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2.再会

草の匂いに、私は閉じていた目を開いた。



「ん…うわ、」



そこにはどこまでも続く青い空と緑色の草原が広がっていた。今まで見たことがない広い土地に、目を輝かせる。


病室の窓からしか見たことがなかった外の世界が、こんなにも近くにあることが不思議だった。


どうしてここにいるのか、と考えて、ハッとする。



「シュン?マナちゃん?ツカサ?」



慌てて立ち上がったら、その視線の低さに驚く。自分の手を見つめて、その小ささに驚いた。どうやら、子供になってしまったらしい。



「お嬢さんどうしたの?こんなところで」



声をかけられて、身体がびくりと震えた。そこにいたのは、人の良さそうな精悍な顔つきの青年だった。


ダークブラウンの髪の毛に、少し垂れ目な彼は優しそうに見える。


腰には剣をさし、その格好は軍服のよう。まるで兵隊さんだ。


私を恐がらせないようにするためか、膝を曲げて視線を合わせてくれる。



「こっ、ここで、男の子二人と女の子一人見ませんでしたか?」



「さぁ、見てないな…ここは魔物の森の近くだから、あまり人はいないんだよ。迷子になったのかな?」



迷子…?


それがなんだか子供扱いされてるように感じて、お腹がムカムカした。



「私が迷子になったんじゃなくて、みんなが迷子になったの!」



唇を尖らせて怒ると、兵隊さんは驚いたような顔をしてから少し笑った。



「そっか、それは失礼。でもここは危ないから、一度俺の住んでる場所に来るといい。


君一人を養う余裕くらいはあるからね」



右も左もわからない私は、その言葉に素直に頷いてついていくことにした。




青年の名前はゼスというらしい。話し方も丁寧で、馬に乗るのが初めてだという私が落っこちないように気をつけてくれた。


優しい気配りさんだ。



「君はどうしてあそこに?」



「うーんと、女神様を救いに来たの」



話を聞いた限り、このゲームをクリアしなければ私は元の世界に戻れないらしい。



「君が?こんな小さな子供まで呼び寄せるなんて、宰相は一体何を考えているんだろう」



「宰相?」



「あぁ…宰相が傾いた国を立て直すために他の世界から人を呼び寄せる研究をしていたんだ。


俺もそれを知ったのはつい最近なんだけど…一ヶ月ほど前から、異界からきたという人間が急に現れ始めたんだ。僕らは彼らを、勇者と呼んでいる」



「その人たちは?」



「ここの世界に住んでいた人間よりも持っている潜在能力が高いことに目をつけられて…今じゃ勇者狩りが行われてる。


異世界から来たという無知な彼らを、奴隷商が捕まえて売るんだ。だからマシロも、不用意に異世界から来たことを言っちゃダメだよ」



ズキン、と胸が痛んだ。



「酷い…なんでそんなことするの?」



シュンは、マナちゃんは、ツカサは、大丈夫だろうか?奴隷なんて、なんでそんなのあるんだろう。



みんな同じ、人間なのに…



「この世界の女神様が死んでから、全てがおかしくなったんだ。ダンジョン攻略が難化して魔王がのさばり、人の心は荒んでしまった」



悲しそうに語るゼス。



「ダンジョンって?」



「魔王が存在する迷宮のことだよ。今確認されているのは全部で五つあって、魔王がいるであろう最下層と呼ばれるところに着くまでにいろんな層を越えなければならないんだ。


元々ダンジョンは一つしかなかったんだけど、女神様が亡くなってから次々に増えていったんだ。


ここから一番近くにあるのは【デスウォルの神域】と呼ばれる場所だよ。全部で五十の層があるらしい。入り口は十個あって、どれが魔王につながるものかはわからない。


その上下の層に行けば行くほど難しくなるから、挑戦する人も少なくなるんだ。魔王を倒したら、そのダンジョンは消える。


後に残るのは大量の富とレアアイテムだ。それに魔王を倒してダンジョンクリアするとプラチナの称号がもらえる」



「プラチナ?」



「うん。今世界にいるプラチナは三人なんだけど、あの人たちはみんな化け物みたいに強いんだ。


プラチナの称号がもらえると、必要な時に物資を早くもらえたり、飲食にお金がかからなかったり、いろんな利点があるんだ。だから今はそれを求めてダンジョン攻略しようとする人も多い」



「じゃあダンジョンは、八つあったの?」



「うん、一番多い時にね。ダンジョンにもレベルがあって、一番難しいと言われているのは辺境にある【セイリア神殿】だよ。あそこはまだほとんど手つかずらしい。


ダンジョンが増えてから、世界が混乱してる。富を巡って、争いが起こることもしょっちゅうだ。


だから俺みたいな国の兵隊は、異世界から来たというものたちをこれ以上減らさせないために定期的に見回りをすることになったんだ。


俺は君以外に一人青年を見つけたから、今保護している。異世界から来た者同士、話し合えば少しは気がまぎれるだろう」



大きな手で頭を撫でられて、私は力なく頷いた。


みんな、無事だといいんだけど…





ーーーーーーーーーーーーーー


「ーー着いたよ、マシロ」



「うわぁ、すごい綺麗な街…」



馬から降りて、街に入る。ゼスは馬を街の入り口にある厩舎に戻すと、はぐれないように私と手を繋いだ。



荒れているというから、どんなところかと思ったら、活気溢れる場所だった。



「ここは世界でも特に治安のいい場所だから、街が明るく見えるだろう?


だけど油断はしないで。今のこの世界に安全な場所なんてどこにもないから」



そっと耳打ちされた言葉に頷いた。騙されちゃダメ、騙されちゃダメ…



「ゼス!あのふわふわしたものは何!?」



風船のようにふわふわゆらゆらしてる雲のようなものに、目が釘付けになる。



「あぁ、あれはクモワールだよ。食べると甘いんだ」



「食べれるの!?」



思わず目を丸くすると、ゼスはくすくす笑った。



「食べてみる?」



「あ、じゃあお金…」



肩からかけていたショルダーバックから、袋を取り出す。割と重めだったから、きっと硬貨だろうと思っていたのだ。



「ゼス、これで買える?」



袋に手を突っ込んで出すと、金色の硬貨が二枚と銀色の硬貨が一枚、銅の硬貨が五枚取れた。



「わ、こんなところでそんなにチップを出しちゃダメだよ」



そう言って、ゼスは慌てたように私のショルダーバックにお金を戻した。



「チップ?」



「物を買うために必要なものであり、ここで生きていくにはなくてはならないものだ。今は俺が買ってあげるから、そのチップは絶対に出しちゃダメだよ」



ゼスの真剣な表情に、私は頷いた。ゼスは銅の硬貨を一枚出してクモールと呼ばれるそれを買った。お釣りらしい紙幣をもらっていたから、きっとここは硬貨の方が紙幣より価値が高いんだと思う。



「ん〜、おいし〜いっ」



ふわふわしたそれは、甘くて美味しかった。今まで生きてきた中で、一番かもしれない。



「ーーあれ、ゼスじゃないか。幼女連れて、見回りはサボりか?」



からかうようなその声に顔を上げた。上げてみてびっくりした。びっくりしてクモールを手放したから、どこかへ飛んで行ってしまった。



でもそんなことも気にかけられないくらい、私は興奮していた。



「シュンっ‼︎」



「へ?なんで俺の名前、うわっ、」



「マシロと知り合いだったのか、シュン」



驚いたようなゼスの声。



「えっ、真白!?お前真白なのか!?」



脇に手を入れてひょいっと軽々と私を持ち上げたシュンが、マジマジと私の顔を見てくる。シュンは変わってなかった、びっくりするほどそのまんまだった。



「シュン、くすぐったいよ、」



「マジで真白なのか!そうかそうか!こんなちっこくなりやがって!」



ぎゅうう、と抱きしめてくるシュンに、軽く意識が吹っ飛びそうになる。



「く、くるし、」



「シュン、マシロが苦しそうだから手を緩めてあげなよ」



苦笑混じりのゼスの声に、ハッとしたようにシュンは手を緩めた。シュンは私を抱っこしたままだから、自然と視線がかち合う。



「本当によかったよ、真白が無事で」



「シュンも、無事でよかった」



シュンが優しく微笑んでくれたから、私も微笑み返した。



「二人とも、騒ぎすぎだ。人が集まる前に俺の家に行こう、積もる話はそれからだ」



ゼスが機転を利かせてくれたので、ゼスの家に向かうことになった。その間中ずっとシュンは私を抱っこしたまま手放さなかった。

マシロって、マシマロみたいですね。英語のmarshmallowってちょっとかっこよくないっすか、マシマロのくせに。

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