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R-057 ヨルムンガンドの3つ目の砦


 ウルドと比べても、そん色がない程、ベルダンディの砦は大きかった。

 砦の東西に砦本体から独立した望楼が建っている。30m程の砦本体は2階建てなのもウルドと同じだから、思わず微笑んでしまう。

 こちらのヨルムンガンドの工事完了区域はサーシャちゃん達と比べて少し短かいが、それでも20kmは進んでいるようだ。


 砦の西に位置する離着陸場にイオンクラフトを降下させると、待ち構えていた兵隊に案内されて砦に入って行く。

 2階に作戦指揮所があるところまでそっくりだ。

 兵に案内されて指揮所に入ると10人程の連中が地図を睨んでいた。


 「あら、アキトじゃない。アキトの方もいろいろと大変ねえ。後1年は敵を撹乱してくれると助かるわ」

 

 姉貴がそんな事を言いながら、俺達を大きなテーブル席の空いている椅子を勧めてくれた。


 「まあ、それは我等も同じじゃ。あれだけ派手に敵を殲滅させても、依然として南からの敵の進軍は続いておる。じゃが、ミズキの方はもう少しで戦にまき込まれじゃろうな」

 地図の上に示された悪魔軍の流れと、ヨルムンガンド工事先端部分の距離は、20km程になっているぞ。


「策はあるんだろう?」

 「策と言えるかどうかだけどね。やることは単純、砲撃で東に追いやる以外に手はないわ」

 そんな事を言っているわりには、表情が明かるいぞ。

 悪魔軍の進行ルートとぶつかっても対応できると考えているんだろうか?


 「機関銃にグレネードランチャーがあれば、十分じゃろう。昔、スマトルとの戦でサーシャが作らせた戦車というものを作っておる。既に、10両程が出来ておるから、30両を超えたところで、悪魔軍とぶつかるつもりじゃ」

 アテーナイ様が教えてくれたけど、昔のアテーナイ様より若返ってないか?

 どう見ても、20代前般にしか見えないぞ。

 

 「お婆ちゃんどうしたの?」

 リムちゃんの言葉にサーシャちゃん達がうんうんと頷いている。

 「この姿か? どうせなら若く見えた方が得じゃろう!」

 バビロンに行ってオートマタの体を手に入れたらしい。容姿のスペックを若い頃に変えたんだろうな。アダルトアルトさんの顔にそっくりだ。遺伝というのはやはり凄いものだと思う。たぶん性格まで母親譲りなんだろう。


 「戦車と言うよりは、可動式砲台と可動式銃座になるわ。それでも、周囲を3cmの木材と薄い鉄板を重ねて装甲してるから、敵の【メルダム】を受けても短時間なら耐えられるわ。それと、移動式の柵を一緒に動かせば側面を突くには十分過ぎるくらいよ」


 仮想スクリーンには、6輪車の亀のような車体が映し出された。

 かたわらの人間と比較すると、甲羅の高さは3m程ありそうだ。横幅は超えているだろう。甲羅の一部から短砲身の75mm砲が筒先を出しているぞ。甲羅の上部に機銃座を持った亀は上部のハッチが2つ付いているようだ。


 「これでは、機動戦は無理じゃな……」 

 「それは、亀兵隊の仕事でしょう? この戦車は1時間で動かせる距離は2kmも無いわ。でも、移動可能と言うのがあの戦車の売りなのよ」


 少しずつ前進できるという事だろう。固定砲台よりは使い手がありそうだ。だが、30両は少なくないか?

 

 「ミズキの方も線路を作っておるようじゃな。我等も作っておるのだが、目的は同じとみた。となると、大きな問題が発生する、砲台車を動かす方法に目処がたったということか?」

 「ユングに頼んでみたら、バビロンから荷が届いたわ。一応電車になるのかな。500tの貨車を曳く事が出来るわ。こっちの組立てが終ればサーシャちゃん達の砦に資材を送って組み立てて貰うわ」


 「それはありがたい。我らはバジュラで曳く事を考えていたのじゃが、動かす手立てがあれば、バジュラを他の目的に使う事ができる」


 戦車の援護射撃を列車砲で行うつもりだな。列車砲は大口径砲を使うのか、それとも150mm砲を使うのかが分からないけど、どちらにしても射程は20kmを超えるはずだ。


 「現在はそんな感じね。アキトにはもうしばらく敵をかく乱してほしいけど、もう1つ、頼んでいいかしら?」

 「『スクルト』の建設だろう。場所はこの辺りでいいのかな?」

 テーブルに広げられた地図で、途中で見掛けた岩場を指差した。

 

 「少し西側じゃな。我の方は問題ないぞ!」

 「こっちも、問題なし。ミーミルの代わりになるかもしれないから頑丈に作って頂戴」

 

 そうは言っても、資材は無いし、人力では限りが出るぞ。

 ユングにウミウシの体液を運んでもらって石を組み上げるか。ブロック作りはユング達は得意だったからな。できれば重機の代用が欲しいところだ。


 「ユングに手伝ってもらう。できれば小型の飛行船を借りたいな」

 「アキトの方でユングと交渉してくれない。砦作りで守って欲しいのは、ヨルムンガンドと線路の位置だけよ」

 「了解した。砦を作りながら悪魔軍を適当にあしらえばいいな。あまり大きなものは作れないと思うけど、一応、3個大隊が駐屯出来れば困らないだろう」


 これで、姉貴の考えるヨルムンガンドの全体像が見えてきたぞ。

 太平洋と大西洋を運河で繋いだ長大な防衛線がこの作戦の終了になる。

 その防衛線を超えようとする敵軍を殲滅するのが運河の北に平行して作られる線路と列車砲になるんだな。

 

 「問題が1つある。南からの悪魔軍の進行は爆撃で数を減らしているが、ミーミル南西部の悪魔軍は少しずつ膨らんでいる。ミーミル攻略に躍起になっている間はいいんだけれど、何時北に向かうとも限らないぞ」

 「すでに、大陸西岸を進むルートを移動する悪魔軍はいなくなったわ。彼らの進軍ルートは、ククルカンを出た後は、ミーミルの西にある湿地帯を東回りに抜けるルートが残っているのみ。将来のヨルムンガンド線を越えるころには、爆撃で半減してる。彼等は現在湖の南西部に陣を引いているから、確かに数が増えたら問題になるわ」


 「現在の小型飛行船は4隻。2隻ずつ東西の砦で運行管理を行っておる。ヨルムンガンドまではミズキに任せる。ヨルムンガンド以降は我等が爆撃で数を減らそうぞ」

 

 数減らしはサーシャちゃん達が頑張ってくれるみたいだ。なら、俺達は砦作りに専念できそうな気がするな

 姉貴達の攻撃は、俺達の砦がある程度出来た段階で始めるのだろう。

 3つの砦の連携は将来の話だが、たまにミーアちゃん達を連れて遊びに来るには問題がないだろう。


 姉貴達に別れを告げると、バジュラに乗ってウルドに帰還する。

 サーシャちゃん達と夕食を取り、砦の空き部屋に3個大隊の隊長と副官に招集をかけた。

 

 円卓に全員が揃ったことを確認して、姉貴からの要請を話す。

 それ程驚いていないという事は、ある程度予想していたのかもしれない。


 「場所と、資材が問題かと」

 「そうだな。ここに作る。岩場だから、ゴロゴロと岩がころがっている。ユングに頼んで、ブロックにして貰うつもりだ。セメントを使って組み上げれば堅固な砦が出来る」

 

 ディーが端末を操作して仮想スクリーンをテーブルの上に展開すると、岩場の画像を表示する。ゴツゴツした岩があちこちに突き出しているし、大小の岩が広く転がっている。


 「ちょっと岩が大きいにゃ。割るのに時間がかかるにゃ」

 「そこは、ユング達に任せれば大丈夫だ。ウルドで補給をしたら、出発したい。目的地は1万M(1500km)先だ。6日は掛かるぞ。余裕を見て8日分の食料と水を準備してくれ」

 「砦建設地に到着した後に補給は受けられるのですか?」

 「要請しておく。たぶん俺達が到着する前に補給物資を運搬してくれるだろう」

 

 打合せが終ると隊長達が部隊に帰って行く。

 明日は、たっぷりと補給品をガルパスに積み込むのだろう。その後はゆっくり睡眠を取って翌日に出発となる。


 「我等の準備は食料だけじゃな?」

 「それにイオンクラフトの燃料だな。一応、燃料カートリッジ1つで3千M(450km)は飛べるから、5個は積まなくてはならない。荷台は荷物で一杯になりそうだ」

 「我らは前に乗るから、荷台はアキトと通信兵じゃ。落ちぬようにな」


 確かに、キャルミラさんにアルトさんならディーと一緒に操縦席に乗れるな。

 どれぐらい荷台に物が積まれるかは分からないけど、場合によっては荷物の上に掴まって飛ぶことになりそうだ。荷の固定はしっかりしておかねばなるまい。


 次の日。荷造りはディー達に任せて、サーシャちゃん達のいる指揮所を訪ねる。

 砦をどの様に作れば良いのか、アドバイスが欲しかったのだが、俺が顔を見せると、すぐに数枚の図面を渡された。

 

 「まあ、アキトじゃからのう。ミズキに頼まれても悩むだけじゃろう。我等の考えを図面にしてある。これをそのまま使うも良し、現場にあわせて変更するも良し。じゃが、南と北の門と付帯設備はその図面の通りにした方が後々の為じゃ」

 サーシャちゃんの言葉にミーアちゃんとリムちゃんまでが頷いている。

 敵に向かって門を作るというのが少し気にはなるが、軍略家の言うことだからな。ちゃんと作っておくに越したことはない。


 「ところで、お兄ちゃん達はヴィーグリーズ作戦終了の後で、バルハラ作戦を始めるのでしょう? バルハラを成功させる自信があるの?」

 

 ミーアちゃん達の作戦計画はすでに次の作戦を考えているようだ。確かに、バルハラの終わりは見えないんだよな。姉貴の事だから徹底してやるのは分かってるけど、敵の拠点が地下であることと、その出入り口が大陸に無数に存在しているのが問題のようだ。


 「姉貴は可能だと考えてるみたいだな。但し、その終了期間はとてつもなく長いものになりそうだ。兵力を縮小して爆撃だけを考えているところがある。ヨルムンガンドは、敵の北上を阻止する為のものだし、ヨルムンガンドで区分した大陸の北部を俺達が利用しやすくする為でもあるみたいだな」

 「歪みを消し飛ばした爆弾を使うのかと思っていたのじゃが、そんな動きはないようじゃ。となれば、現用兵器で対応することになるが、地下都市への出入り口を塞ぐのは大分時間が掛かりそうじゃな」

 「その爆弾を使ってユング達がヨルムンガンドを作ってるようだけど、威力的には少し足りないかもしれないね。更に大型化したいところだ」


 ヨルムンガンドの南に部隊を進出させるとしても、かなり後の時代になるんじゃないかな。少なくとも数年は爆撃だけで済ませそうな気がするぞ。



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