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R-091 ウルドの港


 バジュラがウルドを去って1日経過すると、石塀を越えて来るグリードの数が途端に増えてきた。

 荷粒子砲で石塀に積み上がったグリードの死体を吹き飛ばしていたんだけど、それが無いからだろう。アテーナイ様とディーが定期的に集束爆裂球を石塀越しに放り投げて死体の山を吹き飛ばしているのだが、それでも大量に入って来るから負傷者が続出だ。

 アルトさん達が懸命にガルパスで機動防衛をしているから、かろうじて拮抗しているんじゃないかな。

 野戦病院には次々と負傷者が運ばれているらしい。戦死者を出していないのが不思議なくらいだ。

 俺も、いつの間にかテラスでの防衛任務に付いている。

 銃弾が豊富だから何とか持っているのだが、これが途切れたらたちまち飲み込まれてしまいそうだ。


「マスター、集束爆裂球を放ってきました。少なくとも数時間は持つと思います」

「ありがとう。アテーナイ様は?」

「1壁ずらして放っていますから、数分後にはこちらに戻ると思います」


 時間差を付けて集束爆裂球を投げているのか。

 それでも、安心できる時間が数時間とはお寒い限りだな。改めてバジュラの有効性が良く分る。


「集束爆裂球はまだあるの?」

「爆裂球を革袋に入れるだけですから、急造品がたくさんあります。もうすぐ、キャルミラさんが南に原油のタルを落としに向かいます」


 タルは30個ほど送られてきたから、これも急造の焼夷弾として役立てている。効果範囲は炸裂する高さがまちまちだけど、直径100m以上に火の付いた油が降り注ぐから、榴散弾より効果がありそうだ。

 200kgは荷台に乗せられるから、3発ほど落としに出掛けるんだろう。南の集団は北進してくるグリードが次々と合流しているから、そんな単発的な攻撃でもやらないよりは遥かにマシだ。

 同行するネコ族の兵士が空から爆裂球を落とすだろうし、助手席の機関銃での掃射でかなりの数を減らすことが出来るだろう。とは言っても、数百を超えることは無い。

 1機だけだからな。数機あればそれなりに使えるだろうが、スクルドのイオンクラフト航空部隊は北に向かうグリードの数を減らすために使われている。


 士気が落ちないだけマシかもしれない。中隊単位で東のウルド砦で休養を取らせてはいるのだが……。


「婿殿。しばらくは持ちそうじゃ。少し休むがよい。顔にクマが出ておるぞ」

「俺だけ休むわけにも……」

「指揮所のベンチで横になるだけでも良い。我らがその間は持たせようぞ」


 押し出されるようにして、テラスから指揮所に戻ってきた。

 部屋の壁際に数個並んでいるベンチには先客がいる。反対側のベンチに空きを見付けて横になると、直ぐにまぶたが閉じた。

 1日半ぶりに横になれた。深い眠りに入ったのも気が付かない。


 ふと目が覚める。

 時計を見ると、4時間ほど睡眠を取ったようだ。

 体を起してテーブルに顔を向けると、おもしろそうな顔をして俺を見ている2人組がいた。


「ユングじゃないか。どうしてここに?」

「まあ、座れよ。フラウ、明人にコーヒーだ。俺にもお代りを頼む」

 

 フラウの入れてくれたコーヒーに砂糖を入れて飲む。

 急速に、頭が冴えて来るのがわかる。

 そんな俺を先ほどと同じような顔をしてユング達が見ていた。


「小型飛行船を3隻運んできた。1隻はミーミルに置いて北上したグリード対策だ。ベルダンディとスクルドに1隻ずつ置くから、南方の敵を倒しやすいぞ。搭載する爆弾は10kgを20個だからな。たる型の焼夷弾も20個運んできた。後部ハッチを開けて転げ落とせば良い。3個は積めるはずだ。機関銃は左右に1丁ずつだが、小型だからそんなものだろう」

「殺虫剤も欲しかったが……」


「耐性を考えると、止めた方が良さそうだ。遺伝子改良をする者がいなくなっても、彼ら独自の進化は加速されているだろう。ユグドラシルが指摘してきたよ。在庫品は南方で使うつもりだ」


 ユングの言う南方はここから1千kmは先なんだよな。

 全く、この戦いの規模は前代未聞だ。

 半分ほどコーヒーを飲んだところで、ポットの残りをフラウが入れてくれた。

 タバコを取り出してジッポーで火を点ける。

 ユングが釣られて、タバコに手を伸ばしているぞ。


「少しは楽になるな。小型を多く作るのは将来を考えているんだろう。だが、現状ではかなり助かる事も確かだ」

「ところで、嬢ちゃん達もいよいよ関門を開けようと考えてるみたいだぞ。少なくとも10kmほどヨルムンガンドに海水が入りそうだ。そこでもう1つ関門があるから工事には支障が無いんだろうな」


「港の機能を生かしたいってことだろう。北の港からの物資輸送は中々捗らないからな」

「輸送船の航路が沿岸に限定されているのも問題ではあるんだが、ウルドの港が使えるなら輸送される物資は3倍にはなるぞ。テーバイ東の堤防にはまだまだ悪魔軍が押し寄せてくる。押し寄せる悪魔軍の末端はコンロンにも達していない。まだまだ予断を許さない戦ではあるんだよな」


 テーバイ東の堤防から部隊を転用出来るのと、ヨルムンガンドの完成はどちらが早いか俺にも想像が出来ない。

 既に連合王国からの増援は期待できないから、武器の優劣で何とかしたいものだ。

 

「しばらくは明人が頼りだ。ここで頑張ってくれるから、東西のヨルムンガンドが伸びている。ヨルムンガンドと言えば、運河の幅がやはり問題のようだ。ベルダンディの方は既に砂の堆積が確認されている。今回運ぶ小型飛行船は廃土用のシャベルが付いてる位だ。ベルダンディからの爆撃は今まで通り、俺の飛行船を使うだけになりそうだな」

「という事は、最初から運河の幅を広げると言う事か?」


「今は幅を50mに拡張しているようだな。30mでも十分かと思ってたけどね」

「ウルドの港は間に合うのか?」

「その為にバジュラを使ってるみたいだな。元々、内陸へ3km程は横幅を300m程に広げているんだ。関門は門というよりも土手だな。あれを爆破すれば一気に土手が崩れるのも嬢ちゃん達は考えているんだと思うよ」


 そうなると、スクルドの南の運河が問題になりそうだな。工事が再開できる望みはしばらくは無さそうだけどね。

 ユング達は最後にもう一度「頑張れよ!」と言って指揮所を出て行った。残ったコーヒーにポットのお湯を入れてちびちびと飲む。

 2本目のタバコに火を点けて、スクルド内の状況を仮想スクリーンを展開して眺めた。

 

 相変わらず、グリードがたまに壁を越えて来るな。

 アルトさんの部隊は2個小隊に分けて活動しているから、今迎撃している中にアルトさんがいないのは前の指揮所で休息しているのだろう。

 ディーがグリードの死骸を石塀の外に放り投げているのが見える。アテーナイ様は集束爆裂球で、グリードのハシゴを潰しているみたいだ。

 そんな中に一際大きな飛行船が泊まっている。ネコ族の兵士が爆弾を積み込んでいるところを見ると、あれがスクルドの小型飛行船らしい。

 ユング達はさっさと西に向かったようで、砦内にはユング達の飛行船が無かった。


「ミーア隊長からです。爆弾の積み込みが終わり次第、南に向かうと言ってます」

「了解だ。あれだけ積めるならイオンクラフト数機分の働きが出来そうだな」


 俺の言葉に頷くと直ぐに通信室に姿を消した。

 さて、俺もそろそろテラスに向かうとするか。


 指揮所にある弾薬箱から、銃弾のマガジンを数本抜き取って、腰の弾薬ポーチにしまい込む。爆裂球も鎖を巻いた強化型を数個頂き、布を使って3個をまとめておく。2個作れば色々使い道があるだろう。

 通路に出ると、テラスで銃が激しく乱射されている音が聞こえてくる。

 歩きながら銃のセーフティを解除して、テラスへの扉を開いた。


 直ぐ傍に迫って来たグリードに銃弾を撃ち込む。

 次々とグリードに銃撃を浴びせているのだが、後から後からやってくるぞ。

 テラス近くにグリード自らハシゴを作ったようだ。


 集束爆裂球を塀際に投げ込み、グリードのハシゴを潰して、テラスの状況を見る。グリードが10体以上転がっている。さぞかし守備兵は苦労したんだろうな。


「やはり集束爆裂球は威力がありますね。数個は作っておいたのですが、全て使ってしまいました」

「今の内にたくさん作って壁際に置いておけば良い。30分もせずにまたやってくるぞ」


 虎族の兵士だから戦闘工兵に違いない。直ぐに爆裂球を針金で束ね始めた。

 クサリは無くとも5個をまとめたなら効果は期待できそうだ。


指揮所の屋上にいるネコ族の兵士達は数人がグレネードランチャーで、運河の南にグレネード弾を撃ち込んでいる。

残り数人がウインチェスターを握って、石壁を睨んでいる。屋上の連中は通信兵と交代しながら休んでいるようだ。

戦闘工兵達はちゃんと休息を取っているんだろうか?

集束爆裂球を作っている虎族の兵士に確認してみると、数時間交代で三分の一が休んでいるらしい。


これだけ長く続くと、疲労が心配なのだが、どうにか士気を落とさずに対応できてるみたいだな。

ディーが帰ってくると、テラスのグリードを外に放り出している。

アテーナイ様は進入してきたグリードを、亀兵隊達と一緒になって攻撃しているらしい。


 そんな日々が数日間経過すると、バジュラが東から帰ってきた。

 直ぐに砦の4方向の石塀の外で折り重なったグリードの死骸を、荷粒子砲で吹き飛ばしてくれた。

 これで、とりあえずは指揮所に戻れるかな?

 

 ディーを連れて指揮所に戻ると、すでにアテーナイ様がテーブルで紅茶を飲んでいた。

 俺が席に着いたところで、アテーナイ様が口を開く。


「サーシャ達が戻ったようじゃな。これで少しは砦が落ち着くじゃろう。ミーア達も飛行船で北進してきたグリードの合流点を爆撃しておる。守備兵達も肩の荷が下りる心地に違いない」

「とは言っても、まだまだ北進してくるグリードは続いています。ユングの話では殺虫材の投下は現存した殺虫剤が切れたところで終わりにするそうです。今後は焼夷弾と爆弾を頼りにする外ありません」


 扉が開き、サーシャちゃんが入ってきた。

「ミーアは戦闘工兵の指揮を執っておる。エルは補給所に向かったぞ。かなり無理をしたようじゃな?」

「改めてサーシャちゃん達の存在価値が分かったよ。どうにかだったな。ユングが小型飛行船をスクルド専用に置いてくれた。南方の爆撃を続けている」


 仮想スクリーンを開いて、3人で状況の確認をする。

 サーシャちゃんの話では大型輸送船が10日後にはウルドの港に入港するそうだ。

 これで、心おきなく爆弾を降らせられるんじゃないかな。



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