砂上の楼閣
「世界の終わり、想像してみない?」
砂上の楼閣を組み立てながら、彼女は言った。
「世界の終わり?」
「そう、世界の終わり」
唐突ではあるけれど、そんな彼女にすっかり慣れてしまったぼくは、その真意を考える。
彼女の問いは、いつも掴みどころがない。万人に万人の解答があるような、答える意味のないものばかりだ。
だから、これは疑問じゃない。ぼくという人間を測るための、彼女なりのコミュニケーション手段なんだ。そう気付いたのは、つい最近の話。
茜色に統一された空。浸食される生命の母。寄せては返す彼女の鼓動を十回聴いてから、ぼくは答えた。
「終わらないよ。ぼくが死んだって、誰かが生きてる。地球が爆発したって、他の星には命がある」
「じゃあ、宇宙が滅んだら?」
彼女は、翻弄される城を懸命に支えながら、決してぼくを見ようとしない。外見で人を括りたくない、というのが彼女の信条の一つだった。
「うーん。そのときはきっと、代わりに何かが生まれるんじゃないかな」
始まったものは、同時にいつか終わる宿命を帯びている。
だけどさ。
そんな寂しい世界でも。始まりだけは終わらないって、そう思うんだ。
「……希望じゃなくて、予想を聞いたんだけど?」
果たして、彼女はぼくをすぐに見抜いた。でもその言葉に、非難の色を見つけることは出来なかった。なら、ぼくは彼女の要求を満たしたんだ、と思う。
「同じだよ。ぼくにとっては、ね」
彼女の城は、もはやよくわからない凹凸のある塊と化して、いや帰していた。
それは、終着点の用意されていないこの世界に投げ込まれた、ぼくらの暗喩じみていて。
ぼくは、目を逸らした。彼女は向き合い続けている。それが彼女の特異なんだ、と思った。
「子供みたい」彼女は鼻を鳴らす。
「誰だって誰かの子供だよ。神様以外はね。なら、キミはどうなのさ?」
ぼくの切り返しに、彼女は作業の手を止めた。
「……世界はいつも終わってる。長さに端があるみたいに、始まりには終わりが、生には死が確定してる。その観点から答えるなら、」
ーー世界は、もう終わってる。
「……そっか」
それが、彼女の答えだった。
疑問の余地のない解答を祝福するように、残照が全てを血に染め上げる。そしてやがて終わりが来て、始まりが来て、終わりが来て、始まりが来て、終わりが来て、始まりが来て、終わりが来て、始まりが来て、終わりが来て、始まりが来る。……最後にどっちを添えるかだけは、譲れないなあ。
「……帰ろっか?」
彼女が身震いしたけれど、ぼくは気づかないフリをして提案する。
「……そうする」
彼女が立ち上がると同時に、砂上の楼閣は姿を消した。