R-085 砲弾は直ぐに尽きる
依然として危機的状況ではあるのだが、いまだに砦への侵入は阻止出来ているようだ。
バジュラの荷粒子砲によるプラズマによって、グリードの自らが攻城櫓と化した箇所を支えきれなくなる前に破壊しているのが功を奏しているのだろう。
今夕には北の港から飛行船が資材を運んで来る連絡があったし、ミーミルからは砲弾が輸送されてきた。
今日中にもう一度、今度はウルドの砦から運んで来るらしい。サーシャちゃんだからな。たっぷりと貯め込んでいたんだろう。
兵士達も休養が不定期ではあるが取ることができるので、食事や弾薬の補給をその間に行っているようだ。
「砲撃が再開したようじゃな」
「このまま継続できると良いのですが、1門当たり30発では直ぐに終わってしまいます」
1分間隔で散布界を広くとった砲撃でどれだけ削れるか分からないけど、やらないよりはマシだろう。
ディーも孤軍奮闘しているようだ。
レールガンのチャージが終了したところで群れに近付いて水平に発射している。
発射すれば、長さ1km程にわたって衝撃波の空洞がグリードの群れの中に生じるが、直ぐに埋まってしまう。
15分間隔で放たれているから、日没前までに十数射が行われるだろう。
1日で狩れる数は数万と言うところか? やはり広域用の兵器が欲しいところだ。
「原油のタルに爆裂球を付けて落してみましょうか?」
「焼夷弾に改造した爆裂球が良さそうじゃな。我がキャルミラに話して来よう」
アテーナイ様も退屈してたのかな。嬉しそうに出掛けて行ったぞ。
とりあえず、タバコを一服。従兵にコーヒーを頼んでおく。
キャルミラさんの乗るイオンクラフトなら10個程積めそうだ。砲弾がそろそろ尽きる頃だろう。様子を見るにも都合が良い。
2本目のタバコに火を点けようとした時に、アテーナイ様から連絡が入った。
どうやらキャルミラさんと同行するらしい。トラ族の戦闘工兵を3人連れていくと言っていたから、集束爆裂球もついでに落としてくるんだろう。
飛び立ったイオンクラフトを仮想スクリーンで追っていくと、大きな火の球がグリードの群れの中で発生した。
次々に火の球が群れの中で広がっていく。10個の火の球がしぼんでいくと、その下でもがいている黒こげのグリードをスクリーンに映し出した。
効果のほどは、ナパーム弾と言うよりも気化爆弾に近いんじゃないか?
小さな爆裂炎を地上に作りながらイオクラフトが帰って来る。
確か原油のタルは残り20個だったな。再度出撃して貰うか。短砲身砲の一斉射撃以上に効果的だぞ。
結局、3回も原油のタルを使った攻撃を行ってしまった。
与えた損害は数千程だが、数を減らせるなら何でも良い。炸裂弾より焼夷弾、それもいつまでも燃えている物の方が効果的らしい。
ウルド砦より砲弾が運ばれてきたおかげで、砲撃も再開できたが、1門当たり20発では焼け石に水だ。
それよりも小型のナパーム弾の方がありがたかった。
夜間はナパーム弾による攻撃が行われる。40個のナパーム弾がグリードの群れの中で炎のベルトを作っていく。
実施回数が2回だけなのが残念だ。
後は、北の港からの大型飛行船が到着するまでは、何とか小火器で対応する外に手が無くなったぞ。
「このままでは、明け方前に無反動砲の砲弾が無くなります。グレネード弾の残数は500個を切りました」
「まだ小銃弾は豊富なはずだ。爆裂球も予備がある。今の内にあるだけ分配しとくんだ。今度は、寝る間も無くなるぞ!」
AK47のマガジンを腰のバッグから取り出してベルトに2本挟んでおく。装備ベルトのマガジンポーチには6本入っているし、バッグの中には更に4本入っている。
シングルモードで撃つなら300匹は倒せるだろう。
ディーと共に、杖を持って屋上に向かう。
指示はディーを通して出せるのだが、俺の後を通信機のバッグとステンを担いだ通信兵が追って来た。
屋上にはAK47を担いだアテーナイ様が、昨夜と同じように仮想スクリーンを眺めている。
「おや? 婿殿ではないか。遠距離攻撃用の砲弾が尽きておる。ミーアのイオンクラフトも今度の出撃で爆弾は尽きてしまうとの事じゃった。後はキャルミラ殿が頼りじゃが、あまり期待するのものう……」
「残り、1463.6万。1日で10万を減らしてますよ」
「問題はバジュラが休息中らしい。3日は動かせんとサーシャより連絡があった。あの3人はアルトと行動を共にすると言っておったぞ」
かなりの問題じゃないのか?
グリードの攻城櫓を破壊する方法が無くなってしまうぞ。
「一応、集束爆裂球を10個作っておいた。我とディーならば使えよう。これでテラスは何とかなるじゃろう」
「他は?」
俺の問いにアテーナイ様が首を振る。これは朝方が忙しくなるぞ。
ふと、俺達と同じように南を眺めているネコ族の男達を見ると、変わった武器を手にしているぞ。
「それは?」
「これですか? 爆裂球投射器ですよ。レムル様の発案と聞いています。俺達が爆裂球を投げても、精々100Dが良いところです。これなら1M(150m)以上飛ばせますからエイダス島での悪魔軍との戦では役立ってました」
そう言えば、そんな物を作っていると話に聞いたことがあるな。空砲の炸裂した圧力で爆裂球を飛ばす道具らしいが、150m飛ぶんなら、ちょっとしたグレネード弾として使えそうだな。
装填が面倒らしいが、2人で交互に撃つことが基本らしい。5個の爆裂球を30回以上放てると言っていたから、結構効果があるんじゃないか。
ディーが用意した集束爆裂球はテラスの端に置いてある。アテーナイ様と交互に投げれば南は何とかなりそうだ。
ドォーン! と大砲の発射音が聞こえてきたが、これは門に2門ずつ用意された前装式のブドウ弾を撃った音だな。音は東からだ。直ぐに仮想スクリーンを眺めると、放射状にグリードがなぎ倒されている。
少し東にグリードが厚くなっているようだ。北の石塀からも爆裂球の炸裂音が聞こえて来るから、全体的に厚く囲まれたという事だろう。
ブドウ弾の残弾数が気になるところだが、今のところ効果的に使われているらしい。
「婿殿、塀の向こうにだいぶ溜まって来たようじゃ。ディーと出掛けて来るぞ!」
そう言うと集束爆裂球を片手に1個ずつ持って、2人でテラスに飛び下りると東西に分かれて石塀の上を走って行った。
直ぐに大きな炸裂音と共にグリードの体の一部が高く飛び散っていく。
これで、しばらくは小銃で対処できるぞ。
後部から、ワァァ……という喚声が聞こえて来た。西の石塀から次々とグリードが砦の中に落ちるようにして入って来る。
素早く、ガルパスを並べて遮蔽体を作り、AK47で個々に倒していく。アルトさん達だな。
ディーが2個の集束爆裂球を持って西に向かう。
しばらくすると炸裂音が聞こえ、グリードの砦内への侵入が止まった。
「通信兵。キャルミラさんに連絡だ。『爆裂球を束ねて集束爆裂球を大至急作ってくれ』以上だ!」
バジュラの攻撃には及ばないものの、アテーナイ様とディーが集束爆裂球を使えば、グリードの侵入をある程度阻止できそうだぞ。
そんな事で、アテーナイ様達は四方の石壁の外側に、集束爆裂球を投げ込んでいる。
確かに効果はあるのだが、爆裂球の消費が半端じゃない。
キャルミラさんのところに置いてあった爆裂球はたちまち尽きてしまった。
かなり補給してくれたのだが、残り500個となったところで、4方の部隊に100個ずつ配布し、残り100個はキャルミラさんがイオンクラフトでグリードの群れの中にばら撒いて来た。
仮想スクリーンの右上の数字は、1462.3……。あまり減らないのは、続々と後続が合流しているためだろう。
ユング達が頑張っているんだが、やはり流れを止めることができないみたいだな。
「アキト様、1時間程で大型飛行船がやってきます。北の港からです」
「サーシャちゃんに伝えてくれ。砲弾を待ち望んでいたからな」
やっと来たか。10tの資材は半分程が弾薬だろう。少し俺達の寿命が延びたという事かな。
アテーナイ様が帰って来ると、その話を伝えた。
頷いてはいたが、あまり嬉しそうでは無い。
「現状では3日にも足らん量じゃ。このまま推移するとやはり飲み込まれそうじゃな」
「俺達だけではダメですか?」
「いかに婿殿が一騎当千であっても、量が半端でない。数の前には作戦や技量は無意味じゃと考えていたのじゃ」
確かに砲弾だとしても連続射撃では1日も持たないだろう。だが、グリードが自分達の体や亡き骸を使って作る攻城櫓を破壊することは可能だ。
個別的な使い方で砲弾を節約することになりそうだな。
「やはり根本的にグリードの巣を叩かな無ければいつまでたってもこの状態が続きそうですね」
「それもあるが、この広大な土地に奴らの進軍ルートが1つという事も考えにくい事じゃ」
まさか! 南方から一斉に溢れ出してくるってことか?
思わず、アテーナイ様の横顔を眺めてみた。
「婿殿にしては、最悪を考えぬようじゃな。今の話h我の危惧にすぎぬ。ミズキ辺りならばその対策も考えておろう。サーシャにしても頭を抱えておるじゃろうな」
そんな事を言って笑い声を上げる。
女性特有の高い笑い声だが、俺には笑ってすまされるような話では無い。
何らかの手を別に打つ必要があるんじゃないか?
そんな思いに急にとらわれてしまった。




