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R-078 敵の敵は味方なのか?


 グリードの群れはスクルドの南180kmまでに迫っている。

 まだ、悪魔軍は接近に気付いていないようだ。だが、悪魔軍に合流するために進んでいる奴らの最後尾までには10km程の距離も無い。

 早ければ1時間もしないで虐殺が始まりそうにも思えるな。


「キャルミラさん。また、グリードの群れに爆裂球を投下してくれませんか? 大変ですが2度程お願いします」

「了解じゃ。イオンクラフトによる大規模な爆撃はまだなのじゃな?」

「もう少し近付いてからでも良いでしょう。反復爆撃をしたいですから100km以下で攻撃したいですね」


 俺の言葉に頷いたキャルミラさんが指揮所を後にする。

 残った俺達は、しばらくは観戦で良いだろう。各部隊の副官には、状況の変化を舞台に伝えるように言った。

 眠そうな顔をしてアルトさんがやってきた。

 俺の隣に座ると、ポットに入れて来たコーヒーをシェラカップに入れて、砂糖を2個加え、スプーンでかき混ぜてから俺の前に置いてくれた。


「お茶よりも好きじゃったな。こんな苦いものを良く飲めるものじゃ」

「慣れると、こっちの方が良いんだ。ありがとう」

「それで、状況は?」

「同士討ちがもうじき始まる。アリガーや悪魔の魔法がどれだけ通用するか分からないが、10時間は稼げるんじゃないかな?」


 東からグリードの群れに緑の輝点が近付いて群れの上空を2度往復して北に進路を変えた。

「キャルミラじゃな。爆裂球を落したか……」

「まだ、爆撃用のイオンクラフトは使えないからね。もう少し航続距離が長ければ良いんだが、今はその燃料よりも爆弾を積みたい」

「バジュラは攻撃に出ぬのか?」

「早朝、東に飛び立ったそうだ。東に500km程行ったところで状況を見ているようだ。姉貴の方はユングが爆撃を繰り返してるが、グリードの後続が対象だ。先頭集団は俺達で相手にするしかなさそうだ」


 俺の隣にマイカップを持って座ると、俺の見ていた仮想スクリーンを覗きこんだ。

「フム、予定通りというわけじゃな。確かに、我らの前にいる悪魔軍と一戦になるじゃろう。問題は悪魔軍の逃走方向じゃ。夕方に大隊長と砲兵隊長、航空部隊長を集めれば良いな」

「それ位の時間はあるだろうな。……通信兵!」


 通信兵を呼び寄せ、1800時に隊長達を集めるように指示する。

 確かに危惧するところはそこになる。

 一応、4つの方向が考えられるが、一番考えにくい方向と一番考えられる方向が同じと言うのもおもしろいな。

 

「相手が人間であれば、こうじゃな」

 アルトさんがテーブルの上にある地図で悪魔軍を動かした。

 左右に分けて、ヨルムンガンドに沿って東西に向かう。確かに人間ならそうするよな。

 だが、相手は悪魔で俺達とは相いれない存在、当初の使命を果たそうとして、一気にここに押し寄せるか、はたまた、攻撃的性格を自らの使命を邪魔する者達に向けるか……、このどちらかだろうな。


 簡単な夕食を済ませて、コーヒーを飲んでいると、4方向を守る部隊長、砲兵隊長それに航空部隊長が副官を連れて集まって来る。

 従兵がコーヒーを運んできたところで、新しいコーヒーを一口飲むと、集まった連中の顔を眺める。

 悲壮感は出てないな。俺の顔をジッと見つめる顔は覇気に満ちている。かつて俺には覇気がないと散々アテーナイ様に言われていたけど、今でもそうなのかな。

 自分の部隊に絶対の自信を持った連中がテーブルを囲んでいる。


「すでに、悪魔軍合流列にグリードは達している。悪魔軍も戦闘を続けているようだが、圧倒的な数の前にはなすすべは無さそうだ。このまま進めば数時間も経たずに、俺達の南に陣取る悪魔軍の主力部隊に達するだろう」


 テーブルに広げた地図に駒を落して説明する。

 グリッドの間隔からかなり近い場所までグリードがやって来ている事が分かる。


「俺達に敵対する2つ軍団は全く性格が異なる。はっきり言うと、38口径の拳銃弾で悪魔は倒せないが、グリードは表皮を貫通する。悪魔は強靭だが、グリードはそれには及ばない。俺達が付け入るスキは十分にある筈だ。その戦は今夜には始まる筈だ。最大の危惧は、グリードに追い立てられた悪魔軍の進路にある。左右に分かれるか、それともスクルドに向かうか、あるいはグリードと戦を始める事も考えられる」


 誰もが口を閉ざしている。

 俺の言葉を聞きもらさぬように、ジッと俺を見つめているぞ。


「俺の個人的な見解では、グリードと悪魔軍の戦が始まるだろうと思っている。根拠は無いぞ! そんな気がするだけだ。2時間後に戦闘状態に移れるように兵士を配置して欲しい。状況は逐次通信機で伝えるつもりだ。通信機には常に通信兵を控えさせておいてくれ。一旦戦闘状態になったら、いつ食事が取れるか分からない。携帯食料と水、それに予備の弾丸を再度確認しておくように。以上だ」


「我は前の指揮所付近で待機するが、1個中隊で火消しをするつもりじゃ。基本はアキトの指揮で動く事になろう。救援要請はアキトにするのじゃぞ」


 部隊長達が一斉に立ち上がると、俺に向かって右腕で胸を軽く打って敬礼をして部屋を出て行った。

 次に彼らに合うのは何時になるのか……。


「どうやら、アキトの言う通りじゃな。悪魔軍が後退を始めたようじゃ」

 ジッと近距離画像を眺めていたキャルミラさんが呟いた。

「20万と言えども、2000万には飲み込まれます。ですが……」

「その代償も大きいはずじゃ。半減してくれるとありがたいのじゃが」


 武器も持たずに白兵戦をやったら、間違いなくこの世界最強の兵士達だ。その上、魔法攻撃は俺達を超えているからな。


「あれほどてこづった悪魔軍が自軍に滅ぼされるとは、笑いたくなるのう。それも、悪魔軍よりも非力な者達によってじゃ」

「ですが、アルトさん。あの牙は強力ですよ。くれぐれも白兵戦だけは避けてください」

「分かっておる。今回は、このエムピー何とかを使うのじゃ」


そういって部屋を出て行ったけど、弾丸ポーチにはたくさんマガジンが入ってるんだろうな。ガルパスの鞍の左右に振り分けた革のバッグにも予備のマガジンや爆裂球をたっぷり入れているに違いない。そんな連中が1個中隊ならさぞかし活躍できるだろう。


「我は、悪魔軍の状況を見て出撃するつもりじゃ。イオンクラフトによる爆撃の合間で良いじゃろう。この館の1階の一部屋を救護所にしたぞ。魔導士達にも拳銃を渡しておいた。弾丸は30発程じゃが、扉が頑丈じゃからそれで良いと思う」

「済みません。お手数をお掛けします。それにしても、結構良い戦いをしてるように見えますね」


アルガーを盾にして、後方から【メルダム】のような魔法をグリードに放っている。

 集束爆裂球並みの威力がある火炎弾がグリードの群れの中で次々と炸裂し、グリードの襲来を防いでいるようだ。アルガーの攻撃のスキを突いて、グリードの顎がアルガ―の体を刻むと、直ぐに他のアルガーがその場所に立つから、まるで塀で防いでいるように見えるぞ。


 悪魔軍全体が南に数百mほど移動しているようだ。東や西、北に移動する部隊は皆無だな。

 都合は良いのだが、俺達の運命を見ているような気もしないではない。

 

「悪魔達の【メルダム】は何回使えるのじゃ?」

「精々、2回ではないかと……」

「なら、それ程持たぬぞ。すでに自爆攻撃までしておる。それにじゃ……」

 

 グリードの群れが東西に分かれて、20万の軍勢を取り囲もうとしている。まるでアメーバに見えるな。

 軍勢を取り囲んで、消化するつもりなのだろうか?


「通信兵、砲兵部隊に連絡。『長距離砲準備。座標、DからEに掛けて散布界を広く設定。弾種は焼夷弾。3連射』以上だ」

「来るかのう?」

「来たら、予定通りに叩きます」


 それしかない。ここまで来たんだからな。

 背面の棚に置いたAK48を眺める。30連のバナナマガジンは連射すれば3秒で撃ち尽くすとユングが言ってたな。

 半自動で確実に相手に弾丸を叩き込む事になるんだろうが、装備ベルトにある左右の弾丸ポーチには合わせて6個のマガジンがある。ベルトに2本は挟めるから、俺の持つ弾丸の総数は270発だ。腰のバッグには更に6本入っているとしても少ないよな。

 キャルミラさんにしても、マガジンは6本だろう。もっとも、バッグの中にはたっぷりと入っている筈だ。

 イザとなれば、イオンクラフトで砦内を空から支援してくれるだろう。魔導士10人の【メルト】は一斉に放てば【メルダム】を超える威力になるはずだ。


 通信兵も、ウインチェスターを担いでいる。伝令をして貰うには、それ位の武装は必要だろう。60発の弾丸がやや不満のようだが、彼らが前線を守ることは無いからな。


「バジュラが東を攻撃しておる。東に回り込んだグリードがだいぶ痛めつけられておるぞ」

「それでも、悪魔軍の包囲は時間の問題でしょう。バジュラの攻撃でグリードの総数が減ったことは確かですけどね」

「稼いだ時間は10分にも見たぬか……」


 数度の荷粒子砲の攻撃は、万単位のグリードを葬ったはずだ。だが、1分もせずにその攻撃が無かったようにグリードが溢れている。

 悪魔軍を殲滅してもグリードは半減しないんじゃないか?


「通信兵、状況の伝達を頼む。『悪魔軍をグリードが包囲しつつあり。南面で戦闘継続中』以上だ」

 状況が分からなければ不安がつのる。適宜情報を各部隊に送ってやらねばなるまい。


グリードの群れが、悪魔軍を完全に包囲したのは南方で戦闘が開始されてから1時間も過ぎてからだ。

円陣を組んだようにも見えるが、それだけグリードの圧力が高いという事だろう。


「先遣隊が来るようじゃな」

「群れとしては小さいですが、推定1万と言うところでしょうか?」

「じゃが、流れを作っておる」

「イオンクラフトで銃撃しましょう。それにこれだけ悪魔軍の周辺に集まっているんです。爆撃する価値はありますよ」


 飛行部隊の隊長を呼び寄せ、先遣隊への機銃掃射と悪魔軍と戦闘中のグリードの群れに爆撃を命じる。反復攻撃は必要ないから、全機一斉に出撃だ。

 いよいよグリードとの戦が始まるぞ。 


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