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R-069 1人荒地を駆けて来る者


 日が上がると、あれ程の勢いのあった敵軍の攻撃が潮を引くように下火になり、やがて終了した。

 あちこちの部隊から被害報告が入ってくるが、負傷者だけでも200名を越えている。とは言え戦死者がいないのだから、俺達の勝利と言えるんだろうな。

 大隊長や中隊長が、簡単な報告を終えると、指揮所を去って行く。これから数時間の仮眠を取るのだろう。現在は周囲の見張りさえおかずに、兵を休ませている。ディーやユング達がいる以上、監視兵以上に周囲の状況を知ることができる。

 俺も、簡単な朝食を終えると、指揮所の隅で横になる。


 指揮所のざわつきで目を覚ます。

 何時の間にか指揮所には10人以上の指揮官が集まって、今後の対策を話し合っていたようだ。


 「起きたか! 顔を洗ってこい。少しおもしろくなってきたぞ」

 ユングの言葉に従って水場に向かって歩き出した。あちこちに新たな欺瞞用の焚き火を作る焚き木が積んである。次の強襲が何時来るか分からないから直ぐに準備しているのだろう。

 

 冷たい水で顔を洗うと、急いで指揮所に戻る。サーシャちゃんの隣の席に着く。直ぐに従兵が簡単な食事を運んでくれた。急いで食べて会議に加わる。


 「……ということで、これからは東が煩くなるじゃろう。お婆ちゃん達も東に向かって移動を開始したようじゃ。じゃが、あの戦車じゃからのう、1日10M(1.5km)が良い所じゃ」

 「2個大隊が堤防を作りながら前進している以上仕方がないだろうな。それより問題なのは線路の工事だ。戦闘工兵、1個中隊では進捗が遅すぎる」

 「それはウルドも同じじゃ。単線で先を急ぐ必要があるのう……」


 列車砲より先に装甲列車を走らせるつもりなんだろうか?

 問題は機動車だよな。それが製作できれば、後はなんとでも出来そうな気がするけどね。とは言え、ユングがここにいるということは開発の目処が立ったということなんだろうな。

 

 「で、何時運んでくるのじゃ? ベルダンディよりは我等のウルドで必要になりそうじゃ」

 「バビロンの手を借りれば早いんだろうが、なるべく自主開発したい。少し変わった形態になったけど10t貨車を10両は引けるはずだ」

 

 ユングがそう言って仮想スクリーンを開く。

 なんか、カタツムリみたいな感じだな。長さは20m、横幅は3mといったところだろう。カタツムリの殻のように見えるのは、はずみ車を納めたケースらしいけど、確かに変な感じだな。

 

 「イオンクラフトに使用している水素タービンエンジンの仕組みを使ってあのはずみ車を動かしてる。トルクを稼ぐのに、あれしか思い浮かばなかった」

 「まるでダラシットじゃな」


 サーシャちゃんの言葉に皆が頷いてるのは当然だと思う。

 似た形なら、それなりに親しみは持てるだろうけど、愛称はダラシットに決まりだろうな。


 「まあ形はあれだけど、75mm長砲身砲を12門運べるぞ。各砲の弾丸運搬量は50発、砲兵も1個小隊運べる」

 「なら十分じゃな。同時に2つ運用したかったが、それは後でもよい。次もあるじゃろうし……」

 

 「大型飛行船を使って、少しずつ運んでくる筈だ。他の輸送品もあるから現地組立てを考えると一ヶ月は先になりそうだぞ」

 「その辺りで使えるなら都合がいい。まだまだ水門を切るわけにはいかぬからウルドの防衛をきちんとせねばならぬ」

 

 攻撃的な防衛ってことか? 敵の航空部隊の攻撃を跳ね返せるだけの仕組みを整えないと線路を破壊されたら終わりのような気もするけどな。

 

 「まあ、先の話はこれぐらいでいいじゃろう。問題はこれじゃ! 現時点での西の勢力は1万程度じゃ。じゃが、南の勢力は後続が次々と合流する。今夜には5万を超え、その後ろには5万を超える部隊がこちらに向かっている。南は炎で牽制できるとしても東が面倒じゃのう」


 現在は2km程南に下がっているようだ。その後方30km程には次の部隊が北に向かって進んでいる。北東方向に進む部隊もあるようだが、半数がこの砦に向かうとなれば昨夜以上の強襲を受けることになる。

 それに北東方向に進む部隊が水を張ったヨルムンガンドを迂回して西に向かったならばかなり問題だぞ。

 

 「石積みは交代で進めております。先ずは東を優先させましょう」

 「南も足りないにゃ。炎の壁がなくとも耐えられないと後が苦しいにゃ」

 

 「原油を使った炎の壁は後3回は可能じゃ。確かに壁の工事は急務じゃな。ユングに任せてもよいか?」

 

 突然話を振られたユングが咳き込んでるぞ。人間くさい動作だが、タバコを吸っていたんだな。


 「まあ、そうなるか。明人、戦闘工兵を借りるぞ!」

 俺とエイルーさんが頷くのを見て、サーシャちゃんにユングが大きく頷いた。

 

 「もうすぐ、連合王国より大型飛行船が弾薬を運んでくるはずじゃ。更に戦は続くじゃろうが、我等の敗退はあり得ぬ」

 

 サーシャちゃんの決意に皆が大きく頷いている。こういうところはさすが元連合王国の総指揮官というところだな。

 皆が立上がって、指揮所を去って行くと、サーシャちゃんが大きな溜息をついた。

 残ったのはミーアちゃんにリムちゃんだから、身内ではあるけど、ちょっと行儀が悪いぞ。


 「やはり……」

 「退屈そうに見えますからね」

 「そうなのじゃ……。『こっちのほうがおもしろそうじゃ』と言うてきた」


 テーブルにぺたんと上半身を投げ出して片手だけで端末を操作すると、仮想スクリーンが1つ立上がった。

 スクルドを中心にした半径1千kmの地図なのだが、西から緑の光点が猛速度でこちらに移動しているぞ。


 「この速さじゃ。昼には到着するじゃろうな。まあ、適当に刈り取って貰ってお帰り願うしか無さそうじゃ……」

 「でも、お気に入りの兄様もおりますから……」

 「兄様の援軍とすれば、喜ばれますよ」

 「そうじゃな。実力は認めるが、作戦を掻き回されるのも嫌じゃ。ここはアキトにあずけようぞ!」


 俺の意思は全く無視なのか? だけど、この速度は半端じゃないぞ。ひょっとして、アテーナイ様が単騎やってきたとかじゃないだろうな?


 「アキトの思うとおりじゃ。全く困ったお婆ちゃんじゃ」

 「でもそれだけ、私達を心配してるってことじゃないですか?」


 ミーアちゃん、それはかなり好意的な考えだと俺は思うぞ。絶対に、自分の楽しみでやって来るに違いないんだから。

 とは言え、アテーナイ様は確か戦闘用オートマタだと聞いたことがあるぞ。

 ユングやミーアちゃん達は汎用だし、ディーは強行偵察用だったな。ワンマンアーミィのアテーナイ様が戦闘用に特化した体を持ったら地上最強になるんじゃないか?

 

 「俺達を心配してやって来るんじゃないかな。でも、そうなると姉貴の方はちょっと手薄になりかねないぞ」

 「ミズキも、ガス抜きは必要じゃと言うておる。まあ、ミズキがいる限りベルダンディは落ちはせぬ」

 

 なら、現状では最適な援軍と言えるんじゃないか? 戦闘能力は昔並みでも1個分隊並みの働きはしていたし、疲れを知らない体なら館の上に1人で置いておいても上ってくる敵兵を殲滅出来るだろう。2個分隊を他の支援に回せるならそれだけでも助かるぞ。

 

 「なら、館の上は俺と、ディー。それにアテーナイ様で十分だ。見張りと、館の上に昨夜陣取った分隊は原隊に戻してくれ」

 「了解じゃ。とは言っても、1分隊は必要じゃろう。引き続きディーには南からの航空部隊の狙撃を行ってもらうつもりじゃ」

 「依頼は受けますが、銃弾が不足しています。AK47の予備はありませんか?」

 

 狙撃銃の弾丸が昨夜でかなり消耗したって事か? 気が付かなかったな。

 リムちゃんが、端末でどこかに連絡しているから、予備の銃を手配しているんだろう。だけど、AK47は狙撃には向かなかったんじゃなかったか?

 

 「となれば、原油タルをあまり使わずに済みそうじゃ。後続の爆撃をもう1隻にさせるのも手じゃな」

 「次の便で小型爆弾が届きますから、それをばら撒きましょうか?」

 

 3人でまた何やら相談を始めたぞ。

 炎の壁を間引きして俺達に対応を任せるのか? それもちょっと問題な気がするけどアテーナイ様は喜びそうだ。

 2階の石壁が高さを増してくれていればいいのだけれど、1日ではそれ程高くは出来まい。後ろから1分隊に援護してもらって頑張るしか無さそうだな。


 昼食は、補給所近くにあるリムちゃんの部隊でご馳走になった。携帯食料を使ったスープだけど、昔に比べて干し肉の分量が多くなったようだ。元遊牧民の牧畜は盛んになっているのかな。

 お礼を言って指揮所に戻ると、従者がお茶を出してくれる。パイプの煙に気が付いて、テーブルの顔ぶれを眺めると……、アテーナイ様がこちらを見ていた。


 「お久しぶりです。姉貴の世話で、ご迷惑をおかけしてます」

 「何の、容易たやすいことじゃ。じゃが、向こうは退屈でかなわん。こっちがおもしろそうじゃ」

 

 「お婆ちゃんが、アキトといっしょに館を守ってくれるそうじゃ。よろしく頼むぞ!」

 上手く言いくるめたんだろうな。まあ、来てしまったものは仕方がないか。

 

 「かなりの激戦です。炎の壁が無ければ敵の侵入を阻止出来ません」

 「そうでなくては来たかいがないというものじゃ。何、我と婿殿がおればだいじょうぶじゃろう」


 ニコニコ顔で言われても、ちょっと自信がないぞ。ディーと分隊に期待するかな。

 ディーを見ると背中にAK47を背負っている。弾薬ポーチは腰のベルトの左右に着けているから、マガジンを6個は持っているのだろう。膨らんだ大きなポーチには爆裂球がたくさん入っているはずだ。

 アテーナイ様の装備も、俺とほとんど同じだが大きな長剣を背負っている。ユングのもつ長剣よりも幅広で長そうだ。あんなのを振れるんだろうか?

 

 「そうじゃ、ミズキよりこれを預かってきたぞ。爆裂球より威力はあるとのことじゃが、我はこれでよい」

 そう言って、大きな革袋をディーに渡している。「これです!」とディーが2個渡してくれたのはパイナップル型の手榴弾だ。ベルトのスリングに取り付けたけど、今夜早速使いそうだな。

 アテーナイ様は鎖を巻きつけた爆裂球をミーアちゃん達に配ってるけど、それぐらいの加工なら今からでも準備出来そうだぞ。


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