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第1話

近未来を舞台にしたアイドルものです。


バーチャルアイドルが芸能界を席巻した世界。

リアルアイドルはバーチャルアイドルに、どう立ち向かうのか?


ぜひ最後までおつきあいください!

 スタジオのモニタースピーカーから、若い女性のナレーションが流れている。


「……はい、わたしの曲で『スーパー☆ロコモーション』でした。

 ちょっと懐かしいですよね、この曲!

 サビの収録にすっごい苦労したのを覚えてますぅ!」


ここでは今、ラジオの生放送が行われていた。

少し狭めの放送ブース内には中央に大きな机があり、三人も座れば満員になるだろう。


だがブースの中には、今は一人しかいなかった。

ナレーターは、忙しく原稿に目を走らせつつ、途切れることなくしゃべっている。

その声は、天井から降りている大きなマイクを通じて、今も調整室側のモニタースピーカーに出力されていた。

スピーカーからは相変わらず、若く、そして、おそらくかわいいであろう女性の声が流れ続けている。


調整室には数名の人がいる。


その中に、スタジオ内唯一の女性がいた。

スーツ風の黒いパンツに白地の柄物シャツを着て、淡い黄色のトレーナーをプロデューサー巻きしていた。

年の頃は三十代より少し上だろうか、サイドアップにして垂らした髪を、落ち着かなさげに手で弄んでいる。


彼女の視線の先には、二枚の大きなモニターディスプレイがあった。


いや、彼女だけではない。

調整室にいる人間全員が、そのディスプレイをじっと見つめていた。


ディスプレイにはせわしなく動く二つの波形が表示されている。

左側の波形には「IN」、右側の波形には「OUT」とそれぞれタイトルが振ってあった。

複雑に変化する波形は、素人目に見ても左と右で全く違っている。

ミキサーの前に座っているエンジニアは、左耳にヘッドホンを押しつけ、波形を見ながらフェーダーを忙しげに上下させたり、パネルに並んだボタンを叩いたりしている。


「……では、今日はここまでです! お相手は、月崎愛里紗つきざきありさでしたぁ!……」


刹那、エンジニアが「あっ」と小さな声を出した。

その声音は、明らかに何らかのミスがあった事を示していた。


おそらく、このラジオを聞いている人間で、そのミスに気づいた人間はほとんどいないだろう。

だがごくわずかの中に、『愛里紗』という言葉に何らかの違和感を覚えたリスナーがいたかもしれない。


もちろん、このスタジオにいた人間は全員、そのミスを正確に把握していた。

『愛里紗』の言い終わり部分で、一瞬音が消えたのだった。


エンディングテーマが流れはじめ、エンジニアはマイクの入力をオフにした。

立て続けに彼は、コンソールからはえているマイクに、「オッケーです!」と叫んだ。

その言葉を受け取ったのだろう、ブースの中にいる人間がOKサインを出している。


それを確認したエンジニアは、いきなり立ち上がって振り向きざまに、女性に向かって頭を下げた。


彼女はいらだちを隠すかのように胸の前で手を組んでいる。

目を伏せたまま、微動だにしない。


今、調整室にいる人間全員の視線が彼女に集まっていた。

そのほとんどの視線に、不安と緊張が乗っている。


彼女の指がとんとん、と軽く動いた。全員の表情が、いっそう緊張感を増した。


女性は、やおら顔を上げると、にこりと微笑って「みなさん、お疲れ様。今日は本当にありがとうございました」と言った。


その言葉で一気に、調整室が安堵の空気で包まれた。


緩んだ空気に呼応するかのようにブースの扉が開いた。

中から出てきた人物は、ぴったりとした黒のレザーパンツにスカルプリントの肩出しTシャツを着ていた。

骨張っていると言ってもいいほど痩せていて、きれいなショートの黒髪に白のメッシュが入っている。


だが、しかし。


全体としてはフェミニンな空気を醸してはいたが、その人物は、紛う方なき男性だった。

(続く)

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