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R-061 スクルド始動真近

 「どうやら、分ってしまったにゃ!」

 不安げな顔をエイルーさんが俺に向けたけど、こんな表情は初めて見るぞ。それだけ敵の軍勢を評価しているんだろう。固定数ではなく限りなく後ろから繰り出される軍隊は脅威以外の何ものでもない。たとえ俺達が兵器の面では著しく優れているが、弾数には限りがある。ちょっとでも補給が途絶えたら、敵に飲み込まれる可能性は十分にあるのだ。それは俺達が奴らの食料になることに等しい。


 「やはり10日は掛からなかったね。だけど、敵の本隊との距離は、まだ3日はあるな」

 「すでに、ヨルムンガンドの堀は東西30km以上をぬかるみにしています。ベルダンディからの海水流入は西から150kmに達しているらしいですぞ」


 ラミネスは第1強襲大隊の隊長だ。壮年だけど、部下からの信頼は厚い。

 「準備はすべて整っています。やはり敵軍はスクルドの西を抜けるのでしょうか?」

 サラレイは第2強襲大隊の隊長だが、アルトさんといっしょに、第1強襲大隊の2個中隊を含めて、スクルドの外で戦う事になる。


 スクルドを取巻く石塀は昼夜兼行の作業で、西は何とか設計値である3.6mに達しているが、南は2m、北は西よりの半分程が2mを超えたところだ。東は1.5m程度で亀兵隊の持つ盾を並べて補強している状況だ。

 どう考えても西の防衛がいい所だな。後3日とは言うが、少なくとも1日前は休ませてやりたい。残り2日が防衛の準備期間になる。

 少しでも、石塀を高くするか……。


 「後3日だ。2日はまだ準備でいいだろう。3日目は全員待機状態で休息する。アルトさんはキャルミラさんと偵察を宜しく頼む。ディーは大砲の準備状況を確認してくれ」

 

 俺の指示で、皆が指揮所を出て行く。

 またしても、半地下構造の天幕だが、敵の【メルダム】が防げれば十分だ。石塀の要所にも似たような待機所を作っているから、全滅することはないだろう。石壁に盾を立て掛けたような場所もあるから、うまく逃げ込めば焼けど程度済むだろう。

 【サフロ】を使える魔道士を数人集めた救急所も3箇所に作ってあるから、それも役には立つはずだ。後はないだろうな……。

 テーブルに広げられた地図には10日程の期間に悪魔軍の進軍ルートの変化を1日毎に表示されている。

 真っ直ぐ北に向かっていた軍隊が今では北東に進路を変えている。このぐらいで進路変更を解除すると思いきや、いまだに悪魔軍の横、西側を広範囲に爆撃しているようだ。まだまだ、進路変更を止めないつもりなのだろうか? 

 この曲り方から行くと、後5日も続けたら俺達のスクルド砦に向かうことになるぞ!

 まさかとは思うけど……。姉貴の狙いは、俺達に阻止を行わせるつもりなのだろうか? 

 そうなると、南北と東の守りが十分ではないのは明白だ。もしも、後1日姉貴が爆撃を続けるようなら、亀兵隊を全て守りに付けねばなるまい。場合によってはサーシャちゃんから……、待てよ。確かバジュラを出すと言ってなかったか?

 サーシャちゃんは、最初から俺達が標的になることを想定してたって事だな。

 

 丁度、指揮所に戻って来たディーに、俺の考えを伝えてシュミュレーションをしてもらう。

 「マスターの危惧は、かなりの確率で発生します。このまま2日爆撃を続けた場合は、スクルドのほぼ真南に後続の悪魔軍の進路が変わることになるでしょう。現在、100kmほど西の進軍ルートがスクルドを直撃します」

 「やはり姉貴はこの砦を囮にして、工事を進めるつもりなのか……」

 「そのようですね。ベルダンディからスクルドの工事を邪魔されずに行いたいようです」


 俺の思い込みか……。だが、敵軍との接触は後3日はある。俺達の砦が取り囲まれた場合を想定して、戦術を考えねばな。

 地図を片付けて、もう一枚の地図を広げる。スクルドの砦を中心とした100km四方の地図だ。1kmが2cmだから2m四方になるんだが、これからはこの地図を主体に部隊を動かすことになるだろう。

 ディーが地図の上に、自在定規で曲線を作って乗せた。現在の敵の進軍ルートだな。

 

 「やはり、砦を出て迎撃は難しいだろうな」

 「圧力を掛けるなら十分ですが、敵軍の数を考えると阻止は出来ません」

 

ある意味篭城ろうじょう戦になるということだな。城の4倍の兵力なら落とせるということは良く聞く話だ。

俺達の総兵力は3千程度。1万2千人を用意すれば可能という事だろうが、敵軍の数はその10倍を軽く超えている。それを兵器の性能差で補うことで対応するのが俺達の役目だ。その性能差を上手く使うのが俺の役目って事になるのだろうが、基本はアウトレンジ攻撃ってことでいい筈だ。

100km先を攻撃出来るイオンクラフトは10機あるし、75mm砲も12門揃っている。無反動砲は40門だが、飛距離は3kmあるし、グレネードランチャーは亀兵隊の標準装備でもある。

 現場の判断を容易にするために、攻撃距離を表示する杭を打っておくか……。

 

 午後になって飛行船が2隻やってきた。大型から下ろされたのは、沢山の木材と木箱のようだ。小型でやってきたのはユング達だな。爆撃工事の帰りらしい。

 指揮所に2人でやって来たので、久しぶりにコーヒーを飲みながら雑談を始める。


 「銃弾を運んできたぞ」

 「助かるよ。どうやら、ここが戦場になりそうだ」

 「てっきり、この砦の西を通らせると思ったけど、やはり美月さんの考えは俺達の上をいくな。連戦になるといくら頑丈でも銃の故障がある。30丁運んできたぞ。機関銃も5丁入れといた」

 

 そんな事を言いながらカップを傾けている。

 銃の故障は想定して無かったが、さすがはオタクのユングだけの事はある。だが、事態の長期化を考えるとメンテナンス要員も欲しくなるな。食事作りも輪番制をとるのは負担があるようだ。

 敵を退けることも大事だが、砦の部隊をいかに効率よく使うかも問題なような気がするぞ。


 「飛行船がもう1隻明日にやって来るはずだ。北東の港からだが、2個小隊を運んでくる。保全部の連中が混じっているから、簡単な修理が出来るだろう。荷役もドワーフ族なら容易なはずだ。その次の飛行船でエイダス島から増援が来る。2個中隊だが、砦の防衛には役立つはずだ」

 「エイダスの守りは大丈夫なのか? 人間族とはいまだに軋轢があると聞いているが……」

 「殖民政策が起動に乗り始めている。続々と商船でこの大陸に入植しているよ。西の山脈沿いに2つも村が出来ている。連合王国の屯田兵達が進めている開拓地からは距離を取っているから、将来的にも争いはないんじゃないかな?」


 疑問文ってことは、ありえるとユングは考えているんだろう。だが、武器を融通することはないだろうから、俺達への挑戦なら簡単に潰せそうだ。

 

 「だが、全てをこちらに移動することは出来ないな」

 「パラム王国の兵力の半分だな。人間族を全て移動するには数年掛かりそうだし、防衛兵力がないというのも心配だ。悪魔族が次にどんな手を打ってくるかはわからない」

 

 それが一番気がかりだ。南米大陸に10億以上の規模で1大国家を築いている連中だ。その技術は肉体改造に掛けては俺達の文化を遥かに凌いでいる。姉貴も、それを考えてはいるのだろうが現段階では明確になっていない。

 だが、北への進軍ルートを断った時に、ヨルムンガンドを挟んでの睨み合いになるとは到底思えないことも確かだ。


 「その辺りは、嬢ちゃん達と美月さんに任せるさ。俺達はその手足で十分だ。俺も明人も決して先を読んで動くのが出来るとは言いがたいからな」

 「全くだ」

 

 俺の言葉にユングがにこりと笑いながら席を立った。

 「頑張れよ!」と言い残して指揮所を離れる。これから大西洋を渡るんだろうな。奴も色々と苦労してるに違いない。

 

 その夜。隊長達を集めて状況説明を行う。

 姉貴達の作戦が俺達の砦への敵軍の誘導だと知ると、驚きの表情を見せるが、非難する者は一人もいない。むしろこれからの激戦を知って武者震いをしているようにも見えるぞ。

 「ふむ。となればガルパスを降りて戦う事になりそうじゃのう」

 「全員を下ろさずに、火消し役は必要だろうね。スクルド砦は大きすぎる。急場に簡単に駆けつけるわけにはいかないだろう」

 「なら我に1個中隊を預けるのじゃ。強襲大隊から2個小隊ずつ引き抜くぞ!」

 

 志願者が殺到するんじゃないかな。エイルーさんはおもしろく無さそうだけど、ここは我慢してもらわねばなるまい。

 

 「西と南の半分は戦闘工兵部隊が受けもつにゃ。最初に戦闘に入るけど、壁がそれなりに出来てるにゃ」

 「なら私の部隊が北を受け持ちましょう。後1日あれば塀も少しは補強出来ます」

 「最後は俺の第1大隊だな。東と南の半分になるだろうが、最初から東は考えにくい。1個中隊を予備兵力にしておくぞ」

 

 「イオンクラフト部隊はキャルミラさんが指揮を取ってくれ。砲兵部隊は北からやってくる2個小隊に任せる。保全要員が混じっているから銃の簡単な修理は出来そうだ。援軍としてエイダスのパラム王国が2個中隊を出してくれる。エイダス島で悪魔軍と延々と戦ってきた連中だ。装備は少し古いが士気は高いぞ」

 

 レムルが育てた連中の子孫だからな。ネコ族だけあって愚直なまでに彼の指示を未だに守ってきた連中だ。大隊長達も頷いているところを見ると、エイダスの支援をありがたく思っているのだろう。

 

 「なら、エイダスの連中に南の石塀の東側を任せたらいいにゃ。万が一にも東を攻められたら心もとないにゃ」

 「確かに……。それなら、俺の部隊から1個中隊をアルト様に預けよう。初戦から東に来るとは思えん」

 ラミネスの言葉にサラネスも頷く。

 

 「後は、バジュラだが……。サーシャちゃん達が来てくれればの話しだ。ウルド砦も建設に忙しそうだからな」

 「来なければ呼び寄せればよい。じゃが、サーシャ達は約束は違えんはずじゃ。そうは言っても、腹案を持って来ようから砦の守りに組み込まぬ方が良かろう」

 

 俺の言葉にアルトさんが言葉を添えたけど、そうなんだよな……。何と言っても、初戦の大攻勢で姉貴の作戦をメチャメチャにしていることもある。

 早めにサーシャちゃん達の作戦を聞いておいた方がいいかも知れないぞ。


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