりはできるだけ早い段階で言った方がリサのショックも小さくて済むかもしれない。

「ごちそうさま、できるだけ早く謝るようにするね」


 翌朝、私は今日もモンスターの討伐の仕事がある。

 でもその前にリサに謝ろうと意を決して、今朝は彼女の部屋の前まで来た。

「おはよう」

 声をかけてリサの部屋の扉を少しずつ開けると、リサは机に向かってなにやら熱心に本を読んでいて、私には気付いていないようだった。

 チラッと見えたその本には大きくケーキの写真が載っていて、その下には材料やらケーキ作りの工程やらが書いてあるようだった。要はレシピ本ってやつなのだけど……今までリサがキッチンにいるのなんて全く見たことがない。これは私があまり家にいないからではなく彼女が普段、料理をしないからだ。

 それなのに今回の件で一生懸命、私のためにケーキを作ろうとしてくれている。

(ここで謝らないと……)

 そうしないともっと悲しい想いをさせてしまうかもしれないから。

「ねえ、リサ。話があるんだけどいいかな?」

 今度は気づいてくれるように肩を叩くと、全身をビクッと反応させてリサは振り返った。

「びっくりしたぁ、どうしたの?」

 ルンルンといった感じに嬉しそうにしているリサの目元には、うっすらと隈ができている。

「あ、あのね、明日のことなんだけど……」

「心配しなくていいよ。作り方も完璧だしね」

 笑顔でノートにびっしりとメモしてあるレシピを見せてくるリサに心が痛む。

「……ごめんなさい。明日は家にいられなくなっちゃったの」

「……えっ?」

 リサの表情が笑顔のまま凍る。そして今、私の言ったことが理解できなかったかのように首をかしげた。

「明日は一日、帯剣の儀で家にいられないの」

「本…当…?」

 私がうなずくと、じわぁとリサの目には涙が溜まっていく。今にもこぼれ落ちてしまいそうなところで、リサは袖でグジグジと目を拭って、それをくいとめてから、

「なんでよ! 一緒にいてくれるって約束したでしょっ!?」

 またリサの目には涙が溜まって、今度は拭う間もなくぽろぽろと頬を伝ってゆく。

「……ごめんね」

「お姉ちゃんはいっつもそう! リサなんて本当はどうでもいいんでしょっ!」

「そんなことないよ。私はリサのことが大好きだよ」

「そんなのウソっ! お姉ちゃんはリサのことなんて一度も見てくれなかった! リサがどんなにがんばってもお姉ちゃんは振り向いてくれなかった!」

 リサのぽろぽろと落ちていた涙はいつしか、スジを描いて流れていく激しいものに変わっていた。

「私は、いつだってリサのためにって思ってやってきたつもりだよ」

「もういいよ! お姉ちゃんなんて嫌い! 大っっっっ嫌い!」

 リサはそう叫んだのを最後に、机の上のものを全部床にぶちまけて、手に持っていたノートを私に投げつけると走って部屋から出て行ってしまった。いや、家から出て行った音すらする。

 床に散らかったのはケーキのレシピ本がたくさんあるなかに何冊かの裁縫の本が混ざっている。

 それから、最後に目に入ったのは『お姉ちゃんへ』と丸っこい文字で書かれた小さな紙袋と、落下した拍子にそこから飛び出たと思われる、私とリサだと思われる女の子二人が手をつないでいる小さな手作りの人形。

 お世辞にも上手いとは言えないけど、それでも私のためにリサが一生懸命作ってくれたものだろう。

 私はリサを追いかけようとしたけど、嫌われてしまった私が行っても逆効果になってしまうかもと、その場で足を止めてしまった。

「仕事から帰ってきたらもっとちゃんと謝らなきゃ……」

 そしてもしリサが許してくれたら、明後日にでも誕生日会をやってくれないか頼んでみよう。

 思えばこれが私たちの人生初の姉妹ゲンカだった。


 私はそのままモンスターの討伐に向かって、今日も弱いモンスターたちをササッとみんな倒して帰る。その間、家を出て行ってしまったリサが心配で気が気じゃなかった。

 今日は場所が近かったこともあってお昼には帰宅することができた。

 家に帰るとまずママが、

「あら、今日は早かったのね。ところでリサちゃん見なかったかしら?」

「え、帰ってないの?」

 リサはいつもなにも言わなければお昼にはちゃんと帰ってきてるはずなのに、今日は帰ってないらしい。なにかあったのだろうか?

「ちょっと探しに行ってくる!」

 心配になった私は荷物を放り投げて、すぐに玄関を飛び出す。

「ごはん食べないのー」

 ママがうしろからかけてきた声を無視して私は走り出す。今は昼食なんて食べてる場合じゃない。

 もし私のせいでリサになにかあったら……そんな最悪の事態を考えてしまった私は、首を振ってそれをかき消す。大丈夫。きっと大丈夫だ。

 あてもなく私は街中を走り回った。

 いない、いない。どこにもリサの姿は見えない。

 しばらく走り回って息が上がってきたころ、いったん呼吸を整えるために立ち止まった私に、

「リオちゃん、そんなに息切らしてどうしたの?」

 白いローブのフードを深くかぶって、顔を隠している女の子が声をかけてくる。

「マリー……。リサが、リサがいないの。今朝ケンカしたから、どっか行っちゃたのかもしれないの!」

 その姿から、お忍びで街に遊びに来てるであろうマリーの肩を、助けを乞うようにがっしり掴んで揺する。

「ちょっ、ここで名前呼ばないでってば。てかちょっと考えすぎなんじゃないかな? まだお昼だし、 姉妹ゲンカなんてよくあることだし、それが原因で帰ってこなくなるなんてあんまり聞いたことないって。それにリサちゃんならすぐにリオちゃんが愛おしくなって帰ってくると思うけどなぁ」

「姉妹ゲンカがよくあることなわけないでしょ! ふざけないで!」

 つい声を荒げてしまった私に、マリーは気圧された感じながらも言い返してくる。

「ま、まあ落ち着いて、まわりの人がみてるよ。それにふざけてないって、君ら姉妹はケンカなんてしないかもしれないけど、一般的には結構頻繁に勃発してるって」

(………なに言ってんだコイツ……)

「し、姉妹ゲンカはともかく、お姉ちゃん大嫌いって言われたの……。だからリサはもう帰ってこないよ……」

「だーかーらー、考えすぎだってば。リオちゃんがそんな過保護だからイヤになっちゃたんだよ。すぐに帰ってくるって」

「でも……でも……」

「あー、わかったよ。探すの手伝ってあげるから泣かないで、ね」

 その後、私たちは二人で街中を探し回った。

 最終的には、夕方になってしまい、さすがに不味いと感じ始めたらしいマリーが女王の権力を使用して住人にも協力を仰いで探してもらったもののリサが見つかることはなかった。

 夕飯にもリサが帰ってくることはなく、結局日付が変わるまで家で待ってみたけど帰ってくることはなかった。


 それから私は朝まで、人気のない街を探し回ったけどそれでもリサは見つからない。

 リサはいったいどこへ行ってしまったのか。

「リオちゃん、帯剣の儀やるよ」

 日が昇ってきたころに、今度は堂々とした姿で徘徊していた私に話しかけてきたマリーだけど、

「今、それどころじゃないんだけど……」

 ポンと私の肩に置かれたマリーの手を振り払おうとする。

 そこでマリーは少し言おうか迷ってから、カードを切るように、

「……昨日の夜ね、みっちゃんにリサちゃんの居場所について占ってもらったの。そしたら魔王に関係してるって……」

 私はそれに徹夜明けで眠い目を見開く。

 みっちゃんの占いの的中率はかなり高い。予知とは違って未来のことは見れない代わりに、探し物や人についてはかなりの精度で当ててくる。

 マリーが私に帯剣の儀を受けさせるために、適当なことを言ってるのかも、と思ったけどそういう雰囲気ではない。

「……わかった。帯剣の儀をやろう」

 あまり乗り気にはなれないものの、もし占いが当たってて、魔王関係でいなくなってるとしたら―――魔王にさらわれてたりなんかしたら……。

 私は魔王を倒すためにも帯剣の儀をやらなければならない。

「よし、そうと決まればさっさとお城に行こうか」


「聖剣よ、未来永劫この世界を希望で満たす光となれ」

 床に描かれた魔法陣の中心に鞘ごと刺さった聖剣を、言葉の後に引き抜くとまるで羽のように軽い聖剣は強い光を放った。

 その光は天井を突き抜けて天にのびる美しい白い柱のように見えるとかなんとかって話だけど、実際のところ私には天井までしか見えてないから、ただ眩しいという感想しか生まれない。

 たぶん隣で私と一緒に、ひたすら長いおじいさんの話を聞かされたり、聖剣講習みたいなのを受けさせられたマリーも全く同じことを思うことだろう。

 ていうか、聖剣の説明とかされなくても小さいころから何度も聞かされてるから知ってるわけで、講習をしてくれたおじいさんよりも私の方がよっぽど詳しい。

 それなのに、そのせいで儀式が朝から夜まであるとか、もうね。

 私は一刻も早くリサを探さなきゃいけないのに……。



 これから私はリサを探すために魔王を倒しに行くことになる。

 残酷な真実を私が知るのはまだしばらく先のことになることだろう。



 私が――聖剣が白い光を放ったのと全く同時に、遥か東に魔王の復活を意味する紅い光が夜空を貫くように放たれるのが観測された―――。

このsisterly Rightは、私にとって処女作となるのでしょうか?

今まで友人に見せようと思い、いくつか小説を書いたことはあったものの、こうして公の目に触れる可能性のある場で書かせていただいたのは、私にとって初めての経験となりました。正直、凄まじい不安に襲われています。

そもそも、あとがきはこういう内容でいいのか? あらすじはあんなに簡単な内容でいいのか?など小説とかそういうこと以前の問題だけでももう不安しかありません。なにか問題があればご指摘お願いいたします。

最後に、拙い文章ではありますが、私の作品を読んで少しでも楽しい気持ちになっていただければ私としては幸いです。

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