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R-083 補給船がやってきた


 深夜、キャルミラさんが魔導士を乗せたイオンクラフトでグリードの上空から【メルト】を存分に降らせた。1人の魔導士が10回以上使うから、全部で百数十回にも及ぶ爆裂性の火炎弾がグリードに浴びせられたことになる。

 航空部隊の爆弾には及ばないが密集したグリードに対する【メルト】攻撃はきわめて効果が高い。

 帰還時には、高度を取って鎖を巻いた爆裂球をたっぷりと落してきたみたいだ。


「魔法力の回復はもう少しじゃな。使えるものを使わん手はないじゃろうな」

 そんな事を言いながら、アテーナイ様はAK47を屋上の低い壁に立て掛けて状況を見ていた。

「再生が効く攻撃手段は多用しないともったいないです。1時間もすれば再び同じ攻撃が出来ますからね」

「なら、ディーにも南の壁面すれすれに砲撃を放って貰いたいものじゃ。でないともうすぐ顔を出すぞ」


 慌てて、ディーに通信を入れる。

 俺には見えないけれど、アテーナイ様は居ながらにして周囲の状況を見ているようだ。


「婿殿にも見せておくべきじゃろう。周囲5kmの映像じゃ」

 俺の目の前に仮想スクリーンが展開して、砦の4方向の状況が見えるようになった。

「少し、東西にも移動しているようじゃな。現在は小銃で問題なく対応できるようじゃ」

「左右の壁には朝方まで掛かると思っていましたが案外早かったですね」


 すでに、小規模ながら東西の塀でも戦闘が始まっているようだ。

 さすがに北面の塀は閑散としているが、時間の問題なのかも知れないな。

 1591.2スクリーンの右上の数字は依然として信じられないグリードの数を示している。かなり数が減っているのは、悪魔軍のおかげなんだろうか? ちょっと複雑な気持ちだが、かなり数が減ったことは確かだな。

 

「悪魔共め、もう少し善戦すると思っておったのじゃが……」

「すでに残りは約1600万。砲撃は止まりましたが、イオンクラフトによる爆撃は継続できます。グレネードランチャーの砲弾も、かなり残ってるようです」


 昔の戦闘工兵ならグルカは必携だったが、今でも持っているのだろうか? AK47には刀身30cm程の銃剣を装着することができる。

 最後には白兵戦になりそうだが、マガジン1個は残しておきたいものだな。


 テラスのトラ族の戦士達が後退していく。

 テラスの南に目を向けると、グリードが壁の向こうから顔を出した。

 直ぐに銃弾を浴びて塀の向こうに消えて行ったが、次々とグリードの頭が現れる。すでに南の壁にはかなりの数のグリードが互いの体を繋いでハシゴを掛けているようだ。


「通信兵、ディーに連絡。『南の石垣に沿ってレールガンを発射。グリードの亡き骸を吹き飛ばせ』以上だ!」

「直ぐに積み重なるぞ。じゃが、それだけ数を減らせるじゃろうな」

 アテーナイ様はAK47を構えると、200m程離れた東側に顔を出したグリードを狙撃して塀の向こう側に落とした。

 塀の中ほどまではアテーナイ様に任せられそうだ。


 周囲は、発砲音に満ちて来た。

 少しずつ小銃を使う者が多くなっている。連続した機関銃の音もそんな中に混じっている。

 アテーナイ様と俺は互いの唇を呼んで会話をしている状態だ。通信兵には怒鳴らないと指示することも困難になっていた。


 南の石壁に沿って衝撃波が走る。3回の衝撃波が走ると、グリードが壁から顔を出すことが無くなった。

 これで、少し休息ができそうだ。

 弾薬を補給し、急造手榴弾を箱でかかえてトラ族の戦闘工兵が持ち場に戻る。

 屋上のエイダス派遣軍も弾薬とグレネード弾を運んで来たようだ。


「アルト様からです!」

 通信兵が短い電文を運んで来た。

 何だと! ディーがぼろぼろになって帰って来たらしい。

 怪我は、オートマタだから無いんだろうが、バックスキンの上下がボロキレのようになって帰って来たらしい。

 装備ベルトを置いて出掛けたらしいが、ディーをたちまち取り囲んで噛み付いたのだろう。

 ディーを使ってグリードを排除するのは、あまりやらない方が良いのかも知れない。


「どうしたのじゃ?」

「実は……」

 簡単にディーの状態を説明すると、アテーナイ様の目が驚きで見開いた。

「ディーでさえもか……。そうなると、集束爆裂球を使うほかあるまい。急いで10個程作らせるのじゃ。我が投げれば良かろう」


 ウインチェスターを構えた兵士に、集束爆裂球を作らせる。10個程革袋に入れて紐を外に1本だけ出せばよいから、作るのは簡単なんだけど投げることができる者は限られている。

 3個を紐で縛った集束爆裂球ならトラ族の兵士が必ず携帯してるんだけどね。

 

 だいぶ空が明るくなって、数km先まで見通せるのだが、いつもの荒野では無くどこまでも続くグリードの群れが見える。

 2千万と言う数字は、想像もつかない数字だったが、こうしてみるとその数がいかに多いかが実感できる。

 

「どうじゃ。かつてテーバイの城門に立って5千の敵兵を迎えた時と同じじゃろう?」

「これほどはいませんでしたよ。ですが、引くわけにはいきません。それはあの時と同じ思いです」

「それで良い。我らがその思いさえあれば負けることは無かろうぞ。次にグリードが顔を出すときにはサーシャに依頼すれば良かろう」


 バジュラの荷粒子砲か……。確かにそれも手だな。

 ディーにはグリードの群れの外側から攻撃して貰おう。昼ならかなり数を撃てそうだからな。

 待てよ、まだ気化爆弾攻撃もしていないはずだ。

 これだけ密集していればかなりの敵を倒せるんじゃないか?

 通信兵に通信機を借りると、アルトさん経由でディーに指示を送る。作戦開始は2時間後だ。


「婿殿、戦闘工兵が後退を始めたようじゃ。サーシャに連絡をしておいたから直ぐに石垣の南の掃除が始まるぞ」

「東西の見張り台も頑張っていますね。たった3m程石垣より高いだけなんですが、まだ砦内への侵入を許していません」

「バジュラの兵器がどれだけ使えるかに掛かっておるのう」

 それは俺も気になっていたことだ。多用すると長期間活動を休止するようでも困る。

この戦がどれだけ続くのか皆目見当が付かないからな。


 石壁の南に西から青白いプラズマで作られた球体が東に向かって移動していくのが見えた。

 速度を変えられるんだろうか? 動体視力がかなり上がっているとはいえ、荷粒子砲のプラズマが目で追えるとは思わなかったぞ。一瞬で目の前を通り過ぎると思っていたからな。


 ぴたりとグリードが顔を出すのをやめたところをみると、グリードの亡き骸は蒸発したのだろうか?

 一度の攻撃でバジュラは元の池に戻ったようだ。やはり燃料の消費を気にしているみたいだな。

 

 ちょっと休憩できそうだ。タバコに火を点けた俺に、通信兵がメモを持ってきた。

 内容は、ミーミルから砲弾を輸送するとのことだ。爆撃を合わせて実施するらしい。

 このタイミングでは嬉しい限りだ。例え100発でも、数連射することができるだろう。


 戦闘工兵達が爆裂球を投げると、急いで通路付近に作った連結した盾の後ろに下がる。

 また、テラスの南にグリードが顔を出し始めたぞ。


「どれ、これを投げてみようぞ!」

 アテーナイ様が大型の習俗爆裂球を投げると、炸裂音と共に頭を出すグリードの姿が激減した。

突然、西壁の方から砲声が2回聞こえて来た。すでに砲弾は尽きた筈なんだが……。

「前装式の大砲でブドウ弾を撃ったみたいです。東西それに北門に2門ずつ配備していたようですが、ショットガンと同じですからそれなりに被害を与えたでしょう」

「古くとも使えるなら問題なかろう。次弾装填が面倒だと聞いた事があるぞ」


 次の大形集束爆弾を投げ終えたアテーナイ様が、俺に振り返ることなく呟いた。

 確かにそう思うが、あの大砲の操作には数人必要なんだよな。


「婿殿、援軍が来てくれたぞ。飛行船が2隻じゃ。大型と小型じゃが、大型は砦への物資輸送らしい。連合王国の工廟から直接来たようじゃな」

 となると、小型飛行船はミーミルからの爆撃機という事になりそうだ。イオンクラフトの航空部隊が2回出撃した以上の爆弾を一度に落とせるから、かなりの効果を期待できそうだぞ。


 アルトさんからの通信が入る。

 どうやら、かなりの数の砲弾と銃弾を運んできてくれたようだ。ガルパス用の餌まで積んで来たらしい。タバコや酒まで入っていたと教えてくれた。

 飛行船が帰っていくと、再び砲撃が始まる。

 1門当たり200発らしいが、少しは石塀に取り付くグリードが減るかも知れないな。

 

「あまり期待は持たぬ方が良いぞ。グレネード弾もかなり運ばれて来たようじゃ。これでしばらくは持つじゃろうな」

 アテーナイ様が見ている仮想スクリーンには、すでに北の塀にもグリードが取り付いていた。

 数字は、1521.3万だ。70万が減ったのは爆撃とバジュラのおかげだろう。

それでも昨夜からの攻撃で減った数は数%に過ぎない。1日砲撃をしたところで、減る数は1割にも達しないのかも知れない。


北東に小さくなっていく飛行船に目を向ける。

次の輸送はいつになるんだろうか? そんな事を考えながら後ろに下がって、箱の上に並べられたカップのお茶を飲んだ。

 砦の内側は、弾薬箱を持って移動するガルパスがたくさんいるな。門の周囲には中隊規模で門を守っている様子が見える。まだまだ砦の中に入ってきたグリードはいないけれど、今の砲撃尽きたら危ないのかも知れない。まだ昼前だから、早ければ夕刻。遅くとも今夜には石塀から溢れるようにグリードが入ってきそうだな。

 だが、今は特に問題なく迎撃ができているようだ。

 


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