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R-095 出番前の試運転


 姉貴達とサーシャちゃん達もそれぞれの砦に帰ったが、ユングとフラウがスクルドにまだ残っている。

 姉貴の言葉が気にかかると言う事だろうか?


「美月さんの危惧ってやつがどうにも分からないな。ヒントはカラメルと俺になるようなんだけど……」

「知識だけではダメだと言う事だろうな。それならバビロンの神官達に聞けば良いはずだ」


 俺の言葉にユングも頷いている。

 コーヒーを飲みながらタバコを吸うのを少し離れて、フラウやアルトさん達が眺めているんだけど、やはり姉貴の話が何の事かは分からないらしい。


「最後の手段としてカラメルの長老に聞く手もあるが、俺達で何とかそれが何かを知りたいものだ」

「明人の言う通りだと思う。どうしようも無ければそれも一つの手だけど、美月さんの言葉では今すぐって事では無さそうだ。俺、嬢ちゃん達、最後に明人という順番だったぞ」


 それもヒントだな。相手はどんな生物なんだろう。

 最初にユングなら、俺に回って来る事など無いんじゃないか?


「ラミィは、知っているんだろうか?」

「直ぐに聞いたんだけど、分からないと言ってたな。ただ、災害の種類を質問されたことがあると答えてくれたが、それでは何のことやら……」


「とは言っても姉貴の考えだと、ユングが行動することになりそうだ。姉貴の人使いのあらさは変わっていないからな」

「だが、退屈しのぎには丁度良い。明人も関係者だからな。最後は明人と言ってたぞ」


 ユングの言葉に頷きながら温くなったコーヒーを飲む。

 それも、ヒントにはなりそうだ。敵を相手にする順番かと思ったが、どうも違うみたいだ。行程と役割が微妙に変わってくると言うんだろうか? 

 分からないと言えば姉貴の事だから長々と説明してくれるだろうが、少しは努力した事が分からないと、も少し考えるように言われかねない。


「とりあえず、グリードとの争いは先が見えてきた。ゆっくり考えてみようぜ」

 そう言うと、カップに残ったコーヒーを飲み干して、ユングが席を立つ。

 俺も立とうとしたところを片手で制して、フラウを連れて指揮所を出て行った。

 あいつも忙しいな。グリードの流れが変わっても、しばらくはジャングル破壊が続きそうだ。


 俺達の出番は最後らしいから、しばらくはスクルドでグリードを相手にしなければならない。

 一服しながら、のんびりと仮想スクリーンを眺めていると、キャルミラさん達が帰ってきた。

 アルトさんとディーも一緒だったみたいだな。道理で静かなはずだ。


「200M(30km)先を入念に掃除してきたぞ。あれだけ群れが散ると銃弾で仕留めるにも無駄弾がおおくなるのう」

「300は倒しました。やはり群れがかなり分散しています」


 キャルミラさんは何も言わずに席に着くと、ポケットから煙草を取り出した。

 やはり分散すると、昔のようにはいかないものだな。


「確か、連中は共食いをするんだろう? 一度、機銃掃射をした後で、共食いを始めたところに爆弾を落すのも良いんじゃないか?」

「そうじゃ! それじゃ。何で今まで気付かなかったか……」


 ポンと手を打ってアルトさんが納得している。

 ディーは具体的にどうするかを考えてるのかな? キャルミラさんはそんなディーを頼もしそうに見ている。

 従兵がお茶を運んでくれたので、皆でありがたく飲み始めた。


「ディー、爆弾では無く、強化爆裂球で良いぞ。あれは、深くは潜らんからのう」

「了解です。……シミュレーションの結果では本日の3倍以上は確実です」


 結果を聞いてアルトさんがニコリとしているところは昔と変わらないな。

「明日は俺も付き合おうか? 今度は俺も参加するようだし、新型にはまだ乗ってないからね」

「それも良いじゃろう。スクルドを囲むグリードが急に増えることも無かろう。荷台で爆裂球の投擲を頼むぞ」


 俺もちょっと運転してみたいところだが、まあ、仕方ないな。荷台でディーと頑張ろう。

 ずっと指揮所とテラスを行ったり来たりしてんだから、たまには外出しても良いだろう。グリードが再び石塀を越えて来る事は今のところ考えにくいからね。


 翌日、朝食を済ませると、新型イオンクラフトを置いてある。航空部隊の建屋に向かった。

 エイダス航空隊が12機のイオンクラフトを運用してるんだが、全員がネコ族だから近付くにつれて、にゃあにゃあと賑やかな声がする。

 半数以上が女性であることもこの航空部隊の特徴なんだよな。


「やって来たにゃ。荷台に強化爆裂球を150個積んであるにゃ。50個は焼夷弾だから、筒を赤く塗ってあるにゃ。黒は鉄球入りにゃ」

 ミーア隊長がいつも通りにテンションが上がった声で教えてくれた。


「200個も使ってだいじょうぶなのか?」

「作戦決行の分は取ってあるにゃ。それに、私等は、爆弾を使うから、弾薬庫に600個以上溜まってるにゃ」


 溜まってるのは良い事だと思うな。いつ、必要になるかも分からない。この砦だけで4個大隊近く駐屯してるんだから、600個はあっという間に無くなってしまうぞ。


「アキトの心配は無用じゃ。600個は航空部隊だけの在庫で、エイダスより運ばれておる。戦闘工兵達の爆裂球は別に保管しておるぞ」

 俺の表情を読んだんだろうか?

 俺の危惧に、キャルミラさんが答えてくれた。

 なら、心配することは無い。キャルミラさん達の普段の攻撃は魔導士達の魔法攻撃を使ってるからな。あまり爆裂球を消費しないはずだ。


 既にアルトさんは助手席に乗って、機関銃をいじってる。まだセーフティは外していないようだが、時間の問題のような気もする。

 ディーと一緒に荷台に上がり、腰に安全ベルトを巻くと、左の機関銃近くにあるアイボルトにベルトに付属しているカラビナを掛けておく。これで荷台から落ちることは無いだろう。ベルトのロープは3m程あるから荷台を自由に動ける。

 ディーの準備が出来たところで、帽子を被り帽子に着いたゴーグルを着ける。昔のゴーグルは透明な甲虫の羽だったが、今ではガラスに変わっている。

 亀兵隊の標準装備なのだが、空の上でも使えるだろう。帽子のあご紐をしっかりと顎に掛けたところで、キャルミラさんに準備が出来たことを知らせた。

 

「出発するぞ!」

 女性特有の高い声でキャルミラさんが声を上げると、イオンクラフトはゆっくりと上昇し、20m程の高さになったところで南へと滑るように飛行し始めた。

 前のイオンクラフトよりも速度が上がっているようにも思えるな。

 

 荷台から身を乗り出して覗き込むように下を眺めると、既に南の池が遠くに見える。

 キャルミラさんは進軍中のグリードを攻撃するようだ。

 進軍中のグリードなら、まだ密集しているって事だろうな。下に見えるグリードは個体識別が容易に行えるぐらいに散開しているぞ。


「1千M(150km)ほど南に向かって、群れを攻撃するぞ」

 キャルミラさんが荷台に顔を向けて俺達に伝えてくれた。

 かなりの風圧を感じるから、時速100kmを越えているに違いない。1時間程で目的地という事なんだろう。

 

 目的地付近で、アルトさんの指示に従って次々と爆裂球を投下する。

 行軍しているグリード達はそれなりに密集しているから、効果がかなり期待できそうだ。

 20km程の長さに渡って爆裂球を投下すると、帰りは機銃を掃射しながら戻ることになる。途中で2回程マガジンを交換したが、果たしてどれほどの成果だったのか……。

 ある意味、アルトさん達の息抜きのような感じもするな。

 これでしばらくおとなしくしていてくれれば良いのだが。


「バビロンの判定では3千程度の損害を与えたようです」

「やはりそんなもんだろうな。1機での戦果なら大きいんだろうけど、相手の数が半端じゃないからな」


「3千じゃと? やはり爆裂球では足りぬのかのう」

「大型の焼夷弾なら、もう少し数を出せたかも知れぬのう。まだ原油が残っているなら、次はそれを使うのも手じゃろう」


 キャルミラさんとアルトさんで、次の攻撃をどうするかを考えているみたいだな。

 準備がいるから数日はジッとしていてくれるのかな?


 翌日は指揮所にいてくれると思ってたけど、やはりじっとしてはいられないようだ。

 魔導士達を乗せて南へと向かったらしいが、どれだけ数を減らしてくれるのかは微妙なところだな。

 ユングが原油を入れたタルを50個程運んでくれると通信も入ったから、爆裂球を使って、手作りの焼夷弾を作る事になるだろう。

 グリードの群れの向きを変える手立ては、それを使う事になるのだろうか?

 他のイオンクラフトは航続距離が短いからな。群の向きを変える作戦には使えないだろう。


 数日後に、ユング達の飛行船がやって来た。原油のタルをスクルドに下す作業を戦闘工兵達に任せて、俺のところに顔を出す。


「始まったぞ。タトルーンが毎日10t近くの魚を北東方向にばらまき始めた。俺も、次の便でVXガス爆弾をバビロンから運んで来る。更に大型飛行船でも運んで来るから、3回は爆撃が出来る」

「となると、現在の焼夷弾攻撃は?」

「ベルダンディの小型飛行船が行っている。緑を見たらそこに落とせと美月さんが指示を出してる。広範囲に焼け野原がひろがってるから、あとで見るといい」


「問題は、その後だな」

 そう言ってタバコを取り出すと、ユングにも1本勧める。

 ニコリと笑いながら受け取ると、指先で俺の咥えたタバコに火を点けてくれた。


「ああ、残ったナパーム弾をすべて使うと美月さんは言ってたな。たぶんそれでも足りんだろう。ウルドの港に船で運ばれてくるはずだ」

「持ってきてくれたタルを落したところでウルドに向かう。ここはサーシャちゃん達がやって来るから、たまには様子を見てくれよ」


「あの嬢ちゃん達だろう。問題ないと思うんだけどな。それにバジュラは強力だ。スクルドからウルドに向かって大工事が始まりそうだな」

 まあ、心配するだけ損な気もするけど、ちょっとやり方が強引な事も確かだ。亀兵隊の信頼は病的なほどに高いから、そっちも心配になってきたぞ。

 向こうに行っても、この砦を常に仮想スクリーンで眺めるような感じなんだろうな。


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