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R-72 人外の試合


 観客の多さがちょっと問題だ。気の流れが周囲で乱れてしまう。

 とは言え、アテーナイ様の気の高まりもかなりなものだ。ベルダンディでカラメルの長老と日夜対戦してんじゃないのか? そうでもなければ短期間でこれ程気を操ることなど不可能に思える。


 最初から全開でいくしか無さそうだな。

 気を練り上げそれを全身に送る。自分に【アクセル】と【ブースト】を掛けて身体能力を高める。この状態なら……。


 「何だ! アキト殿の腕が増えたぞ」

 「スマトル戦での話は本当だったのか!」


 外野が急に騒ぎ始めた。確かにこの姿は異形ではあるな。

 

 「やはりのう……。そうこなくてはおもしろみに欠けよう。じゃが……」


 アテーナイ様の更なる気の上昇に、思わず目を開けた。そこには、俺と同じように長剣を4本の手で握るアテーナイ様の姿があった。


 「出来るのですか?」

 「何とかここまで辿り着いた。流石は婿殿と感心した次第じゃ」


 こうなったら、早めに終わりにするに限る。

 先手必勝! と叫びながら縮地を使ってアテーナイ様のすぐ隣に移動すると、左手の剣で相手の胴を横なぎに払う。

 1撃目は長剣を移動して掃われたが、更にもう1つの剣で攻撃する。

 見切ったように、アテーナイ様は右足を引いて半身に体を移した。と、同時に正面になった俺に長剣袈裟懸けに振り下ろす。

その攻撃に合わせて、俺の攻撃を受け止めた長剣を下から振り上げた。

 上下からの斬撃を半歩下がってかわし、その軸足を生かしてアテーナイ様の後に再び回りこんで片手剣を叩き付ける。

 アテーナイ様は一歩踏み出してその攻撃を回避する。


 片手剣を使えば、接近戦に持ち込めると思っていたが、相手は最小限の足裁きで体を移動して攻撃を回避する。


 「婿殿、それで終わりとは思えぬが……」

 微笑ながら挑発してきてるな。あれから1千年近い年月が流れている。俺だって、昔よりは格段に気の操り方は練習したつもりだ。

 

 「やはり、スマトル戦の当時よりは体の切れが違いますね。恐れ入る次第です」

 「何のこれしき、たぶん昔の婿殿並ということじゃ。じゃが、婿殿。隠し立ては良くないぞ!」

 

 突然、アテーナイ様の姿が消えて、俺の目の前に現れると長剣を俺の頭上から振り下ろす……。

 

 「そうでなければ、おもしろうない。じゃが、そのように避けるとは想定外じゃ」

 咄嗟とっさに分身して鋭い一撃を避けたのだが、俺達の戦いは周囲にどの様に映っているのだろうな。

 最早、人外の試合になってる。腕を4本持った俺が数m離れて剣を構えているのが見えているはずだ。


 2人になった俺達が連携して一撃離脱を繰返す。

 通常なら、相手の体力が持たないから何時しか終わりになるのだが、アテーナイ様の体は戦闘用オートマタだ。疲れるということがない。

 それでも、さすがに攻撃に転じることが出来ないのか防戦一方の展開になってきたな。

 

 後は、アテーナイ様が諦めてくれるのを待つだけだと思い始めた時、突然アテーナイ様の姿が消えた。

 長剣が鋭く振られる時に生じる僅かな殺気に体を素早く移動した。


 「惜しいのう……。今で勝負がついたかと思うたのじゃが。避けられては仕方あるまい。勝負は次の機会じゃ」

 

 言葉が終ると共に、姿を消していたアテーナイ様が姿を現した。俺以上に高速機動していたのか?

 

 「そうですね。互いに無事でなによりです」

 俺も分離した体を1つにすると共に増やした腕を元に戻した。


 「たまに試合うのもおもしろいのう。さすがは婿殿じゃ。中々そこが見えぬ」

 機嫌が良いから満足したのかな? だけど俺の方は生身なんだから、あまり試合は受けたくないな。


 互いに歩み寄って握手をすると、指揮所に戻ってお茶を頂く。喉がカラカラだ。かなり緊張してたんだろうな。

 

 そんな俺をミーアちゃん達が見てる。

 「お祖母ちゃんは、あの体ゆえ高速機動は理解するが……。アキトの場合は底が見えぬのう……」

 「だけど、動きは見えてたろう。やれと言われてもあんなふうにはできないけどな」

 

 サーシャちゃんの言葉にユングが言葉を添える。

 見えてたのか? 全く、俺にはそちらの方が驚きだ。気の力で活性化した肉体による高速機動は、アテーナイ様の戦闘用オートマタと同じぐらいの動きになるってことが分っただけでも良しとするか。ユング達の汎用型だとどこまで追従するか分らないけど、かなり高性能の体らしいから、アテーナイ様に匹敵するのかも知れないな。ディーの場合は強行偵察型だから、更に高機動を行うんじゃないか?


 「兄様は昔から私達の守護者ですから、あの程度で相打ちでは困ります」

 「そうじゃのう……。我も2度も相打ちではおもしろみがない。何か手を考えねばなるまいて」

 

 リムちゃん達の話しは、聞き流しておこう。何度もあってたまるか。3回目は俺の命を絶たれそうな気がしてならない。こんな時には話題を変えるに限るな。

 

 「ユング、ワニはアリガーとしてすでに俺達と戦をしてるし、今回はクロコダイルだ。南米にはそれ以外にも危険な奴がいるのか?」

 

 俺の言葉にしばらく考えているようだったが、端末を使ってスクリーンを展開した。どうやら説明してくれるらしい。


 「危険な奴というのをどの様に定義するかで違ってくるが、凶暴で、俺達が対応するのに苦労しそうな生物と言えば、こいつだな」

 そこに映し出されたのは、アリの大群だった。まるで川のように小さなアリが動いている。


 「軍隊アリだ。黒い絨毯じゅうたんとも言われている。小さなアリではあるがその流れに飲まれた生物は全て食べられてしまう。骨しか残らないって感じかな。アナコンダを数十倍にするバイオテクノロジーを使って、軍隊アリを強化したら……、タグの大群どころの話ではないぞ」


 指揮所が静まり返る。カチンとタバコに火を点けるユングのライターの音がやけに大きく聞こえるほどだ。


「来るじゃろうな。防ぐ手立ては……、これから考えることになろう。1つ訊ねるが天敵はおるのか?」

 「いるんだろうが、俺は知らないな。それに、巨大化させたら天敵も意味がない。ああ、そうだ。蜘蛛もいるぞ。タランチュラ辺りが巨大化したらやはり問題だな」


 どちらにしても問題だ。要するに巨大化した生物に対する対抗手段を確保することになるんだろうな。ラティによる狙撃で対抗できるのは期間限定ってことになりそうだ。

 

 「やはり殺虫剤でシューってことになるのか?」

 「巨大化した昆虫にどれだけ効き目があるのかは疑問だが、1つの方法ではあるな。バビロンにコンタクトしてみるか。化学技術があまりないから、天然で手に入るもので代用出来るかを確認してみるよ」


 後は、榴散弾と集束爆弾ぐらいしか思い浮かばないな。どれぐらい大きくなるかは分らないがタグの2倍はないだろう。昆虫の大きさは大気中の酸素濃度に関係すると言われているから、あまり巨大化すると動きが鈍くなるんじゃないかな。それだと生物兵器として役立たないだろう。


 「すでに作り始めておるやも知れぬ。対応策は多めに用意しておいたほうが良さそうじゃ」

 「となると、榴散弾と集束爆弾も用意しておいたほうがいい。広域殲滅兵器でないと対応が困難だ」

 俺の言葉に、しっかりとユングが頷いている。たぶんすでに考えてたんだろう。

 

 「それなりの手はあると言うことじゃな。じゃが、それ程開発する時間がないぞ」

 「すでに確立した兵器ですから、バビロンの製作設備で作れるはずだ。問題は、あの頭の固い神官だな」

 

 アルマゲドンを経験しているから、武器の供与にはかなり抵抗がある事は確かだ。だが、ABC兵器でなければ、交渉の余地はある。それに、この戦については協力を約束していることもある。高圧的な態度で臨まぬ限り、供与は可能だろう。

 

 「ミーアとリムで行ってくれぬか?」

 サーシャちゃんの言葉に2人が頷いて席を立つ。かなり距離があるから、バジュラで向かうのかな?

 指揮所を離れる2人にフラウが傍に駆け寄って何やら耳打ちしているのが気になるな。


 「これで、打つ手は打ったことになる。大型飛行船がウルドに到着すれば、原油が100タルは届くはずじゃ。砲弾の欠乏も少しは補充できるじゃろう」

 

 イオンクラフトの爆撃は続いている。それでも敵の総数が少しずつ増えてはいるが、攻撃を開始する様子はない。南の軍団から北東に移動する敵軍は、以前から比べると数を減じている。それでも細い流れとなって移動しているから、ウルドとミーミルの役目は中々終わりにならないようだな。


 「ヨルムンガンドの穴掘りを一時取りやめて、飛行船をスクルドに常駐させるのも手だぞ」

 「その手は我も考えたが、やはり優先すべきはヨルムンガンドじゃろう。中々によい考えじゃ。ベルダンディ近くの運河の幅は30mを超えておる。潮の満ち引きが土砂を海に運んでおるようじゃ。北側の護岸は補強しておるから、南岸が侵食されておるのう」


 スクリーンにベルダンディが映し出された。確かに南には川のような姿でヨルムンガンドが映し出されている。

 潮の流れで工事が進むなら、適当に穴を開けるだけでもいいんじゃないか? 部分的なヨルムンガンドの運用を開始したことで工事がはかどっているようだ。


 「数年では出来ないと思っていたけど、結構何とかなるんだな」

 「ああ。ところで1つ気になるんだが……。大西洋と太平洋の海面の高さって同じなんだよな」


 俺の言葉にユングは驚いたような顔をしている。何かあるんだろうか?


 「潮の満ち引きが月の引力で左右されることは知っているな。この世界には月が2つある。俺達の時代と違って、その差が大きいんだ。そして、経度や緯度、地形等によって満潮と干潮の時間が微妙に異なるんだ。ヨルムンガンドは緯度が同じだけど、経度は大きく異なる。そうだな30度ぐらい違うんじゃないか。時間差が2時間もあるんだ。

 その時の海面の高低差は20mをこえるんじゃないか?」


 ちょっと聞いただけでは、途方もない急流が出来そうだが、ヨルムンガンドの長さは3千kmに達する。互いの大洋が直接流れ込むような事態にはならないはずだ。ヨルムンガンドの流れは潮の満ち引きで起こるだけになるだろう。スクルドではそれ程流れを意識できないかも知れない。

 となると、問題が1つ出てくる。潮の動きで土砂が堆積する可能性が高くなるのだ。潮流の速い部分は侵食されるが、緩くなれば堆積してしまう。

 姉貴はそれを考えているのだろうか? 早々に確認する必要があるな。


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