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R-066 北が動いた


 日暮れ直前に偽装の焚火の準備を亀兵隊達が始めたようだ。砦の内部に4箇所程作っている。

 北の石塀の先にも作るようだが、どちらかというと敵の夜襲に備えるのが目的のようだ。

 東西と南には数個ずつ光球が早くも浮かんでいる。砦よりも100m程離れた場所に浮かんでいるのは射撃を容易にするためだろう。


 「サーシャは北に気付いていたようだな」

 「ああ、準備は整っておると言っていたが、何をするかは教えてくれなかったな」

 

 まあ、現在の砦の総指揮はサーシャちゃんが執っているから心配はないんだろうけど、俺達には教えても良かったんじゃないか。

 

 「昔と変わりないってことだな」

 そんな呟きがユングから漏れてくる。現在のところは「兵を休ませよ!」との指示があったぐらいだ。サラレイの分隊は2人を残して横になっている。

 俺とユングは仮想スクリーンを眺めながら状況を確認しているんだが、南はやはり10万以上に膨れ上がっている。西も数万はいるようだな。

 たまに砲撃が敵陣に着弾してわらわらと蠢いているんだが、あれで効いているんだろうか?


 「ちょっとした牽制ってことだろう。上手くいけばアリガーの指揮者を倒せる。現在の着弾点は陣の後方だからな」

 「来るなら早い方がいいんだけどな」

 

 俺の言葉にユングが頷いた。小さな焚火に座りながら互いにその時を待っている。

 日が沈むと急速に闇が辺りを包み始めた。今夜は星も出ないのか?

 

 「ベルダンディ所属の小型飛行船が南方より接近中。現在の距離200km。1時間もせずに2隻の飛行船がやってきます」

 『来るならウルドではないのか?』

 「間違いありません。ベルダンディの名で通信を送って来ています。通信内容は『南方敵軍の爆撃』ということです」

 

 ユングと顔を見合わせる。

 このタイミングで爆撃だと? 敵の西を狙うのか、それとも中心部なのか?

 

 「東に追いやるには暗すぎる。敵陣に落とすだろうな」

 「ウルドより小型飛行船発進。到着予定時刻2300とのことです」

 

 急に、動き始めたな。ウルドからの部隊が本当の爆撃部隊なんだろう。ベルダンディの部隊は見せ掛けってことになる。とすれば、敵のど真ん中に落として去って行くはずだ。

 

 「襲撃を22時過ぎと読んでいるようだな」

 「そんな感じだ。20時を過ぎたらもう一度水を撒いておこう」

 

 一休みした連中が起き出して、簡単な食事を始めたようだ。食べられるときは食べておこう。今夜は長そうだからな。

 軽く、天幕に水を撒いて襲撃に備える。持てるだけのグレネード弾と銃弾を持たせれば俺達の準備はOKだ。


 「指揮所からです。『スクルド中心より、東西線の北を飛行禁止とする。欺瞞用の焚き火に火を点けよ』以上ですが、監視所に別命があります。『敵の航空部隊に注意せよ』以上です」

 天幕から這い出してきた通信兵が大声で俺達に伝えると、すぐに天幕に戻って行った。

 

 あの焚き火から北は何とかなるってことか? ユングと共に火が点けられたばかりの焚き火を睨む。そろそろ、この焚き火も火を落とさなければなるまい。傍らのAK47を取って腰を上げる。

 

 「俺は、フラウと南方からやって来る部隊を担当する。航空部隊を含めてだ。ディーに西を任せれば、東はリムがいるから何とかなるだろう。だけど……」

 「ああ、【メルダム】数発は覚悟の上だ」

 互いに肩を叩きあうと、ユング達が暗闇に消えていく。ディーも狙撃銃を手に東に消えていく。

 

 「我等は指示があり次第、別行動になろう。それまではアキトと一緒じゃ」

 キャルミラさんはそう言うと、2階の端に作った欺瞞用の小さな焚火に向かうとパイプを取出した。元々が欺瞞ようだからその近くでパイプを楽しむには問題が無さそうだけど、ちょっと心配だな。ドワーフの青年もキャルミラさんの近くに座り込んでパイプを取出したぞ。

 

 「キャルミラさん。ここは敵の攻撃目標になりますよ」

 「心配無用じゃ。この場で仮想スクリーンを眺めておればよい。敵の航空部隊が現れたら、指揮所の指示を待たずに出発する。イオンクラフトはこのすぐ下にある」

 

 飛下りてすぐに出かけられる場所ってことか。床の端から下を覗くと、天幕に覆われたイオンクラフトが置いてある。

 やがて、南から接近してきた飛行船が仮想スクリーンに映し出された。

 俺も、タバコを取出して、キャルミラさんの映し出した映像を見守ることにする。


 「やはり、敵陣の中を通るようじゃな」

 飛行船はキャルミラさんの呟き通りに一直線に敵陣に飛行を続けている。高度は千m程上空らしい。敵の航空部隊もすぐには到達できない高さだ。

 

 やがて敵陣に白い爆炎が上がる。10箇所程に炸裂した爆弾は焼夷弾らしいな。中々爆炎が治まらない。

 爆撃を終えた飛行船が北西に進路を変えていく。今度は西の敵陣を叩くのだろうか。

 腰を上げて南を石壁越しに見ると数箇所から火の手が上がっているように見える。

 爆撃に呼応するように、砲撃が始まった。新たな爆炎は火の手の周辺に集中しているから、砲撃目標として爆撃したようだ。まだ、敵の航空部隊が動かないから砲撃方向は分かっても正確ではないからな。

 

 「人間相手なら士気を低下できるのじゃが、悪魔相手ではのう……。じゃが、誘いであれば十分じゃな」

 炎に映し出される敵軍が蠢きだしたのが分かる。あえてこの時間に敵を誘ったに違い無いな。

 そんな俺達のところに通信兵が駆け寄ってきた。

 

 「指揮所から指示が出ています……」

 メモを見ながら報告してくれた内容は、全軍への戦闘待機だ。砲兵隊には砲撃停止の指示まで出ている。イオンクラフト部隊には爆装状態で機上待機、リムちゃんの短砲身砲部隊にも南3kmを射程にした状態で発射待機となっていた。


 「通信機に戻る前に館の上にいる連中に伝えてくれ。お前達はなるべく天幕に隠れているんだぞ!」

 俺の指示に片腕で胸を叩き了解の仕草をすると、分隊長のところに向かって行く。この館の上には2個分隊程がいるからな。グレネード弾と爆裂球を使えば草々ここまで上ってこれまい。それに南の石塀には館の西にエイルーさん、東にはエイダスの連中が待ち構えている。今では1m程水深があるヨルムンガンドの堀も敵を阻止するのに役立ってくれるだろう。


 「ウルドの飛行船のコースがスクルドより過ぎるのう……。敵の先鋒を狙うのじゃろうがこれではヨルムンガンドを破壊することにもなりかねん」

 

 立上がって南を眺めていた俺は直ぐにキャルミラさんが手元に展開した仮想スクリーンに目を移した。スクリーンをそれ程大きくしていないからキャルミラさんの隣に移動して覗き込む。

 

 「スクルドというよりは、ヨルムンガンドに沿ってやってきますね」

 「ヨルムンガンドは3つの砦を繋いでおる。ヨルムンガンドの上を飛べば進路を間違えることはない。それでかも知れんな」

 

 すでに、スクルドの東300km付近にまで到達している。確かにキャルミラさんの言う通りかも知れないが、それならこれまでもこのコースを来たはずだ。今回のコース取りは初めてじゃないか? 新米の連中なんだろうか? それとも意図があるのか……。


 「動き始めたようじゃ。一斉に動くのはやはり無理なのじゃろう。北の敵軍が最初じゃな。スクルドに【メルダム】攻撃を加えて、狼煙代わりにするつもりじゃろうて」

 「サーシャちゃんが砦の北部を飛行禁止区域にしてます。果たして、敵の航空部隊を阻止出来るのか疑問です」

 「北の石塀には1個大隊がおる。弾幕を張って阻止しようとするなら……。一部は突破できような」


 「行くぞ!」と傍らのドワーフの青年に声をかけてキャルミラさんが立上がった。ヒョイと2階から飛び降りると、ドワーフの青年もその後を追う。

俺が下を覗き込もうと、床の端に向かうと、直ぐ目の前をイオンクラフトが上昇していく。しばらくは上空で固定銃座の役割を果たすんだろうな。

 ここも、しばらくすると敵の目標になりそうだ。近くにある焚き木を数本焚き火に放り込んで、サラレイの傍に向かうと、石塀越しに南を睨む。


 「北が動いたぞ。たぶんスクルドに【メルダム】が放たれたら、南と西の敵軍が動く」

 「了解です。準備は整っていますし、毛布に水を含ませたものを石塀近くに置いています。避難所に間に合わなければそれに包まれと、指示しています」

 「できれば、毛布の片側を開いておけ。棒を1本立てるだけでも、直ぐに潜り込める筈だ」


 数人が直ぐに石壁に用意された濡れた毛布の片側を棒や、木箱で広げ始めた。10個程の水桶も用意されているから、俺達に出来る事はここまでだな。

 

 「ここでしたか。指揮所より連絡です。『ヨルムンガンドにタルを落とす。敵の攻勢に合わせてタルに【メル】を放て!』以上です」

 通信兵が俺を探していたようだ。少しあちこちに移動してたからな。館の2階は思った以上に広い。

 俺に、それだけ伝えると、通信兵が去って行った。

 ひょっとして、最初からヨルムンガンドにタルを投げ込むのがウルドの飛行船の目的か? だとしたら、タルの中身は……、原油だな。【メル】を放てば水面に広がってヨルムンガンドが炎の障壁になる。

 サーシャちゃん達はの防壁で南の攻撃を阻止しようと言うのだろう。大型飛行船で沢山運んでるんだろう。使うのは初めてだが、これからも使うつもりに違いない。

 余裕を持っているのはそういうわけか……。だが、そうなると余計に北側が気になるな。


 「【メル】は3人が使えます。とは言えネコ族ですから……」

 「左右は気にしなくていいだろう。目の前のタルなら精々2,3個のはずだ」

 

 サラレイが気にしているようだが、卑屈になることはない。何と言っても夜の監視はネコ族を凌ぐ者はいないんだから。

 仮想スクリーンを開いて様子を見る。北の航空部隊は既に20km程に迫っている。前よりも飛行距離が長いのは背中の翼がより大型化したせいなのだろう。

 東の小型飛行船も50kmを切っているぞ。後10分足らずでタルがヨルムンガンドに投げ込まれるにちがいない。

 サラレイを近くの避難所に誘って、タバコを楽しむ。しばらくは吸うこともままならなくなりそうだ。


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