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5.惨劇と悲劇

青い空、白い雲、清々しい朝が来たのとは正反対に、シュンはうな垂れていた。



ーーあの後シュンはイライラしながら帰宅し、私がゼスにあのことを話したらものすごい勢いで怒られてた。



「なんでそんな危ない真似をするんだ!」



と。そこでようやく我に帰ったらしいシュンはいろいろと御託を並べていたが、結局納得してもらえず。



「パーティーのレベルも確認しないで了承するなんて言語道断、マシロがいるなら尚更だ!少しの油断と過信で命を落とした奴を何人見てきたと思ってる!?」



その結果、シュンは何も言い返せずに自己嫌悪に陥ってしまったのだ。


かといって今更断るわけにもいかず、とりあえず防具を買って装備を整えシルク広場に来ていた。


防具、と言っても重たいものは持てないから、歩いても疲れないブーツと小ぶりの剣だけ。



「ごめんな…真白」



滅多に見ることのできない落ち込んだシュン。



「今更だよ、シュン。いつまでも気にしたってしょうがないよ。それに、シュンが守ってくれるなら大丈夫でしょう?」



にこっと微笑めば、シュンはみるみる元気を取り戻した。



「おうっ!真白は俺が守る」



やっぱりシュンはわかりやすい。



「おいおい、笑わせんなよ。やっぱりダンジョンに行くのに足手まといなんじゃねぇかァ」



昨日と同じ嫌な喋り方をする男が現れて、シュンが顔を引き締めた。



「どこのダンジョンに行くつもりだ?」



昨日のように挑発にのらず、冷静に尋ねる。ゼスのアドバイス通りだ。さすがゼス。



「グラナの森だ」



その言葉に、シュンは考えるような仕草を見せる。



「中級か…人数は何人いる?」



「俺含めて十五人だァ。個人レベルがLevel30を超えてるのが五人いる」



「…わかった、ただし俺と真白は最前線には出ないからな」



「いいだろう」



睨むような鋭い瞳を向けるシュンと、相変わらず気味の悪い笑みを浮かべている顔デカ男。


その後ろには、十四人のメンバーがいる。顔デカ男のすぐそばに控えている女の人は、とても綺麗だった。


赤い髪と、灰色の瞳を持っている。



「じゃあ行くぞォ、ついてこい」



顔デカ男は女の人の腰に手を回し、歩き始める。まるで美女と野獣。その後ろの人たちも顔デカ男についていく。



「俺たちも行こう。シルク広場はいろんなダンジョンに繋がる入り口がある。


ダンジョンに入ったら、その層をクリアするまで出られない。


魔王がいるのは大体最下層が多いから、まだあまり手のつけられてないグラナの森は多分大丈夫だろう」



状況がよくわかっていない私に、シュンが説明してくれる。



「Level30っていうのは?」



「個人レベルのことで、Level30以上あるやつは手練れと呼ばれる。ほら、前にブレイブタイプの話をしただろ?あのランクが上がるほど、個人レベルも上がるんだ。


Level1〜5が見習い


Level6〜15が初心者


Level16〜29が中級者


Level30〜49は手練れ


Level50〜100はエリート


Level100を越えると英雄と呼ばれるようになる。


中級クラスのダンジョンにはパーティー内に手練れが最低三人は必要だから五人というのは妥当だろう」



「パーティーって何?」



「ダンジョン攻略に一緒にいくメンバーのことだよ。基本三人〜五十人くらいだけど、そのメンバーの能力次第で挑めるダンジョンが変わるんだ。


真白も自分のLevelを確認してみるといい。多分まだ1Levelだと思うけど」



そう言われてREALWatchを開いて個人プロフィールを見る。証明写真のような自分の立体ホログラムの横に、Level ∞ とある。これが1という意味なんだろうか?


シュンに聞こうと思ったら、急に前の人が止まってぶつかってしまった。どうやらダンジョンの入り口とやらに着いたらしい。


目の前には大きなドアがそびえ立っていた。



「す、すみません、」



「大丈夫だよ、ダンジョンではよそ見しないようにね」



「はい」



人の良さそうな顔のおじさんだった。怒られなかったことにホッとしつつシュンの方を見れば、眉間に皺を寄せていた。



「【開け、ゴマ】」



そんなテンプレートなセリフで、ドアが開いて光に包まれた。



ーー光が消えると、私たちは鬱蒼とした森に立っていた。まさにジャングルって感じに、少し怯んだ。


だけどみんな当たり前って顔で、平然としていた。それからリーダーの顔デカ男、ナダルの指示でシュンと私、それからあの美人さんが最後尾につくことになった。



「私はユースっていうの。よろしくね、マシロちゃん」



にこっと笑ったユースさんに、私は頷いた。ユースさんは近くで見てもやはり綺麗だった。年齢は私たちより少し上の18歳くらいだと思われる。


私が白の軍服ワンピース(シュンの趣味)を着ているのに対し、ユースさんは露出高めの黒い戦闘服を着ていて、首に巻いた赤いマフラーのようなものがなんともカッコよかった。


シュンやユースさんに気にかけられつつ、歩いた。


でも歩いても歩いても、何も出てこない。


私は初めてきたからよくわからないけれど、みんなの表情が徐々に険しくなるのがわかる。



「これはおかしいよな…」



「えぇ、そうね。ここまで出てこないなんてありえるかしら」



二人とも怪訝そうな表情を浮かべている。



「俺、先頭行ってナダルに確認してみる。ユースはマシロを頼む」



「わかったわ」



スルッとシュンの手が離れたことに、不安を覚える。そしてそれは、突然だった。



「っ、なにこれ、」



上から粘り気の強い透明なものが降ってきて、上を向いた。



「うわあああああ‼︎」



誰かが叫ぶ。私は怖くて声が出なかった。そこにいたのは、禍々しい黒くて大きな生物。口は大きく涎が垂れ、図体は大きく鱗がついてる。


これが…魔物?


木にいたその禍々しい生物はそこから飛ぶと、パーティーの真ん中にいた人を踏み潰した。


目の前で血飛沫が飛んだ。



「誰かっ、助けてくれぇっ‼︎」



「ぎゃあああっ‼︎」



勇ましい人は魔物に向かって攻撃するが、全くと言っていいほど効いてない。


その様はまさに地獄絵図。


嘘だ、異常だ、ありえない。こんなものに立ち向かおうとしていたの?


動けないでいると、ギロリとその魔物の視線がこちらに向いた。



『ウマ、ソウ…』



魔物が笑った気がした。



「っ、マシロちゃん、逃げるわよ!」



咄嗟にユースさんに手を引かれたけれど、足が動かなかった。コロン、と後ろに尻餅をつく。



「きゃっ…」



ユースさんが魔物の触手のようなものに振り払われて吹っ飛んだ。魔物は確実に獲物を仕留めるように、じわじわと近づいてくる。



「ぁ、あ…」



ガタガタと身体が震えた。魔物が大きく口を開いた、そのときだった。


身体が吹き飛ばされ、ゴロゴロと後ろに転がった。



「っ、このデカブツが…」



「しゅ…ん?」



魔物の口を長い剣で串刺しにしてるシュンがいた。



「雷の鉄槌!!」



すごい音とともにピカッと光り、空から雷がその剣に降ってきた。


魔物にモロに当たり、聞き苦しい呻き声を上げて倒れた。



「っ…はぁっ、手間かけさせやがって、」



ーー嗚呼、どうして。



「真白、怪我はないか?」



どうして、シュン。



「泣くなよ…」



こちらに歩いてきたシュンが困ったように笑って、力尽きたように膝をついた。



「シュンっ…」



どうして…右腕がないの?



駆け寄ったシュンの右肩からは、ぼたぼたと血が流れ落ちていた。



「…シュン、腕がっ、」



「俺は気にすんな。それより真白はこっから早く逃げろ…なんでこんなとこに魔王がいんのかわかんねぇけど、今の俺じゃ太刀打ちできない」



「し、死んだんじゃないの?」



「あれくらいじゃ死なねぇよ…気絶してるだけだ」



それを証明するかのように、唸り声が聞こえた。のそりと動く気配がする。


シュンもそれを感じ取ったのか、即座に顔色を変えて悔しそうに顔を歪めた。



「真白っ!とりあえず今は俺を置いて逃げろっ、」



「いや、だよ…シュンも一緒じゃなきゃ…」



「ふざけんなっ!!」



シュンの大きな声に、びくりと身体を震わせた。初めて怒鳴られた。



「ここで死んだら元の世界に帰れなくなるんだぞ!もう二度とっ…」



シュンの言葉を遮るように強く抱きついた。



「それでも私はシュンと一緒じゃなきゃ、嫌だよ」



シュンを見捨てて逃げるくらいなら、今ここで死んだほうがマシだ。



「っ…バカが」



ぎゅう、と守るようにシュンに抱きしめられた。

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