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R-081 バジュラが連れて来た者は


 夕暮れが荒野を照らす中、俺達の南方に展開していた悪魔軍がグリードによって殲滅された。

 昼過ぎに10万を切ってからは【メルト】が放たれる数が激減し、じわじわと包囲網が狭待っていくのが見ていても分かった。

 最後に数十の【メルダム】が放たれたようにも見えたが、あれは自爆に近いものだったに違いない。その後1時間も経たずにグリードが殺到して飲まれていった。

 あれが俺達の最後でないことを祈るばかりだ。


 悪魔軍が飲み込まれて10分もしない内に、バジュラの荷粒子砲によって作られた球電のようなプラズマがグリードに数発放たれて、その後バジュラは南に去って行った。

 バジュラの次の攻撃対象は、北に向かってやって来る群れに移ったのだろう。

 いよいよ俺達の番になった感じだな。

 悪魔軍のお蔭で、俺を含めて兵士達は数時間の仮眠を取ることもできた。

 窓から砦内を見ると、何カ所かで夕食を作る焚き火が見える。

 

「いよいよじゃな。まだ北には動かぬようじゃが、先手は撃たぬのか?」

「せっかく集まってるんだから、爆撃しない手はないね。ミーア隊長、反復攻撃をしてくれ。2回射爆撃が終わったら、燃料を補給して爆装状態で待機。キャルミラさんも、最初の爆撃が終了したところで【メルト】攻撃をお願いします」


 直ぐに2人が指揮所を出て行く。

 動かない内にどれだけ減らせるかだな。悪魔軍20万の殲滅でグリードの被害も大きい。200万以上が潰されたようだ。それでもグリードの群れからすれば1割に過ぎない。

 

「通信兵、戦闘工兵に連絡だ。『ヨルムンガンドに原油のタルを20個追加』以上だ」

「20個で足りるのか?」

「既に10個浮かんでいる。50個用意してあるから、残りは状況次第だな」


 一時的にたじろいでくれれば良い。それは貴重な一瞬に違いない。

 スクルドを中心とする200km四方のグリードの数は時間が過ぎるほどに1万単位で上昇しつつある。

 1800時に1612万まで低下した数は、1時間後には1680万に増えている。依然として南からの増援が続いていることは、ある意味恐ろしくもある。

 だが、今度の相手は人の姿に似ていない。それがせめてもの救いになる。

 いくら訓練を積んでも、人の姿をした相手に銃を撃つのは本能的な忌避がある。今度はオオアリの姿だ。それもあって士気が低下しないんだろうな。


 従者の入れてくれたコーヒーを飲みながら、タバコに火を点ける。

「始まったようじゃ。我も行くべきじゃったか……」

 そんな呟きが聞こえて来たけど、アルトさんは火消部隊の指揮を取って貰うからな。

 ミーア隊長の爆撃は北から南に向けて行われた。そのままUターンしてきたところをみると、帰りは地上を掃射してきたんだろう。


 直ぐ後に、キャルミラさんの指揮するイオンクラフトが群れに迫って左右に【メルト】を浴びせていく。10人の魔導士が放つ【メルト】の総数は100発近いんじゃないか? それだけでイオンクラフト2個小隊並みの働きができるな。


「数が減らん……」

 隣の呟きにスクリーンの右上に表示される数字を見る。確かに減っていない。単位が万だし、後続も次々と合流してるからな。


「ディー、大型スクリーンに表示される敵の数の単位を千にしてくれないか。少しは戦果が分かるだろう」

 直ぐに画像が切り替わる。

 ゆっくりと数が減っていくのが今度は見えて来る。とはいえ、殆んど変わらないと言っても良いような変化でしかないな。


 キャルミラさん達はUターンした後で蛇行しながら爆裂球を落しているようだ。

 キャルミラさん達の攻撃が終わると、再びイオンクラフトが編隊をくんで爆撃と機銃掃射を行う。

 後は反復になるだろう。キャルミラさんのイオンクラフトには戦闘工兵を乗せて、集束爆裂球を投下するんだろう。5人を乗せれば20個以上落とせるだろうし、助手席で機銃掃射もできる。

 蟷螂の斧にも等しいが、安全に相手を狩れる手段だからやらない手は無い。


「通信兵、ミーア隊長と、キャルミラさんに連絡だ『反復攻撃を継続せよ』以上だ」

 相変わらず、数字に大きな変化はない。

 母数が大きすぎるからな。それでも、攻撃をすればそれだけ数が減る事に間違いはないはずだ。


「これはバジュラじゃな。1檄だけとはのう……」

 急速に南からスクルドに向かう緑の輝点はバジュラに違いない。地上すれすれを高速移動しているから、みるみる数字が減っている。プラズマの塊が群れの中に放たれたのは確かに1回だけだが千単位で数が減ったぞ。


「群れを潰してきたんだろうな。万単位で数が減ったとおもう」

「後続が続かなくとも、すでに1千500万以上が南にうごめいておるのじゃ。先ずはそれを減らすのが大事じゃ」

「この部隊にも期待が出来そうだ。ミーミルの小型飛行船じゃないかな?」


 北東より近付いて来るのは飛行船に違いない。100個以上の小型爆弾を落せるから、スクルドのイオンクラフトが2回出撃分以上の働きをしてくれるだろう。

「この速度では、20分後と言う感じじゃな。ミーア達の出撃を一時中断すべきじゃろう。……通信兵!」


 イオンクラフトを爆装待機にするならそれで良いだろう。ちょっとした休憩も取れるはずだ。

 スクリーンの数字は1611.5に減っている。増援を考慮してもそれなりに潰したという事だな。

 

 だが、なぜグリードはあの場に停まっているんだろう?

 ひょっとして、悪魔達を食べてるのか? おぞましい事だが、20万の数だからな。しばらくは食事時間という事になるのかもしれない。

 となると、食事が終わり次第北に向かうはずだ。先遣隊は砦の直ぐ目の前まで来ていた。グリードがたどる道は出来ていると考えられる。


「通信兵、砲兵部隊に連絡だ。『砲近くに穴を掘って、砲弾を準備。次の砲撃は継続射撃を行う』以上だ」

「爆撃が始まったぞ。かなり積んで来たようじゃ」


 4列の炸裂光が群れの中を進んでいる。2割程焼夷弾が混じっているようでグリードの被害が炎でてらしだされる。

 爆撃が終了すると、数発の大きな炸裂が群れの中で起こった。10個以上の爆裂球を束ねた即席爆弾なのだろう。飛行船ならばそんな爆弾も使えるようだ。

 飛行船がこちらに向かってくる。また弾薬を運んできてくれたのだろうか?


 飛行船を避けて、イオンクラフトの編隊がグリード攻撃に向かった。落とす爆弾は20個でも継続すればそれだけ相手を減らすことができる。サーシャちゃんが大口径の長距離砲を欲しがるわけだな。

 直ぐ後を追い掛けるようにキャルミラさんの乗るイオンクラフトが飛び立っていく。

 後何回こんな攻撃ができるんだろう?

 飛行船の爆撃が終わったところで、グリードの群れのうごめきが大きくなったようにも思える。


「アキト、北に膨らんできたように見えるのじゃが……」

 最初に気付いたのはアルトさんだった。確かに膨らんでいる。いよいよ進軍がはじまるのか?

「グリードの進軍速度は時速11km前後です。スクルド到達まで120分」

 ディーが冷酷な口調で報告してくれる。

 このまま、イオンクラフトの反復攻撃を継続し、1時間後に長距離砲で攻撃だな。

 

「通信兵、全軍に通達。『イオンクラフトによる攻撃を1時間継続。長距離砲は1時間後に指定ポイントを散布界を広く取って砲弾が続く限り継続射撃。短砲身砲は観測射撃とする。1時間後に全軍を守備位置に配置。それまでの自由行動を許可する』以上だ」


「食事をする者はいないだろうが、パイプ位は楽しめるじゃろう。相手は空軍を持たぬ。それだけが救いじゃな」

「数が多すぎます。塀を越えるものが続出するでしょう。よろしくお願いします」

「まあ、タグの巣穴に比べればマシに思えるぞ。兵の士気も落ちておらぬ。だいじょうぶじゃ。スクルドが落ちることは無い」


 残ったコーヒーを一気に飲むと、アルトさんがすくっと立ち上がり、嬉しそうな表情で指揮室を出て行った。姉貴から譲られたM36は今でも腰のバッグの裏に隠されているはずだ。ダブルアクションの5連発を使う事が無ければ良いのだが。

 背中のグルカも健在だから、斬り込んでいくことも考えられるな。なるべく遠距離からMP-5で対処して欲しいものなんだけどね。あの性格だからな……。


「ベルダンディから通信です。『援軍を送る』以上です」

 通信兵が、部屋の扉を開けるなり怒鳴るような声で報告してくれた。

 援軍? 姉貴のところだって、部隊を避けないんじゃないか?

 ユング達は、出発点近くの爆撃をしながらベルダンディへの進軍を阻止しているはずだ。

「アテーナイ様が来られるのでは? アテーナイ様は戦闘用オートマタを母体にしていますから、単騎でも一個大隊の戦力があります」

「アルト様から連絡です。『バジュラが西に向かった』以上です」

 迎えに行ったってことだろうな。やはりアテーナイ様って事になる。本人にすればおもしろそうじゃって事なんだろうけどね。


 1時間が経過した時、まだグリードは砦から10km以上離れていた。それでもツララが伸びるように群れが真っ直ぐに砦に向かってくる。


「群れまで12kmです。イオンクラフト部隊は燃料補給と弾薬の補給を継続中。キャルミラさんの部隊は魔導士を乗せて同じく補給中です」

「長距離砲部隊。いつでも砲撃可能との事です」

「通信兵、1人俺の隣に来てくれ。長距離砲の砲撃地点はここだ。座標を先に送って、この位置にグリードが来たら、俺の名前で攻撃を指示してくれ。継続射撃だぞ」

 

 壮年の通信兵が俺の隣でスクリーンを眺めてくれる。伝令への伝達にこのままいて貰おう。

 時刻は21時を回っている。まだ余裕はありそうだな。

 ポケットを探り、タバコを取り出して火を点ける。

 後1時間もすれば、タバコを吸う暇も無くなりそうだな。隣の通信兵にも1本勧めて2人でスクリーンを眺めていると、扉が勢いよく開き、見知った4人が現れた。


「やはり、婿殿と一緒の方が退屈せずに済みそうじゃ」

「我らも手伝うぞ。ミーアが心配そうな顔をしているのが見てられぬ」

「ありがとう。アテーナイ様には俺と一緒にテラスをお願いします。ディーはアルトさんを頼む。あの感じじゃグルカでグリードに挑みそうだ。サーシャちゃん達は上空から援護をしてくれないか。グリードを外で食い止める自信がないんだ」


「まあ、そうじゃろうな。我を持ってしても内部に入らせぬ自信は無い。連絡はお祖母ちゃんを通せば良いぞ」

 そう言って出て行ったけど、行きしなにミーアちゃんが手を振ってくれたことが何よりうれしいな。


「テラスは激戦区じゃな。我と婿殿がおれば抜かれはせんじゃろう」

 そんな事を言って喜んでるのも問題だと思う。

 背中にAK47を背負っているけど、長剣も背負ってるんだよな。



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