第3話
「男性ロイドルのはやったことがありますけど、女性は初めてですね。そんなことできるんだな、と思いました」
「そう、できるのよ」
秋子は満足そうにうなずいた。
「エンジニアの腕によるけどね。
その点、彼は業界ではトップクラスの腕なんだけど、元になる声との相性ってあるからね。
修一くんの声は男声の中でもマシな方だと思うわ」
「へぇ……相性って?」
「なんか専門的なことはわかんないんだけど、フォルマントがどーとかこーとか。
まあ、『月崎愛里紗』って別人の声にしちゃうんだから多少の無理は出るわよね」
秋子の言葉に、修一はうなずいた。
「ロイドルのコア技術って、その音声変換なんですよね」
「そうね。
まあ、コンサートなんかもやったりするから、それだけって訳でもないんだけど」
「ああ、ホログラム使うんでしたっけ」
秋子は「ええ」とうなずいた。
「最近は投影用の機材もずいぶん質が上がってきて、立体的に立ち位置変わったりする演出もできるのよ」
「ほんとにすごいな」
修一は言葉通り、本当に驚いた表情を見せた。
「『月崎愛里紗』って、たしか十年くらい前のアイドルでしたっけ?
それが今も活動してるように見えるんだもんな」
「……そうね」
ふっと、秋子の目が遠くなった。
あれはまだ、秋子が駆け出しの時だった。
月崎愛里紗は、秋子が楽曲およびコンセプト担当として関わっていたアイドルグループ『Time Festival』のメンバーだった。
当時まだロイドルなんて言葉はなく、アイドルは十代から二十代へと変わっていく中で、人生の一瞬のきらめきを放つ存在だった。
そのとき、月崎愛里紗は十四歳で、メンバーの全員が中学生だった。
女性としては未成熟なものの、可能性の塊だった彼女らの放つ光芒は、多くの人を魅了した。その中でも愛里紗は、特に強い光を放っていたように思う。
しかし、こと芸能活動という「仕事」の場では、その若さは大きな制限になることも多かった。
最も大きいのは法による規制で、中学生は夜九時まで、高校生でも夜十時を越えて働くことは認められていない。
ほとんど例外はなく、ライブやコンサートにおいてすらも適用される。
コンサートで九時となれば、進行が押せばあっという間に超えてしまうラインだった。
そんな中、ある番組ですこし目新しい試みが行われた。
あるアイドルグループが生放送に出演中、メンバーが途中退出せざるを得ない場面があったときのことだ。
従来なら、写真を元にしたメンバーの等身大ポップを立てたりするのが通例だった。
だが、その番組ではなんと――
(続く)