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R-073 待つのが嫌いな連中ばかり


 ミーアちゃん達がバビロンに旅立って10日も過ぎた頃、山のような荷物を満載してバジュラがスクルドに帰ってきた。

 大型飛行船が新たに短砲身砲を4門運んできたし、エイダス島からはネコ族の正規兵が2個中隊移動してきた。砦の部隊規模は4個大隊近くに膨らんでいるが、元々砦を大きく作ってあるからそほど大勢には見えないな。

 

 ユング達は一旦、自分達の拠点に帰って天然素材の殺虫剤を開発すると言っていたが、どんなものが出来るやら分らないな。唐辛子や、除虫菊なんかで作るんだろうけど、プラントハンター達が活躍しそうだ。

 ネウサナトラム村で試験をすると言っていたが、今年の収穫が気になるな。うまく出来れば農業に多大な貢献をもたらすことになりそうだ。

 

 ミーアちゃんが仮想スクリーンでバビロンから持ち込んだ榴散弾の説明をしている。神妙な顔をしてサーシャちゃんとアテーナイ様が聞いているぞ。

 砲弾自体は短砲身でも長砲身でも使えるようだ。発射後3秒で炸裂して前方に15mm程の鉄球を30個ほどばら撒くらしい。

 短砲身なら1.5km。長砲身なら3kmが有効射程になるだろうな。敵の一斉突入に合わせて使うことになりそうだ。

 

 「集束爆弾はエントラムズの工廟で製作しています。数日中には一部が運ばれてくるでしょう」

 「もう少し、というわけじゃな。まだヘビもやってこぬ。かなり先を我らは制したということになりそうじゃ」

 

 サーシャちゃんの機嫌がいいな。俺にはユングの成果が形となるまでは安心できないぞ。

 ヨルムンガンドは1年以上続けた爆撃で、上空から眺めると直線がどこまでもつながっているように見える。

 後1年は継続しなければならないらしいが、潮汐をうまく使えばもっと早まるような気がしてきたな。だけど、サーシャちゃんはウルドの水門を固く閉じたままだ。敵の進軍をヨルムンガンドで阻止できるまでは開けぬつもりのようだな。


 ヨルムンガンドの守りの一部を担う列車砲は、装甲列車を優先したようだ。ウルドの砦からすでに50km近く線路が延びている。まだ、敵の進軍路からは500km以上離れているが、将来的には工事を戦闘工兵に委ねねばならないようだ。

 姉貴の方は順調に線路を伸ばしている。小型飛行船を使って重量物の運搬をしているようだ。


「線路の状況はウルドの方が遅れておる。まあ、仕方あるまい。早めに、ベルダンディとスクルド間を結べば後の戦が楽になる」

例え単線でも部隊輸送の迅速化が図れるからな。それは俺にも理解出来るが、俺達の工業生産量はそれほど多くはない。線路も時間が掛かる事案の1つになるのだろう。


悪魔軍の拠点である南米大陸封鎖措置は着々と進んではいるようだ。

問題は、封鎖した後なんだろうが、姉貴達は空爆だけで対処することで良しとする考えに変更はないらしい。

兵隊クラスの悪魔を継続的に作り出せるのだから、それで終了となることはないのだろうが、地上施設ではなく地下に拠点を作っているからな。

ユング達がバンカーバスターモドキを作っているようだが、威力的にはかなり低いらしい。


 睨み合いが更に続き、ユング達もネウサナトラムから戻って来た。機嫌が良いところを見ると、上手くできたようだな。


 「200kg爆弾にして5個運んできた。順次作っているから、一ヶ月も過ぎれば30個程度運んでくるだろう。効果は試してみなければ分からないけどね」

 「何もしないよりはマシじゃろう。じゃが200kg爆弾となると、小型飛行船の改造が必要になろう」


 運ぶ手段が問題って事か。小型飛行船を改造するなら、それによって、現在爆撃をしている小型飛行船の運航が一時中断されるし、搭載する爆弾の量も減ることになる。


 「それは諦める事になるな。飛行船に250kg爆弾を2個積めるように改造したから、通常爆弾は20個になる。ラティはとりあえず20丁を運んできた。ベルダンディとスクルドに半分ずつ置けば安心できる」

 

 大型が来ても、アリが来ても安心できるって事か? だが、果たしてそれだけで十分なのだろうか? 

 「婿殿は心配性じゃからな。安心は出来ぬか……。とはいえ、何もせずに待つよりはるかにマシじゃ。それに依然として悪魔軍は我らより数の上で有利。いつ一気に攻め込むとも限らぬぞ」


 確かに心配性なのは認める。だが、それは姉貴やサーシャちゃん達の反動でもあるんだぞ。直ぐに前に進みたがるし、作戦は俺の考えの斜め上を行くからこんな性格になってしまったような気がしないでもない。


 「まあ、明人の良いところでもあるから、それで良いんじゃないか。それに、もう少し小型の飛行船が3隻出来上がる。2隻はヨルムンガンドの工事用だが、もう1隻は爆撃用だ。搭載量は2tだが、これで長距離爆撃が出来るぞ」


 詳しく聞いてみると、ヨルムンガンドの土砂をすくい出すシャベルのようなバケットを持った飛行船らしい。潮の満ち引きで土砂が堆積し始めたらしい。

 それを余分に作って爆撃を行うようだ。となると目的が気になるな。


 「焼くのか?」

 「美月さんの依頼だ。昔、俺達もやったんだが、今ではあの通りジャングルに帰っている。一度では荒地に変わらないな」

 

 サーシャちゃんはその意図が分かったみたいだ。分からないのは、俺とアテーナイ様なのかな?


 「焼くのだったら、此処と此処が良い。奴らがどこから集まってくるかが少しは、分かるじゃろう」

 「美月さんは、此処を焼けと言っていたぞ」


 ユングがテーブルに乗っていた指示棒で示した場所は、サーシャちゃんが示した場所とはまるで違っていた。サーシャちゃんが示した場所は、南米中央部と太平洋岸だが、ユングの示した場所はどちらかと言うと、大西洋に近い。


 「テーブルマウンテンが1つ残っているらしい。よくも造山運動で崩れなかったものだ。まあ、全くの無災害という事ではなくて、三分の一は崩れてはいるんだが……」

 「新たな砦を作るという事か?」


 サーシャちゃんの言葉にユングが小さく頷いた。

 「砦と言っても小さなものだ。とは言え、周囲は切り立った崖が300mはあるからな。中隊を派遣すれば十分に守れるだろう。ここから打って出ることはない。この砦を起点に爆撃をすることになるだろうな。ヨルムンガンドは絶対防衛線だ。これを越えさせないのは今までの考えで良いのだが、将来を見据えるとそれだけでは足りなくなる」

 

 「小型飛行船が3隻もあれば十分にその任に堪えるじゃろうが、ある意味、囮になるのでは?」

 「俺も囮だと思います。ミーミルが北米西岸を進む悪魔軍の囮として使用されたように、このような場所に砦を作れば嫌でも囮になるでしょう。ですから、連中の攻撃を少しでも早く知るために、この周辺の森を焼くことが必要になるんです」


 そうなると、俺達はヨルムンガンドが出来たら、新たな砦に出掛ける事になりそうだ。

 中々ネウサナトラムには帰れなさそうだぞ。

 そんな計画があるという事は、連合王国の兵器工廟が新たに出来たって事だろう。弾薬の安定輸送が出来るならありがたいが、ミーミルはそんな軍用品の一大集結地になりそうだな。


 「別な話題になるが、エイダスの人間族の移民は佳境に入っているそうだ。食料輸送の船で続々とこの大陸に移動している。来年にはエイダス島はネコ族が平和に暮らす島になるだろうな。あいつもようやくホッとしてるんじゃないか?」

 「エイダス島の平穏はレムルの臨んだ世界だ。たぶんあの連中と喜んでるに違いない」


 ようやくなのか。レムルが亡くなって数百年が過ぎているが、これで俺達も安心できる。ネコ族だけなら平和に暮らしていけるだろう。俺達の連合王国との付き合いは長いけど、いまだに王国を名乗っているんだよな。その実態は既に民主主義国家なんだけどね。

 

 「一応、彼らの版図は先住民との境界から南に下がることになるのだが、屯田兵を2個中隊付けてあるから、紛争は起きないだろう。山脈の獣は豊富だし、土地は超えている。良い農業国家を作ってくれれば良いんだがな」

 「罰則は厳しく取り締まれと言ってある。だいじょうぶだろう」


 俺の言葉に、話を聞いていたアルトさんも頷いている。あの連中と色々遊んでいたからな。色々と思い入れもあるんだろう。


 「少しは計画が進んだ証という事じゃな。エイダスの連中が喜べるなら良いことじゃ」

 アテーナイ様もそんな事を言っている。あのエイダス内乱は知らないんだろうけどね。

 まあ、少しでも前進してるって事だな。

 最前線にいると、あまり全体を見ることが出来ないのが残念だ。


 「じゃが、まるで攻めてこぬのう……」

 「やはり、突破口となる兵器の到着を待っているという事じゃろう。爆撃は続けておるが、流れは尽きぬ。それに十数万の兵力を維持して、残りを北東に進めてるのも問題じゃ。北の柵は少しずつ南下しておるようじゃが、それでもミーミルまでは1千M以上の距離があるのじゃ」


 サーシャちゃんが苛立っているぞ。ジッと待つことはしない方だからな。少しは姉貴を見習ってほしいところでもある。姉貴は過激だけど、ジッと時を待つ方だぞ。


 「サーシャよ、ウルドの水門を抜けば少しは変化があるのではないか?」

 「あれは、もう少し先じゃ。線路がウルドより1千M(150km)程に伸びたなら開けることになるじゃろう。それまではあのままで十分じゃ」


 アルトさんのアイデアを一蹴してるけど、他に案があるんだろうか?


 「やはり目の前の敵を徹底的に叩くしか現状を変える手段はないじゃろう。石塀に半数の兵を配置し、円盤機で夜襲をするのじゃ。ミーアはバジュラで、後続の敵軍を蹴散らせ。アキトもイオンクラフトで暴れてこい!」


 ヒステリックにサーシャちゃんが叫ぶ。

 確かに一方法ではあるんだよな。皆が素早く指揮所を抜けて準備を始めるようだ。

 そろそろ夕暮れ時だ。今夜は忙しくなるに違いない。


 「我も一緒じゃ。館の上はお婆ちゃんに任せれば十分じゃ」

 まあ、ワンマンアーミーだからねえ。そんなアルトさんと一緒に補給所に向かう。リムちゃん達が食事の準備をしているはずだ。

 イオンクラフトにはディーが向かったから、たっぷりと爆裂球を積み込んでいるに違いない。


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