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R-009 ハンターの選抜基準は?


 雪に覆われた冬が訪れた。

 新年は村の分神殿に初詣に皆で出掛けて、恒例のゼンザイを頂く。未だにどんぶりのような器で食べてるのだが、さすがにお代わりは1回で済んでるな。

 ユング達もゼンザイ目当てに時間を見計らってやって来る。やはり日本人のDNAがまだ残ってるんだろうと感心してしまうな。


 「雪が多く仕事が進まんが、来月には宿舎ができるぞ。1棟で40人以上暮らせるから2棟あればハンターの卵を入れとける」

 

 南門の外側の簡易宿舎に並べて2つの長屋を建てているそうだ。

 指導するハンターが卒業したら、簡易宿舎に変えられるだろう。無駄にならないところがいいな。


 「装備品の手配はできたの?」

 「商会に全て頼んでおる。最初から武器は持たせぬが準備は必要じゃろう。武器は問題ないのじゃが、服装となるとな……。面倒じゃから、大中少の3つのサイズで各40着。夏、冬の衣服を整えたのじゃ。魔法袋は大きい3倍収納にしたぞ。食器類も金属製じゃ。調理器具は10セット用意してある」


 かなりアバウトに集めてるけど、足りなければ買い足せばいい。衣服は他にも使えるだろう。

 

 「通信機の使い方は少年なら雪で動けない季節に一月あれば十分だ。練習機材は100セット用意した。通信機は通信範囲20km程だが10セットある。ハンターならば十分だろう。大陸に渡るときにはもう少し出力を上げればいい」


 全員が覚えられれば問題はないが、半数が覚えられれば十分ではあるな。薬草採取ならともかく、初めて目にする獣を相手にするのだから数人のパーティを組んで活動するはずだ。


 各州ともハンターの選出でギルドが大変らしい。外野がかなり煩くて困ってると、ギルドマスターが洩らしていたな。

 確かにアルトさんが5年間教えればエリートになるに違いない。だけど、ハンターには向き不向きもある。その辺りは早めにフルイをかけねばなるまい。


 「問題は集まる人数だよな。俺達で考えた数字は10個のパーティだ。50から60人と言うところだろう。もし、これ以上集まった場合には選抜してもかまわないか?」

 「選抜の基準は?」


 「決まっておろう。集団生活に適するかの1点じゃ。他はどうにでも鍛えられるぞ」


 姉貴の質問にアルトさんが答えたけど、そのセリフが一番似合わない人物が答えてくれたぞ。姉貴も苦笑いを浮かべてるし、俺なんか思わず咥えてたタバコを落とすところだった。


 だが、それでいいのかも知れない。ハンターは単独で狩りはしないし、ワンマンプレーに走るような者であれば仲間を危険にさらしかねない。

 いかに技量が優れていようとも、アルトさん達を越える事はないだろうから、仲間と協力できる協調性が選抜のポイントになるんだな。

 

 「俺も、それで良いと思うぞ。5年も鍛えれば少しはマシになるだろう。仲間を見下すような奴は、俺達だって願い下げだ」


 ユングの言葉にディー達も頷いている。

 まあ、正論には違いない。


 「集まって一ヶ月後に、決めるつもりじゃ。その旨ギルドに伝えておるから、親の権力をたてにやって来るものはおらぬだろう」

 

 後はアルトさん達に任せよう。優秀な亀兵隊を作り上げたのだ。今回は、かなり汎用性の高い兵士を育成するような感じだが、期待に答えてくれるだろう。

                 ・

                 ・

                 ・


 リオン湖の氷が解け始めると、薬草採取を行うハンター達が集まってくる。

 まだアクトラス山脈の山腹にはかなりの雪が残っているが、薬草は春の息吹を俺達に伝えてくれる。


 「では行って来るぞ!」


 元気な声で俺達に告げると、アルトさんがキャルミラさんを連れて家を出て行く。

 

 「期待してるよ!」

 

 そう言い返すと、ちょっと笑みを浮かべたのは、アルトさんも今日を楽しみに待ってたに違いない。

 ハンターの卵達が、今日やって来るのだ。ギルドに出頭するとのことだから、ギルド

の暖炉ぎわでお茶を飲みながら顔ぶれを見るつもりなんだろう。

 宿舎にはディーとラミィが案内し、簡単なレクチャーをフラウが行うと教えてくれた。ユングはその内、ここにやって来るだろう。あいつに人を教えることができるか疑問ではあるが、パラム王国再建の時にはだいぶ手伝っていたからな。少しは他人のことを気にかけることができるようになったみたいだ。

 

 姉貴とコーヒーを飲んでいると、ユングが現れた。

 ポットからマグカップにコーヒーを注いでユングに手渡す。薄めのアメリカンが好みなんだが、どうやらその好みは古い西部劇の焚き火シーンからきてるみたいだ。


 「ありがとう。濃さは明人好みで丁度いい。これに砂糖を入れるのは理解に苦しむけどな」

 「まあ、好き好きって奴さ。ところで、出来たのか?」


 ユングが端末を操作して画像を表示させる。葉巻型ではなく、宇宙船のように見えるぞ。横幅が船体の高さよりも大きいからそう見えるんだろうな。


 「色々と装置を組合わせたから少し小さくなってるが、目標の積載量5tは確保してる。下部に張り出した箱に見える部分が船倉だ。内部はがらんどうだから、汎用性は高いぞ。ある意味試験機だから、爆弾搭載量は100kg爆弾が20個だ。イオンクラフトを運用している航空部隊に試験を任せるつもりだ」


 クルーを何組か同乗させて訓練するつもりのようだ。爆弾が少ないのはそのためだろう。


 「高度は3000mまで行けるんでしょう?」

 「それは問題ない。与圧装置がないから、あまり上昇すると搭乗員が高山病になりかねない。俺達なら2万mまで上昇できるとフラウが言っていた。 問題は速度だが、時速200kmは欲しかったが最大で150kmというところだ」


 「大型船は、もう少し速く出来ないか?」

 「電動プロペラを増やせば何とかだな。その辺りは全体設計に関わるから、大型船については、もう一度設計を見直している」


 速度は兵站を支える鍵になりかねない。

 物資の移送量と消費量を再計算してみる必要もあるな。


 「後は、最初の拠点をどこにするか。ということになるわね」

 「どう考えても中部の平原地帯だな。俺達が使ったエリア90も狙い目ではあるけど、ククルカンに近すぎる。それに水の問題もある。俺なら、この辺りを勧めるな」


 ユングが指差した場所は、エリア90から数百km北西に離れた山裾だった。


 「奴らから離れた場所で、かつ水と燃料となる焚き木が取れる場所はこの辺りになる。問題はこの辺りの生態系がどうなってるかなんだけどね」

 「調べるしか無さそうね。1隻目が出来たら出掛けてみない?」


 俺に振り向いたところをみると、俺に同意を求めているのか?

 かなり危険な旅になるぞ。俺達の武器で大丈夫なのか?

 

 「俺も賛成だ。明人も諦めて同行するんだな」


 ユングが笑いながら俺に相槌をうつ。

 

 「だけど、皆で出掛けてだいじょうぶなのか? 絶対にアルトさん達は同行するぞ」

 「教官にリザル族の若者を2人、それにアニマルハンターの黒5つの2人を頼んである。精々3ヶ月なら問題はない」


 「それで、その範囲に重力異常のある場所は何箇所見つけたの?」

 「2箇所あった。それ程離れていないから、何箇所かの地下コロニーをネットワーク化した可能性があるな。上手くいけば無人兵器が手に入るぞ」


 姉貴の質問にユングが笑みを浮かべながら答えてる。

 とは言え、かなり昔の兵器だから、見つけてもちゃんと動くかどうか怪しい限りだ。


 「地下コロニーの残骸でも私達にはありがたいわ。軍事物資の集積場に使えそうだもの」

 「その周りの生態系も問題だな。レグナスみたいなのがいたら、俺達だって危険だ」

 

 姉貴達は事前にどれぐらい運ぶつもりなんだろう? 俺は100t程度と思っていたのだが、それよりもかなり多そうだな。


 「2隻目は半年後だ。食料等はちゃんと準備しといてくれよ。武器は先行製作したAK47を用意しておく」

 「食料は、ディーに頼むわ。半年後って晩秋になるかもね。衣類はちゃんと入れておかないと……」


 姉貴がブツブツと呟いている。

 その辺りはディーに任せておいたほうが問題ないだろう。

 問題があるとすれば、先程ユングが示した西の大陸の一角だ。ロッキー山脈よりも大きな山脈が大陸を南北に連なっている。そのお蔭で西周りの悪魔軍は直接脅威にならないだろうが、悪魔軍が大陸の中央部を進軍しないのが気にはなるな。

 東周りの悪魔軍は、直線距離で移動せずに、わざわざ海沿いを進軍している。

 その理由は何だろう? 


 「ユング、ちょっといいか? どうしても疑問が残るんだが、何故奴らは大陸中央部を通らないんだ。西回りの連中なら理解出来るが、東回りならば直線的に進む方が時間短縮になるんじゃないか?」

 「そうだ。だが俺にも理解できないな。砂漠に近い場所もあるが、どちらかというと荒地が広がっているにすぎない。小さな森林や河川もあるから、明人の言うように海辺を通るよりは時間短縮が出来る事は確かだな」


 「危険な獣がいるのかしら?」

 「どんな獣でもあの軍勢の前には無力だろうな。レグナスであろうと飲み込まれてしまう」


 正しく、数の暴力に違いない。だとしたら、食料か?

 少し調べてみる必要があるな。

 

 「少し調べてみるよ」そう言ってユングが席をたった。

「コーヒーをありがとう」と言葉を残して家を出て行く。


 「東方見聞録の中に、ロスアラモスの記述があったわね。その近くに住んでいる人達がいたはずだけど、どうなったのかしら?」

 「ユングは小さな部族社会を作っていると言ってたな。フリントロック銃を作って、悪魔軍を退けていたらしい」

 

 その部族が年月と共に勢力を拡大したのか? だが、そんな銃では悪魔軍を追い払うことなど困難だろう。少しずつ勢力を弱めて衰退してるんじゃないかな。


 「調べてみようか?」 姉貴が小さく頷くのを見ながら端末を操作して仮想スクリーンに大陸中央部を映し出す。

 座標を確認してロスアラモスの廃墟を捉えると、画面を10km四方に拡大像に変更して周辺を探り始めた。

 あれから千年近い歳月が流れているからな。どうなっただろうか?


 切り開かれた森が再生を始めている場所を見つけた。

 拡大してみると、100m程の広さの荒地がその北側にある。倒木が土に帰ろうとして場所が半円形に荒地の外側に連なっていた。


 「どうやら、ここらしいよ。やはり滅んだみたいだね」

 「そうでもないわ。こっちを拡大してくれない?」


 姉貴の指差した場所は、更に北の方角だ。

 一見何もない場所だが、よく見ると細く煙が上がっている。更に拡大した画像には石塀が積まれているのが見て取れる。


 「エイダス島のネコ族と同じように彼等は地中に拠点を移したのよ。この林も、少しおかしく見えるでしょう。林に見せかけた畑と考えられるわ。山麓の獣が豊富ならば十分生活を維持できるでしょうね」

 「まだ滅んでいないと!」


 「悪魔軍の偵察部隊をうまくすり抜けてるんでしょうね。前の居住場所が彼等に襲われたのは確からしいから、それ以上追撃しなかったとも考えられるわ」


 そうなると、新たな移民と干渉することだけは避けたいな。できれば一緒に暮らせるように出来ないものか……。

 

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