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R-080 悪魔軍とグリードの衝突


 光球が塀越しに10個ほどヨルムンガンドの上を照らす。20m程の高さで輝いているから、照明弾代わりに使えるな。

 その明かりを頼りに、単発的な射撃音がAK47の音に混じって聞こえて来た。ついにウインチェスターまで使われ始めたようだ。

 あれだけ大地を覆っていれば適当に撃っても当たりそうだが、ネコ族の人達は几帳面だからな。一発一発良く狙って撃っている筈だ。

 

 上空をバジュラが飛んで行く。

 直ぐに青白い大きな火炎弾がグリードの群れに何度も低空で飛んで行った。あれだけで、小型飛行船の爆撃1回分に相当するんじゃないか?

 数回攻撃を繰り返して再び戻って来る。


「グリードの群れをかなり刈り取ってくれました。問題は悪魔軍の方です。既に魔法力が枯渇したらしく、【メルダム】攻撃は数分間の間に2回だけです。数時間で飲み込まれてしまいます」

「何だと! そんなに速いのか? だとしたら、明日の朝には本隊がやって来るぞ」

「連合王国の魔導士のように日が変わることで魔法力が元に戻るなら、昼前後になります」


 そうだった。不思議な事に魔法力は日が変われば元に戻るのだ。後1時間程悪魔軍が耐えれば、再び【メルダム】攻撃が可能となる。

 使う魔法は俺達よりも強力だが、魔気を操る魔法であれば俺達と同じように魔法力を回復する可能性があるな。それによって悪魔軍が持ち直せるなら、貴重な時間を俺達に与えてくれることになるぞ。


「現在の悪魔軍の数は?」

「推定で18万」


 あれだけの【メルダム】を使っても数万を食われているのか……。日が変わるまでに、3万は食われそうだぞ。

 ん? 長距離砲の発射音が止まってるぞ。


「長距離砲の射撃が止まっている理由を尋ねてくれ」

 傍らの通信兵に指示すると、直ぐに返事が帰って来た。

 どうやら、バジュラの攻撃でグリードの流れが一時的に止まったらしい。停止を命じたのはキャルミラさんのようだ。彼女も仮想スクリーンを展開できる端末を持っていたな。


「各部隊長に連絡だ。『現在南に見えているグリードを倒せば一休みができる』そう伝えてくれ。俺達も指揮所に戻るぞ」

 グリードとの戦いは悪魔軍よりも容易だ。だが数が多い。

 まだヨルムンガンドを渡るグリードがいない以上、俺達が屋上に詰める必要は無さそうだ。


 指揮所には誰もいなかった。俺がいないくらいだから誰もいないのも理解できるが少し寂しい気がするぞ。

 一緒に付いてきてくれた通信兵にコーヒーを頼むと、スクリーンで状況を確認する。

 

 悪魔軍の大きさが一回り小さくなっているように思えるのは、数万が犠牲になったからだろう。それでもまだ15万を超える軍勢なのだ。本当に明日の昼までに壊滅するのだろうか?

 それに引き換え、グリードの群れは後から後から続いている。

 後続の群れは、最初は絨毯を敷いたように一様だったが、現在ではかなりいびつに横幅が変わっている。ところによっては寸断されているように見えるのは、バジュラとユング達の活躍によるものに違いない。

 それでも、後続が合流してどんどんと数を増しているのに変わりはない。

 悪魔軍も自分達に倍する敵を葬ってはいるのだろうが、こうしてみると哀れな存在に見えて来るな。


 コーヒーを飲みながら、200kmを表示する大型の仮想スクリーンを眺めていると、悪魔軍を取り巻くグリードの群れがかなり広がっているのが分かる。

 この広がりをサーシャちゃんは気にしているみたいだ。

 真っ直ぐ北上すれば問題ないが、広がっているとスクルドを通り過ぎる群れが出て来る。それを狩るのは手間だって事だろうが、俺達にとっては迷惑以外の何物でもない。

 ここにバジュラがいるのは、グリードの誘導を行うつもりで間違いはあるまい。


「イオンクラフトを使わぬのか?」

 いきなり扉が開くと、キャルミラさんがミーア隊長を引き連れて、テーブル越しに座りこんだ。

「まだ、その時ではないと考えています。現在悪魔軍を攻略中ですが、もうしばらくすれば、悪魔軍の【メルダム】攻撃が始まるかも知れません。それを待っても良いんじゃないかと」

「もうしばらく? ……そういう事か。確かに爆撃と同様の効果が得られよう。待つべきじゃな」

 キャルミラさんも日付が変われば魔法力が元に戻ると思っているようだ。

 

 2人でタバコを咥えながら、新たに展開した仮想スクリーンの画像を眺める。

 そこには、10km四方の悪魔軍の画像が映し出されている。悪魔達の魔法は復活するのか? それがもう少しで判明する。


「日付変更まで、残り1分を切りました。かなりの激戦です。果たして復活しても……」

 どちらにせよ殲滅されることに変わりはないが、復活してくれるのなら、爆弾が1万発以上増えたのと同じ効果を得ることができる。


「大型飛行船10隻に匹敵するやも知れんのう。悪魔軍の【メルダム】使用回数が数回であればだいぶ助かるのじゃが」

 キャルミラさんが呟くような声で言った時だ。

 突然、悪魔軍の周囲にグレンの炎が走る。悪魔軍の陣の周囲に同心円状に炎が広がって行った。


「【メルダム】は最初だけです。【メルト】を多用している模様です」

「使用回数じゃな。【メルダム】1回は【メルト】5回じゃったか?」

 

 キャルミラさんの問いに小さく頷いた。実際にはもう少し多いはずだ。これだと、っかなり持ちそうだな。

 通信兵を呼ぶと、各部隊長に状況と、半数の兵士を休ませるよう指示を伝える。

 グリードの先遣部隊はどうやら壊滅させることができたようだ。

 ヨルムンガンドを越えたグリードは1匹もいない。これ位なら問題は無いようだな。


「だが、依然としてグリードの群れはやって来おる。やはり悪魔軍の命数は今日になりそうじゃな」

「アルガーの強靭さを持ってしても、グリードのあぎとには問題では無かったという事になるのでしょうね。既に退路すらありません。俺の危惧した最大の脅威は無くなりました」

「確かに、能力の異なる複数の相手は厄介じゃが、グリード1種であろうとも数は問題じゃ」

「その数じゃが、だいぶ後続が潰されておるぞ。バジュラのお蔭じゃな」

 

 アルトさんが、ドカドカと俺の隣にやって来て腰を下ろすと、広域画像のスクリーンを拡大した。

 確かに虫食い場所が広がっている。途切れた箇所が何カ所もできているし、あれほどきちんと揃った絨毯のようにも見えた群れが、まるでボロ布のようにも見える。

 バジュラ1機でグリードを何とかできるんじゃないか?

 ふとそんな考えが過ったが、直ぐにその問題点に気が付いた。

 群れであれば狩れるだろうが、散開したら始末に負えなくなるぞ。


「気が付いたか? バジュラの度重なる投入は群れを散らす可能性が高い。既に、その動きが現れておる」

 悪魔軍の奮闘ぶりが写し出されていた画像が切り替わり、一旦、高度を取り南に移動すると、グリードの巣穴付近に画像が変わる。


「見よ。散開し始めておる。群れの横幅は、今押し寄せているグリードの10倍じゃ。これでは、今まで通りの方法で倒せるグリードの数が十分の一になる」

「前後の間隔も開いているようにも見えるぞ」


 更に攻撃が効かなくなるぞ。

 待てよ……。だが、これは俺の問題と言うよりも、姉貴の担当分じゃないか?

 俺達の使命は、スクルドの防衛だ。攻撃部隊であるグリードの削減は今までも姉貴の作戦の下、ユング達が実施している。そんな作戦をウルドのサーシャちゃんがバジュラでかき回しているのが実態だ。

 今頃は姉貴達が頭を抱えているに違いない。また奇抜な作戦を立てるんだろうけどね。


「どうしたのじゃ? 苦笑いなぞしおって」

「ああ、どうやらこの事態を姉貴達、サーシャちゃんもかな? 考えてるだろうと思ってね。俺達の役目はスクルドを死守する事。そこに至るグリードの順次激減は姉貴達の仕事さ。あまり心配はいらないと思うよ。俺達は精々周囲200kmを見ていれば良い。このスクルドを落さないようにね」


「確かに、ミズキ達はそのように動いておる。となれば、我らはこの群れを相手にすれば良いのじゃな?」

 アルトさんの問いに頷くと、従兵にコーヒーを入れて貰う。

 まだまだ夜明けには遠い時間だ。コーヒーを飲みながら悪魔軍の奮闘を見守ろう。


 ジッと画像を見ている俺とキャルミラさんとは異なり、アルトさんは通信兵に次々と指示を与えている。

 その内容は、弾薬の補充や、予備の銃の確保、それに早めの朝食の準備等だ。

 確かに、先遣部隊との戦闘でかなりの銃弾を使ったであろう。そんな気遣いが俺にはまだできないから、アルトさんがいてくれて助かるな。


「バビロンの推定では悪魔軍が13万に減ったそうじゃ。依然【メルト】を多用しておる。かなりの魔導士を持っておるようじゃ」

「ですが、悪魔軍の構成比率で5割を占めたアルガーの数がかなり減っています。1時間で1万の消耗と言うところでしょうか?」

「魔導士の最後は自爆のようじゃな。自爆によって【メルダム】並みの効果があるようじゃ」


 魔導士の数はどの程度だったのだろう。ある意味攻撃部隊に編入されていたようなものだから、3万は超えていただろう。数分間隔で【メルト】を放ち、最後は自爆するとしても時間当たりの消耗は2千を越えてはいないはずだ。

 今日1日位は持つということか?

 とは言え、アルガーの外壁が崩れたら一気に崩壊しかねないな。


 朝が訪れると、悪魔軍とグリードの熾烈な戦いが良く分かる。

 アルガーの振り回す棍棒は、グリードに当たればその当たった箇所を千切り取るほどだ。足を滑らせたアルガーに数匹のグリードが押し寄せて体を片手剣のような牙でたちまち切り裂いてしまう。

 【メルト】の炎は容易にグリードの体を燃え上がらせて、倒れたグリードが炎の壁を作っているようにも見える。

 だが、火の壁をものともせずにグリードは悪魔軍の外壁を作るアルガーに襲い掛かっている。



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