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R-070 敵軍の池作り

 「やはり、南が問題じゃな。後続の軍と合流して続々と膨らんでおる。現状で約6万。前回よりも少し多いが、まだこちらに向かって来ぬ」

 

 スクルドを中心とした半径100kmの範囲を仮想スクリーンに映しながら、サーシャちゃんがぼやいている。

 すでに夕食を済ませて2時間が経過している。北の敵軍はスクルドを離れてミーミル方面に移動しているが、数万の軍勢の後が無ければミーミルで殲滅は可能だろう。

 西の軍勢はそのままだが、20kmほどの距離をおいて団子状態だ。いくら俺達よりも身体能力が高いとはいえ、西の石壁に押し寄せるまでには3時間以上かかるだろう。その間は長砲身砲の餌食になるだけだ。

 そして問題の南方向になるわけだが、スクルドからの距離は10km程、確かに短砲身砲の射程外にはなる。そこに横2km程の梯団を数段に作っている。その後ろに次々と団列が作られているのは、俺が見ても問題だと思う光景だ。


 「こうも綺麗に並ばれると、爆撃の効果があまり期待できないのじゃ。今の内に、爆裂球をばら撒こうかのう……」

 「集束爆裂球を100個程作らせてあります。それをイオンクラフトで撒きましょうか?」

 「そうじゃな。爆弾で穴をあまり作るのも後々の問題じゃ。それで良いとして、場所はここじゃ。動いたとしても到達までには1時間はかかるじゃろう」


 伸びるボールペンで示した場所は、後続の軍が列を作っている場所だ。最後尾を爆撃したら、確かに動きだしそうな感じだ。

 動いたところを砲撃して進軍速度を落とすのが一番なんだが、連中はそれぐらいでは怯まないだろうな。


 「迎撃準備は動き出してからで構わぬじゃろう。とは言っても、すでに壁際で待機しておるようじゃが……」

 

 昨晩のことを考えて、皆早急に準備を整えているに違いない。サラレイにグレネード弾はたっぷり用意しておけと伝えてあるから、館の上も準備は出来ているだろうな。

 

 「キャルミラさんから連絡です。『攻撃準備完了』以上です」

 「うむ。ミーア、攻撃地点を伝えてくれ!」

 

 ミーアちゃんが通信機を取り出して、カタカタと電鍵を打っている。

 これでどう動くかだな。距離が近いから、攻撃はすぐに始まるだろう。タバコを取出して火を点けると、その時を待つ。


 拡大された仮想スクリーンにイオンクラフトの編隊が南に移動するのが見えた。直ぐに、爆撃が始まる。南北方向に6機並んだ編隊が東から西に低速で飛行しながら爆裂球を投下しているようだ。

 スクリーンに爆裂球の炸裂が白点になって西に移動して行く。それに伴なって、赤の輝点が波のように北に向かって動いていた。


 「やはり、威力がイマイチじゃな。うねりはあるが、あれでは動かぬじゃろう」

 「となれば、やはり後続を待っていると見てよいようじゃな」

 

 画像からは、一旦うねるように移動した敵軍の段列が再び梯団を作り始めているのがわかる。ある意味、統制が執れているとも見えるな。

 

 「ディー、敵軍の構成がわかるか?」

 「アリガー、航空兵、小型の悪魔、通常悪魔の4種です。アリガーの指揮官クラスは通常悪魔の区分に入りますが、赤外線画像からでは判別できません」

 

 新たな種類はないようだ。小型悪魔は悪魔軍の航空部隊が落としていく爆弾代わりなんだろう。【メルダム】を地上付近で放ってくる。

 

 「婿殿、何か気になるのか?」

 「向こうの指揮官もそれなりにいるはず。爆裂球の投下でもあまり変化はなかったから、少し知恵もあるようだ。昨夜の力攻めを再度行う位の指揮をとるなら、あの攻撃で敵軍の攻撃が始まると俺も思ってたんだが、それをしないとなると……。何かを待ってる?」

 

 俺の言葉に、サーシャちゃんがにやりと笑ったけど、その癖はどうにも治らないようだ。


 「我も、同じ考えじゃ。一応、敵との距離は離れておるから、動いてからでも我等の迎撃体制はどうとでもなる。敵の航空攻撃が厄介じゃが、ユング達とディーがおれば十分じゃろう。……それで、話は戻るが、何を待っておるかを早急に調べねばなるまい」


 最初はサルが俺達の敵だと思っていたけど、数百年前からその姿を消している。テーバイの東の堤防に攻め込んだのは悪魔達だった。

 だが、この大陸に俺達が進攻してからは、ワニのようなアリガーや、自爆攻撃に徹した小型の悪魔すら現れた。敵の技術力は俺達の想像以上ということになる。

 だとしたら……。

 

 「サーシャちゃん、ククルカン周辺の敵軍を拡大してくれないか?」

 「後続の軍団の兵種の相違を見るのじゃな? 確かに良い考えじゃ」


 壁に仮想スクリーンが拡大投影される。

 南に集結している敵軍と同じように赤の輝点が、かつてのククルカンを通って北に流れているのが見える。まるで赤い川のような流れに見えるな。


 「サーシャちゃん、暗視野に切替えてくれ」


 俺の依頼に、すぐに画像がモノトーンに切り替わる。沢山の兵員が隊列を組んで動いている姿が拡大して表示された。

 

 「ディー、再度、兵員の種類を確認してくれ」

 「了解です。…… ……区分け終了しました。兵員の種別は変わりませんが、少し変わったものを持っているようです。画像を更に拡大してください。……これです。何を持っているのでしょう?」


 最初見た時は、食料を入れた袋を担いでいるようにも見えた。

 だが、悪魔軍は食料を共食いで確保している。弱った兵員は仲間に食われるのだ。それを考えると、新たにこんな袋を下げた兵員が生まれる理由が検討もつかない。


 「不思議な光景じゃが、どれ程おるのじゃ?」

 「アリガーの全てが何かを背負っています。進軍する兵士の三分の二という事になるでしょう」

 

 「袋を持った連中がどこから始まっているか分かるか? それと、その連中の先頭はどの辺りになる?」

 「出現位置はこの流れを越える位置になります。先頭集団はククルカンの北東80kmで袋を投棄しています」

 

 大型仮想スクリーンの画像が投棄地点に移動する。そこに現れたのは小さな池のようなものだった。周囲にも池があるし、あちこちに穴が開いているから、かつて飛行船の爆撃を受けた場所なんだろう。


 「池をつくっておるのか? 確かにあれだけの軍勢が運んでくるのじゃ。すぐに池の水を確保出来ようが……、じゃが、池の水を飲もうとする者が1人もおらぬ」

 「となると、悪魔軍の次の兵種が少し分かってくるな。乾燥に耐えられない生物ということになりそうだ。ヨルムンガンドには部分的に水があるから、存分に動くことが出来そうだ」


 そんな生物とはいったい何なのだろう? 南アメリカには大型の肉食獣はピューマ位しか思い浮かばないぞ。

 

 「アリガーを作ったような輩じゃ。どんな生物を合成するか分からぬな。我等の常識であまり考えぬようにせねばなるまい。とは言え、まだまだスクルドには距離がある。何がやって来るか楽しみじゃな」


 楽しみで済めばいいのだが、今は待つしかなさそうだ。

 となると、現在南で勢揃いしている連中を間引きする外に手は無さそうだ。


 「次は次だと割り切れば、西と南を何とかする必要があるでしょう。西の部隊に夜襲をかけてみましょうか?」

 「1万と少しじゃが、数は減るか……。向こうが来ぬならそれも手ではある」

 「南にはナパーム弾を落としてみますか? 既に後続部隊とは孤立しています。早めに手を打てば、南軍と呼応した戦にもならないでしょう」


 各個殲滅ってことか? ミーアちゃんは基本に忠実だからな。とは言え、いまだに1万を超える軍勢ではある。俺達の5倍近いんじゃないか。


 「となれば、南西よりイオンクラフトで爆撃するがよい。機銃掃射は東西方向に行えばかなり削減できる。最後は……、ミーア、2個中隊を率いてここで迎撃じゃ。お婆ちゃんも参加して欲しいのじゃが」

 「かまわぬぞ。南が動かねば退屈するだけじゃ」


 アテーナイ様とミーアちゃんが指揮所を後にした。

 リムちゃんもサーシャちゃんに小さく頷くと後にしたがって去っていく。


 「これで、南と東、そして北からの攻撃が出来るのう……。我なら、すかさず南軍を動かしてこの砦を強襲するのじゃが、果たしてどうかのう」


 サーシャちゃんとしては動いてほしいって事かな?そんな事になったらとんでもなく忙しくなりそうだ。 

 だが、100km程東には既に飛行船が1隻待機している。それなりに準備が出来ているって事だろう。


 ユングに貰ったスティックコーヒーを飲みながら、シュタインさんの形見のパイプを使う。金の象嵌が施された品だったが、今では所々に模様があるだけだ。

 サーシャちゃんは紅茶を飲みながら、大型スクリーンをジッと眺めている。そろそろ、ミーアちゃん達が指揮所を出て30分ほどになるな。


 「だいぶ、西が賑やかだな」

 「西の敵軍を間引くつもりのようだ」

 ユングが指揮所にやってきて俺の隣に座る。ディーが俺に小さく頷いて指揮所を出て行った。たぶん館の上に行ったんだろう。ユングがここにいるなら南からの航空部隊への備えが不足するからな。

 従兵に言いつけて、ユングの取り出したカップにお湯を注いで貰う。嬉しそうにユングがバッグからコーヒースティックを取り出してる。

 

 「南の動きが無いのが不気味だな。暇に任せて集束爆裂球を作っておいたぞ。20個はあるから、ディーが使えば【メルダム】並みに敵軍を吹き飛ばせるだろう。必ず、ヨルムンガンドの南を狙えよ。せっかく作った運河を壊されたくないからな」

 「ああ、助かるよ。それで今の話だが、どうやら新たな強敵を連れてくるようだ。その到着を待っているんじゃないかと俺達は考えてる。奴らの進軍ルートに池を作り始めたんだ」


 「池だと!」

 ユングが絶句して何か考え込んでしまった。目の前に仮想スクリーンを展開して、画像を高速で表示させながら調べているようだ。


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