第4話
「秋子、みろよ! このアイデアすごいぞ!」
事務所で領収書の処理を行っていた秋子は、突然、『Time Festival』の総プロデューサーだった四十万和哉に呼ばれた。
「なんですか、騒々しい。大事な処理やってるんですから、邪魔しないでください」
「いいから! こっちに来いって!」
秋子はやれやれ、といすから立ち上がって、和哉のそばに行った。
「なんですか、もう」
「ほら、この娘みろよ!」
和哉の指さしたところを見た。
何かのバラエティだろうか、当時有名だったアイドルグループの子が何人かいすに座らされて、何かコメントしている。
「この娘がどうかしたんですか」
「よーくみてみろ、なんか気づかないか?」
言われて秋子は、画面に少し顔を近づけた。
その娘はグループのリーダーで、一番人気のある娘だった。
秋子はこのとき、ふと、時間が気になった。
その娘はまだ、中学生だったはずだ。
生放送だとすると、ここにいることができるわけがない。
しかし、この番組は生放送であることを売りにしてる番組だった。
「これ、収録ですか?」
「ちがう。生だ」
「え、それってヤバいでしょ。もう九時過ぎましたよ」
「そうか、秋子でもまだ気がつかないか?」
「え?」
秋子は、もう一度じっと画面を見た。
その娘のしゃべる様子を見ていると、その娘の音声だけが、なにかデジタル処理されているような声になっていることに気づいた。
「ん? どういうことです?
なんでこの娘の声だけエフェクトかけてるんですか?」
「その娘、それ、3DCGなんだよ。声は携帯からの本人」
「はぁ!?」
秋子はもう一度画面を凝視した。
そのモデルはあまりにも自然に動いているが、そうと知って見てみると、確かに周りの娘に比べてわずかに肌の質感が違う。
さらにじっくりと観察して、ほかの娘たちと見比べて、カメラの焦点位置が違うからだ、と気がついた。
3DCGをはめ込んだから、カメラの焦点まで合わせることができていないのだ。
「……信じられない」
秋子はため息を吐きながら、そういった。
「すごいよな、これ。まあ、この使い方はけっこうギリギリだと思うけど」
「ですね。抜け穴探しみたいなもんですから。携帯電話経由とはいえ、本人なんでしょ?」
「うん。ああ、でもこのアイデアは惜しいなあ、なんかに使えないかなー」
そのとき、秋子の中にひらめくものがあった。
「コンサート……」
「え?」
「コンサートで使う、ってどうですか」
(続く)