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R-008 ハンター育成計画


 晩秋のネウサナトラム特区では狩猟期の祭りが始まる。かつては、ハンター達がアクトラス山系で獣を狩る腕を競う20日間だったのだが、今では少し変化しているようだ。

 200台を越す屋台が村の通りに並び、大勢の観光客が狩猟期の祭典を見るために集まってくる。

 3軒の宿ではさばききれずに民宿の斡旋所まで出る始末だ。それでも足りずに南門の外に仮設の宿泊所が数軒も軒を並べている。

 麓の町から馬車が半日掛けて客を運んでいるが、帰りは寝て帰るのかな?

 

 俺達の屋台は全て退役したハンターに譲っているから、昔のように屋台の切り盛りをしなくなったのがさびしく感じる。

 アルトさん達が交代で万が一のために待機しているのだが、出番がなく狩猟期がおわることが多くなってきた。

 それはそれで良いことだと思えるのだが、アルトさんの機嫌が悪くなるんだよな。

 それでも、表立って不平は言わずに、今年もユング達とお茶を飲みながら出番を待っている。


 「昨年はカルキュルの群れに襲われたハンターがおったが、6人もいて蹴散らせないとは情けない話じゃ」

 「クルキュルなら、問題だがカルキュルではね。やはり、ハンターの質が落ちているようだな」


 獣を狩れるハンターがどれぐらいいるのかが問題だな。ひょっとして5割を下回っている可能性もある。新たな薬草を探すプラントハンターが増えていることは確かだ。

 一応、防衛用の武器は携行している筈だが、プラントハンターの負傷者が増えていると話題に上がったこともある。


 「気になるのは、西の大陸への反攻を行う時だ。かなりの獣が生息しているから、腕利きのハンターが必要になるぞ。さもないと、軍の一部を狩りに回さねばならない」

 

 俺の話を聞いて2人が頷いている。

 

 「やはり、使えるハンターを養成せねばなるまい。幸いに時間はあるのじゃ!」

 「どこで?」


 「大森林地帯に決まっておろう。あそこは未だに獣が豊富じゃ」


 養成と簡単に言っても、反攻時期は10年程先の話だ。20歳程度のハンターではその時に活動できる期間が数年程度になりかねない。

 できれば、その時に20歳前後になるのが望ましいな。……ってことは、10歳前後のハンターを鍛えるのか?


 「14歳までのハンターを募集するのじゃ。5年掛ければ黒1つには育つじゃろう!」

 「いい考えだが、誰が鍛えるんだ?」


 「我等に決まっておろうが、アキトやミズキは忙しそうじゃ。ユングのところはラミィが頑張っておる。我とキャルミラにディーがおれば十分じゃ。ユングとフラウにもお願いせねばなるまい」


 ユングがあきらめ顔でタバコに火を点けた。

 一度決めたら、早々後には引かないからな。そんな悪友の苦労を思ったら、笑みが浮かんできたぞ。ここは気付かれないようにマグカップでコーヒーを飲むふりをして顔を隠す。


 「まあ、確かに閑なときはあるようだ。それに24時間活動できるからな。いいだろう」


 あっさり引き受けたけど、だいじょうぶなんだろうか? これは時々様子を見に行かねばなるまい。海兵隊の新兵教育以上に過酷な訓練をやりかねないからな。


 「アキトは会議に出るのじゃろう。この話の許可を取り付けてくるのじゃ。募集人数は数十人規模になるじゃろう。西の大陸の屯田兵となる家族出身が望ましいぞ」

 「分かった。だけど、装備何かはこっちで用意する必要があるな。その辺りは俺達が何とかするよ。装備リストを作ってくれるとありがたいな。宿舎は戦闘工兵に頼めばなんとかなりそうだ」


 俺の話をうんうんと2人が頷いている。隣のディーとフラウは呆れ顔だな。

 まあ、よく考えれば必要な部隊になることは確かだ。アルトさんが鍛えるなら銀に行ける奴も出てくるんじゃないか? 何と言っても、ミーアちゃん達を短期間で銀に上げた実績があるからな。


 ユング達が早速端末を持ち出して話合いを始めた。横で聞いてると、ハンターなのか特殊部隊なのかわからなくなってきたぞ。

 ある程度はディーとフラウの常識に期待するほかに手は無さそうだ。

                  ・

                  ・

                  ・


 狩猟期が半ばを過ぎた頃、連合王国の重鎮が集まって反攻計画の打合せが始まる。

 端末で大きな仮想スクリーンを展開し、姉貴がレーザーポインターで概要を話し始めた。


 戦略爆撃による西の悪魔軍への攻撃と5年後の大攻勢。それによる大陸西岸までの制圧と、中継に使われる島への爆撃。

 大型飛行船による西の大陸の東進ルートへの攻撃と反攻計画の為の拠点作り。

 大規模な兵員輸送とその後の兵站計画……。


 「……以上のような計画になります。工程のマイルストーンは、3年、5年、10年後の作戦開始時期になります」

 「大陸への派兵は10年以上か……」


 「だが、10年以降は徐々に東の堤防に押し寄せる軍勢が少なくなることは確かだ。その資材を輸送すれば、一時期は軍事費が上がるが、それは長期にはならないだろう。さらに西の大陸の開発は新たな資源を連合王国にもたらしてくれるだろう」


 そう簡単ではないだろうが、希望はある。問題は物資の輸送だが、更に大型の飛行船を作ることで大西洋を横断することになるだろうな。早い段階で輸送会社を作って運用させるのも良いのかもしれない。

 

 「問題は、そんな長期に渡る作戦遂行が可能な指揮官の選出だ!」

 「たとえ西の脅威が無くなったとしても、私では西の大陸の反攻作戦の指揮は出来かねます」


 重鎮達がゆっくりと姉貴に視線を移す。

 のほほんと状況を見ていた姉貴だが、コホンと咳払いをして皆に視線を移した。

 

 「私が西の大陸の反攻作戦の総指揮を取ります。ですが、お願いが少し……。士官を少し頂きます。それと、パラム王国が協力を申し出ています。かの王国の航空部隊の三分の二を配下に加えます。後は……、テーバイ州のカルート部隊を1個中隊お貸し願います。その外に色々あるんですが誰に相談すれば良いのでしょうか?」


 「軍関連であれば、総指揮官と相談するが良い。軍資金については商会で良かろう。ミズキ殿であれば安心できる。士官達が売込みに来るだろう」


 モスレムの王族がそんな事を言って笑い声を上げる。

 まあ、確かに結果は出すだろう。苦労するのは俺達だけどね。重鎮達も姉貴が受けてくれたのでほっとしているようだ。

 だが、これからが大変だぞ。先ずは協力者達を集めることから初めなければならない。

 それに、アルトさん達のハンター育成も急務になる。これは重鎮達も興味があるようだ。50人以上集まるんじゃないかな。

 

 狩猟期で賑わう通りを歩いて家に帰ると、ユング達が来ていた。

 途中で買い込んだ屋台の食べ物を広げるとディーがお茶を用意してくれる。

 夕食には少し早いが、長い相談になる。食べながら話をしても問題はないだろう。

 

 姉貴が端末を操作してスクリーンを展開すると、約20年間の長期工程が表示された。

 

 「3年で飛行船を作る必要があるわ。これはユングの方に任せてるけど、大丈夫なの?」

 「小型飛行船は何とか3隻建造可能だ。そのノウハウを使って5年間で大型船を3隻建造する。資金の目処は立ってるのか? かなりの値段になってるぞ」


 「商会と相談ね。場合によっては狩りをしてでも集めるわ」

 「AK47の方は、バビロンが協力してくれている。使うのは西の大陸だから早くて5年後だろう? それまでには1万丁は可能だ。課題は弾薬だな。オートで撃てば30発を3秒で撃ってしまう。きちんと教育しないといくらでも弾丸を消費するぞ」


 セミオートで撃つことで何とかなりそうだな。だが、それだけ撃てば大群でも阻止できるんじゃないか?

 

 「アルトさんはハンターの教育をお願いね。装備は任せるけど、5年後の拠点作りには参加して貰うわ」

 「戦闘工兵では無理か?」


 「役割分担から言って、ハンターが必要よ。拠点ができれば屯田兵を送り込めるわ」

 

 悪魔軍の進行ルートには獣さえ近付かないだろう。逆に悪魔軍がいなければ獣が豊富だとも言えるんだろうな。

 戦闘工兵にもハンターはいるが、専門ではない。彼等に砦作りを任せて、邪魔が入らないようにするのがハンターの役割になりそうだ。


 「でもハンターの訓練は、来春には始めるんでしょう? 装備品のAK47が間に合わないわ!」

 「心配いらぬ。連中に装備させるのは、散弾銃で十分じゃ。ハンターならば音を立てずに獲物を狩るのが本来なのじゃが……」


 譲歩したわけだな。まあ、武器がないわけではない。訓練されたハンターが一斉にスラッグ弾を放てば大型の獣も狩れるからな。問題は射程が短いことだが、獣相手だからその辺りは問題はないだろう。形からすると、パラム王国の迷宮に挑むハンターに近くなりそうだ。

 

 「でも、魔法はどうするの?」

 「低級魔法ぐらいは覚えさせるぞ。【アクセル】は絶対じゃな。他は状況に応じて覚えればよい」


 かなりアバウトだけど、大丈夫なんだろうか?俺と姉貴それにユングまでもが溜息を漏らしてしまった。


 「ここに一度集めて近くの山で最初の訓練をすればいいわ。狩猟期が終ってから大森林地帯に向かえばいいんじゃないかしら?」

 「そうじゃな。最初からでは、ちと苦しいかも知れぬのう……。それで、よいぞ」

 

 これで少なくとも死人は出ないだろう。

 まあ、アルトさんがいるからそんなことにはならないと思うけど、初心者ばかりだから注意は必要だ。それに、どんな訓練をするのか見ていられるからね。

 姉貴とユングも胸を撫で下ろした感じだな。


 「ところで、もう1隻、飛行船を作って欲しいんだけど?」

 「ああ、良いぞ。だが……念の為か?」


 「いや、どちらかというと、移民船だな。エイダス島の人間族を西の大陸に移動させる。また、反乱の気運が高まっているらしい。元々いない方がいいみたいだ」

 「だが……。そう言う事か。しかし、歴史は繰返すって言うけど、本当なんだな。この世界を横から見てるとそんな事が言えそうだ」

 

 「歴史の生き証人であるとともに記録者でもあるのよ。私情を入れずに起こったことを淡々と記録すれば良いわ。私情が入ればそれは歴史ではなくなるのよ。背景位は脚注で入れても良いと思うけど、その背景は誰の視線で見たかが問題ね」

 

 そんな歴史の編纂はバビロンとユグドラシルが担っている。電脳だから私情は入らないんだろうけど、脚注を読むと微妙に違いが出るんだよな。

 情報確認を行った相手が異なることから生じるのだろうが、姉貴は脚注は気にしないよ

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