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R-084 休息は必要だ


 交替で、クロパンサンドをお茶で流し込む。

 そんな俺を笑いながら見ていたアテーナイ様は、シェラカップにコーヒーを入れて渡してくれた。


「我はお茶でも良いのじゃが、ミズキがアキトに入れてやってくれと持たしてくれたものじゃ」

「ありがたく頂きます」

 2人でコーヒーを飲みながら仮想スクリーンに映し出された映像を眺める。

 丁度、バジュラが南の壁面近くに荷粒子砲を放ったところだ。グリードが蒸発してそこだけが溝のようになった。

 これで20分近く稼げるんじゃないか? 

 戦闘工兵がグレネード弾で膨らんだバッグを提げ、盾からテラスに移動している。


 もうすぐ、日が暮れるのだがスクリーン右上の数字は、1516.3……。数万を倒したのだがまるで減らない。

 1日で10万を倒しても150日って事か? これは兵隊が持たないぞ。

 5日程なら仮眠してどうにかできるだろうが、それ以上続くようなら問題だ。


「このような戦では3日も持たんぞ」

「できれば交替で休ませたいのですが……。塀を超えるグリードが続出しそうです」

「止むを得まい。半数では無く四分の一ずつ休ませればどうじゃ? 超えるグリードの数は限定できよう」


 通信兵に主立った部隊長を指揮所に集めるように告げた。

 アターナイ様に頼んでディーに帰還指示を出してもらう。階段を下りる時に、南に飛び立ったバジュラの姿が見えた。


 指揮所には誰もいなかった。俺達の到着を知って2人の伝令がテーブルの端に座る。

いつもの席に着くと、直ぐに2つの仮想スクリーンを展開して、周囲200km、10kmの画像を映し出した。

 タバコに火を点けると、ジッと10km四方のスクリーンを拡大して睨む。

 グリードの群れは南からスクルドを馬蹄形に取り囲んでいる感じだな。南はやけに厚いが北は未だに攻撃してくるグリードの数が少ない。AK47の狙撃で十分対処できるほどの数だ。


「北は薄いようじゃな」

「悪魔軍は数時間で全周を囲まれています。この砦を責める方向が現在1方向であるわけが分かりませんね」

「何かあるのじゃろうが、その理由よりもその結果を考える方が良さそうじゃ」


 確かに、理由もあるのだろうが、それよりはその結果を利用した方が良さそうだ。

 どれだけ続くか分からない戦をする以上、兵士達に休息を取らせることが一番大事であることに変わりはない。弾薬や食料は補給が効くが休養だけは補給するわけにはいかないからな。


 指揮所の扉が開いて4部隊の隊長と副官、それにアルトさんとサーシャちゃんがやってきた。少し遅れてほこりまみれになったディーがやって来ると、サーシャちゃんが【クリーネ】を掛けてあげている。

 皆が席に着いたところで、従兵がお茶を運んで来る。


「皆、ご苦労。今のところ砦内にグリードは1匹も侵入していない。このまますり潰して行きたいが、今までに倒したグリードの数は30万と言うところだ。砲弾とバジュラ、それに無反動砲やグレネード弾、イオンクラフトの爆弾による効果と言うところだろうな」

「爆弾は残り4回出撃分にゃ」

「砲弾は撃ち尽くしたにゃ」

「無反動砲の砲弾も、残り1会戦分というところです。グレネード弾は補給がありましたから3会戦分はあります」


「ああ、状況は理解しているつもりだ。グレネード弾が尽きれば、爆裂球に変えれば良い。爆弾が尽きたら、強化爆裂球を落せ。昼はディーがグリードの群れにレールガンを撃ち込み、夜はバジュラに攻撃してもらう。だが、一番大事なことは、兵士達の休息だ。昨晩から寝ていないはずだ」

 

 カップのお茶を一口飲むと、テーブルの顔を一回り眺めた。

 それ位と言う顔をしている者、これからの戦を考えて深く項垂れてる者もいるな。


「南面を守る兵士の2割、東西を守る兵士の3割、北を守る兵士の半分に8時間の休息を取らせるんだ。交代で取らせて行けば戦が長期化しても何とか凌げるだろう」

「それでは、砦にグリードが侵入してしまいます!」

「少しの侵入はあきらめる事になりそうだ。だが、砲兵部隊やアルトさんの亀兵隊がいる。数十がたまに超えて来る位は対処できるはずだ」


 一歩下がって、ある意味兵力の温存と言う形になる。

 相手が残り数十万なら、このまま対処しても何とかなるが依然として1500万を超えているし、その後ろからは続々とグリードが行進してくる。


「全く数が多いと言うのは問題じゃな。大型爆弾で一気に片付ける方法を早く考えることじゃな」

 アルトさんが美味しそうにお茶を飲みながら呟いているけど、確かにそんな方法があれば直ぐにでも採用するぞ。

 大型爆弾というならユングが作ったバンカーバスターだけどあれは目的が異なるからなあ……。地中で炸裂するのではなく、頭上で炸裂する爆弾ならば効果も高いんだけどね。


「2年ほどグリードの出現が遅れておればヨルムンガンドが機能した事であろうにのう。まだ、運河でさえ東西が接続しておらぬ。ベルダンディの方は1000M(150km)程内陸に伸びておるようじゃが、ウルドはまだ300M(45km)程じゃ。先が長いのう」

 サーシャちゃんの言った長さは、俺の見た長さよりはるかに短い。堤や線路を含めて完成されたヨルムンガンドの長さという事なんだろうな。


 部隊長達が副官に指示を出して、部下に休息を取らせに走らせたようだ。残った部隊長は今後の展開をもう少し聞きたいようだ。


「当初の2千万が今は千5百万に減ってはいる。ベルダンディからの爆撃、バジュラの攻撃、この砦からの爆撃や砲撃も寄与しているだろうが、その大部分は悪魔軍を殲滅したために生じた損害だ」

「残りは四分の三に減ったが、一気に片付ける方法がないのは確かじゃのう」

 俺の言葉にアテーナイ様が言葉を重ねる。


「悪魔軍と俺達の違いは武器の充実と四方の石の壁だ。15D(4.5m)は伊達では無い。厚さも5D(1.5m)はあるから、グリードが破ることは不可能だろう。なるべく壁に近付かせるな。100匹が壁の向こうで倒れれば奴らはそれを足場に壁を上って来る」


「バジュラの攻撃で吹き飛ばしても良いのじゃが……、生憎と多用することが出来ぬ。たまに吹き飛ばす事で了承して欲しいのじゃ」


 サーシャちゃんの言葉に残った部隊長が重々しく頷いた。

 やはりエナルジーの問題があるんだな。だが、一番確実な方法でもある。その辺りはサーシャちゃんが見極めてくれるだろう。


「砲弾と爆弾はいくらあっても足りぬ。補給はだいじょうぶじゃろうな?」

「一応、要求はしておきました。すでに次の大形飛行船がこちらを目指しているでしょう。ヨルムンガンド構築用の飛行船まで同行しているようです」


「すでに1会戦分の弾薬を消費しています。砲弾は補給したものまで使い切っています」

「分かっている。見張り台から無反動砲で南を攻撃しろ。塀の上からはグレネード弾と爆裂球で対処したい」


「我等は今夜も出撃で良いか?」

「【メルト】攻撃は爆裂球100個以上に匹敵します。決行は2300、爆裂球と機関銃を持って行ってください」

「すでにイオンクラフトに4丁装備している。だいじょうぶじゃたっぷりばっら撒いて来るぞ」


 キャルミラさんが席を立って指揮所を出て行くと、ミーア隊長が身を乗り出してきた。

「イオンクラフト12機がもったいないにゃ。私等も爆弾を落としてくるにゃ!」

「残り4回なら、ちょっと待ってくれないか。だけど、爆装しないで強化爆裂球を落すなら、狙いはここになる。高度は2M(300m)だ」


 南の塀を基準にして1M(150m)を東西に示した。

 直ぐに指揮所を飛び出して行ったけど、早速出掛けるのかな?


「少しは圧力が減るかも知れんのう。ミーアが去った後で、掃除をしておこう」

「ディーには、日付が変わってから出撃して貰う。レールガンのエナルジーと弾薬は十分か?」

「明日の朝までの戦闘を考慮すれば6回は発射可能です。銅地金は十分に持ってきました」


「さて、我々も部隊に戻ります。数は変わらぬように見えますが確実に減っていることは確かです。兵に休養を取らせつつ、砦を守りましょう」

「我の出番もありそうじゃな。半数を休ませて対処すれば十分じゃろう。砲兵達も南の援助ができそうじゃからな」

「アルト姉様。我らもいるのじゃ。無理はせぬようにな」


 そんな事を言いながら、皆が指揮所を出て行く。 

 残ったのは、俺とアテーナイ様それにディーの3人だ。


「婿殿も、その辺りで横になるが良い。戦況は膠着状態と言って良いじゃろう。変化が無ければ我らは用無しじゃ」


 アテーナイ様の言葉に礼を言って、部屋の片隅のベンチで横になった。

 確かに危機的状況ではあるが、膠着状態であることは確かだ。数時間で大きな変化があるとは思えない。ありがたく思いながら目を閉じる。


 突然の大きな物音に目が覚めた。

 再び部屋を揺るがす振動と大音響の炸裂音が聞こえて来た。

 ベンチから飛び起きると、仮想スクリーンをディーと一緒になって覗き込んでいるアテーナイ様の傍に走っていく。


「何が始まったんですか?」

「婿殿の友人達じゃよ。と言うか、友人の配下の仕業じゃろうな」

 

 そう言って、仮想スクリーンを指差した。

 直径50m程のクレーターが2つできている。穴の深さはそれ程深くはないから地中爆発では無さそうだ。


「地上数mで炸裂させたようです。被害半径は直径200m。1発で1千匹以上を葬っています」

 たぶん、重傷はその2倍と見るべきだろう。2発で5千近く倒したことになるんだろうな。またとんでもない爆弾を作ったものだ。


「時限信管を使ったのでしょう。ユング様も色々と工夫されているようです」

 今度は、仮想スクリーンに炎が直径100m程に広がった。焼夷弾と言うよりもナパーム弾に近い炎だ。あれはしばらくは燃えているからな。

 仮想スクリーンに表示された緑の輝点が東に移動していく。攻撃終了という事らしい。

 スクリーンの右上の数字は1487.6と表示されている。

 時計を見ると、5時近い。そろそろ日が昇るころだな。


「ミーア隊長が落した強化爆裂球は千個を超えておる。そのせいじゃろうな」

「出撃回数は2回ですか……。まだたっぷり残ってますから、今夜も行けそうですね」


 やはり長距離攻撃で減らすのが順当だろう。

 近接戦闘では銃が頼りだが、銃弾の個数が問題だ。1日で1会戦分以上使ってるからな。



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