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R-053 列車砲?


 砦の柵は残っているから一応安心感はあるのだが、南西には敵軍が集まりだしているし、南東のミーミルを囲む悪魔軍は20万はいるだろう。

 柵に見張りを配置して、早目の夕食を兵に取らせると、早々に休ませる。


 「ミーミルはまだ戦闘中じゃが、我等はここで休んでも良いのか?」

 焚き火の傍でカソウスクリーンを眺めていた俺に、アルトさんが問い掛けてきた。


 「ああ、だいじょうぶだ。ミーミルで敵兵力を磨り潰すのは姉貴の思惑通りだろう。1個中隊ではなく2個中隊の増援と、ミーミルの指揮官がレムリアさんというなら、姉貴と連合王国のガラネスとは調整が付いていると見るべきだね。俺達はミーミルに散々叩いた悪魔軍を誘き寄せるのが役目のようだ」

 

 「確かに戦力的には我等の部隊では殲滅出来ぬ。じゃが、ミーミルは我等より兵力が少ないぞ。だいじょうぶなのじゃろうか?」

 「難攻不落な砦だよ。姉貴やサーシャちゃんなら1個中隊もいらないんじゃないかな」


 「誘き寄せて、短射程の大砲とイオンクラフトで数を減らすというのか? 確かに斜路は1個小隊で守れるし、断崖をよじ登ろうとしても、上で1個中隊が待ち伏せしていれば、落ちる事は無いじゃろうな」


 キャルミラさんも、どうやら納得したようだ。

 「その裏には、2つの砦が行なっておるヨルムンガンドの工事が係わっておるようじゃな。なるべく邪魔をされないように我等に目を向けさせるという事じゃろう」


 陽動なんだろうけど、何か陽動の範囲を超えているような気もする。だが、ヨルムンガンドの工事をある程度まで進めたいのも確かなようだ。

 確か、ヴィーグリーズの作戦期間は5年を考えていた筈だ。たぶん次の作戦の布石ではあるんだろうけど、流浪の騎士団のような気がしてきたぞ。

 早めに、腰を落着ける場所を確保したいものだ。

 

 明くる日。今度は南西の悪魔軍を最初と同じようにして釣りだすとミーミル砦に誘導する。その次の日には、南に移動してミーミルを取り巻く悪魔軍を誘い出して数を減らす。そんな行動を取りながら、3日目に必要な物資を受け取り、再び陽動を繰り返す。


 陽動を目的とした遊撃戦を20日行なったところで、グングニル部隊を北に100kmほど移動する。ここで、3日間の休養を取らせて英気を養って貰うつもりだ。

 

 そんな俺達のところに資材を届けに来たのは、バンカーバスターを落としに向かうユング達だった。

 久しぶりの再会に、互いに握手をすると直ぐに焚き火の傍に座り込んで、先ずはコーヒーで乾杯だ。

 ユングが差し出すタバコの箱から1本を抜き出して、焚火で火を点ける。


 「どうだ。頑張ってるようだが?」

 「まあ何とかやってるよ。陽動になるんだろうが、どうやらミーミルを使って殲滅も姉貴達は視野に入れてるらしい」

 

 「そのミーミルに、大砲を運んできた。更に8門増えたぞ。同じ短砲身砲だ」

 「最大射程が短いのが難点だな。サーシャちゃん達の使っている短砲身砲の半分ぐらいだからな」

 

 そんな俺の言葉を聞いて笑っている。おかしな話なのか?

 

 「俺は、十分だと思うぞ。何て言っても速射が出来る。通常の短砲身砲より5割近く撃てるんだからな。それに3kmも飛ぶなら包囲した連中を叩くには十分だ。イオンクラフト10機が長距離砲の代用になるな」

 「じゃが、エイダスの連中が使う銃はレバーアクションじゃ。それであの軍団を防ぎきれるのか?」

 

 アルトさんが俺達の会話に入って来た。

 やはり、俺達の持つ銃よりも旧式なのを気にしているようだ。


 「銃弾はAK47よりも強力だ。ウインチェスターはハンドガン並みだが、357マグナム弾だぞ」

 「ミズキやラミィの持つハンドガン用じゃな。あれは強力じゃが、口径が小さいのじゃ」

 「そこは、距離でカバーする。それに、ウインチェスターを使うのは砲兵達直接塹壕に潜んでいる連中じゃない」

 

 そう言う意味では統一されているということか。イオンクラフトの搭乗員や兵站をこなす兵士、それに砲兵は自衛用としてウインチェスターを持っているという事だろう。

 銃が軽い分、作業性は高くなる。

 

 「ユング達も大分気の長い作業を始めたな」

 「ああ、確かに時間が掛かる。だけど、結構作業ははかどっているぞ。嬢ちゃん達のところには大型ガルパスがあるし、ミズキさんのところにはカラメル族が手を貸している。戦闘工兵が砦作りを始めようとしているよ」

 

 「カラメル族がタトルーンを持ち出したのじゃな?」

 「大型ガルパスよりは小さいが工事には支障がないようだ。夜間限定で作業している」


 「運河作りを悪魔軍は脅威と認識していないようだ。今のところ単なる空堀だし、深さも10m程だからな。問題は、奴等がその理由に気付いた時だ。今大量の爆弾を2つの砦に輸送している。明人が遊撃戦を続ける期間もそんなに長くはないぞ」

 

 そう言うと、俺に数個のタバコを渡して、小型飛行船で南に飛び立って行った。また、バンカーバスターを投下しに出掛けるんだろうな。

 

 「あ奴も、気の毒な仕事をしておるのう。大陸の東西に数発ずつの爆弾を落として帰っていくのは退屈じゃろう」

 アルトさんが同情するのも無理はない。あまり変化がない繰り返し作業だ。しかも、延々とその作業が続くときている。

 だが、ユングのことだ。そんな単純で緻密な作業はフラウに任せてるに違いない。次の兵器辺りを考えてるんじゃないかな。

 

 姉貴やサーシャちゃんの砦には大型飛行船が資材を次々と運んでくるようだ。大陸北東部の港も整備されて、商船が船団を組んで入港している。

 エイダスからの入植者も渡って来ているようだ。彼等はその後、大型飛行船でギムレーの入植地に向かうのだろう。

 大陸中央部を横断するのは危険だから、資材を運んできた飛行船が帰還する前に、輸送を手伝っているのだろう。

 港にも倉庫が大分並んできた。やはり大量に荷を運ぶなら船になるな。

 

 「北の港を見ているにゃ。たまに魚を運んでくれるにゃ!」

 スクリーンを覗き込んでエイルーさんが教えてくれた。魚はネコ族にはご馳走だからな。たまにとは言わずに食べさせてやりたいものだ。

 釣りに行ってみようか?

 少なくとも、3日は兵を休ませることを考えると、そんなに遠くに行けそうもない。1時間程度でこれる範囲ならば、イオンクラフトの速度を考慮すると200km程が可能だが、飛行距離は400km程だからな。精々100km程のところで我慢しなければなるまい。

 仮想スクリーンで東海岸を眺めると、2、2箇所おもしろそうな岩場がある。比較的波の穏やかそうな岩礁地帯を探すと、良さそうな場所がある。距離は北東に70km程だから、何の問題もないぞ。


 「どうしたのじゃ?」

 「ここで釣りをしようと思ってるんだが、イオンクラフトなら何があっても直ぐに戻れるだろう?」

 

 そんな訳で、イオンクラフトの乗員と一緒に魚釣りに出掛けたのだが、場荒れしていないから結構釣れた。

 帰りのイオンクラフトの荷台には氷漬けされた魚が木箱3つにもなっている。それでも、3千人近い部隊だから、1人1匹とはいかなかったのが残念ではある。

 

 「また出掛けるといいにゃ!」

 エイルーさんがそんな事を言いながら、魚のスープを美味しそうに食べている。ミケランさんを思い出すなあ……。


 そんな休暇が終ると、再び南から進んでくる悪魔軍をミーミル砦に誘い出す。

 ユングの話だと先が長そうだから、6日おきに3日程休暇を取ることにする。

 ユングに釣りの道具を運んでもらって、2回目の釣りは小隊規模で行った。今度は3日目の夜に全員が1匹の焼き魚を手にする。

 ちょっとした楽しみだけど、士気の低下を防ぐ方法の1つに違いない。

 3回目の釣りでは、ミーミルに魚を届けてあげた。

 ネコ族だからか、全員涙を流していたぞ。そんなに嬉しかったのかな?


 「だいぶ運河が伸びてきたようじゃのう……」

 夕食が終って、のんびりとタバコを咥えながら仮想スクリーンでウルドの様子を見ていた俺の隣で、キャルミラさんが小さな声で呟いた。


 確かに長くなったな。15km近くあるんじゃないか? その先も3km程爆弾が炸裂したクレーターが並んでいる。

 正規兵達が運河の堤の上に、柵を作っているようだがその柵もだいぶ延びている。そんな砦の様子を見ていると、正規兵達が何やら道作りをしている。

 

 「鉄道じゃな。複線で作っておるぞ!」

 「東の堤防のような装甲列車を考えているのでしょうか?」

 「そうでは無さそうじゃ。2つの線路の幅が狭い。あれでは簡易鉄道になるじゃろう」


 縮尺を考えると確かに線路が細く感じる。兵力の迅速な移動を考えているのだろうか? それとも装甲列車か……。だが、装甲列車はレール幅が1mを超える。あのレール幅はそれよりずっと狭いぞ。

 かなり小さな貨車になりそうだ……。待てよ、線路4本を使用する貨車ということも考えられるぞ。そうなると横幅3mを超える貨車になる。そんな貨車が積むものは……、1つ考えられるな。


 「ディー、現在連合王国で使われている最大の砲は、155mmだが、200mm砲を作る技術はあるのか?」

 「冶金技術は十分です。マスターの考えていることをサーシャ様は実行しようとしているのではないでしょうか? 200mm砲であれば射程は30km程に達するでしょう。バジュラを擁していますから、3門程曳いても移動は可能だと推測します」

 

 列車砲だと! ……レールを作る技術と土木技術それに冶金技術と機械加工技術があれば出来そうだが、射程30kmは魅力的だな。

 

 「この4本のレールが何か分かったのじゃな?」

 「ああ、たぶんね。更にもう1つぐらい作るかも知れないな。作るとすれば姉貴の砦になる」

 

 ふ~ん、というような顔をしてアルトさんが聞いているけど、理解はしていないようだな。

 「ディー、第二次世界大戦時の列車砲のライブラリーはバビロンにあるんだろうか?」

 「検索中……、ありました。1分程の映像ですが、再生してみます」


 仮想スクリーンが新しく開いて、白黒画像が映し出される。

 ディーゼル機関車に牽引された長砲身の大砲を載せた貨車がゆっくりとトンネルから出てきて停止すると、兵士が忙しく動き回り弾薬を砲身に押し込んでいる。

 発射と同時に貨車が少し後退したのが分かった。精密射撃はできないようだな。

 

 「これがかつて作られた標準的な列車砲です。口径200mm、最大射程35km。弾丸の重さは50kgになります」

 「イオンクラフトで爆弾を落としたほうが良さそうに思えるぞ」

 

 ディーの概要説明を聞いてアルトさんが問い掛けてきた。

 確かに、そのとおりだ。だけど、これはこれでメリットがある。イオンクラフトが2発の爆弾を落として再度爆撃を行う間隔は、どう考えても1時間程度は必要だ。列車砲ならその場で継続的に弾丸を発射できる。その間隔が5分おきでも1時間に12発撃てるのだ。3門なら36発……これはイオンクラフト18機分に匹敵する。

 30kmの射程も、悪魔軍の1日の行軍距離に匹敵する。事前に叩くには都合がいい兵器ではあるな。

 運河に向かって来る敵をこれで叩き、その先をイオンクラフトに任せるつもりなんだろう。作戦の終盤を考えての秘密兵器ってことになるんだろうな。


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