3.精神年齢とスキル
ゼスの家は、ちゃんとした綺麗な家だった。中にお邪魔すると、そこは綺麗に整理整頓されてある。
余計なものがなく、すっきりとした空間。彼はおそらく、綺麗好きだと思われる。
なんとなく自分が汚いような気がして、嫌だった。そもそも草原に寝っ転がっていたわけだし。
「ゼス、お風呂貸して?」
「いいよ、一緒に入る?」
サラッと当たり前のように言ったゼスに、私は頷いた。すると急にシュンが吠えはじめる。
「ちょっと待てコラ!誰に許可とってマシロにセクハラ発言してんだゼス!
マシロはこう見えてもな、ピチピチの十六歳なんだぞ!」
「えっ!?」
シュンが噛みつくように言うとゼスは目を丸くする。
「でも…どうみたってまだ七歳くらいにしか見えないよ?」
「それなんだけどな、ギルドに行って情報を集めてわかったんだ。どうやらこの世界では、精神がそのまま見た目に影響されるらしい」
「じゃあマシロは…」
「精神年齢七歳児ってことだな」
シュンが真面目に言ったその言葉に、面食らう。
「なっ、なにそれ!ひどいシュンっ!バカ!嫌いっ」
ゼスの後ろに隠れて、シュンを睨みつけた。とたんにシュンがオロオロしだす。
「ま、真白、俺はただ事実を、」
「ゼス!お風呂借して!」
嘆くシュンを無視して、私はゼスの手を引いて歩いて行った。
ーー私は鏡に映る自分の姿に、愕然とした。
ふわふわした長い桜色の髪の毛、青い瞳、それから本当に七歳児ぐらいの体型。
確かにどこからどう見ても子供だった。
「ほら、身体洗ってあげるからこっち向いて」
腰にタオルを巻いたゼスが、目を見開いたまま固まった私を見て苦笑しながら、私の身体を反転させて鏡から目をそらさせる。
病院にいたから、人に身体を拭いてもらったり頭を洗ってもらうことはよくあった。
だけど身体を洗ってもらうのは初めてで、なんだかこそばゆい。
「ゼスの背中洗ってあげる!」
「ありがとう」
お互いに身体を洗いっこして、バスルームを出た。この世界のお風呂も、向こうと大した違いはなかった。
違いといえば、身体を洗うシャンプーと頭を洗うシャンプーが一緒だったことくらいだ。
「なんだよ、二人でキャッキャウフフしやがって…くそ。羨ましい」
ーーリビングではシュンがそうぼやいていたらしい。
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「真白の待遇すげぇいいな‼︎」
私のショルダーバックの中に入ってたお金を見たシュンがそう叫んだ。
「嘘だろ!?俺なんか銅貨一枚だぞ、一枚。なんでこんな大金持ちなんだよ。まぁ女の方が待遇いいらしいけど…これは桁外れだろ」
「そうだね。七歳の子が持つ金額ではないな…」
シュンの膝に座りながら、話を聞く。座りたくて座ったわけじゃない、お風呂から上がってきたらシュンがいじけてたから機嫌をとるためにシュンの膝に座ったのだ。
そしたらコロッと治ったから、ホッとしつつやっぱりシュンはわかりやすいなって思った。
シュンはおそらく仲間外れにされるのが嫌いなのだ。今度から気をつけよう。
「真白、REALWatchは確認したか?」
「リアルウォッチ?」
首を傾げると、シュンは目を丸くした。それから呆れたように口を開く。
「お前…この一ヶ月どうやって生活してたんだよ」
「わからないよ。起きたらゼスに話しかけられたんだもん」
「一ヶ月寝てたのか!?」
「うーん…そうかも?」
自分じゃどれくらい寝たかなんて、よくわからない。
首を傾げると、ゼスが話す。
「勇者は各地でバラバラに来てるみたいだから、もしかしたらマシロは最近ここに飛ばされたばかりなのかもしれないよ。
あんな場所で一ヶ月も寝るなんて、命知らずにもほどがあるからね」
「あぁ、それもそうか…って、そういえばマシロはどこにいたんだ?」
「シンガル草原の中だよ。珍しく魔物がいなくて、代わりにマシロがいたんだ」
「シンガル草原!?中級クラスの魔物がうじゃうじゃいるところじゃねぇか!よく生き延びたなマシロ!」
ぐりぐりと頭を撫でてくるシュンの力は、バカみたいに強い。
「うきゃっ、痛いよシュン!」
「あっ、わりぃわりぃ。つい向こうの世界と同じ力でやっちゃうんだよな。それになんか小さいとこう、愛でたくなるっていうか…」
「セクハラだよシュン。マシロ、こっちおいで」
ゼスに呼ばれ、シュンから離れてゼスの方に素早く移動した。シュンは痛いから嫌だ。
「くそ、ゼスめ。俺の真白を…」
「いいからさっさと説明してあげて」
「はい」
有無を言わせない口調でにっこりと笑ったゼスに、シュンは即答した。
その黒い笑顔は、マナちゃんに通じるものがあった気がする。
「いいか、まずこのREALWatchには自分の情報が書き込んである。見られちゃマズイ情報とかはプライバシー設定とかできるんだけど…まぁそれは置いといて。とりあえず横にあるボタンを押してみな」
カチッと押すと、ホログラムが現れて自分の名前とか性別とか、身長、体重、坐高まで丁寧にかかれていた。
その下にあるものに、首を傾げる。
「スキル?」
「スキルはな、この世界で使える特殊な能力のことだ。ブレイブタイプとフェアリータイプがいて、こっちに来た大半はブレイブタイプが占めてる。
ブレイブタイプは大地の力っつーのを持ってて、炎、水、雷、風、土の五つの種類がある。武器を通して、その力を使えるんだ。
初めに備え付けられてるどれか一つはランクCで、あとはランクEから始まる。
最高ランクがSランクで、A、B、C、D、Eと、Aに近づくほど強い。ランクを上げるにはダンジョンに行って、魔物を倒す。ランクに伴って、個人のレベルもあがるんだ。
ちなみにおれの初期装備はブレイブタイプの雷型だったから、雷はCランクであとの四つはEランクだ」
「ふむふむ…今は?」
「雷がB、水と風がCで、土と炎はDだな」
「ほんと、成長が早すぎてびっくりだよ。普通はランク上げるのに一年以上、下手すれば十年かかることもあるのに」
それはおそらく、数々のゲームを最速スピードでクリアしてきたシュンだからこそなせる技なのだろう。
シュンは自慢げに鼻が膨らんでる。
「それで、フェアリータイプっていうのは?」
「ん?あぁ、そうそう。フェアリータイプは、合成魔法とか強化魔法とか後方支援型だな。フェアリータイプにもブレイブタイプ同様に、ランクがある。
ただし、フェアリータイプは元々持ってる資質がモノを言うから、ランクを上げるのは難しいらしい。とりあえず真白も確認してみようか。
【スキル、オープン】って言えば開くはずだ」
シュンにいわれた通り、「スキルオープン」と言うとホログラムに【未承認】とあった場所に、【フェアリータイプ 光魔法】と浮かび上がった。
「光魔法?なんだよ、それ。見たことねぇな」
首を傾げるシュン。
「ひ、光魔法使える人、初めて見た…」
目を見開いて驚愕するゼス。
「光魔法っていうのは、ごく少数の人にしか使えない魔法だ。女神様が持っていた魔法でもある」
「へぇ、どんな魔法なわけ?」
「わからない」
「は?」
「わからないんだ。光魔法持ってる人が少なすぎて、情報がない」
「うーん…なら実戦で知るしかねぇな」
ゼスとシュンが何かいいあってるのを聞きながら、うとうとする。…眠くなってきた。
「…とりあえず明日ギルドに行ってみるか。ゼス、真白貸せ」
ひょいっと持ち上げられた。
「シュン…?」
「寝ていいぞ。運んでやる」
シュンはやはり、面倒見がいいと思う。お礼を言って目を閉じた。
何があっても、シュンがいるなら大丈夫だと、そう思った。
長くなりました。お風呂一緒に入っちゃうところとかもろ七歳児っすね。