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R-082 ヨルムンガンドが埋まってしまう


 すでに長距離砲は継続射撃に移っている。

 1分間に4発。砲身冷却を図るために、これ以上の間隔で発射することはできないが、15秒間隔であるなら、1時間以上継続できる。

 もっとも、運び込んだ長距離砲の弾丸は1門当たり200発だ。1時間は続けられないのが問題だな。

 散布界を広くとって砲撃しているから、相手の被害も相当なものなんだろうけど、数が尋常では無いから、目立った数字の変化が無いようだ。


 屋上でアテーナイ様と並んで南の地を眺める。後ろには通信兵が無線機を弾薬箱の上に乗せて待機している。

 この場所にいる連中は監視が目的だから、目の良いネコ族であるエイダス派遣兵だけだ。彼らの持つウインチェスターの狙撃はかなりの腕だからな。下のテラスで待機している戦闘工兵のトラ族の連中も心強いに違いない。

 

「長距離砲の働きがあまり分からんのう」

「それなりに、働いていますよ。60M(ミル:9km)以上先ですから、ここからでは見えませんが、グリードの群れの中で炸裂している筈です」


 すでに先端は砦から3km近くにまで迫っている。

 まだ、短砲身砲は攻撃を開始していないが、その着弾地点の様子はここから良く見えるだろう。

 観測班が短砲身砲の照準を砲兵隊に連絡していたから、そろそろ撃ち始めるんじゃないか。


 バアン!、バアン! と軽い花火の炸裂音のような音が続けざまに聞こえて来た。撃ちだしたか……。

 続いて、直ぐ目の前の大地が一斉に爆ぜる。2割ほどの砲弾は焼夷弾のようで、長く炎が着弾点付近を照らしている。

 そこには、大地を埋め尽くすグリードの大群がこちらに向かって進んでいた。


「凄い数じゃな。数は暴力なのかも知れぬ。次はどうするのじゃ?」

「無反動砲の一斉射撃、その後はグレネード弾になりますが、いよいよやってきますよ」

「数を減らそうとしても母数が異常じゃからのう。まあ、銃もある。弾が尽きれば白兵戦で臨むだけじゃ」

 なんか嬉しそうにも見えるぞ。アテーナイ様の白兵戦の腕を最後に見たのは何時だっただろうか? 今ではあの時以上の技量、それに体機能を持っている。頼りにさせて貰おう。

 

 四方の壁の上にある通路には、数百人がすでに待機しているし、南の壁には無反動砲やグレネードランチャーを兵士達が手にしている。グリードが壁に取り付くまで、あれで攻撃を加えるのだろう。


「距離10M(1.5km)じゃな」

「無反動砲の射程ですね。グレネードランチャーは1M(150m)程でしょうから、もう少し後になるでしょう」


 30門程の無反動砲が、やや角度を取って放たれた。

 半数は焼夷弾のようだ。炎の中をこちらに向かってくるグリードに目がけて次の斉射が行われる。短砲身砲の装薬量は長距離砲の半分もない。その分弾丸が大きくなっている。精密射撃は出来ないが、散布界の広さは砲門数でカバーできるから、敵の突撃時に使用すれば十分に目的を達成できる。


 さて……、左手で腰に手をやりポンと叩いてグルカがあることを確認する。銃弾は限りがあるが、カラメル族の鍛えたこのグルカなら折れる心配は無い。

 そんな俺の動作を、おもしろそうに見ているアテーナイ様はAK47を肩から下ろして、レバーを引くと初弾を装填した。俺も慌ててそれにならう。


「まだ数分はあるぞ。ゆっくりタバコでも楽しむが良い」

「そうも行かないでしょう。既に兵の連中は無反動砲を仕舞いこんでいます。ヨルムンガンドに火を放ちますが、グリードは火をあまり怖がりません」

「じゃが、効果はあるぞ。完全に殺戮本能だけで行動しておるようじゃな。体が焼けるのにも関わらず飛び込むのじゃからのう」


 焼夷弾で焼け死ぬが、焼夷弾の炎の壁を自分達の体を犠牲にして突破口を開く様子を見たからな。

 個の意識では無く全体で一つの行動をとるみたいだ。

 指揮官クラスがいれば簡単なんだが……。


 数分も経たずにヨルムンガンドに炎が走る。

 壺に入れた原油に爆裂球を縛った即席焼夷弾を数個投げ込んだらしい。


「やはりのう……。婿殿、あれを見るが良い!」

 アテーナイ様の差し示す先には、炎に身を挺して橋を掛けようとしているグリードの群れがあちこちに見られた。

 グレネードランチャーで、そんな橋が次々と破壊されている。だが、破壊される数よりも掛けられる橋の方が遥かに多かった。


 塀の上にいる兵士はそんなグリード達に爆裂球や銃撃を与えている。

 屋上に乗った監視兵達は、数人ずつ交代でグレネード弾をヨルムンガンドの南に向けて放っている。ヨルムンガンドの南にはたっぷりと集まっているから、南にグレネードランチャーを撃てば、外れることは無いだろうな。


東西の見張り台の上でも、10人程が無反動砲とグレネードランチャーを放っているが、ヨルムンガンドがグリードの亡き骸でどんどん埋もれて来ている。

たぶんこのままで行くならば、塀の高さまで奴らは亡き骸を積み重ねてそれを足場に乗り込んでくるのだろう。

 数はそれ自体が兵器であり戦術となる典型だな。


「通信兵。『砲撃を一時中止。ヨルムンガンドを爆撃して、亡き骸を吹き飛ばせ! 爆撃後速やかに砲撃を再開せよ』以上だ」

「それでも、直ぐに埋まるじゃろうな。じゃが、その繰り返しで数を減らす外に手は無さそうじゃ」


 アテーナイ様はジッと南を見つめたままだ。

 まだ、塀の上には上がってこない。

 塀の兵士達は、AK47で1匹ずつ確実に狙って倒している。

 テラスにも2分隊程が展開して無反動砲とグレネードランチャーで攻撃しているが、テラスまでグリードが登って来たら直ぐに通路に逃げ込むのだろう。それまでは1発でも多くの砲弾を南に放てば良い。


 指示を出して数分後にぴたりと砲撃が止んだ。もっとも、短射程の無反動砲等は砲撃を継続しているが、長砲身砲と短砲身砲は停止した。

 直ぐに12機のイオンクラフトがヨルムンガンドを爆撃して、全く水面が見えないほどに埋め尽くされたグリードを吹き飛ばしていった。


「少しは時間が稼げるな。砲撃は後どれ位可能なのじゃ?」

「すでに半分近くを撃ち尽くしました。長砲身砲は30分。短砲身砲は40分程度になるでしょう」


 再び砲撃を再開した砲列を眺めながら、タバコに火を点けた。本当の戦は30分後って事だな。

 今は盛んに撃っている無反動砲ヤグレネードランチャーの砲弾もあまり残ってはいまい。

 その後は、爆裂球と小銃で相手をしなければならなくなる。

 再びヨルムンガンドに橋を掛けようとしているグリードが次々と砲弾で吹き飛んでいく。20分も経たずにまた爆撃をしなければならなくなるな。


「通信兵、南の部隊長に連絡だ『予備のグレネードを支給しろ』以上だ」

「あるだけ使うというのか? それも方法じゃな」

「この後もありますが、それは輸送されてくるでしょう。今はあるだけ使って敵の数を減らします」


 そんな中、頭上をバジュラが青いイオン噴流を撒きちらしながら南へと飛んで行った。

 直ぐにプラズマの塊がグリードの中に数個放たれ、最後にはヨルムンガンドの水面上を西から東に転がって行った。


「全く、数匹おればグリードの群れすら恐れぬものを……」

 小さな舌打ちがアテーナイ様から聞こえてきたぞ。

 だけど、俺はあのバジュラで十分だと思う。カラメル族の科学力の塊だ。たまたまバジュラが作られたようだが、サーシャちゃんがここまで将来を見据えていたとは考えにくいからな。本来は連合王国の力で何とかしたかったが、ここまでの道のりを考えると、エイダス王国やバビロンそれにユグドラシルまで俺達に協力してくれている。

 兵力の差は大きいけど、それだけ俺達をかってくれたんだろう。その期待には答えねばなるまい。


「あの砲撃は多用出来ぬようじゃのう。強力ではあるが、使いところが難しい代物のようじゃ」

「砲弾が尽きたと同時に、爆撃を再開します。通信兵、連絡を頼む!」


 せっかくサーシャちゃん達がヨルムンガンドのグリードの亡き骸を焼き尽くしたのだが、すでに数カ所に橋が作られつつある。

 かなり間引いたはずだが、全く実感が伴わないな。


「すでに数万を倒しておる。じゃが、1%にも満たぬ数じゃ」

「やはり白兵戦になりますね……」


 バッグから大型の魔法の袋を取り出して、杖を持ち出した。

 杖の縦方向に6か所V字型の溝を掘り、錬鉄をはめ込んで円周には細いピアノ線を隙間なく巻き付けたものだ。かなりの重さだが【アクセル】状態で使うには丁度良い。


「慣れた杖を使うのか? それも良いじゃろう。長剣よりも長そうじゃな?」

「一応、5D(1.5m)の長さがあります。俺が全力で振っても折れる事はありません」


 そんな事を話ていると、突然砲撃音が途絶えた。

 いよいよ始まるぞ。

 塀に取り付いた兵士達が一斉にAK47を放つ。マガジン交換の僅かな隙は機関銃でカバーしているようだ。

 南の壁に着いた兵士の数は500人程だろう。1秒毎に200匹以上のグリードが葬られている勘定だ。マガジン1個でそれが30倍になる。1人の兵士が持つマガジンの定数は6個だから更に6倍。1回戦分の弾薬を使っても3万と言うところか。やはり数は脅威の一言になるな。


「キャルミラ様から連絡です。『南面に1回戦分の弾薬を補給する』以上です」

「了解だ。『出し惜しみは無し!』と返信しといてくれ」


 各自、数個のマガジンは持っているだろう。それを使い切る前に補給しとかないとな。


「グレネード弾が配給されれば少しはマシになるじゃろう。そこの! 下に行ってグレネード弾を運んで参れ!」

 アテーナイ様が、近くの若い兵士達に指示を与えると、兵士数名が直ぐに下りて行った。


「さて、俺達の出番は塀から顔を出したグリードだ。それ以外は相手にするなよ!」

 屋上の2分隊程の兵士に指示を出す。

 基本装備がウインチェスターだが、使う拳銃弾は38口径のマグナム弾に近い。射程は200と言っているが、この場所からなら前方のテラスとその左右50mは必中距離になるだろう。

 一度に10発以上発射されれば、塀の上にいる兵士達も心強いに違いない。



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