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R-075 15億?

 スクルドの作戦指揮所には、ベルダンディからやって来た姉貴とサーシャちゃん。俺とユングに、アテーナイ様とキャルミラさんが仮想スクリーンをジッと睨んでいた。

 ヴァジュラによる荷電粒子砲のプラズマ球がジャングルを焼きはらっている光景が映っているのだが、数カ所ほど焼き払うと、素早くその場を移動して再びジャングルを焼き払っている。


「かなり南に下がっても姿を見せないわね」

「軍隊アリは地上性のアリだ。どっかに集まっていると思ってたんだが……」

「必ずしも軍隊アリとは限らないのではないか? 戦闘形態は軍隊アリでも生態が同じとは限らぬじゃろう。ハイブリッドいや、遺伝子操作は敵の好む方法じゃろうが」

 キャルミラさんは博識だ。レムル達がパラム王国の王宮地下神殿から迎えたらしいが、あれから500年が経過している。元々バビロンで高度な教育を受けている人物だから、その後の地上生活で現状を俺達以上に正しく認識しているのかも知れないな。


 だが、キャルミラさんの説を取れば、必ずしも地上性とは限らないってことになる。地下を進むって事も考慮しないといけないってことなのか? 

 戦のしにくい相手だな。

「だが、アナコンダは地上にいる。やはり地上性と見ていいんじゃないか? その集合地点を俺達がまだ発見できていないって事の方が、真実に近い気がするな」

「ッ! ちょっと今の場所をもう一度見せてくれないか? そこだ。少し倍率を下げて広角にしてくれ」


 ユングが矢次早にサーシャちゃんに伝えてる。仮想スクリーンの制御はサーシャちゃんがしてるんだったな。


「やはりそうか……。キャルミラさんの言う通りだ。奴ら、シロアリの遺伝子を組み込んでるようだぞ。この山を見てくれ。山脈の尾根に繋がっているように見えるが、明らかに別の山だぞ。岩山に紛れてたから分からなかったようだ。この山そのものが奴らの集結地点なんだ」

 

 フラウが端末を操作して仮想スクリーンを展開した。画面には大反攻作戦実施前と現在の南北アメリカ大陸を写し出された。同じ場所が拡大されていくと、大陸西岸部に南北に連なる尾根の一角に突然山が出現していることが分る。


「大まかには円錐形だな。直径約3km高さは800m程だ。科学衛星の画像解析では、この山を造るのに1年も掛かっていないぞ」

「そういう風に画像を比較すると、この辺りも怪しいわね……」


 新たな山を姉貴が指摘する。これは一度精密に調査する必要がありそうだな。

 急遽、ユングが飛行船で調査に向かったが、アリの巣山にバンカーバスターもどきを1発落としてくると言っていた。

 上手くいけば、俺達が相手をする敵の姿が分かるかも知れない。その時の巣山の状況解析を科学衛星が行うらしい。アリの総数が少しは分るってことかな?

 姉貴は、連合王国に緊急の増員と砲弾の調達を要請している。

 そもそもそれほど軍備があったわけではない。依然として東の堤防は激戦地帯だ。この状態で動員できるとすれば、屯田兵位なものだろうな。

                  ・

                  ・

                  ・


 10日程経って、再度皆が集まった。

 依然としてスクルドの南には敵軍が集結しているのだが、なぜか少し数が減ってきたようにも思える。

 その理由についても姉貴に教えてもらえるかも知れない。

 大きなテーブルでお茶を飲みながら、タバコは自由の会議だ。内容は深刻だけど、表面上は和気あいあいの雰囲気だな。


「初めは俺からで良いな。強行偵察の結果がこれだ」

 以前の岩山の頂上に半径100m以上のくぼみが見える。まるで火山の火口のようだぞ。

「ヨルムンガンドの工事に使っているバンカーバスターをてっぺんに落としてみた。通常なら、10mも潜らないんだが、20m近く貫通したようだな。最初は30m程の深さだったんだが、今では20m以下に復旧しているぞ。その工事を行っているのがこいつらだ」

 仮想スクリーンの画像が切り替わって、問題のアリの姿が映し出された。簡単なメジャーが同じ画像に表示されているから大体の大きさが分る。タグとそれほど変わらない、体長2m程度だ。

 体表は赤いキチン質で覆われている。特徴的なのはアゴの大きさだ。タグの2倍以上はありそうでどう見ても50cmを超えている。6本の足も少し太い気がするな。


「出来れば2、3匹捕獲したかったが、現状では無理だ。特徴はこのアゴだな。かなり大きな岩まで運べるぞ。それに、夜間視力が強化されているようにも思える。アリは視力ではなく嗅覚で動くんだが、どうやら少し異なるようだ」

「タグとは異なる種ということじゃな?」

 アテーナイ様の言葉にユングが頷いた。

 仮想スクリーンに次の画像が映し出される。山裾なのか? 何を問題にしたのか良く分らないぞ……。


「バビロンの調査で、奴等の巣山の数が分かった。およそ300以上。現在も増えている。1つの巣穴に籠るアリの数は推定で数百万。アリの総数は15億以上だな。アリと言うのも問題があるから、名前を着けたぞ。『グリート』とした」

 相変わらず、名前を着けるのを楽しみにしているようだ。図鑑に載せるのかな? 東方見聞録の初刊は1冊だったのだが、今では5冊に増えてるからな。


「それで、この画像だが……。表面上はほとんど変化がない。だが、赤外線で撮影すると、こうなる」

 そこには白く写された岩山と黒く写されたジャングルの間に、中間色の何かが写っている。ユングが端末を操作するとその部分が赤で強調された。


「奴らの通路だ。地下1m程の所に造られている。ジャングルを灰にしても奴らは困らない。現在、最初に見つけたこの巣山に集結を図っている」

「集結したなら攻撃に転じるじゃろう。それはいつごろで、グリートの総数はどれぐらいを想定しておるのじゃ?」

「一か月を待たずに2千万が進撃を開始する!」


 ユングの言葉に誰もが言葉を失った。

 防ごうなんて気も薄れる数字だぞ。大陸に渡った総兵力は1万2千程度。姉貴が要請した増援部隊の回答も精々2個大隊ってところだろう。


「此処までのようじゃな。大陸の北をなんとか出来るとは我も考えたが、その数の前にはあまりにも無力じゃ」

「分散させれば時間が掛かるが叩けるのではないか?」

「たぶん手に負えなくなる。次々とグリートの群れがやってくる。集団を狩る方が容易いのは分っているけど……」


 ミリタリー・オタクのユングでさえも対処無し、という表情をしているな。だが、姉貴とサーシャちゃんはまるで気にしてないようにも思える。最初の数字には驚いていたが、その後はジッと仮想スクリーンを眺めているぞ。

 

「増援は4つの砦に1個大隊が欲しいところじゃ。それで、連合王国の返事は?」

「屯田兵2個大隊です。エイダスから1個大隊を派遣してくれますから、後方の殲滅部隊の規模を縮小しましょう」


 姉貴達は防衛できると考えているようだ。となれば何とかなるってことかな? 俺達の都合はあまり気にしていないようだけどね。


「飛行船は、小型が1機もうすぐ出来上がるぞ。問題は弾薬だな。近接戦闘は命が危ない」

「爆裂球を取り寄せる必要があるのう……。備蓄を取り崩すしかあるまい」

「次の便で送ってくれるそうよ。5万個と言ってるけど、直ぐに無くなりそうね」

 

「ミーミルはどうするんだ? エイダス軍はいまだにボルトアクションライフルだ」

「バビロンとユグドラシルに協力を頼むしか無さそうね。それは私が担当するわ」


 尻尾を巻いて逃げるわけでは無さそうだけど、かなり厳しい懐事情だ。

 ヨルムンガンドの完成が何時になるか分からなくなってきたな。

 待てよ……。高位魔法の使用回数は減っているが、いまだに中位魔法ならそれほど制限を受けずに使えるな。爆弾の代わりにイオンクラフトで【メルト】を使ったらどうだろう? ネコ族でさえ数回は使えるんじゃないかな。

 

「提案なんだが、イオンクラフトから【メルト】を使えないか?」

「婿殿にしては、おもしろい案を出したものじゃ。魔法の到達距離は100D(30m)程度じゃが、敵の上空を高速で飛べば可能ではあるのう」

「グリートには有効ね。でも、今は使わないで頂戴。まだ悪魔達がアリガーと共にいるわ」


 姉貴も考えていたのだろう。相手も魔法攻撃が使えるから、今は危ないって事か。グリートには有効って事は、その時に悪魔達は同行しないって事か?


「グリートだけを考えるという事じゃな?」

 アテーナイ様も、それを確認している。

「一緒に行動することは無理でしょう。現在南にいる敵軍も、グリートが押し寄せてきたら単なる餌になります」

「餌じゃと!」


 アルトさんが驚いているぞ。昆虫と人間では意思を通じることは不可能だろう。となれば、グリートの進行方向にいる敵軍は確かに餌になるんだろうな。

 待てよ。俺達を襲わせるのは、ひょっとして餌で誘導するんじゃないだろうか? 途中の池にはアナコンダがいるし、俺達の前には敵軍がいる。

 だが、1つ良い事もあるな。グリートがいれば悪魔達とアリガーがいないって事になる。

 低空飛行で攻撃することができそうだ。

 

「そういう事じゃ。とはいえ数が多い。如何にまとめて倒すかを考えねばならん。それで、ユングの殺虫剤は出来たのじゃな?」

「出来たけど、こんなにいるとは思わなかったぞ。一応、植物成分で作ったから自然に分解されるだろうけど、やってみないと分からないな」

「早期に試してみれば良い。まとめて殺せるならその方が良いに決まっておる」


 確か除虫菊やトウガラシで作ったんじゃなかったか? まあ、ものは試しって事で使ってみるのも良さそうだ。せっかく出来たんだからな。

「ミーミルに100発程貯めてある。バンカーバスター仕様だから使う飛行船は限られてるが、姿を見せたところで落としてみよう」


 テーブルの上ではサーシャちゃんが地図にフィギアを並べている。姉貴が、たまに部隊を修正しているけど大筋ではOKのようだな。


「私も賛成よ。さすがはサーシャちゃんね。部隊が揃ったところで移動させれば良いわ」

「了解じゃ。数に頼むのも考えものじゃのう。アキト達で1個大隊の働きをさせれば意外と単純な話じゃ」


 何だと? どんな編成にしたんだ。地図を眺めようとしたら、姉貴が地図を手元に引いて配置がばらけてしまった。

 隠すところを見ると、かなり過激な作戦なんだろうか?

 少なくとも、一か月後にはグリードの襲来が予想されるんだから、心の準備位はさせて欲しいな。


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