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R-064 もうすぐ夜がやってくる


 「エイダス派遣軍第1大隊第4中隊第4小隊の第4分隊です。私ラウレス以下9名。何なりとご指示ください」

 俺の前に整列した9名を前に分隊長が報告してきた。

 「かなり面倒な依頼だがお前達なら十分だ。武器は少し旧式かも知れないけど、体力に合っているなら問題ない。とは言え、壁に接近しなければ銃は使わなくてもいい。だが、夜間の狙撃は頼りにしてるぞ。お前達にはグレネードランチャーを使ってもらう。無ければ直ぐにリムちゃんのところで数を揃えるんだ。弾丸は運べるだけ運んで石の間に入れておくんだ。夜間に【メルダム】攻撃を受けそうだからな」


 「既に準備完了です。弾丸は500発運んであります。手持ちを12個として弾薬箱を野ざらしにはしておりません。銃の弾丸は各自60発を装備。更に300発を運んでおります」

 

 既に完了してるのか? そういえば3人ともオートマタの体なんだよな。常に通信をリンクしてるんだろう。でなければこんなに早く準備が出来るとは思えない。

 

 「よし。俺達の任務は、このヨルムンガンドになるべく敵を近づけさせないことだ。敵に向かってグレネードを打ち込んでくれればいい。10発打ち込んだら交代して弾薬を補給すればいいだろう。なるべく広範囲に撃ち込んでくれ。攻撃を開始する前に、【メルダム】の炎から身を隠す場所を押さえとけよ。無ければ、天幕を用意して水でぬらしておけ重ねて使えば直接炎に炙られることはない」


 俺の言葉が終ると、ラウレスは後ろに体を向けて、分隊を2つに分けた。数名がハシゴを降りていく。残った半数は簡易天幕を作りかけの壁に寄添うようにして作り始めた。やはり身を隠すよい場所が無かったようだ。張り終えた天幕に水を被せて、その上に濡らした天幕の布を被せている。使った水桶は再び水を汲んできたようだ。何か燃え出しても初期消火は出来るだろう。

 20m程離れて作った避難場所の南壁に彼等は陣取り、グレネードランチャー放ち始めた。敵の半数以上がアリガーだから、グレネード弾の炸裂に伴なう被害半径は直径3m程だが、それなりに効果はある。倒れた仲間を先を争って共食いするから半径10mはそんな光景が起こるのだ。

 戦闘工兵ならそのまま銃を撃つように射撃をするのだが、ネコ族となるとそうもいかないようだ。作り掛けの石壁に銃身バレルの基部を押し付けるようにして固定して撃っている。それでも、2分程度に1発は撃てるから、各自が数発も放つと、南から攻め込もうとしていた敵軍の足が乱れ始める。

 AK47のバレルしたに付いている小型のグレネードランチャーを使っていたら、弾丸補給から帰ってきた兵士が10発程新たなグレネード弾を渡してくれた。

 近くのタルの上に転がして、適当に南に向かって放つ。既に砦の東方向にも敵軍が動いているようだ。今の状況では南に銃身を向ければ、狙いを付ける必要すらない。このまま夜を迎えるのだろうか? 

 

 「ここでしたか。現在スクルドを取巻く敵兵は、南に約3万、西に5万、北に1万それに東に約3千。合計約10万の敵兵が囲んでいます。アルトさんの率いる2個中隊は待機状態ですから、このままの状態が続けば辛うじて持ちこたえられるでしょう。後続の敵兵の半数が北東に向かっています」

 ピョンピョンと跳ねるように館の工事現場を移動して俺を探し当てたディーが報告してくれた。


 「状況は余りよくないようだな」

 「サーシャ様は『狙い通りじゃ』と言ってましたよ。必ずしもこの場で敵を殲滅させる考えは持っていないようです」


 サーシャちゃんや姉貴の作戦はベルダンディからスクルドまでのヨルムンガンド工事を邪魔されたくないってことだからな。確かに予定通りなんだろう。だけど。敵の進路がスクルドの東彼方に移行するまで、この砦が持つのかが心配だな。今日1日でどれだけ弾薬を使うか想像出来ないぞ。


 「ところで、敵の航空兵はやはり紛れているのか?」

 「かなりの数が観測できました。50体以上倒していますが、その数倍は存在すると考えられます。今夜が1つの山になるでしょうね」

 

 腰のバッグから魔法の袋を取出して、狙撃銃の弾丸クリップをワシ掴みに抜取ってディーに手渡した。

 100発以上あるから、砦にやって来るかなりの敵航空兵を葬れるだろう。

 

 「西から壁伝いに敵が来るにゃ!」

 工事中の南壁は石が積み上げられ他だけの場所も多い。そんな石の隙間を銃眼代わりに使っていた女性兵士の1人が俺の方を振り返って教えてくれた。

 短剣を鏡代わりに使って壁の基部に群がる敵兵を見ていたようだ。

 

 「爆裂球をたまに落としてやれ。上がってくるようなら、知らせてくれ」

 俺の言葉を聞くと、直ぐに爆裂球を1個取出して下に落とした。殆ど真下だけど、爆裂球の炸裂ぐらいでは石壁はびくともしない。

 バッグから爆裂球を数個取出して彼女の前に置いた。

 ちょっと連絡要員が欲しくなるな。ディーもいるけど、夜間はディーも先頭に入るだろう。

 ディーに頼んで、リムちゃんの所から通信兵を派遣して貰うことにした。

 しばらくするとディーが大きなカゴを担いで、2人のネコ族の少年を連れて来た。兵士では無さそうだけど、ハンターなのか?


 「タイラスにヨーデルの2人です。義勇軍の通信兵とのことです。爆裂球60個とグレネード弾を200個、ライフル銃弾と拳銃弾を1箱ずつ運んできました」

 

 ラウレスを呼び寄せると弾薬の追加を知らせる。直ぐに弾薬保管場所へと部下に運ばせている。

 2人の通信兵を紹介すると、2階の作りかけの壁の一部に丸太を立て掛けて簡単なシェルターを作ってくれた。

 

 「この中なら、比較的安全です。【メルダム】攻撃を避ける時には、この空き箱の上の布を下ろせばいいでしょう」

 シェルターの入口は工事資材を運んできた空き箱を重ねて作ってある。全体は他のシェルターと同じに天幕用の布を濡らして被せてあるから確かにこれで十分だろう。中の広さは4㎡位だ。壁側に箱が1つ置いてあるから通信機を乗せてもメモ書きは出来るだろう。

 

 「夜はこの中にいるんだ。夕方に必ず布に水を掛けるんだぞ。武器は持っているのか?」

 「これを支給されました」

 タイラスがホルスターから取出した拳銃を受取って調べると、ネコ族ならではのシングルアクションリボルバーだ。38口径だが、シリンダーから引抜いた弾丸は少し変わってるな。弾丸は鉄を鉛で包んでいる。3mm程の鉄板なら撃ち抜けそうだ。まるで徹甲弾だな。ネコ族の兵士が、この弾丸を使っているならアリガー相手にも善戦出来るだろう。

 

 「銃弾は?」

 「ベルトポーチに12発。バッグに20発です」

 即答してくれたぞ。2人で撃てば、この少年達も戦力になりそうだ。

 「1台を指揮所の通信機に合わせておいてくれ。情報は逐次知らせて欲しい」

 了解ですと答えて、シェルターに入っていく。俺はこの近くにいれば状況を掴めるな。


 「適当に落としてるけど、それでも増えてるにゃ!」

 「ディー、東からレールガンを壁沿いに2発だ」

 

 直ぐにディーが石壁の上を器用に歩いて東に向かう。かなり離れたところまで歩いて行ったところでポンと外に飛下りた。

 キュィーンという高い音が2回聞こえたところで、再びディーが壁の上に戻って来た。トコトコとこっちに歩いてくるが、悪魔軍の中からの魔法攻撃はないようだ。夜に備えて温存しているのだろうか?


 「2撃終了です。エナジー残量85%。夕刻までには復帰します」

 「塀の上を歩いて魔法攻撃が無いのが気になる。夜間は期待するぞ。……それで、壁の下はどうなった?」

 「食事の最中にゃ。半分以上が倒れたにゃ!」

 これでまた少し余裕が出来る。

 

 「アルト様、西壁に移動する模様です」

 「ありがとう。たぶん壁までは行かないだろう。外の連中にグレネード弾を使うんじゃないかな」

 

 エイルーの所は激戦みたいだ。少し壁を登ってくる敵兵が増えたのだろう。サーシャちゃんがディーに援護を頼まないところをみると危機的状況には落ちいっていないんだろうな。

 壁に近付いて南を見と、ヨルムンガンドの南は敵兵の数で真っ黒に見える。たった20m程の浅い堀なんだが、堀の中で倒れている敵兵は10体もいないようだ。

 泥濘に足をとられるのが嫌なんだろうか? それとも水を嫌う何らかの理由があるのか……。

 まあ、その辺りは姉貴達が考えているだろう。姉貴が早々と西の水口を切って海水を引き込んだのはその辺の事情をしているのかもしれないな。


 それよりも、南が問題だ。ムチを振るように西から東に敵兵の移動ルートが変わっているとなると、いったいピークは何時になるんだ? あの敵軍が一斉に砦を目指す事態だけは避けなければならないぞ。

 

 「ディー。スクルドへ敵の進軍が直接ぶつかるのは何時間後だ?」

 「約、65時間後です」

 「この状態が更に酷くなるのか!」

 

 それでか……。長砲身砲の砲撃はまばらだし、リムちゃんの率いる短砲身砲は1発も発射されていない。サーシャちゃんはバジュラの稼働時間を気にしていたな。イオンクラフトもあれから出動していないようだ。

 全て、最盛期を越えるために温存してるということだろうか?

 

 「飛行船が1隻やってくるそうです」

 シェルターから顔を出した少年兵が俺に向かって教えてくれた。

 たぶんユングの船だ。さて、どっちからやって来るんだろう?

 

 しばらくすると、小型飛行船が東から爆裂球を落としながら近付いてくる。一端スクルドを通り過ぎて再び戻って来た。いったい幾つばら撒いたんだ? かなりの量を落としたぞ。

 戦闘真っ最中のスクルドの離着陸場に下りると、箱を幾つも下ろしている。ユング達は俺の方に真っ直ぐ歩いてきた。

 あらかじめ俺の居場所を確認したんだろうか。ユングの足取りに迷いは無いし、兵士に尋ねようともしない。

 

 「こっちのほうがおもしろそうだから、少し手伝いに来たぞ。工事の方は任せておいてもだいじょうぶそうだ」

 「ありがたい話だが、相手が多いぞ」

 「知ってるさ。それで、機関銃を少し持ってきた。3丁だが、マガジンは30個だ。

俺達もAK47は使えるからな」

 

 ラウレスを呼んで、機関銃を左右に振り分ける。マガジンはとりあえず各機関銃とも3個を用意しておくらしい。ユング達が来てくれると、対空攻撃に余裕ができるな。



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