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R-094 ユングに期待することは?


 新しいイオンクラフトは、今まで使っていたものよりも能力が格段に上がっている。行動半径が500kmとはありがたい話だ。

 直ぐに、いつものメンバーを引き連れてキャルミラさんとアルトさんが出掛けて行った。


「いつもの爆弾以外に、強化爆裂球を100個以上ばら撒いてきたぞ。機関銃は3丁あるから、それで掃射するだけでも効果がある」

「1日、1回の出撃であれば問題なさそうじゃ。近場ならかなりの頻度で飛び立てる」


 かなり機嫌が良さそうだ。だけど、燃料の水素を充填する時間もかなりかかりそうに思えるな。

 近場はミーア隊長が指揮するイオンクラフト部隊に任せて、帯状になって南からやって来るグリードの群れを狙えば、俺達を囲むグリードの数をかなり削減できるだろう。

 実際、数日過ぎると目に見えて減ってはきてるが、その減り方はかなりすくなくなってはいるな。どうやら数十万と言うところでプラトーに達したようだ。


 命数をとうに過ぎている長距離砲を南に移動し、池の周囲に集まっているグリードに砲撃を加えるのだが、散布界がかなり広がってしまった。10km先で半径500mと言うのは大砲としては既に使い物にならないとは思うのだが、とりあえず、10km先に砲弾を飛ばせえばここでは役に立つ。


「やはり、大砲に寿命が来てるぞ。すべて交換した方が良さそうだ」

「そうだな。これではあんまりだろう。もう少し待ってくれないか。大砲を纏めて作ってるはずだ」


 遊びに来たユングに状況を伝えると、どうやら大砲の共通化を図ることにしたらしい。

 75mm砲を止めて、105mmと150mmに統一すると言う事だ。それ以下の口径ならばグレネードランチャーを多様すれば良いという結論に達したらしい。

 105mm砲は10km以内を担当し、10km以上は150mmで対応するとの事だ。

 だけど、150mmは列車砲として使うらしい。エンジンを作れないのが痛いところだ。


「一月後にここへ皆が集まって来る。いよいよグリードの北上を止められるかも知れないぞ」

「ウルドの運河が1000kmを越えたのか?」

「まだ800km程だが、その先に溝は出来ている。嬢ちゃん達には、それも運河と見えるんだろうな。万が一の時にはイオンクラフトが役立つだろう。俺としても早めにやっておいた方が良いと思うんだ」


 ユングと一緒に見ている仮想スクリーンには、南大陸の西側の奥にまで焼野原が広がっている。

 そんな中に、ちょっとした小山があって、その頂上付近には深い穴が見えた。続々とグリードが出てくるけど、いったい1つの巣穴にどれ位潜んでるんだろう?


「穴の直径は5m程だ。20m程の高さからVXガスのシリンダーを投入する。それで500万匹は確実だ」

「ユング達だけでだいじょうぶか?」

「他の連中には任せられん。俺達3人でやるよ。その前に出来るだけジャングルを焼く。それだけグリードの巣穴が見つかるからな」


 姉貴の考えでは、グリードの数を一旦減らして、次に北上する群れを誘導するつもりのようだ。

 ガスの効果はあまり残らないらしいから、ユング達の行為がどれだけ北上を抑えられるかはちょっと疑問が残る。

 それでもやらないよりは遥かにマシだ。


 ユング達が頑張って南大陸のジャングルを焼き払っているおかげで、グリードの数は少しずつ数を減らしている。今では狙撃することで対処できるまでになってきた。スクルドを囲むグリードは20万を下回っているらしい。


「先が見えて来たようじゃ。個別に狩れるなら砦を出ても良さそうに思えるぞ」

 アルトさんは亀兵隊で機動攻撃を仕掛けたいらしい。

 グリードの群れも積極的に砦に近付かなくなっている。ある程度数が集まって、初めて攻撃してくるようだ。


「明日まで待ってくれないかな。今夜姉貴やサーシャちゃん達がやって来る。いよいよ次の作戦が見えてくる。その作戦に影響しない範囲でなら問題ないと思うんだ」

「仕方あるまい。だが、次の段階は決まっておるのではないか?」

 ちょっと首を傾げたアルトさんに、キャルミラさんも頷いている。

 ユング達が教えてくれたからな。だけど、それだけではないと言う事だろう。それなら、わざわざ姉貴はやって来ないだろうし、サーシャちゃんだって忙しいそうだからな。


「確かに、この頃は退屈になってしもうた。次の作戦がたのしみじゃのう」

 アテーナイ様は更なる試練を期待しているようだけど、おれはのんびりした生活を期待したいところだな。


 姉貴達がやって来たのは夕暮れ時だった。

 久しぶりに皆で食事を取ったが、その後の打ち合わせを考えるとあまり食欲も無い。

 どんな難題を押し付けてくるか、予断を許さないからな。

 食事が終わって、従兵達がお茶のカップを配ってくれた。俺達はタバコやパイプを楽しみながら姉貴の言葉を待つ。


「さて、食後の休憩も終わった事だし、始めるわよ。ディー、仮想スクリーンを大きくして、ファイルはラグナロクの1020……。後は、スクリーンの切り替えをお願いね」

 そんな指示をディーに出して、姉貴の背面に大きな仮想スクリーンを作り出した。

 俺達は席を少し動かしてその画面を見る位置を確保する。

 俺達がちゃんとスクリーンを見てることを確認すると、レーザーポインターを取り出して説明を始める。


「いよいよ、グリードの向きを変えるわ。変える方法は皆も知っている通りだから説明を省きます。問題は、グリードの巣穴がかなり見つかった事と、その対策が一時的であること……」


 巣穴の対策はユング達のVXガスだな。それはあらかじめユングが教えてくれた。

 12時間で分解する毒ガスを3度に分けて使用するらしい。

 これによって、北に進軍を続けるグリードの流れを一時的に遮断する計画だ。


「次の群れはグリードのフェロモンを追う形で進軍するでしょうが、アナコンダの代わりに、魚を使って森を東に向かわせます……」


 仮想スクリーンに映し出されたのはサメのような歯を持つ巨大な魚だ。サメの一種なんだろうか?

「最初の20tはリッシーで運搬しますが、リッシーの航続距離を考えて2回目からは大型飛行船で運びます。都合100tをばら撒きながら東に向かえば出発点が100kmほど、東に移動します。そこからは北東に進路を変更すれば50t程で向きを変更できるでしょう」


 簡単に言ってるけど、その魚はどうやって手に入れるんだろう? 最初にリッシーと言っていたから、カラメル族の手を借りると言う事なんだろうが、そんなに簡単に手に入るものなんだろうか?


「その先はサンドワームの領域じゃ。最後に投下した魚はグリードでは無くサンドワームが食べる可能性もあるのう」

「群れを移動する作業は、ベルダンディとユングで行うわ。小型飛行船は、群れを飛び出て、前の移動経路を辿ろうとするグリードにナパーム弾で攻撃します。アキトのイオンクラフトもその落穂拾いをしてね」


 以前の進路がフェロモンの道を作っているとすれば、食欲だけで移動できるとは姉貴も思っていないようだな。


「問題は、VXガスの効果が短い事だ。都合3回のVXガス爆弾の投下により、グリードの群れが遮断できる時間は40時間程度になる。再びグリードが巣穴を這い出した時に再度大規模なナパーム弾攻撃を行っても、数時間もすれば再び溢れて来る」


「我等はこの辺りで、待伏せしよう。荷粒子砲で焼き払うには都合が良い。その後ろをアキトに任せればスクルドへ向かう事は無いであろうな。道が出来た段階で、我等はスクルドに入りウルドに向けて工事を開始する。アキトはウルドに向かって引き続き群れを離れるグリードを狩れば良いであろう」


 簡単に言ってくれるなぁ……。

 だが、そうなると俺達とサーシャちゃん達が入れ替わることになる。

 これもユングが教えてくれた通りだが、人選が気になるところだ。


「アキトの方はアルトさんにディーとキャルミラさんで良いよね。サーシャちゃんの方は工事の安全も考えなくちゃならないから、アテーナイ様を後見にお願いしたいの」

「出来上がった場所よりは、この砦の方がおもしろそうじゃな。我は構わんぞ」


 俺も慌てて姉貴に頷いた。

 確かにワンマンアーミーのアテーナイ様がいてくれれば、サーシャちゃんも常識的な作戦を取らざるを得ないだろう。俺も安心できる。


「作戦決行は10日後よ。各自の出撃指示は私が個別に出します!」


 そんな姉貴の言葉で簡単な作戦会議が終わる。

 後は、姉貴の斜め向こうの作戦指示に俺達が対処できるかどうかだ。

 

 簡単な作戦の打ち合わせが終わったところで、蜂蜜酒がカップで出て来た。

 ユング達がわざわざネウサナトラムから運んで来たらしい。

 乾杯をして少し飲むと、故郷の味がするな。

 早く、戦を終えて平穏な生活に戻りたいものだ。


「皆で蜂蜜酒を飲むと、屋台の打ち上げを思い出すのう」

「今でもやってるんでしょうね。あれはあれで、重要な行事かも知れません」

「戦が終わればまた始めようかの。屋台は新たに作らねばなるまいが……」


 そんな話で盛り上がるんだけど、数百年以上前の話じゃないかな。

 まだ、悪魔軍との戦がどんな戦になるかも考えもしない頃の話だ。


「それも良いでしょうけど、次にやることもあるの。ラミーと話を進めているから、戻っても退屈はしないで済むわ」

「グリードを南大陸にクギ付けにすれば我等は安泰じゃ。まだ敵がおると言う事か?」


 姉貴の言葉の意味をサーシャちゃんが聞いている。

 確かに俺もそう思うな。大洋には極めて凶暴な生物がいるらしいけど、そんな生物を狩る必要はないだろう。

 まだまだ俺達の人口は数百万に達していない。

 土地は広大だから、大洋進出はさすがに姉貴も考えてはいないだろう。


「ヒントはね。カラメル族にあるの。たまに将来を考えてみると良いわ。私達の役目が見えてくるわよ。

特に、ユングには期待してるわ。サーシャちゃん達でも出来そうだけど、知識が足りないだろうし、アキトはその可能性が出て来てから忙しくなるわ。私も危惧はしてるんだけど、やはりアキトと同じってことになるのかな?」


 姉貴の危惧を具体化できるのがユングという事になるのかな?

 それに知識がどうとか言ってたから、オタクの知識が欲しいと言う事なんだろうか?

 いや、知識だけならバビロンやユグドラシルの神官に聞くこともできるだろう。

 それを行うことが出来ると言う事で、ユングに期待していると言う事になるぞ。



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