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R-062 サーシャちゃんの采配


 「何じゃ、まだ準備が中途じゃのう」

 「お兄さんも色々と忙しかったのでしょう。それに現場の人ですし……」

 

 寂びしい言葉をミーアちゃんが言ってるけど、それって俺を庇ってくれてるんだよな。

 「まあ、よい。我等が来たからには問題も無かろう。部隊はいつここに着のじゃ?」

 「3日先行させましたから、夕刻には到着するかと……」

 

 リムちゃんの言葉をうんうんと頷きながらサーシャちゃんが聞いている。やはり最初からスクルドに姉貴が誘導することを想定していたみたいだな。

 「援軍もやってくるのか? 3個大隊で少し不安だったんだ」

 「援軍と言っても、2個小隊じゃ。リムが指揮をとる。大きな砦じゃから、末端までの輸送はほねじゃぞ。バジュラはミーアに任せて、我はアキトとこの指揮所におるつもりじゃ」


 「どうせなら、1個大隊を用意すべきじゃなかったのか?」

 2個小隊と聞いてアルトさんが文句を言い出した。確かに1個大隊は無理でも1個中隊は欲しかったな。

 「アキトとアルト姉様がおるのじゃ。我には援軍すらいらぬと思うておる」

 アルトさんの怒った顔が笑顔に変わったぞ。さすがサーシャちゃんだな。アルトさんの操縦が上手だ。


 「そうなると少し組織を変えないといけませんね」

 「何、砦内の輸送を手伝うだけじゃ。それ程変える事も無かろう。援軍の1分隊は治療専門じゃ。【サフロナ】使いが2名おるぞ。エルフの隠れ里の先遣隊じゃ」

 

 あのエルフの里からやって来たのか……。移住計画の最終段階を始めたんだな。俺達がこの大陸で戦っている間にも連合王国では色々と動きがあるようだ。

 

 「まあ、戦をしながら石塀を作れば良かろう。明日の昼には砦の監視所から敵軍を眺めることが出来る筈じゃ。戦が始まるとしても明日の夜になる。先ずは兵を休ませることじゃな」


 それは、既に指示を出している。今日の作業は早仕舞い。明日に備えてのんびり休息させる筈だ。

 「ミーミルがかなり頑張っておる。ミーミルを抜ける敵軍は今のところないようじゃが、北にカルート兵が2個中隊待機している。イオンクラフトの爆撃をかいくぐってもカルート兵で十分阻止出来よう。暇じゃと言って狩りに明け暮れておる。まあ、この大陸のハンターの良い手引書が出来るに違いない」


 端末を使って大きく映し出した北米大陸の地図に状況を映し出してサーシャちゃんが説明してくれた。

 商船隊が大陸北部に陸揚げした物資をミーミルと隠匿拠点に大型飛行船で運んでいる。そこからは小型の飛行船を使って砦や村に運んでいるようだ。残り2隻の大型飛行船は連合王国とこの大陸間を弾薬等の軍事物資を運んでいるらしい。

 まあ、それ以外にユングが専用の飛行船でヨルムンガンドの工事というか、爆撃を行っているけどね。


 テーブルの地図の上にパタパタとミーアちゃんが部隊配置の駒を置いている。その地図をお茶を飲みながら、サーシャちゃんが睨んでるぞ。

 「リム。どうじゃ?」

 「さすがはアルト姉様とお兄様だと思います。問題はこの短砲身砲ですね」

 「機動運用には都合がよい。昔の大砲よりは使い安そうじゃ。これを使うか?」

 

 リムちゃんが頷いてるぞ。確かに昔は大砲部隊も指揮していたような……。それよりもあのカチューシャはもう捨てたろうな?

 「輜重部隊は保全要員と合わせて、館のこの位置におります。治療部隊はその隣です」

 「合わせて、リムが指揮をするがよい。対空装備は準備が必要じゃ」

 

 「外への出入口は、この東門だけじゃな。ならば、アルト姉様は東で待機じゃ。東をなるべく守らねばなるまい。西からの回り込みと南から回り込みを牽制してもらう。後は……、75mm砲の砲撃箇所はこちらで指定する。砲撃グリッドの複写はディーに頼めるじゃろう。イオンクラフトの攻撃点も一緒じゃ。さて、これで準備が出来たのう」


 サーシャちゃんの言葉に頷いているのは嬢ちゃんずだけだぞ。他の3個大隊はそのままでいいのか? それに俺はどうする?

 そんな俺をサーシャちゃんが微笑ながら見ている。


 「アキトはここで我と共にいるがよい。ディーも一緒じゃ。イザとなれば、テーバイ戦のように、5千の敵兵を前に門を守った益荒男振りを見せて貰うのじゃ」

 大隊長達から、おおぉ……というため息に似た感嘆の声が上がったけど、今度は悪魔軍が相手だし、あれは殆どディーがやったようなものだぞ。

 

 「あの逸話は本当にあった事なのですね。ならば、北門を万が一の場合はお頼みします」

 サラレイが安心した表情で俺を見てるけど、あれは人間が相手だったし、そもそも俺一人じゃなかったぞ。

 「砦内に敵を入れぬことが大事じゃ。その辺りはアキトに期待できるじゃろう」

 

 ユングに手助けを頼んでみるか。近くならば応援してくれるだろうし、奴の持つベレッタはレールガンだからな。

 待てよ、それならディーのレールガンも使える筈だ。それに何と言っても気化爆弾を持っている。門の守備には最適なんじゃないか? 夜間は問題がありそうだが、昼間ならばエナジー切れを考える必要も無さそうだ。

 

 「破られそうなら、俺とディーが救援に向かうさ。そんな事態が生じないようにしてくれるとありがたいな」

 そんな俺の言葉をミーアちゃんが微笑ながら頷いている。

 たぶんバジュラで相当暴れるつもりだな。エイルーさん達が大きなプールを作ってくれたお蔭で、バジュラの燃料不足は、稼働時間をうまくやりくりすれば何とか成りそうだ。

 各部隊の基本的な配置を再度確認して大隊長達は引き上げて行った。残ったのは、俺達と嬢ちゃんずになる。

 「我らは通信機を使わずに連絡が可能じゃ。戦が始まれば集まることも出来まいが、連絡は出来るぞ。アルト姉様とキャルミラ殿は通信機を常備携帯して欲しい。操作が出来なくば通信兵を同行させることじゃ」

 端末があるからそれで連絡が出来るな。ディーが一緒なら全く問題ない。キャルミラさんにはイオンクラフトの通信兵3人をそのまま預ければいいだろう。

 イオンクラフトの整備兵を2人程荷台に乗せれば、爆裂球を広範囲に落とせそうだ。

 

 「まあ、ミズキもだいぶ急いでおるようじゃな。もう少し余裕があるかと思うておったのじゃが……」

 「アリガーの出現で、急いでいるんでしょうね。次に出現する怪物は更に強力なはずです」

 

 ワニの次があるというのか? 南米で彼等が利用するとしたら……、ジャガー、アナコンダ、それとも遺伝子変異で出来た新たな獣なのか? 姉貴がヨルムンガンドに早々と海水を流入させたのも、そんな裏があるからなのか?

 俺とアルトさんそれにキャルミラさんで顔を見合わせる。やはり同じようなことを考えているに違いない。

 

 「それは、今は考えずとも良いじゃろう。とりあえず、明日の昼過ぎには砦に40M(6km)程に近付くはずじゃ。明日が楽しみじゃのう……」

 

 そのニヤリ顔は直っていなかったようだな。どうやっていたぶってやろうかと考えてるのかな? それとも、サーシャちゃんの事だからしっかりと策が練られているのかも知れないな。

                  ・

                  ・

                  ・


 次の日。早めに昼食を終えて、主だった連中は指揮所に集まっている。すでに、敵軍の長い列は砦から10km程のところをゆっくりと近付いているのが、仮想スクリーンから見てとれる。2階の途中で工事が止まっている館に丸太を4本立てて見張り台を作ったようだが、その上に設けた監視台から、そろそろ敵が見えたと知らせてくるのは時間の問題だろう。

 

 「兵は配置についておるな。見張り台の知らせで、75mm砲を使うぞ。射撃地点はここじゃ。ヨルムンガンドに近いから、ヨルムンガンドへ砲弾を撃ち込まぬように注意致せ。ユングに嫌味を言われたくないからのう……」

 

 堀の真ん中なら問題ないだろうが、北側の土手に撃ち込んだら、確かに文句を言いそうだ。もう3ヶ月以上爆撃だけを継続しているからな。少しはストレスが溜まってるだろう。

 タバコに火を点けて、自分の端末で仮想スクリーンを広げると、もう少し画像の範囲を広げて状況を眺める。

 ベルダンディからの小型飛行船による爆撃で、ククルカンを過ぎた辺りから東に悪魔軍の進路が変わっている。後続の進路をそのまま延ばせば、この砦の東に達しそうだ。

 

 「分かるか? ミズキの作戦はウルドとスクルドの中間地帯に悪魔軍を誘導することじゃ。まあ、考え方としては我も賛成じゃが、問題もある。……爆弾と小型飛行船が足りぬ。ミズキの作戦は後数日で終るじゃろう。ベルダンディに蓄えた爆弾を全て使い切ってしまってな。アリガーが半数近い敵軍にはあまり爆裂球は効かぬ。鎖を巻いて威力を増す手立てはあるが、所詮一時凌ぎじゃ」

 

 だが、一度進軍ルートを変えた悪魔軍が直ぐに元の進軍ルートに戻るだろうか? ククルカンから北上していた敵軍は、すでに東北東に進路を変えている。

 比較的戦闘から離れていられるってことは……、大工事の始まりか?

 

 「隠匿拠点の守備兵の一部がベルダンディに移動を始めたようじゃ。大陸西部を北に向かった敵軍は既に遠ざかっている。前にしか進まぬ兵なら危険はない。我等の戦は敵を引き付けて叩きながら、その移動進路を東に変えることが目的じゃ。簡単ではないが、

アキトと我等がおるのじゃ。出来なければミズキに笑われるぞ」

 

 ここで迎え撃つだけではダメだということか? 西から東に移動させるのが本来の目的って事だな。となると、イオンクラフトの攻撃方法もそれに合わることになるんだろうな。


 指揮所の隅にある通信兵のテーブルが騒がしくなった。控えている伝令がメモを持ってテーブルに走ってくる。

 

 「監視所からです。『西に黒い壁が東西に伸びている』以上です!」

 「ご苦労。砲撃開始じゃ。場所はここでよいじゃろう。10分間隔で撃て」

 

 ミーアちゃんが地図のグリッドを読み取って、砲撃地点の座標をメモにすると、伝令に渡している。

 通信機のカタカタという電鍵の音が一段落すると、鈍い砲撃の音が聞こえてきた。

 いよいよ始まったか。サーシャちゃんは楽しそうにテーブルの地図に乗せられた部隊の駒を眺めている。リムちゃんは既に自分の部隊で出番を待っているはずだ。

 

 「さて、少し派手に始めようかのう。ミーア、向かうはここじゃ!」

 「少しはもう一人の私に残しておきましょう!」

 2人で微笑ながら頷いてるのが怖いな。ミーアちゃんが俺に手を振って出て行く姿を眺めながらそう思った。

 


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