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7.目覚めた力

シュンは叫んだ後、黒いものに取り込まれそうになる。慌ててシュンに手を伸ばそうとするが、電気のようなものがバチバチと迸り、触れることができない。



「ぐ、ぅああああ!!」



悶え苦しむシュンは、見ていられなかった。このままじゃシュンが魔物に取り込まれてしまう。



どうしたらいい?


嫌だ、シュン、いなくならないで、消えないで、側にいてーー、


そう、強く願った時だった。



「っ、あ、」



身体が焼けるように熱くなる。思わず自分の身体を抱きしめるようにうずくまった。身体の血がものすごいスピードで巡ってる気がする。身体が成長して、まな板じゃなくなるーー。



「うああっ…」



一際すごい痛みを背中に感じたと同時に、羽根が開いたような音がした。


だけどそれを確認する余裕はない。


今にもシュンが黒いものに飲み込まれてしまいそうだったから。



「シュン、お願い…戻ってきて!!」



かろうじて黒い塊から出ている左手を握った。その瞬間、優しい光が辺りを包み込んだ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー


熱い、熱い、熱いーー。


全身が熱くてたまらない。苦しくて荒い呼吸を繰り返していると、どこかから声がする。



「ーーーで、ーーだ」



「でもーーー、ーー」



何か話してるみたいだった。それから一人がいなくなると、すぐ側に誰かが来た気配がした。



「真白…」



その声と共に、額にヒンヤリと冷たい濡れたタオルが乗せられた。



「っ…しゅん、」



「真白?目が覚めたのか?」



「熱い、よぉ」



怖くて苦しくてしくしく泣きだすと、大きな手のひらが頬に当てられた。それは優しく涙を拭ってくれる。


シュンに両手があるってことは、これは夢なんだろうか?



「シュン、抱っこ…」



両腕を伸ばす。



「なんだ、甘えたいのか?」



くすっと笑ってシュンは私を抱き上げた。あぁ、これが夢だと言うのなら、一生覚めなければいいのに。じんわりと伝わってくるシュンの体温に、目を閉じる。



「真白、旅に出ようか」



「たび…?」



シュンはベッドに座る。二人分の重さに、ベッドがギシッと音を立てた。シュンは私の頭を撫でながら、言葉を選ぶように口を開いた。



「あぁ、愛美もツカサもどこにいるかわからない。探しながら、ダンジョンを攻略していこう」



ダンジョンという言葉に、体感温度が5度くらい下がった気がした。



「嫌っ!!ダンジョンなんてもう行きたくないっ…血がいっぱいで、シュンだって腕が…もう、やだよ…」



あんな恐ろしいところ、行きたくない。脳裏をよぎるのは、次々に人が殺されていく姿。


カタカタと、身体が震える。それをなだめるように、シュンは背中をさすってくれた。



「真白が行きたくないならそれでもいい。俺は一人でも行くよ」



「な、んで…あんなひどい目にあったんだよ!?今度は死んじゃうかもしれないんだよっ、そんなの嫌だよ」



「それでも、この世界から出るにはダンジョンを攻略しなきゃならないんだ。それに真白の体は…もう長くは持たないだろう?」



シュンの悲痛な声に、息を飲んだ。



「この世界の時間の軸が向こうと同じなら、真白は二十歳まであと四年しかない。


もたもたしてダンジョンの攻略が遅くなったら、真白は元の世界に戻ることができずに病気で死ぬことになる。


そうでなくとも、もしこれ以上ダンジョンが増えたりしたら寿命も短くなるかもしれない。早く攻略して、元の世界に戻るに越したことはないんだよ。


死ぬのを恐れて【誰か】がやってくれるのを待つ暇なんて…俺らにはないんだよ」



拳を握り締めるシュンには、確かな決意が感じ取られた。



「私のせいでシュンたちが死んじゃうくらいなら…私はっ、」



助からなくていい、そう言おうとした言葉はシュンの唇に飲み込まれた。柔らかな感触に、目を見開く。シュンの熱っぽい瞳が、私を射抜いていた。


角度を変えて、何度も押し当てられるソレは切なくなるほど優しくて涙が溢れ出した。



「っ…ふ…ぅ…」



「約束したろ?真白は俺が守るって」



強く強く、抱きしめてきたシュン。おそらくシュンは私が何を言ったとしても、もう考えを変える気はないんだろう。


ーーそれならば、私が目を逸らしているわけにはいかない。



「わ、私も行くっ…だから、置いてかないで」



ぎゅうっ、としがみつくと、シュンは返事の代わりに頭を撫でてくれた。



「大丈夫、必ず助ける」



シュンは力強く、そう言った。

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