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R-090 頑張ってはいるんだが


 バンカーバスターによる土砂の掘削は、大量の土砂を巻上げるけど土砂に埋もれたグリードは這いだしてくるようだ。

 炸薬量は50kg爆弾の比ではないけど、地中深くで爆発するからグリードの被害は思ったより少ない。

 

「思惑が外れたのう……」

「それでも、短砲身砲のつるべ打ちより与えた損害は大きいですよ。今夜のキャルミラさん達の攻撃で、一日のグリード殺戮数は5万を超えるはずです」


 仮想スクリーンを眺めながら、アテーナイ様はパイプを咥えたままだ。手元のコーヒーカップはすっかり温くなってるんじゃないか。


「ミズキはヨルムンガンドの構築を熱心に進めておる。サーシャも同じじゃ。2人が同じ事を東西で進める以上、それは深い読みがある事として我も一目置いておる。婿殿の友人はひたすら南のジャングルを爆撃して燃やしておる。おかげで、グリードの群れは当初よりはこの地に進軍する数が減っていることは確かじゃ」


 どうやら姉貴の作戦が今一つ見えないって事なのかな。

 確かに気の長い作戦ではあるけど、確実でもあることは確かなんだよな。

 

「姉貴達の作戦は干す事ですね。兵糧攻めを行うんでしょう。しかもそれが終わるのは早くて100年。場合によってはその10倍にもなると思います」

「大陸1つを兵糧攻めとな?」


 グリードは何でも食べる。相手が生物だろうと植物だろうと関係ない。共食いさえするのだ。

 グリードは増え続ける。悪魔やシャイタンでさえ、餌食になった可能性が高い。

 すでに動物達の半数は殺戮されているだろう。ウルド砦の南方に生息しているサンドワームのような生物でさえいずれ狩りつくされるに違いない。

 グリードの生息域拡大を阻止できれば、いずれグリードは死滅するに違いない。もしくは小さな攻撃的なコロニーをいくつか作って落ち付くことになるだろう。

 群れは小さく、大群としてまとまることは無くなるはずだ。


「それで、餌となりそうな木々まで焼くことになるのか……」

「すべてはこの阻止線であるヨルムンガンドの完成で終了するでしょう。リオン湖の暮らしが懐かしく思い出されますけど、もうしばらくの辛抱です」

「そうじゃな……。次の狩猟期は無理でも、来年の狩猟期には一度戻りたいものじゃ」

 

 アテーナイ様も遠い目をして、ネウサナトラム特区の狩猟期の賑わいを思い出しているようだ。

「屋台はおもしろかったのう。今でも王族の楽しみになっておる。あの売り上げの争いは平和な争いじゃ。兵士達が賭けの対象にもしておったから、色々と協力してくれたのう」


 そんな言をやってたんだ。まあ、彼等にしても楽しみだったに違いない。王族達とは別に、兵舎でも宴会をしてたようだからな。

 モスレムの滅んだあとは確かに平和な時代が続いていた。

 その後、連合王国となった俺達に悪魔軍の先兵が異形の魔物達と共に襲い掛かって来たのはおよそ300年後のことだったな。

 テーバイの東に俺の娘が作ってくれた、防壁が役に立った。

 その後200年ほどして西から悪魔軍が攻めてきた。あの戦の前後だったか、エイダス島に隣町に住んでいた姉貴の弟子が飛ばされてきたらしい。

 俺達と違い寿命を持っていたが、こちらに来て150年以上にわたりネコ族の発展に努力してくれた。

 俺達にネコ族の連中が協力してくれるのは彼による功績の賜物だろう。

 

「あの頃を懐かしがるとはのう……。我も老いたものじゃ」

 老いたと言うより、すでにこの世の人では無くなってるんだけど、アテーナイ様の精神的な老いという事だろうか?

 カラメル族のくれたキューブに自らの思念を閉じ込め、バビロンのナノマシンで構成

された体を持つアテーナイ様達は、寿命という概念から解き放たれている。


「心は老いることがありません。何時までも少女のままでいて欲しいです」

「そうか? 確かにこの体は老いることが無い。我の心の持ちようじゃな」


 そんな事を言いながら、パイプを取り出した。

 パイプに火を点けてあげると、俺もタバコを取り出す。


「大型飛行船が2時間後に到着します。北の港からの定期便のようです」

「了解した。キャルミラさんに連絡してくれ」

「ミーア隊長も頑張っておるのう。どうにか北に向かうグリードを定数以下に持って行っておる。サーシャも場合によっては出撃を考えておったが、出番は無いようじゃな」


 とはいえ、いつまでサーシャちゃん達がいてくれるかも問題だな。

 ウルドの運河建設はベルダンディから比べれば遅れている。守備兵の数は多いが人力だ。姉貴達の運河がカラメルのタトルーンを使って捗っているのを見れば、心穏やかではないはずだ。

 俺のところは、東西30kmにも伸びてはいないのだが、被害担当の砦だからな。ある程度、運河建設が進んだところでグリードの流れを変える方法を考えねばならないだろうが、その辺りは姉貴がすでに考えているに違いない。


 10日ほど過ぎたところで、再び大型飛行船が連合王国よりやって来た。

 ヨルムンガンドすれすれにバンカーバスターを数発落して、前回大穴を作った場所を広げるように3発の大型バンカーバスターを投下する。

 最後にグリードの群れに、落したのは数倍の広さに火炎を広げたナパーム弾だった。

 グリードには炸裂弾よりも効果がありそうだな。


「グリードの想定殺戮数は、約3万です」

「前回の3倍じゃな。少しは考えたか」


 ディーが仮想スクリーンの数字を読み上げると、アテーナイ様が頷いている。

 確かに3倍だ。それでもグリードの群れの中に広がった空き地はたちまちグリードで埋め尽くされた。


「どれ、ディー付き合うてくれぬか?」

 アテーナイ様が立ちあがると、ディーを連れて指揮所を出て行く。

 侵入したグリードの亡き骸を砦の外に放り出してくるようだ。イオンクラフトと長砲身砲が北へ進軍するグリード達に向いているから、毎日2千匹近いグリードが砦内に侵入して来る。

 俺達の2倍程のグリードだが、体重は100kg程度あるらしい。アテーナイ様達なら軽く放り投げられるから、時間を決めて始末しているようだ。


 従兵にコーヒーを入れて貰って、ユング達の状況を確認する。

 南からの進軍するグリードに爆撃と機銃掃射を行っているのだが、ユング達の飛行船は小型だから積載量が3t程度だ。50kg爆弾を30個程積んで頑張ってるんだよな。

 仮想スクリーンにはジャングルにナパーム弾を落している光景が映し出されていた。

 当初よりもかなりジャングルが後退しているのが分かる。

 まだ数km程度だが、少しずつ緑を決して行くつもりのようだ。

 半分の爆弾はグリード相手に使ってくれるから、スクルドにやって来る群れの削減にかなり寄与してくれる。


・・・ ◇ ・・・


 2か月も過ぎると、かなり大きな穴がスクルドの南に開いたのが見えて来た。

 横幅30m程の運河でヨルムンガンドと結び調整池のようにするのだろう。

 大型飛行船が、定期的にやって来てさらに穴を広げているのだが、今ではスクルドを目指すグリードの殲滅に爆弾の半分を使っているようだ。

 バンカーバスター並みの爆弾が地上30m程の高さで炸裂すると半径200m以上のグリードをなぎ倒している。

 炸裂の衝撃波だけでなく、多数の鉄片を爆弾の周囲に付けているようだとディーが被害半径の大きさから推定してくれた。


「だいぶ派手に間引いているようじゃのう」

「1回の爆撃で15個程投下してますが、イオンクラフトに搭載する爆弾の4倍ですからかなり効果的ですね。グリードの群れに沿っての爆撃なので、あれだけで2万近い数を殲滅してます」


大型飛行船の爆撃をアテーナイ様と眺めながらコーヒーを飲む。

これで、直接グリードの群れを狙うのは2回目なのだが、それによってスクルドを囲むグリードの数が現在では700万程度に減ってきている。

 ここで多数のイオンクラフトで一気に数を減らしたいが、グリードが北に向かい始めた以上、イオンクラフトは全てそちらに振り分けている。たまに爆撃をしてくれる時もあるが、あまり期待は出来ないな。

 キャルミラさん達が、昼と夜の2回、多目的イオンクラフトで強化爆裂球と【メルト】の魔法を使って攻撃しているが、これは群れの外側を主体に攻撃している。20門の短砲身砲は5門ずつ4方向に向かって砲撃をしているようだ。射程2km程で砲撃を繰り返しているが、5門の75mm砲弾では、相手の数と比較してあまりにも貧弱だ。

 その代用として使っているのがグレネードランチャーなのだが、弾薬数が限られているから4方向とも通常は50台で対応している。イザとなれば更に30台を増やせるが、緊急対応のグレネード弾は各台とも20個を渡しているだけだ。


 軍用品は北の港から大型飛行船と小型飛行船が運んでくれるけど、頻度が限られているからな。ミーミル、出来ればウルドに建設している港が出来ればもう少し充当できるだろうが、これはもう少し時間が掛かるだろう。

 バジュラは、1日2回石壁の外側に重なったグリードの死骸を荷粒子砲で掃除してくれる。たまに外に向かって砲撃をするけど、エナルジーの余裕を考えての事だから、あまりやらないようだ。1檄で短砲身砲20門の一斉射撃以上の働きをするのだが……。


「どこまでも続く戦じゃな。やはり火力不足が響いておる。兵の休養はウルドを使って交替させておるが、おかげでウルドの運河工事に支障が出ておる。リザル族の戦士が2個小隊派遣されてきたが、彼等も人間じゃ休ませねば身体が持たぬ」

「ねだってみますか? と言っても、連合王国の1個師団を移動してますから、来るとしても1個中隊がやっとでしょう。イオンクラフトもしくは砲兵隊ですね」


 簡単なメモを書いて通信兵に渡した。後は姉貴が調整してくれるか、打開策を考えてくれるだろう。

 とはいえ、どちらも補給が続かないとどうしようもない話になる。


 俺達の様子を見にやって来たサーシャちゃん達に状況を説明すると、お茶を飲みながら3人で内緒話をしているぞ。打開策があるんだろうか?


「確かにアキトの思う通りじゃが、テーバイの東の壁はいまだに激戦地帯じゃ。まだ数年は掛かるじゃろう。たぶん、現状で何とかせざるをえまい。となるとじゃ、輸送距離を短くすることを考える方が得策じゃろう。北の港の集積所をウルドに移せばよい。距離は半減以下になる。砲弾を運ぶ頻度も増えるじゃろう」

「5日間、バジュラをウルドの工事に使います。その間、スクルドを守ってください。お兄さんならできますよ。アテーナイ様もおられるのですから」

 

 そんなところに通信兵が姉貴からの返事を持ってきた。内容は……。『サーシャちゃんに任せなさい!』って書いてあるけど、今ミーアちゃんが俺に言った事か?

 アテーナイ様が通信文を呼んでニコリと微笑んでいるぞ。


「ミズキには案が出来ているようじゃな。サーシャの考えていることも読んでおるようじゃ。さすがと言うべきじゃろう。婿殿、ここは我らが頑張れば良い。たった3日ではないか。じゃが、サーシャよ。直ぐにではなく大型飛行船が到着してからにいたせ」


 アテーナイ様の言葉に頷いているけど、何を始めるつもりなんだ?


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