R-052 南へ北へ
2km近く亀兵隊を追って伸びた悪魔軍の根元付近を東に向かって飛びながら爆裂球を落としていく。
悪魔軍がいなくなったところで、今度は西に向かって同じように飛んでいく。
投付ける爆裂球が無くなったアルトさんから袋を受け取ると、爆裂球をたっぷり詰め込んで渡してあげた。
いつの間にかディーは機関銃で掃射を始めたが、爆裂球とどっちが効き目があるんだろうな。
何回か往復したが、やはり悪魔軍の流れを止める事は出来ないようだ。
そんなおり、イオンクラフトがやって来て、ナパーム弾を投下して、たっぷりと機銃掃射を行なって戻っていった。
今度こそ、流れが止まったようだ。亀兵隊を追う悪魔達に銃撃を浴びせながら亀兵隊達の陣を目指していると、一斉に悪魔軍に砲弾が浴びせられた。
「早速やっておるな!」
「通信兵、連絡してくれ。『敵との距離が1M(150m)以内になったら、南に20M(3km)移動せよ』3つの大隊に伝えてくれ!」
怒鳴るような俺の声に3人の通信兵が電鍵を叩き出した。
「あの場所で殲滅するのではないのか?」
「多すぎるよ。少しずつ減らさなくちゃね」
荷台に顔を向けて聞いて来た、アルトさんに説明する。先の長い戦いだから兵力は大事にしないとね。
俺達は西側から亀兵隊達に迫る悪魔軍に圧力をかける。亀兵隊達はヒットエンドランに徹して、少しずつ南に移動していく。
そんな戦を、夜になっても繰繰り返していると2万近い敵兵をどうにか殲滅出来たようだ。時刻はとっくに日付が変わっている。ミーミルから数十km離れた小さな丘で俺達は休憩に入る。
サーシャちゃんに通信を入れて弾薬を補給しなければなるまい。明日は戦は休みにしたいな。
「悪魔を倒すのは造作も無いが、アルガーは面倒じゃ。数発の銃弾を受けねば倒れぬぞ!」
「AK47では2M(300m)ではまったく効きません。1M(150m)でどうにかです」
アルトさんの訴えに襲撃部隊の隊長達も追従する。だが、それは仕方が無いんだろうな。何と言ってもワニの皮膚だ。
「現在位置をサーシャちゃんに報告して、補給を依頼してくれ。なるべく、グレネード弾と爆裂球を多めに補給すれば、襲撃にも効果が出るだろう」
「早速、連絡します。……それより、依然として我等を追って来ますが、このままで良いのですか?」
「距離があるからね。200M(30km)離れていれば、10時間程余裕がある。兵を休めてくれ。それと、残った爆裂球を100個程集めてくれないか? 敵の先頭集団にばら撒いてくる」
余裕時間の10時間をもう少し延ばしてやりたいからな。
集められた爆裂球は200個を超えているぞ。通信兵を降ろして、代わりにトラ族の兵士が一人乗り込んだ。アルトさんとディーは機関銃で掃射するつもりのようだな。
「しっかり、ロープをベルトに通しておけよ。落ちたら食われるからな」
「大丈夫です。ここでひたすら爆裂球を投げれば良いのですね」
俺と兵士の間に爆裂球を入れた木箱を置いて、キャルミラさんに出発の合図を出す。
イオンクラフトは滑るように北に向かって飛んでいった。
1時間程も掛からずに、俺達の陣に帰ってきた。
効果の程は分からないけど、食事に忙しそうだったから少しは到着が遅れるに違いない。俺達も、野戦食を食べて、イオンクラフトを利用して作った天幕で横になる。
明くる朝。簡単な朝食を終えると、イオンクラフトの近くに作った小さな焚火に各隊長達を集めて、今日の作戦を考える。
端末を操作して仮想スクリーンを展開すると、自軍と悪魔軍の状況を確認する。まだ数kmの距離があるな。後続は断たれているが、5km程の長い帯びのような形で俺達の方向に近付いている。
「補給は済んでおります。ここで迎撃しますか?」
「いや、ミーミルを襲っている悪魔軍と俺達に向かって来る悪魔軍の間が切れてるだろう。こんな感じで襲撃する。丁度、向かって来る敵を一周することになるけど、距離は500M(45km)にならないはずだ」
スクリーンを指差しながら作戦を指示する。敵軍の西側を攻撃しながら北に向かい、ミーミルを襲っている敵の外周部を叩く。その後、長く伸びた敵軍の東側を攻撃しながら再び南に移動することになる。
「ガルパスを停めるな。敵の中にグレネード弾を打ち込み、近付く敵はAK47で掃射しろ。単射でなく連射を許可する。但しマガジンは3個までだ。4個目は単射にしろよ」
「中隊単位で交互に攻撃するにゃ。ガルパスを走らせながら無反動砲も撃てるにゃ。ミーミルの連中には無反動砲を使うにゃ!」
160門の無反動砲が放たれたらさぞかし壮観だろうな。
「攻撃時間は20分後でよろしいですか? 丁度、10時になります」
「それでいい。通信兵、ミーミルとウルドに攻撃開始時刻を伝えてくれ。ディー、2つの砦に俺達の攻撃計画図を送ってくれないか」
隊長達が部隊に戻ると、イオンクラフトの乗員だけが残る。もっとも、通信兵達は連絡と天幕を畳むのに忙しそうだな。
「我らはどうするのじゃ?」
「悪魔軍のど真ん中を爆裂球を落としながら北上する。高度があるから、同士射ちされることはないと思うけど、念の為に亀兵隊の最後尾から3M(450m)ほど遅れてイオンクラフトを進めるよ」
「高度は、100mで良いのじゃな。速度はガルパスに合わせるぞ」
機関銃の掃射は最後で良い。敵の航空部隊がやってこないとも限らないからな。
のんびりとお茶を飲んでいると、大きな歓声が響いてきた。時計を見ると10時丁度だ。亀兵隊達が出発したようだ。
タバコを取出して、焚火で火を点ける。
お茶を一口飲むと、残りを捨ててバッグにカップを仕舞い込んだ。
「後、10分程で亀兵隊が全軍出発します!」
「そろそろ、イオンクラフトに乗ってくれ。乗ったら、ちゃんとベルトにカラビナを付けとくんだぞ!」
「そう、度々言わずとも分かっておる! ほれ、アキトが最後じゃ」
アルトさんが不平を言っても、注意すべきことは言っておかないとな。
亀兵隊が全て出発したことを確認して、俺達は攻撃を受けて散開を始めた悪魔軍に爆裂球を投下しながら北上して行った。
かなりの被害を敵軍の左側面に与えているようだ。倒れた悪魔に群がる悪魔達に爆裂球をひたすら投げ続けると、ミーミルを囲む悪魔軍が見えてきた。
前方に無反動砲の炸裂した爆煙が上がる。土埃を伴なって北の空が曇って見える。
その中に飛び込むようにしてイオンクラフトが方向を変えると、今度は南に向かって進路を取った。
出発した場所より、数km南に下がって、陣を引いている亀兵隊の真ん中にイオンクラフトを着陸させると、直ぐに隊長達を集める。
端末を操作して仮想スクリーンを開くと、状況を確認する。
俺達を追ってくる敵兵は歩みを止めたようだ。既に、1万程に兵力を弱めているから殲滅は容易なのだが……。
「再度攻撃しますか?」
「ああ、だけど先程の攻撃でかなりグレネード弾を使っていないか?」
「半分は使いましたが、まだ8発残っています」
「銃弾はたっぷりあるにゃ!」
グレネード弾をあまり使わずに、銃撃だけ与えればいいようだ。ならば、部隊を大隊ごとに3段に構えて、敵への攻撃終了後に素早く移動すれば良さそうだな。今度の移動先は……、俺達が元いた湖の北で良さそうだ。ミーミルから湖までは距離があるし、敵はミーミルの周辺5km程に集まっている。湖を左回りに迂回してくる後続の悪魔軍はいないから丁度いい。柵は残っているから、敵の襲撃を柵で防ぎながら北に移動できる。
「今度は、こう動くぞ!」
俺の説明を聞くと、隊長達は直ぐに部隊に帰って行く。
「元に戻るのじゃな。あまり意味がなかったようにも思えるぞ」
「そうでもないと思うよ。敵の元いた場所には、後続が終結しているけど、まだ10万程度だ。最初にいた30万を超える兵力は俺達の攻撃とミーミルの攻撃で半分以下になりつつある。この状況なら、今夜辺りサーシャちゃんが小型飛行船で、西の連中を叩くはずだから、明日は俺達は西を叩く。東はミーミルに任せても十分だ」
十分、2個中隊で守れるところに3個中隊が布陣してるんだからな。
武装は貧弱だけど、威力はある。士気も高そうだし問題はないだろう。
「亀兵隊達の移動が始まりました。私達は?」
「まだ沢山爆裂球が残ってるからな。彼等の移動を追いかける形で、奴らの頭の上に爆裂球を落とせばいい」
それは、1時間も先の話だろう。
携帯コンロでお湯を沸かし、お茶でも飲んで待ってればいい。
そんなことを考えながら、タバコを咥えて仮想スクリーンで全体状況を確認する。
サーシャちゃんは砦造りに忙しそうだし、姉貴の方は運河造りに励んでいるな。南からの攻撃を防ぐには都合がいいのだろうが、気の長い話ではありそうだ。ギムレーの方は、屯田兵達が斜面を開墾している。かなり人数が増えているように見えるけど、エイダス島から入植者がやって来てるのかな?
小さな集落が2つも出来ている。少しずつ発展して行きそうだ。
「西から北部の森を通って港に向かう敵軍はおらんようじゃな?」
「そのまま北上して西に進んでいるようです。洗脳されていますから、俺達の後ろを狙うことはないと思います」
スクリーンを覗き込んだキャルミラさんにそう答えると、端末をバッグに仕舞い込む。
そろそろ、俺達の出発時刻だな。
イオンクラフトに乗り込んで、北に向かうと3段に構えていた亀兵隊の最後の部隊である戦闘工兵が移動を始めた最中だった。
真っ直ぐ西に向かっているが、精々数kmで北に方向を変える筈だ。
倒れた仲間をむさぼっている悪魔達に爆裂球を落としながら、俺達は北上を始めた。
「我等を追っていた悪魔軍を抜けたぞ。もう少しでミーミルを囲んでいる悪魔達の頭上に出る!」
「キャルミラさん悪魔軍の西の上を飛んでくれ。同じように爆裂球を落としていく」
まだたくさん残ってるから、ここで30個程消費しても問題無さそうだ。
それに、湖の北の砦に向かおうとする悪魔達への牽制にもなるだろう。




