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R-088 生態系の維持?


 グリードは生態系を全く無視した生物のようだ。

 ひたすら増え続け兵隊アリを量産し続ける。生体兵器の数を増やそうとしたのだろうが、ルシファー達はコントロールを失ってしまったらしい。

 そもそも、コントロールすることができると考えていたのだろうか?

 女王アリの数を一定にできるとでも思っていたのだろうか?

 コントロールから外れたグリードの一群ができたところで、ルシファーの運命は決まっていたのかも知れないな。

悪魔軍からグリードに戦闘の主力が移ったころには取り返しがつかない状態になっていたんだろう。

悪魔軍と同じく、グリードの群れに飲み込まれたのかも知れない。


「もう一度聞く。大陸の南にはルシファーの王国は無いのじゃな?」

「確認された地下都市には、グリード以外の生物は存在していません」


 アテーナイ様の確認に、ラミーが答えた。


「それではこの戦は終わったという事じゃな?」

「いいえ、今度はルシファー相手では無くグリードが相手になります。グリードの個体をバビロンとユグドラシルに送り検査して貰いました。基本はタグですが、白アリとのハイブリッドに近い構造を持っているそうです。となれば……」


「肉食とは限らないってこと? こりゃ、長引くぞ!」

 何でも食べて増えるって事じゃないか。大陸の南は森林やジャングルが多い。獣を食い尽くしたら、今度は木材を食べるって事になる。


「悪魔軍の方がまだ組み易いってことになるな。終わりが見えなくなってしまう」

「それが一番の問題。いずれは餌が枯渇するでしょうけど……」


 さすがに姉貴も困ったようだな。

「グリードに知性は無いと思う。せっかくこの大陸に足掛かりを作ったが、撤退すると言うのも問題がある。大陸を西を北上すれば、悪魔軍の移動経路を使ってテーバイの東に到達してしまう。そうなるとグリードの数が単位が変わるほど増えてしまうぞ」

 ユングも良い方法が浮かばないようだ。

 

「やはり当初の計画通りで良いのではないか? ヨルムンガンドを阻止線として機能させれば、グリードは大陸の北に侵攻できまい。大陸南部を不毛の地に自らすればグリードも死滅するじゃろう」


 サーシャちゃんとは思えない気の長い話だけど、当初の計画通りに封じ込めるって事だな。


「じゃが、本当に悪魔軍はこの世から駆逐されたのであろうか? 我は、それが気掛かりじゃ。小規模の都市を含めれば30近い。ラミーでも監視出来ぬ都市が隠れておらぬとも限らぬ。それを考えるとグリード以上に厄介な生物を作り出さぬとも限らぬぞ」


 アテーナイ様は心配性だな。だが、それも気になるところだ。見付けられた都市がそれだけだったという事はないんだろうか?


「確率的にアテーナイ様の理解の通りかと、必ずしも全てではないような気もしますが、グリードの支配する大陸で、その存在を明らかにすることは自らを死に至らしめる事になりかねません」

「振動センサーの解析で分かる範囲での調査に過ぎない事は確かだ。だが、現状ではこれ以上の調査はできないぞ」


 壊滅的な打撃を受けたと理解すれば良いのだろうか?

 少なくともグリードが群れている間は、気にしなくとも良さそうだ。ある意味、グリードがルシファーの対処をしてくれるという事になるんだろうな。


「これが現在の状況です。これを踏まえて、今後の計画を再度確認するとともに、役割分担を見直します」

 仮想スクリーンにヨルムンガンドを中心とした画像が映し出された。

 ラミーからレーザーポインターを受け取ると、座った位置で画像の説明を姉貴が始める。


 ヨルムンガンドは上空からでもその位置が分かるようになってきたな。だけど、運河と土塁それに線路が出来た長さは2割にも達していないんじゃないか?

 運河と土塁だけでも完成すればかなり役立つんだろうけどね。


「現在の運河と土塁の長さは西側がおよそ2千M(300km)、東が千M(150km)程です。その距離の半分には線路が作られていますが、複線化した場所は更に短くなっています。このままでは数年先にも完成出来ません。ユングの発案で大型の土砂運搬が可能な飛行船が出来ましたから少しは捗るでしょうが、微々たるものに代わりはありません……」


 飛行船にバケットが付いた姿はユーモラスだな。

 それでも、1回下に下ろすと荷馬車以上に土砂をすくう事ができそうだ。

 

「バビロンにより、この状態でヨルムンガンドの東の堤を解放した場合の10年後の姿を計算させたものがこの図です。スクルド付近が砂で埋もれてしまいます。

 この潮汐力の影響を回避するための方法は、スクルドの南に直径数kmの湖を作れば良い事が分かりました。湖を作った場合の10年後の姿がこれになります」


「運河が広がるのか?」

「潮の満ち引きで砂が運ばれ、10年後には南北300D(90m)、100年後には500D(150m)にまで広がり、安定することになります」


「100年、グリードとの戦を続ければ、グリードの脅威を無視できるという事になるのじゃな?」

「100Dの距離ではグリードも渡って来れるでしょうが、500Dでは、容易に阻止できるでしょう。それに、遠浅の運河ですから、肉食性のカニ達も私達の味方になってくれると思います」


 運河を開通する時期と、スクルドの南に作る湖が問題になりそうだ。

 だが、スクルドは現在グリードの大群に取り囲まれている。この状態がいつまでも続きそうだから湖の掘削は簡単ではないぞ。


「ユング達がバンカーバスターで運河を掘り進んでいますが、結構形になってきました。爆撃は連合王国の航空部隊が継続してますけれど、この砦の南に作る湖はそれよりも大きな爆弾で掘削します。約8倍の大きさです。大型飛行船で2個の運搬ですが、湖構築とグリードの間引きを同時に行えるでしょう」

「じゃが、その爆撃の間にも砦には補給が欲しい。どうにか持ちこたえておるのじゃ。補給が途絶えたら、飲み込まれかねん」


 アテーナイ様の意見に、姉貴も頷いている。それは織り込み済身って事なんだろうか?


「悪魔軍の進軍ルートを逆にたどって輸送船団が向かっています。エイダスからの植民船と一緒ですが、運んで来る物資の量は大型飛行船20隻分を超えています。北の港から小型飛行船で補給物資を運んでもらうつもりです」

「土砂が周囲に吹き飛ぶことで穴が開くのは分かっておる。その土砂を別の場所に移さねば、穴を広げることはできぬぞ」


「小型飛行船のバケットで土砂を移動します。少しずつですが穴を広げることが可能でしょう。ベルダンディ付近の運河の浚渫はカラメル族が協力してくれるそうです」


 近海であればカラメル族はかなり自由に移動することが出来る。タトルーンを使って工事をするんだろうな。


「ウルドはバジュラを使っておったのじゃが、しばらくは人力主体になるじゃろうな」

「線路施設を後にして、土塁を先行させましょうか?」


 サーシャちゃんの独り言にミーアちゃんが対応策を具申してるぞ。ミーアちゃんも苦労してるみたいだな。


「出来ればそうして欲しいわ。今、スクルドからバジュラを外したら日に千匹以上のグリードが砦に入ってきそうだしね」

「それしかあるまいな。ミーア、指示を伝えてくれ。場合によっては、ミーミルのエイダス派遣部隊の手も借りねばなるまい」


「それで、ウルドはどうするの? 俺は現状以上の事は出来なと思ってるけど」

「それで良いわ。これまで通り私達は東西の運河と土塁を早めに仕上げる。ウルドの南にはンバンカーバスターでたまに攻撃を行うけれど、一番注意して欲しいのは、北に向かうグリードの数を減らして欲しいのよ」

「タグ対策という事じゃな?」


 サーシャちゃんには直ぐに分かったみたいだけど、俺達凡人には無理だぞ。せめて簡単な理由を言って欲しい。ユングも隣のフラウと小声で話をしてるから、俺と同じ凡人って事になるな。


「サーシャよ。結論を先に言うのではなく、因果関係を話さねば、この場で分かる者はそれ程おらぬぞ」

 アテーナイ様が、まだまだ子供じゃ、と言うような目をしてサーシャちゃんに注意している。


「簡単じゃ。生態系とは調和が大事になる。その状況下で全てが上手くいっておるのじゃ。そんな場所に、生態系の頂点に立つタグの餌になりうるものが現れたらどうする?

 少なければ変化は無かろう。それは生態系全体が自然に調整してしまう。

 じゃが、その数が多ければ……」

「タグの数が増えると!」


「そうじゃ。増えすぎれば周辺にも影響を与える。大陸の北には連合王国や、エイダス島より移民が多く入植しておる。彼らの脅威とならぬようにせねばなるまい。

 それに、我らが移民を守るとなると、タグとの戦闘も視野に入れねばなるまい。更にじゃ。場合によっては餌を獲り合いタグが滅びることもあり得るぞ。その場合に生態系の頂点に立つ者はどんな生物であろう?

 我らが連合王国のタグよりも大型ではあるが、タグに変わりはない。その習性は良く知っているつもりじゃ」


 要するに、単に砦を守るだけでなく、北への数を制限する戦をしろと言ってるのか?

 アテーナイ様とアルトさんも腕を組んで考え込んでしまったぞ。

 殲滅するのは得意だが、こんな面倒くさい戦は苦手って事なんだろうな。


「グリードの進軍速度は時速6km前後。1日で200km弱進むことになるわ。スクルドから北に延びる群れをA区域とB区域に区分します。スクルド北方30kmから230kmのA区間のグリード数を1万匹以内に抑えて頂戴。B区間は万が一に備える区間でここへの攻撃はミーミルの小型飛行船に担当して貰うわ」


「それは、スクルドの防衛よりも優先されると……」

「まだまだアキトやアテーナイ様は戦闘に参加してないでしょう? イオンクラフト航空部隊が全てA区域の攻撃に回ってもだいじょうぶなはずよ!」


 思わず、アテーナイ様と顔を見合わせて苦笑いをしてしまった。

 やはりこういう展開になったな。

 出来ない事は無いんだろうけど、かなりの激戦になりそうだぞ。



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