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R-097 ウルドに向かう


「ラミィからの通信です。『行軍中のグリードを間引いてほしい』との事です」

「サンドワームの数が足りぬようじゃな。適当に間引いておけば十分じゃろう」

 ディーの報告を聞いてアルトさんが荷台の俺達に向かって言葉を投げる。

「作戦指揮はアルトさんに任せるよ。たぶんアルトさんの睨んだ通りだと思う」

 

 それだけグリードの数が多いと言う事だろう。

 間引きが足りなければ、サーシャちゃん達が行動に移るに違いない。グリードの流れに沿って、なるべく広範囲に絨毯爆撃をすればベルダンディへの回答になるだろう。


 アルトさんが操縦席の隣で、ごそごそと革袋に爆裂球を取り出している音が聞こえてくる。

 鎖を何回か巻いただけの急造品らしいが、それでも効果は期待できそうだな。俺も確か持ってたはずだ。装備ベルトの爆裂球を入れたバッグを確かめる。3個入っているからこれも使えるだろう。急造品よりも鎖を多く巻いてるからな。


 荷台から前方を見ていた俺の視界に赤いベルトが見えてきた。

 グリードの群れだな。密集体形で進んでいるからかなり被害を与えられるだろう。

 

「そろそろ到着じゃ。我の合図で爆弾を投下するのじゃぞ!」

 キャルミラさんの指示が聞えてきた。

 もう一度、ベルトのカラビナにロープが付いていることを確認して、準備完了を告げる。


飛行速度が急に減速した。下を見ると、グリードの群れの上空100m付近をゆっくりと進んでいる。


「投下せよ!」

 キャルミラさんの合図で、最初のナパーム弾を投下する。

 少し速度が上がったようだ。続いて次を落していく。

 後ろに大きな火炎が吹きあがっている。ともすれば俺達が巻き込まれそうだ。300m程の距離を開けてナパーム弾の火炎がグリードを包んでいる。

 ナパーム弾4個を落したところで、今度は砲弾を改造した爆弾だ。両手でディーと一緒に投げ落としながらグリードの群れを縦断していく。


「爆弾が尽きたぞ!」

「次は爆裂球じゃ!」


 そうはいっても、持ってる数は10個程度だ。直ぐに終わってしまう。最後に機銃弾をばら撒くように撃ち終えると、一路ウルドに向かって飛んでいく。


「かなり間引いたのじゃろうか?」

「推定で5千程度かと……。次はユングさん達が広範囲に攻撃するそうです」


 アルトさんの質問にディーが律儀に答えてるけど、全く足りないな。

 やはり、大掛かりに爆撃を繰り返すしかあるまい。でないとサンドワームさえグリードの餌になりそうだ。

 これから、そんな間引き作業が俺達の仕事になるんだろう。


 やがて、ウルドの砦が見えてきた。スクルドよりも遥かに規模が大きい。さすがはサーシャちゃん達だな。東の海の玄関口としてもそん色がないぞ。

 運河を利用した港には2つの桟橋が50m以上も伸びている。

 その港を包むように作られた砦の外壁は高さ6mはありそうだ。

 門が見えないのは、門が西と北に作られているからだろう。


 2km四方はありそうな大きな砦の一角にイオンクラフトが数機止まっている。キャルミラさんは、その一角に俺達のイオンクラフトを着陸させた。

 直ぐに、亀兵隊のゴーグル付き帽子を被った一団が掛けて来た。俺達がイオンクラフトを下りると直ぐ目の前に整列している。


「亀兵隊第2大隊のリーデルです。お迎えに参りました」

「ありがとう。サーシャちゃん達と交替だ。とりあえず状況を確認したい」


「こちらに!」と先に立って歩き始めたリーデルさんの後ろを俺達は付いて行く。

 広場の半分以上が開いているのは、飛行船が下りる場所を開けているのだろう。外海に少し張り出したように造成された一角を目指しているようだ。周囲が賑やかなのは商店街があるみたいだ。ちょっとした町の一角を思い起こしそうだな。


 そんな通りを抜けると、港が広がっている。2隻の大型商船が桟橋に横付けされているところを見ると補給物資は十分に届けられているのだろう。

「あの建物がウルドの指揮所になります。指揮所の屋上にはイオンクラフトの発着場がありますから、アキト殿のイオンクラフトは、後程航空部隊に移動させます」


 数段の横長の階段を上ると扉を2人の衛兵が守っていた。俺達が近付くと敬礼をして扉を開いてくれる。


「1階は倉庫と調理場、それに従兵達の居室になります。2階が指揮所と会議室、それに通信室が設けられております。3階は士官室になっておりますから、後程ご案内いたします」

 階段を上って2階に行くと、奥に向かって2つ目の扉を開いた。

 指揮所の大きさはスクルドの2倍はあるんじゃないか? 数人の男女がテーブル近くでT字型の棒を使って駒を動かしている。


 俺達に気が付くと作業を中断して、その場で敬礼をしてくれたんだが、どんな作業をしていたんだろう?

 暖炉に近い席に案内されて、腰を下ろしてテーブルの地図を眺める。

 彼らがしていたのは、商船の位置と小型飛行船の現在地を修正していたようだ。

 ウルドを中心に500km四方の状況が分かる様に駒を配置している。


「リーデル。状況を説明してくれないか?」

「了解しました。この砦に駐屯しているのは……」


 亀兵隊が2個大隊。航空部隊が1個中隊。工兵が2個中隊とのことだ。その他に、一般市民が500人以上いるらしい。

 もっとも、一般市民の内、半数がドワーフ族との事だから、銃砲類の整備やイオンクラフトの修理を手掛けているようだ。

 修理はなるべく現場近くで行った方が効率的だからな。この辺りはリムちゃんの発案じゃないか?


「爆弾搭載量3tの小型飛行船が2隻、イオンクラフトは6機。105mm長距離砲が12門。装甲列車は1両に105mm砲を2門搭載し、6両を引くことが可能です。線路の敷設は複線を西に300km程です」

「弾薬の量は?」

「5会戦分を保管しています。さらに北のミーミル砦にも3会戦分を保管しております」

「さらに追加するようにしてくれ。スクルドでは1日で2会戦分を消費したことがある。それと、俺達の当座の役目はグリードへの爆撃になりそうだ。ナパーム弾を主体に爆弾を送って貰えるよう、連絡を頼む」

「了解です。現在亀兵隊1個大隊と工兵2個中隊がヨルムンガンド構築で西に展開していますが、そのまま作業を継続してもよろしいでしょうか?」

「お願いするよ。ただし、周囲の偵察だけはイオンクラフト部隊に頼んでくれ。複線化した鉄道ならイオンクラフトを近くまで運べるだろう」


 イオンクラフトの航続距離が短いのは問題だな。線路が伸びているなら、装甲列車を臨時のイオンクラフトの基地にすれば良い。

 運河掘削作業を安全に行うためにはそれ位のバックアップは必要になるだろうな。


「グリードの終焉の地はここから南南西300kmじゃな。やはり飛行船で赴くしか無さそうじゃ。我等のイオンクラフトもあるが、爆装が出来ぬからのう……。多機能とはいえ問題じゃな」

 専用機に負けてしまうのは仕方がないんじゃないか? キャルミラさんの独り言は、贅沢な悩みに聞こえるな。

 もっとも、ユング達のように中型飛行船を色々と改造することも一つの手ではあるんだろうが、飛行船の積載量を上手く使って多機能化しているんだろうな。

 

 俺達の当面の仕事は、兵站基地としての運用と線路の延伸、それにグリードの間引きとなる。

 運河構築をそのまま続けるのかと思ったら、閘門を作って作業を中断するとの事だ。運河と並行して進めている線路の敷設が追い付かないらしい。

 

 キャルミラさんに航空部隊の指揮を任せ、アルトさんには亀兵隊の面倒を見て貰う。俺とディーで指揮所に詰めていれば、何かあっても即応は可能だろう。

 キャルミラさんは結構忙しそうだ。2面の仮想スクリーンと指揮所の大きな地図に配置された駒をながめながら、航空部隊の隊長達と飛行船の運航を管理している。

 1隻を爆撃専用にして、もう1隻は資材の運搬に使っているようだ。スクルドへの運搬も兼ねているから、倉庫の管理者を交えていつも議論している。

 アルトさんの方は亀兵隊1個大隊を指揮して線路敷設の先端の作業場所を警戒している。

 イオンクラフトを2機偵察用に持ち出しているから、手持ち無沙汰の亀兵隊を線路敷設作業に繰り出しているようだ。


「やはり、シミュレーション通り、ヨルムンガンドの大洋出口付近は浸食が激しいですね。内陸部に行くほど、砂泥の堆積が著しくなるようです」

 ディーにウルド建設開始段階の運河の横幅と現在の横幅を比較して貰った。

 大洋出口付近では横幅が500mほどになっており水深も10mを越えているそうだ。ところが内陸部に行くにしたがって、水深がどんどん浅くなっているらしい。大西洋から50km程入ったところにある水門は砂で塞がってしまったようだ。

 砂泥の掘削船は大至急用意する必要がありそうだぞ。

 ユングに浚渫船の製作を打診しておこう。どう見てもヨルムンガンドの維持には浚渫船を何隻か作っておく必要がありそうだ。

 

「ディー。この砦の飲料水をどうしてるか確認してくれないか? 将来を見据えると、あまり井戸から汲み上げるのも問題だろう。内陸部に深井戸を作る必要もありそうだ」

「飲料水なら、3つの井戸と北西30km程にある深井戸を利用しているようです。水量は3つの井戸から1日辺り1.5㎥。深井戸から5㎥、合計6.5㎥を汲んでいるようです」


 かなりギリギリの値だな。もう1つ深井戸を掘った方が安心できる。

 線路から離れていなければ工事もし易いに違いない。水脈の調査もユングに頼んでおくか……。


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