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R-065 北の敵軍の変わった航空部隊


 「俺達のレールガンは射程が短かいんだよなあ……」とユングが嘆きながらも、フラウが袋から取出したAK47を背中に背負う。マガジンポーチを腰の左右になるようにベルトに取り付けていたけど、それだけでマガジン6個になるはずだ。

 たぶんそれ以外にもマガジンは持っているんだろうけど、最後に装備ベルトに吊り下げたのは3個の爆裂球だった。一回り大きく見えるのは鉄片を周りに巻いているのかもしれないな。俺の持っていた爆裂球は渡してしまったけど、姉貴に貰った手榴弾がベルトの吊り具に1個付いているし、バッグにも3個入っている。

 

 ディーがどっからか拾ってきた空き箱に砦の地図を広げていると、ユングがやって来てラッキーストライクの封を切って俺に差し出した。有難く1本貰うと、ユングが咥えたタバコにライターで先に火を点けてあげた。

 

 「済まんな」

 「昔は逆だったな……」

 そんな事を言って互いに笑いあう。フラウが入れてくれたコーヒーを飲んでいると、遥か昔の思い出がよみがえってくる。


 「ピークは3日後だそうだ。適当に休ませないと兵が持たん」

 「予備兵力は、あそこのアルトさんの部隊だな。2個中隊で火消しはきつそうだ」

 

 少しでも敵兵力を減らすことが必要だ。75mm長砲身砲で周辺を散発的に砲撃してるが、あれでは敵の注意を引くばかりだろう。

 サーシャちゃんとしては集めるだけ集めて叩くつもりだろうが、その前に味方の兵が消耗してしまう。100時間以上休みなく戦える兵隊などいないからな。

 バジュラでの蹂躙は稼働時間が限られているし、リムちゃん率いる短砲身砲は敵の突撃に合わせて使うのだろう。グレネードランチャーは数が多いが、そもそも敵の削減にはあまり役立たない。射程が数百mというのが問題だな。

 残りは爆裂球だが、敵の突撃に使えば2回程で使い切ってしまいそうだ。

 イオンクラフトの爆撃も10機では50kg爆弾を一度に20個落とせるだけだし、機銃掃射も4丁の銃で撃てる数は500発程度でしかない。

 


 「やはり、ディーが頼みか……」

 「南の敵軍にレールガンを使うのか? 日のある内にやってこい。不足するエナジーならフラウが供給出来る筈だ。というか、フラウも同行すれば10撃以上できるぞ!」

 

 そんな話でフラウを呼んで確認すると、やはり可能だそうだ。

 西から10撃を指示すると直ぐにフラウといっしょに飛んで行った。本当に飛んで行ったな。

 残った俺達は仮想スクリーンを開いて状況を見守ることにした。

 サーシャちゃんにも連絡を入れると、帰り掛けに北から西に3射して欲しいと頼まれたぞ。直ぐにユング経由で2人に連絡を入れて貰った。

 

 「やはり、少し多いと考えていたようだな。どれぐらい減るかは分からないが、1万は減るんじゃないか?」


 そんな楽観的な話をしながら2本目のタバコに火を点ける。

 何時の間にか周囲の雑踏が無くなっていた。聞こえるのは、散発的な砲撃音だけだ。

 10m程先にいるサイラスを呼び寄せて状況を聞くと、敵が後退したとの事だ。

 仮想スクリーンを拡大して見ると、確かにヨルムンガンドの南に300m程下がっている。グレネード弾が届かないぎりぎりまで下がったようだ。


 「兵を休ませて、弾薬の補給をしておけ。今夜は必ず来るぞ!」

 「すでに手配済みです。半数を休ませました」

 

 そのまま砦を攻撃してこないのは、兵力が貯まるのを待っているという事だろう。敵の主力がアリガーに取って代わりつつあるのも嫌な感じだ。

 

 「明人、始まったぞ! やはり口径が大きいレールガンの威力は半端じゃないな」

 ユングに教えられて、仮想スクリーンを覗き込む。

 10秒もたたない内に一直線に敵兵が刈り取られていく。敵の集団の半ば以上に達しているな。ディーが10体いればこの戦は終るんじゃないか?

 

 「流石は軍用の体だな。俺達とは性能が段違いだ」

 「威力偵察専用らしいが、本人の前ではあまり言わないでくれよ」

 「言わないさ。俺にだってそれぐらいの心配りはできるぞ」

 

 ある意味、ユング達と同じだからな。ユング達が持っていたマイクロマシンで今ではかなり性能が上がっている。殆ど人間族と変わらない姿だからな。感情も何時の間にか育ったようだ。ネウサナトラムでいろいろとバイトをしていた成果の1つだと思う。ラミィだって子供達とよく遊んでいるのを見掛けたし、ユングも自分の仲間を育てるのにいろいろと苦労したんだろう。


 ディー達は、10m程移動しながらレールガンを放っているようだ。南北100m程の範囲で殺戮が行われたことになるな。

 仮想スクリーンのディー達を示す。緑の光点が北東に移動し始めた。次はサーシャちゃんの依頼分を実施するのだろう。

 

 「やはり長射程は魅力だな。俺のベレッタは200mがやっとだ」

 「それでも、期待しなければならない。イザとなればユング達が頼りだ」

 「ああ、一応準備はしてきた。航空兵力を投入されたら今のようにはいかないからな」

 

 性能だけをみればディーを数段上回っているからな。頼りにさせてもらおう。

 それからしばらく経って、ディー達が帰ったきた。疲れた表情を見せることもなく、俺の隣に腰を落ち着ける。


 「キャルミラさんが手持ち無沙汰にしてました。しばらく出動がなければこちらに来るように伝えてあります」

 「ありがとう。キャルミラさんはイオンクラフトで待機だったっけ? ここで待っていても良いと思うな。出番は夜だろうしね」

 「あのイオンクラフトか。なら荷台には300kg以上乗せられるはずだ」

 「集束爆裂球を作っておくか。20個は乗せられるぞ」


 ディーが俺の言葉を聞くと隣から立上がって、2階から下りていく。集積場に出掛けたのかな?

 「リムがいるんだろう? たぶん準備しているさ。だが、あの時の少女だと気付いた時には驚いたな。天寿を全うしたんだから、両親も満足しているに違いない」

 「ああ、3人とも幸せな人生だったと思うぞ。だが、今は俺達の近くにいる」

 

 ユングが小さな水筒を取出して、俺達が飲み干したお茶のカップに注いだ。ほれ! と俺にカップをよこす。 一口飲むと……、酒じゃないか!


 「……それだけ、明人が心配だったんだろうな。いい妹達じゃないか。まあ、俺にもラミィという妹ができたから、それほど羨ましくはないぞ」

 そう言って、カップを傾けながら笑い声を上げている。

 ユングの隣でお茶を飲んでいるフラウについてはどう思っているんだろうな? 俺はそっちの方が気になるぞ。ちょっと気取った美人がフラウに対する俺の印象だ。ユングが昔のままなら……、まあ、今更それを言っても始まらないけどな。

 

 そんな俺達のところに、ディーが2人連れで帰ってきた。キャルミラさんとドワーフの若者が一緒だ。

  

 『25個をイオンクラフトに積んでおる。落とすのに少年兵では不安だろうと、1人付けてくれたのじゃ』

 そんなキャルミラさんの話しに、若者が頭を下げる。背中にはAK47があるし、腰のベルトには弾薬ポーチが2つ付けてある。落としたら、ここにいてもらっても良さそうだな。

 

 『で、状況はどうなのじゃ?』

 「かなり南に集結してますよ。西の敵兵の一部は北東に移動しています。たぶんミーミルに向かっているのでしょう」

 『数万なら問題無かろうが……、すでに10万を超えておるのじゃな』

 「ディーがレールガンで少し数を減らしているが、今夜中には減らした数よりも増えるのは確実だ」

 

 その数を減らす為に、ウルドから小型飛行船が爆撃に出ているのだが、焼け石に水って感じだな。もっとも、やらなければ更に増えるんだろうけどね。

 それにしても、サーシャちゃん達がおとなしいな。散発的な砲撃が思い出したように続いているだけだ。今は砦に押し寄せていた悪魔軍も数百m程離れた場所で俺達と睨み合いをしている。

 北と東の敵兵はどうやら駆逐したようだ。となると、夜間は西と南から同時に押し寄せて来ることになるのかな……。


 「北と東に敵軍がいないのが気になるな」

 「向こうだって、馬鹿ではない。ちゃんと指揮官はいるんだろうな。地上はこの方向から、航空部隊はこの方向からと考えるのが常識ではあるんだが……」

 

 戦術ってわけだな。確かに常識ではあるな。この場合は逆に考えるといいと姉貴が言っていたな。そうなると、敵軍は俺達の後方からで航空部隊は南方からになる。だが、後方に回りこむ敵は今のところいないから……、ちょっと待てよ!

 仮想スクリーンに映る地上の範囲を拡大して、ミーミルを目指して進んで行く敵軍の状況をみる。

 そこに映し出されたのは北東100km程のところで停滞している敵軍の姿だった。確かにミーミル方向に移動している部隊もあるのだが、数万に近い部隊がその場で止まっている。

 いや、止まっているんじゃなくて、少しずつスクルドに近付いているぞ。行軍の速度を落としているようだ。その為に集団が後退しているように見えるのだろう。

 

 「画像を拡大して見ろ!」

 ユングの言葉に画像を拡大する。歩みを遅くした連中の姿が拡大された。

 背中に折畳まれた羽があるのが半数、それにかなり小型の悪魔の姿だ。

 

 「この羽はだいぶ大きいな。小さな個体も気になる」

 「まさか、この個体を輸送して来るんじゃないだろうな?」

 「輸送は可能でしょう。彼等の魔法はエルフ族を凌駕しています。【アクセル】を使えるなら、十分に荷を運ぶことができるでしょう」

 

 フラウの言葉に俺達は愕然とした。となると、北からの攻撃が可能になるし、あの小さな個体が【メルダム】を使えるなら、スクルドをじゅうたん爆撃が出来るぞ。

 

 「約5千の航空部隊になります。情報をサーシャ様に伝えますか?」

 ディーが具申していたが、日暮れにはまだ時間がある。敵が襲ってくるなら夜間だからな。

 「日暮れ30分前までに、サーシャちゃんに動きが無ければ、この情報を送ってくれ。意外と知っているような気がするぞ」

 

 たぶん指揮所でミーアちゃんと一緒にこの画像を眺めてるんじゃないかな? サーシャちゃんが見逃すとは思えない。これも誘いの内ということなんだろう。

 となると、今夜はかなり忙しくなりそうだな。


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