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R-059 水源確保?


 井戸掘りはボーリングするなら簡単らしいが、開放型で掘るとなると結構時間がかかるな。既に20日は掘っているんだが深さは60mほどでしかない。周囲の開口部は直径50m近くになっている。大きくなるにつれて岩山だから岩が出てくるのが問題だ。

その都度、フラウが刻んでくれるのだが、ユングが工事現場を見て呆れていたな。

 それでも、日々掘り進めればやがては井戸が出来る。それを思えば大げさな工事にも思えるがやり遂げなければなるまい。


 井戸掘りは戦闘工兵が担当しているが、砦の本館と石塀は強襲部隊が担当している。砦の規模は3平方kmと大きなものだが、石塀の土台を見るともう少し大きな砦になるみたいだ。


 「どうやら、北方向に1kmほど石塀を伸ばして線路を砦の中に取り込むようですよ」

 「どんどん、計画が変わっていくな。見張り用の塔は1つだったけど、東西の端に1棟ずつ作るみたいだ。本館も南の石塀と一体構造にするみたいだし、当初よりも館の規模が大きくなってる」

 昨日、様子を見に行ったら、横幅40m程の建物が80mを超えている。どうせ作るなら後世に残るものをという心理が働くのかも知れないけど、早く作らないと姉貴が怒り出すんじゃないか? そっちのほうが問題だぞ。


 「南の防壁はヨルムンガンドをちゃんと考慮してるんだろうな?」

 「その辺りに問題はないようです。防壁から45度の傾斜で石畳が設けられています。まだ、館の南が終了した程度ですが、運河になっても十分強度を保てることは私が確認しています」

 

 アルトさん達は『周辺監視じゃ!』と言いながら朝からキャルミラさんとイオンクラフトでお出掛け中だ。今のところ、異常はないらしい。夕刻になると『つまらん!』と言いながら戻ってくる。獣でも見つければ少しは気が晴れるんだろうけどね。

 

 「少なくとも、現状での砦建設はそれ程遅れはありません。サーシャ様達が巨大バジュラで砦南方のヨルムンガンド用地を整地してくれましたので、南方の防壁工事は予定よりも進んでいるぐらいです」

 「5日おきにやって来るユング達にも助けられるな。あれだけブロックを切り出してくれれば、建築用資材に困ることはない。ただ、補給が貧弱だな」

 

 大型飛行船は3隻あるがこの大陸に俺達の拠点もそれなりに出来ているのだ。この砦だけを優先することは出来ないだろう。

 北の港には商船が物資を運んできているらしいが、それを運ぶのは小型飛行船3隻だ。一度に5tは少なすぎる。それでも、1日おきにやって来るから弾薬は十分にある。

 ユング達はいまだに大西洋を越えてくるらしい。ヨルムンガンド予定地に爆弾を投下して帰って行くが、その都度俺達のところに顔を見せている。

 

 砦の用地内には大隊毎に天幕を張って、食事は1小隊が交代で作っているようだ。

 1日3回の食事は、俺達がいる館近くの指揮所を兼ねた天幕に各大隊長が副官を伴なって集まってくる。

 盾を横にしたテーブルは10人以上が優に食事を取れるからな。それに、食事は黒パンに野菜中心のスープがこのところずっと続いている。たまには新鮮な肉を食べさせたいものだな。

 

 「周辺に異常なしじゃ。つまらんのう」

 そんな事を言いながらアルトさん達が帰ってきた。俺はそれで十分だと思うんだけどね。

 「ごくろうさん。ところで、たまには肉を食べたいよね。何とかならないかな?」

 「前と同じに、小型飛行船で隠匿拠点に向かえば良いのじゃ。亀兵隊の士気も少しは上がるじゃろう。我等が引率するから獲物無しはあり得んぞ!」

 

 やはり、自分達も一緒に出掛けようと思ってるな。

 獲物の運搬を考えると、狩りに出掛けられるのは1個分隊程度だろう。事前に向こうのハンター達に獲物を狩って貰うのも手だな。


 「まあ、我等に任せておけばよい。明日から5日程出掛けてくるのじゃ!」

 そんなアルトさんの言葉にキャルミラさんも頷いている。やはり退屈だったのかな?

 

 12時少し前に3人の大隊長達が副官を連れてやってきた。

 食事を取りながら、状況報告を受ける。

 特に問題はないようだな。各大隊もそれなりに考えながら砦作りをしているようだ。

 そんな中、アルトさんが狩りに1分隊を連れて行くと言ったものだから、一騒ぎが起こったけど、いつも通りに阿弥陀クジで決着をつけた。

 今度は、第2襲撃大隊が幸運に預かったけど、分隊の数は70位あったんじゃないか? 自分の部隊に戻ってからの争奪戦が大変だろうな。


 それから、数日が過ぎて、満身の笑顔をたたえてアルトさんが帰ってきた。

 出掛ける時は小型飛行船だったけど、帰りは大型飛行船に獲物を乗せてきたぐらいだからこの大陸の西を南北に貫く山脈はたくさんの獣を育てているようだ。

 「一ヶ月に1度位は狩りをしても良さそうじゃな」

 そんなキャルミラさんの提言に、俺達は頷きながら久しぶりのシチューを味わった。


 順調に、砦作りが進んでいたある日のこと。

 「大変にゃ! 水が吹き出てきたにゃ」

 指揮所の天幕に転がり込むようにエイルーさんが駆け込んできた。

 急いで井戸掘りの現場に向かってみると……。噴水のように水が天高く吹き出ているぞ。少なくとも10m程の高さに鋭い噴流が達している。

 

 「毎分200ℓというところでしょうか。岩盤に開けた亀裂は小さいようです」

 「怪我人は出てないだろうな?」

 「だいじょうぶにゃ。でも、これだと工事が終わらないにゃ……」


 大きく掘り進んでいたスリ鉢状の井戸は、このままでは池になってしまいそうだ。昔のジャブローを思い出す。あれの泉も最初はこんなだったに違いない。

 「ユング達がやって来たら、対策を考えよう。水量が豊富ならば灌漑用水にも使えそうだ」

 「もう1つの方はどうするにゃ?」

 「池にすればいい。周辺をきちんとブロックで作ればこの泉から導水してプールにできそうだ。結構、夏は暑そうだからな。砦で暮らす連中も喜びそうだ。それにバジュラの休息場所にも出来そうだ」

 「分かったにゃ。プール作りを優先するにゃ」


 エイルーさんは部下達をまとめて、もう1つの井戸掘り現場に向かって行った。

 「ディー、状況の調査をしてくれないか? あまり出水量が多ければ対策も必要になる」

 現場にディーを残して、指揮所に引き上げる。そろそろ、ユング達がやってくる時刻だからな。

                  ・

                  ・

                  ・

 「噴水を作ったのか?」

 指揮所に入った途端に俺に向かってユングが話しかけてきた。

 「井戸を掘ってたんだが、岩盤の下に水脈があったらしい。何とか井戸に出来ないかとユングが来るのを待ってたんだ」

 

 テーブル越しに俺の前に座ると、マールボロを取出して1本引抜いた。残りの箱を俺の方に押しやる。

 俺が1本引抜いてユングの方に押しやると、微笑ながら俺のもつタバコに火を点けてくれた。自分のタバコに火を点けた所で戦闘服のベルトのポーチに押し込んでいる。


 「吐出量は、時間10㎥を超えていそうだ。高く吹き上げているところを見ると岩盤の亀裂は小さなものだろう。少し亀裂を広げといたほうがいいかも知れないな。数十mは掘り下げているから、周囲をブロックで囲みながら埋めていけばじゅうぶんだ。ディーを貸してくれないか? 3人なら2日も掛からないだろう。地上付近まで積上げれば、後は戦闘工兵ならそれほど苦労なく水源が作れるぞ」

 「ああ、お願いするよ。もう一つの井戸はその大きさを生かして貯水池にするつもりだ。これで砦北部に農地を作れるよ」

 

 北には線路を跨いで水路を通さなければならないが、それくらいは出来るだろう。水量が豊富だから、下水道も視野における。

 ユングがディーを連れて出て行ったから、明日の夕刻には形になりそうだな。

 

 そんなことで水量に討ち勝つように作られた井戸は、地上数mに組み上げられた頑丈な塔のように見えた。直径は5m程だが、石壁の厚さだけで1m近いから、敵の【メルダム】攻撃を受けてもビクともしないに違いない。

 そんな塔型水源から湧き出した水を導く水路をエイルーさん達が作っているけど、貯水池への導水路はちょっとした小川のようだ。水も綺麗だから養魚場も作れそうだな。

 

 更に一ヶ月が過ぎ去り、砦を取巻く石塀も2段程に積上げられている。

 本館は1階の外壁が終了して、部分的には内装が終った場所まで出てきた。

 1階の一角に指揮所を移転したから、少しはそれらしくなってきたな。最終的には2階に作る事になるんだけどね。

 

 そんなある日のこと。姉貴とアテーナイ様が尋ねてきた。

 指揮所に招き入れ、早速来訪の目的を聞いてみると、悪魔軍の移動方向を変えることだった。

 それは、この砦の目的でもあるのだが少し早くないか? まだ、石塀だって俺の膝を超える辺りまで出来たに過ぎない。

 

 「4面同時に工事を進めているけど、西を重点に進めて欲しいわ。それに水場は一時棚上げしてもいいんじゃないかな?」

 「それでも北はある程度の高さが欲しいな。まだ、大砲だって10門もない状態だ。亀兵隊が機動戦を得意にすると言っても、殲滅戦は得意じゃない」

 

 悪魔軍は接近させると問題だ。現在までは離れて機動戦で対処しているから幸いなことに怪我人が出た程度だが、多段に柵を築くとしても数万の大軍を3千で防ぐとなれば話は別だ。


 「サーシャ達が側面を手伝うそうじゃ。それに、イオンクラフト機を10機この砦に向かわせると言っておったぞ」

 「次の便で東の堤防から75mm砲を運んでくるわ。更に4門増えるわよ。機関銃は20丁の増強で我慢して頂戴」

 

 それでも被害がないとは言えないだろう。だが、今の情勢から考えるとそれが精一杯なのかも知れない。

 

 「分かった。だけど10日は待って欲しいな。それと、柵用の木材が大量に欲しい」

 「大型飛行船で3回分でいいかな? それ以上は運行計画に支障が出るわ」

 

 西部の山脈から運んでくるんだろうから、あまり無理は言えないな。ロープはユングに頼もう……。そう考えて、姉貴に頷く。

 

 「では、10日後に西から追い込むぞ。楽しみに待っておれ」

 最後に、アテーナイ様が俺にニコリと笑いかけて言ったことが気になるな。

  

 すぐに通信兵達を使いに出して大隊長達を集める。

 しばらくしてやってきた連中に先程の話をして、西に備える指示を出した。

 

 「西側を重点に石塀を作るのは戦闘工兵大隊に任せましょう。俺達は館作りを一時取りやめて、石塀の西に空堀を掘ります。柵作りは3日目からでも十分です」

 「先ずは、迎撃拠点をそれなりに作ろう。迎撃を戦闘工兵部隊に任せて、襲撃大隊は側面攻撃で翻弄すればいい」

 

 「防衛ならだいじょうぶにゃ。2M(300m)で1小隊を貼り付けられるにゃ。だけど、砲兵を別にしなければならないにゃ」

 「サーシャちゃんに強請ってみるか……」

 「我は、襲撃部隊の指揮をとるぞ。キャルミラにはイオンクラフトに通信兵を乗せて我等の反対側をつかせれば良かろう。たっぷりと爆裂球を積んでおけば色々と使えそうじゃ」

 

 アルトさんの言葉にキャルミラさんが頷いている。

 「そうなりますと、私はマスターと御一緒します。通信の要となれますし、気化爆弾は一度も使っておりません」

 

 どんどんと役割分担が決まっていく。どうやら俺はエイルーさんと共に敵を迎えなければならないようだ。

 


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