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1.ゲームスタート

「…ろ、真白っ‼︎」



聞きなれたその声に、閉じていた瞳をゆっくりと開いた。



「っ…ん、シュン?」



上体を支えるように抱き込み、語りかけてきていたシュンの顔がすぐそばに見える。


相変わらず、端正な顔をしてる。


軽く日に焼けた肌は健康的で、茶色の髪は跳ねていて少し幼い顔立ち。


私が起きたことに安心したのかホッと息を吐く瞬が見せた笑顔は、やはりいつものように可愛らしかった。



「よかった!真白が目覚めなかったらどうしようかとゴフッ」



ニコッと笑ったシュンが、言葉を言い終わる前に強制終了させられてしまった。


痛すぎて言葉も出ないのか、シュンは唸りながら涙目になっている。



「このクソ兄貴!!何どさくさに紛れて真白っちに密着してんのよっ」



華麗なかかと落としを決めたのはマナちゃん。


鼻息荒く、兄である彼を叱っている。彼女のトレードマークである可愛らしいツインテールが揺れる。



「本当、ふざけるのも大概にしろよ瞬」



そして真っ黒なオーラを身体から発してるのはツカサ。瞬と違ったタイプのイケメンで、ツカサは美少年って感じだ。


色白な肌や、艶やかな黒髪、色っぽい垂れ目はあらゆる女子を魅了する…らしい。



「ふ、ふざけてねぇし。真白が床で横たわってたからここは王子様のグハッ」



「いっぺんその腐った脳味噌どっかで取り替えてこい、クソ兄貴が」



まるで汚物でも見るかのようなマナちゃんの瞳にシュンは震え上がると、「た、立てるか?」と私を気遣いつつ離れた。


立って辺りを見渡してわかったのは、ここに結構たくさんの人がいること、四方を白い壁で囲まれていること、それからみんな困惑してることくらいだった。


子供は見受けられず、みんな高校は卒業してそうな勢いだった。



「ここ…どこ?」



やっと状況を飲み込めてきた私が発したのは、そんな言葉だった。



「それがわかんねぇんだよなぁ」



ぽりぽりと頭を掻いて笑うシュンは、どこか楽しそうにも見える。



「わかんないじゃないわよ!そのゲーム脳は何のためにあんの!?ちょっとは考えなさいっ」



おっかねぇ妹だなぁ、なんて言いながら、シュンは考える素振りを見せる。


…けれど、唸ってばかりで答えは見つかりそうにない。



「ーーここは、パラレルワールドみたいなものなんじゃないか?」



口を開いたのは、ツカサだった。



「パラレルワールド?なにそれ」



きょとんとしたシュンに、ツカサは説明を始める。



「俺らがいた世界とは違う、現実と異なった世界だ。ゲームを始めたときになんらかの物質が俺らの脳を刺激して、時間の歪みに入り込んだ…とか」



『んー、惜しい!八十点だよ』



急にどこからか高めの声がした。その声につられて一斉に上を向く。


みんなポカーンとしていた、もちろん私もポカーンとしていたと思う。


ーーだって人が宙に浮いてるんだから。


長く美しい髪を持った女神様…ではなく、お茶目そうな可愛らしい女の子が浮いていた。



『ここはパラレルワールドの一歩手前。君らがいた世界とは別の空間であることは間違いないけれどね。


ここは狭間だよ。


そしてここに君たちを集めたのは君たちが住む世界と対になっているパラレルワールドを救ってもらうためだ。これを見て』



少女はにこりと微笑むと、腕についてる時計からホログラムを映し出した。


そこには綺麗で儚げな女神様が現れた。



【選ばれし勇者たちよ。何の説明もなくこのような方法で呼び出した無礼を、どうかお許しください。


あなた方の世界は今、未知のウイルスに悩まされていますね?それは、こちらの世界の影響です。


こちらの世界が滅びれば、あなた方の世界も滅びてしまうでしょう。


ですから家族を、友達を、恋人を、守る意思があるのなら、戦いなさい。己の全てをかけて、この世界を救いなさい】



ーーウイルス。


三人の目線が、私に向けられる。それも無理はないだろう。だって私は、その未知のウイルスとやらに侵されて病室の住人となってるのだから。


そのウイルスに取り込まれると、二十歳までしか生きられない。だけどその治療法は未だわかっておらず、年々その人数は増えている。


もし女神様の言ったそれが本当なら、私はーー。



と、考えを巡らせていたが、プツリと映像が途切れた瞬間遮られた。


そこにいた人たちが騒ぎ出したのだ。あるものは怒り出し、あるものはパニックで泣き始め、あるものは楽しそうに笑った。


そんな感情の渦に当てられて、恐ろしくなる。ずっと病院にいたせいで、こんな人の多いところにいるのは初めてだった。


人が混乱する様を、初めて見た。


激しい感情のぶつかり合いが恐ろしくて震えていたら、そっと引き寄せられた。



「見なくていい」



視界を遮られ、聴覚を奪われる。感じるのはツカサの温もりと、匂いだけ。



「もしもこの世界を救うことで真白の病気が治るというなら、どんな手を使ってもやってやる。だから、心配するな」



ツカサの声が、響いてくる。思わず顔を上げると、ツカサは微笑んでいた。



「そうそう。つーか、俺がいるんだからクリアできないはずがない」



シュンがそう言って笑った。



私も言葉を発そうとしたときだった。



『この世界のルール、聞きたいなら黙れよカスが』



可愛らしい顔からは想像できないほどに低い声を出した少女に、その場がシンとなる。私も慌てて口を噤んだ。


少女はわざとらしく咳払いをして、にこりと笑った。



『これから君たちには、君たちの大好きなゲームをやってもらう。世界を救うというゲームだ。


ただしこのゲームは、誰かがクリアするまで終わらない。


そして、誰か一人でもクリアすれば全員が元の世界に戻れる。


ちなみにこの世界で死んだら、君達自身も死ぬ。今、君たちの肉体は向こうの世界で眠って精神だけがこちらに来ている、いわゆる仮死状態だ。


向こうでもし肉体が殺されたり、死んだりしてもこの世界から、というか、この世から消えることになる。


詳しい【ルール】は君たちの今つけてある腕時計に書かれてあるよ。それは最先端技術で作られたものだから、使い方はいろいろ試してみるといい。


じゃあ、健闘を祈るよ』



ーーそして反論する間も無く、意識は途絶えた。

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