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R-054 ハーメルン作戦


 姉貴とサーシャちゃん達がおとなしい訳が分かった。

 たぶん互いに意見を交わさずとも、同じ作戦を考え付いたってことかな。サーシャちゃんが姉貴に匹敵してきたのは喜ばしいが、何となく苦労の種が増えそうな予感がしないでもない。


 とは言え、2人とも互いの作戦を調整しないから、レールの寸法が合わないんじゃないのか?

 気になってディーに確認を取ってみると、どうやら同一規格らしい。この辺りはユングの暗躍があるのだろう。姉貴の傍には副官としてラミィがいるからな。

 

 「サーシャ達は、ヨルムンガンドの構築を邪魔されたくないということじゃな?」

 「そうなるね。大軍が押し寄せたら問題だけど、10万程度ならば何とかなりそうだ」


 どちらも、イオンクラフトを20機、小型飛行船を2隻持っているし、75mm短砲身砲もたっぷりと用意している。砦を指揮している2人も優秀だからな。もっとも、下の連中は苦労しそうだけどね。


 「しかし、ミーミルは堅牢じゃのう。我等が周辺部を削っているとは言え、良くも20万を超える敵軍を相手に出来るものじゃ」

 「あれは、特殊な地理的条件があるからね。ミーミルの陸地に張り出した部分の弾劾の高さが半分なら、こんなに持ちこたえられないよ。それにネコ族は優秀だ」

 

 あれ程、長期に渡る防衛戦を続けているのに、士気が低下するそぶりさえもない。

 寡黙なトラ族もそうだけど、まじめなんだよな。


 「それで、我等はこのまま戦を続けるのか?」

 「姉貴達が、あんなのを作ってるとなると、その間の時間稼ぎはしてやらないとね。補給は行なって貰えているし、たまに休養も取っている。士気も十分だろう?」


 俺の言葉を聞きながら、パイプを咥えてるんだけど……、キャルミラさんの姿はとてもシュールに見える。正しくファンタジーの中に入ってるような気がする。もっとも、かつての地球であるジェイナスはファンタジー世界のようにも思える。何と言っても魔法があるんだからな。

 変わった生物も多いし、俺達が戦っている相手も、元は人間なのだが今では悪魔の姿をしている。


 「順番からいうと、今度は湖を西に向かって攻撃じゃが……」

 「これが問題じゃのう……」


 仮想スクリーンに映し出されたものは、空掘りと土塁だった。その阻止線から数百mほど下がったところに悪魔軍が集結しているのだ。

 

 「やはり、士官クラスの知恵でしょうか?」

 「そう考えるのが妥当だな。それ程深くはないし、土塁も高くはない。だが、ガルパスの機動を一時的に低下させる事は確かだ。中隊規模の兵士が土塁の内側にいるから、土塁を破壊して侵入するのは事前に察知されて反撃を食うだろうな」


 「この虎口に攻撃を仕掛けてみるか? 何もせぬよりは陽動になると思うのじゃが……」

 「う~ん、追って来るかな?」

 「無理じゃろうな。200程度ならば全滅させても、本陣の数に大差ない筈じゃ。この防塁はそんな目的じゃろうな」

 

 どうも、上手く行かないな。

 俺達の役目が陽動なんだから、俺達の襲撃で相手が動いてくれないと困る。


 「ここを狙えと言ってるのが気に入らないにゃ!」

 エイルーさんの言葉に俺も頷いた。

 どうも、見え見えなのが敵の罠に思えるんだよな。落とし穴ぐらいあるんじゃないか? それを考えると、北に開いた一角を突くのも問題がありそうだ。


 「面倒じゃから、ミーミルの西を抜けて敵の南を突いてみるか?」

 とんでもない奇策だが、上手くやらないと、続々と進んでくる悪魔軍に背後を突かれそうだ。敵軍の進軍ルートならば罠を仕掛ける事は出来ないだろう。それは都合が良いが、微妙なタイミングが要求されるぞ。


 「ディー、この作戦は可能か?」

 「この空隙を見てください。進軍する悪魔軍に5.2kmの距離が開いています。襲撃時間を30分以内にすれば、アルト様の作戦は可能です。ミーミルの西を側面攻撃を仕掛けながら進めば一石二鳥になるでしょう。引き上げもミーミルに誘うように誘導して最後は、西側面を駆け抜ければ良いでしょう」


 「この空隙が利用出来るのは、数時間後だな。ミーミルの西を抜けながら南に移動してタイミングを図る。最初の集結地はここにする。敵軍より南東10kmだから、奴らも攻撃はして来ないはずだ。通信兵、ミーミルに敵の西を攻撃する事を伝えてくれ」


 直ぐに各部隊長が自分の隊に駆けていく。通信兵が慌しく電鍵を打つと、俺に通信終了を伝えてくれた。


 「右手への攻撃で集結地点に向かうのじゃな。これを使ってみるかのう」

 アルトさんがMP-8のグレネード投射器をいじっている。少しは役立つんじゃないかな? 何といっても数百mは飛ぶんだからね。

 「私は、機関銃を担当します!」

 ディーがそう言って、荷台に乗ると機関銃の取り付け場所を左に変更している。通信兵と俺が爆裂球担当なのかな? 

 

 荷物を纏めていると、亀兵隊が慌しく出発を始めた。集結場所は教えているから、俺達は殿で良い。

 通信兵の1人にAK47を使わせて、俺は爆裂球を担当する事にした。一応AK47を担いでいるから何かあれば介入出来るだろう。


 最後尾の戦闘工兵のやや東寄りにコースを取って、ミーミルを囲む敵兵に爆裂球を落としながら進む。

 俺達が西を襲撃する間は、ミーミルのイオンクラフトも待機しているようだ。俺達が南に去った後を追う敵兵に爆撃してくれるのだろう。

 敵陣を過ぎると、イオンクラフトの速度を上げて集結点に向かう。

 どうやら後方を追う敵兵はイオンクラフトの投下したナパーム弾で生じた炎の壁に阻まれたようだ。


 「上手く抜けたにゃ。次は本隊への攻撃にゃ!」

 「一応、進軍する敵兵の狭間を狙っての襲撃だ。素早く敵陣に接近して攻撃を加えた後に引き上げる。集束爆裂球を落とすから、それを合図に引き上げてくれ。爆裂球10個を袋に入れて纏めておくから盛大な音がするはずだ」

 

 「了解です。それで、襲撃の陣形は?」

 「こんな感じだ!」


 地面に敵陣を描いて、俺達の部隊を斜めに2列縦隊で配置する。そのまま、北西方向に移動して、敵陣に弾丸を撃ち込むのだ。


 「真ん中が戦闘工兵だ。無反動砲を使って最大射程で打ち込め。合図があったら、この場所まで引き上げて、鶴翼陣を引く。1万程度ならそれで対処できるだろうし、それより多数ならば更に後方に移動する。以上だ! 質問は?」

 

 隊長達の顔を眺めると、頷き返してくれる。質問無しって事だな。

 「襲撃はおよそ2時間後になりそうだ。作戦開始15分前に通信を送る。作戦開始は俺が銃を撃つから、銃声を合図にしてくれ」

 

 1時間以上間があるから、小さな焚き火を作ってお茶を飲むぐらいは出来そうだ。

 アルトさん達がお茶を沸かしている間に、ディーと集束爆裂球を作っておく。10個も袋に入れると5kg程の重さになる。通常なら小型の魔法の袋に入れておくのだが、食料輸送用のズタ袋に入れたから、結構な重さだ。ディーが2個余計に入れたのが利いたのかな。

 

 「ディー、これを落とせるか?」

 「問題ありません。この紐を引いて投げれば良いだけです」


 準備が終ると、端末の仮想スクリーンを眺めながら、突入のタイミングを図る。

 悪魔軍は徒歩だから移動速度が遅いな。2時間と考えていたが、もう少し掛かりそうだ。

 のんびりとお茶を飲み、シュタイン様の形見のパイプでタバコを楽しむ。

 アルトさんは一生懸命MP-8を磨いているけど、使うのは機関銃なんだよな……。

 2時間が過ぎたところで、状況を観察する。

 進軍してきた悪魔軍の後続が敵陣に入るまで、30分は掛かりそうだ。後方の次の部隊は団子状態で足早に進軍してくる。空隙となる時間を1時間と見込んでいたが、少し早まりそうだな。


 「通信兵、連絡を頼む。『15分後の1320時に作戦開始。後続部隊の接近が予想より早い。撤退合図で確実に後退せよ』以上だ」

 「数発打ち込む時間もないのか?」

 「それ位はあるさ。襲撃時間を15分程度に考えておけばいい。ディー、次の部隊が3kmを切ったら、俺に構わずにあの袋を投げてくれ」

 カップに残ったお茶を飲み、パイプのタバコを落とすとイオンクラフトの荷台に乗った。

 全員が乗ったところで、安全ロープを確認させると、ずらりと横に並んだ亀兵隊の中央前方に移動する。

 地上10m程に滞空しているから、亀兵隊全員がイオンクラフトを見る事が出来るだろう。

 作戦開始まで後3分。ゆっくりと後方の精鋭部隊を眺めながら、腰のM29を引抜いた。


 ドッコォーン!

 44マグナム弾の発射音が荒野に消える前に、ウオオォォー!!という蛮声でかき消された。

 横一線で亀兵隊が敵軍に向かって進んで行く。


                  ・

                  ・

                  ・


 15分間、一方的にグレネード弾と無反動砲弾で攻撃を行い。ディーの投げた爆裂球の入った袋が、敵の中で炸裂したのを合図に南東に引き上げる。

 追撃してくる敵兵の前に爆裂球を落とし、機関銃を乱射しながらイオンクラフトで殿を勤めたが、ガルパスの速度は敵兵の10倍近くあるからたちまち引き離すことができた。

 追ってくる敵兵を迎撃する為に、襲撃前に布陣していた場所で陣を張ったが、どうやら、敵の進軍してくる部隊と合流したようだ。移動方向が異なるからかなり混乱しているのが仮想スクリーンで見て取れる。


 「追って来ぬのか?」

 「そうみたいだ。今日は、これぐらいかな?」

 「敵兵の損失は2千程度です。もう少し間引きませんか?」


 ディーが珍しく具申してきた。

 誘い出すのはいいんだが、問題は誘い出した部隊の殲滅にある。湖の南に位置する敵軍は20万以上いるし、ミーミルを囲む敵兵も数万を下らない。

 下手に誘うと数万の敵兵が追ってくるとも限らない。そうなると、殲滅する為にミーミルを利用することになりそうだ。


 「1個大隊で攻撃を仕掛け、敵を間引きながらウルドに向かいます。なるべく敵兵の移動速度に合わせればぞろぞろと付いてくると思います」

 ハーメルンだな。常に1個大隊を餌にすればいいか。側面を1個大隊が叩き、もう1個大隊は先回りして休息させればいいだろう。

 おもしろそうな作戦だな。


 「よし、大隊長達を集めろ。通信兵はウルドと姉貴に連絡。『ハーメルン作戦を始める』以上だ!」

 通信兵達が直ぐに電鍵を叩き始める。

 俺は、ディーと一緒に仮想スクリーンに地図を広げて、これからの計画を再度確認し始めた。そんな俺達とは別に。キャルミラさんとアルトさんがお茶を飲みながら仮想スクリーンを別に展開して眺めている。

 

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