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R-092 グリードの向きを変える方法は


 やはり物量が戦を左右すると言うのは、あながち間違いではないようだ。

 小型飛行船が毎日投下する、ナパーム弾30発はみるみるグリードの数を減らして行った。

 すでに600万まで減ってはいるが、減り方がなだらかになってきたのは、スクルドから離れた南の集結地の群れが散開しているためだろう。

 とはいえ、スクルドの石壁を取り巻くグリードの数はしばらく減りそうもないが、毎日2回のバジュラによる壁の外側の掃除のおかげで、砦内に侵入してくるグリードは数十匹以下に抑えている。


「婿殿、だいぶ先が見えてきたのう」

「ええ、でも油断は出来ません。今でも南の巣穴からは続々と這い出しているようです」


 巣穴攻撃はユング達が森林の放火と合わせてバンカーバスターを投下してはいるのだが、思ったように成果は出ていないようだ。

 それでも、這い出しえ来る巣穴の位置がだいぶ南に下がったようにも思える。たぶん100km近く下がっているのだろうが大陸の地図で見ればほんの些細な距離だ。


「ユング達の作った殺虫剤は全て使い切ったようです。バビロンの科学力を使えば遥かに強力な品もできるようですが……」

「耐性じゃったか。確かに何度も使えば体も慣れてしまうじゃろう。じゃが、数回ならば、毒性が長期間持続しない品であれば使って見たくもなるのう」


 たしか、ユング達は毒ガス弾をかつて使ったんだよな。数日で分解する品だったらしいが、それでも悪魔を根絶できなかったらしい。

 それに、使う場所も問題がある。できれば集中した場所で使いたいが、そんな場所は俺達の目と鼻の先だから、俺達に被害が出てしまいそうだ。

 それを考えると、広範囲に焼き殺すことが一番のようにも思えるのだが……。


 指揮所でアテーナイ様と2人で、コーヒーを飲みながら仮想スクリーンを眺める。

 ミーアちゃん達は、バジュラに乗ってどこかに出掛けたようだけど、ウルドの堤防作りもやっているんだよな。バジュラを重機代わりに使って堤防の形を整えているようだ。


「じゃが、このままという訳にも行くまい。ミズキはヨルムンガンドの連結をどのようにするつもりなのかのう」

「東と西から工事は進めていますが、スクルド周辺はあまり形にはなっていませんからね。スクルドの東西数kmはそれなりの形にしましたがそれ以外は、爆弾の跡が続いているだけです」

 

 それでも、泉の水を流しているから東西10km以上に渡って細長い池にはなっていたんだよな。

 そんな池と言うか運河も、今ではグリードの亡き骸で埋め尽くされている。

 南に大きな池が出来たけど、今ではその池にもグリードが浮かんでいるから、池の場所が周囲のグリードと一緒になって分からなくなってきている。

 たまに、サーシャちゃん達がバジュラの荷粒子砲で亡き骸を薙ぎ払ってはいるのだが、数が数だからね。

 グリード達の共食いも、その数が多いからあまり目立って減らないことも確かだ。


 アテーナイ様の危惧は俺も考えてはいたことだ。

 東西から運河を伸ばしてはいるのだが、その工事の終点はグリードとの交戦真っただ中のスクルドになる。グリードの進軍方向を変えるか、はたまた一旦完全にグリードを根絶やしにするかの2者択一になるんだろうが、後者は殆ど望みがないだろう。

 となると、グリードの進軍方向を変えることになるんだが……

 その方法となると皆目見当が付かない。まあ、姉貴達に任せておけば何とかしてくれるんだろうけどね。


「鬱陶しい数じゃが、とりあえずは何とかなっておる。この状態がいったいいつまで続くのか……」

「ナグナロクの第三段階終了はヨルムンガンドの完成を持って終了でしょう? 作戦最終段階であれば長期戦も止む無しということになるんでしょうね」

「いや、その後のバルハラが最も厄介じゃ。悪魔軍の駆逐で終われば良かったのじゃが、今では悪魔軍よりも厄介なグリードがおる。グリードを壊滅させる事こそ、真の長期戦に思えるのう」


 今戦っている兵士達の世代交代があるかも知れないな。

 それ程の長期戦になりそうだ。


・・・ ◇ ・・・


 珍しく指揮所に主だった連中が集まっている。

 ウルドの港に大型商船が入港することができるので、爆弾や砲弾の量が格段に増えたためだろう。

 すでに南のグリードは300万程に数を減らしている。

 スクルドの石壁の周囲にも少し地面が見えるようになってきた。

 北に向かうグリードの数も数千に減っているから、大陸中央部のタグの数も大きく変わることなく推移しているようだ。

 大陸中央部を横切れるグリードは今のところ皆無ではあるが、北の港から南に100km程のところに迅速を旨とするカルート兵の1個中隊がいるから万が一にも後れを取ることは無いだろう。

 

「しばらくは、このまま過ぎるであろうな」

「やはり、少しぐらい多めに爆弾を落としても効果が無いって事?」

 サーシャちゃんに聞いてみると、小さく頷いている。

 グリードの個体間の距離が開いているのだ。2千万の時には赤いカーテンのようにも見えたが、今ではテラスで群れを眺めるとうっすらと荒地を見ることができる。爆弾や砲弾は相手が密集すれば効果があるのだが、散開してしまうと途端に効果が薄れてしまう。

 仮想スクリーンの横の数字が、砲撃を続ける割にはそれ程減っていないように見える。


「落しておる砲弾や爆弾は炸裂弾じゃ。榴散弾のように上空で炸裂する物はもう作っておらぬのか?」

「ユングの話では作っているそうです。ある程度備蓄したいらしく、今は炸裂弾とナパーム弾を送って来ているようです。それでも、以前のように砦内に侵入することもありませんから問題は無いんでしょうが」


 キャルミラさんの質問ももっともな話だ。地上爆発では相手の地上高さが低いから有効範囲が狭いんだよな。

 上空での炸裂なら一気に数倍に効果範囲が広がるとは思えるんだが……。


「ミズキの考えもあるのであろう。このままで推移するなら、我には問題とは思えぬ。ユング達の森林破壊も何らかの目的があるのであろう。西海岸を重点を置いているから、東西でかなりの差が開いておるぞ」

「東に誘導しようとしているのではないでしょうか。たまに、運河掘削用の飛行船も動員して、森を出たグリードの群れを攻撃しています」


 荒地でグリードの方向を変えるのではなく、森の姿を変えることでグリードを東に向かわせようと考えてるのか?

 だが、東のウルドの運河工事はどうにか数百kmと言うところだ。それに、海水を引きこんだのは10km程だ。グリードの群れを止めることなど出来ないと思うんだけどな。


「ウルドの南の荒地の奥にはサンドワームがおる。中々ミズキも考えておるな」

「タグと同じに使うって事か? 悪魔軍が大陸南部の東側を通らない理由として、そんな話があったけど」

「タグと同じにはなるまい。餌になるじゃろうな。だが、それでグリードの足が止まれば十分に役に立つ。我らの砦にはエイダス島の人間族も労働者として来ているようじゃ。連合王国の相場で日当を支払う事で大陸の生活資金を稼ぐつもりのようじゃな。今では運河の建設速度が倍になっておるぞ」


 要するに、裏でしっかりと姉貴とサーシャちゃんで話がついると言う事だろう。

 ユング達の森林破壊は、ウルドの工事の進捗に合わせているってことだな。

 ある程度、ウルドの運河が伸びたところで、グリードの進軍方向を東に曲げるって事なんだろう。その隙に、スクルド周辺の運河を一気に作ろうと言う事らしい。

 だが、それはかなり先になるんだろうな。

 どう考えても1年以上掛かりそうだ。


 赤道近くだから季節感があまりないのも問題だ。周囲の風景もグリードだらけで草木などどこにも見えない。

 砦内の水場周辺に、いつの間にか増えてきた雑草の緑と小さな花が俺達の目を楽しませてくれる。誰も雑草の小さな花を折ろうとしないのが不思議なくらいだ。

 そんなある日。ユングが花の種を大量に届けてくれた。

 それをエイダス航空隊のミーア隊長達が、バジュラ用のプールの周りに撒いていたけど、ちゃんと世話をすることができるかな?

 撒いた後に、杭を打ってロープを巡らせていたぞ。嬢ちゃんずが、ジョーロで水を掛けていたけど、一面に咲いたらさぞかし綺麗だろうな。


「ありがとう。上手く咲けば皆が喜ぶと思うよ」

「な~に、たいしたことじゃない。それよりウルドの運河が500km程伸びたぞ。美月さんの方もかなり伸びている。だけど3千kmを超える運河だからなぁ」


 ある意味、人類の遺産と言われるかも知れない。バビロンの科学衛星でもはっきりと映ってるからな。後世の人間がそれをどう評価するか……。


「わざわざ俺のところに来たって事は、いよいよ曲げるのか?」

「まだ先だ。これを見てくれ」


 俺の隣に席を移して、仮想スクリーンを開く。

 ヨルムンガンドの南数百km程のところだな。かなり森が焼かれて海沿いに南に後退している。


「確実に森を焼いて来た。だが、思ったよりも進まないんだよな。やはり熱帯降雨林は森の再生速度が速いのが難点だ。枯葉材は美月さんが許可してくれないし……」

「それは諦めろ。殺虫剤もバビロンにダメ出しされたんだろう?」


 バツが悪そうにバッグからタバコの箱を取り出して1本口に咥え、俺に箱を差し出した。1本頂いて口に咥えると、ユングが指先で火を点けてくれる。


「ああ、だけど俺は過去にこの場所で大量のVXガスを使った。その後で原爆を使ったから今ではクレーターがあるだけなんだが、それすら森に覆われている。

 それをバビロンに話してみたんだ。しばらくして返事が来たんだが、VXガスの自然分解速度を速めることができるらしい。分解時間は1日と言う事だが、空気中の湿度によって変化するらしい。湿度80%で6時間、40%なら12時間と言うところだ。とは言え、加速薬剤にヒ素を使うらしいからあまり多用すると別の問題が起こりそうだ」


 世の中に便利で無害と言うのは無いんだろうな。

 必ずどこかに落とし穴がある。この話もその典型的な例なんだろう。


「奴らが空気呼吸を行うなら、VXガスは効果がある。だが、使うのは1度だけ、それに出来るなら内陸部で使いたい。それを美月さんと調整する」

「となると、使うタイミングはグリードを曲げる時だろうな。俺のところは全然捗らないぞ」


 ユングが笑って俺の肩を叩く。

 任せろって事か? それとも、それも姉貴達の作戦の内なんだろうか。



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