表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/157

R-051 機動戦は続く


 ミーミルの北15km程にある丘目掛けて、悪魔軍は長く触手を伸ばすように向かってきている。

 その東側に数百のグレネード弾を撃ち込みながら、3つの大隊が南へと走り抜けた。殿の俺達は攻撃で少し東へと進路を変えた悪魔軍に、機銃弾を浴びせながらイオンクラフトで滑空していく。速度はガルパスの速度より遅いから、俺達を囲もうとワラワラと悪魔軍が押し寄せてくるが、100m程の距離を保って南へと移動して行った。


 「追い掛けてくるのう……。じゃが、このまま進めばミーミルじゃぞ!」

 「ミーミルは1個中隊が増援されてるし、イオンクラフトも10機持っている。落ちはしないさ」


 何せ、斜路の終点にある虎口に1個小隊を配置するだけで守れるような砦だからな。20mほどの断崖を登る敵兵は1個中隊配備された守備兵に、登ったところで狙い撃ちされるだろう。使う武器がレバーアクションの旧式だけど、弾丸は十分に敵を貫ける。それでエイダス島の防壁を守護していたんだからね。

 持ってる爆裂球投射器は100m以上爆裂球を飛ばせるんだから、麓に集まった敵兵に使うにはちょうど良い。


 「一応、ミーミルに連絡はしといてくれよ!」

 「既に終了しています。『いつでも連れて来い』と言っていました」


 やる気だな。いったい誰が指揮してるんだろう?

 機関銃の円盤型マガジンを交換して、西から駆けて来る敵兵を掃射した時、機関銃の着弾地点より西に数発の砲弾が炸裂した。


 「ミーミルからの砲撃です。全てウルドに移動した筈ですが?」

 「たぶん、エイダス島から持ってきたんだ。となると、実質の増援は1個小隊増えてるな」


 移動が容易な短砲身75mm砲だろうな。サーシャちゃんの砦で使う75mm砲よりも更に短い砲身なんだろう。ネコ族の華奢な体で扱うならそうならざるを得ないからな。


 俺達はミーミルの正面を通り過ぎて更に南へと飛行する。案の定、悪魔軍はミーミル砦に取り付いたぞ。

 斜路を悪魔軍が駆け上っていったけど、途中に積み上げた木材で足止めを食っている。そこに斜路の上から火のついたツタを編んだ球が転がってくる。

 あれでは、先に進めないだろう。

 双眼鏡を取り出して断崖を眺めると、既に悪魔軍が取り付いていた。


 「ミーミルに連絡だ。『悪魔軍が断崖をよじ登っている』以上だ」

 直ぐに通信兵が電鍵を叩きだす。これで思惑通りの筋書きになってきたぞ。

 今は引き潮らしいが、後数時間過ぎれば、ミーミルには海から援軍が現れるからな。

 

 「追って来ぬぞ。最初の集結点はもうすぐじゃ!」

 「通信兵、各大隊長に連絡。『イオンクラフトに集合せよ』以上だ」


 ミーミルを遠く望める少し起伏の高い場所にイオンクラフトが着地すると、直ぐに大隊長達が集まってきた。

 戦闘工兵の盾を使って簡単なテーブルを作り、端末で仮想スクリーンを展開する。

 悪魔軍は当初の陣形を崩して、細長い帯状に形を変えている。その終点はミーミル砦の直ぐ西なのだが、帯状に伸びた陣形を保って進んでいるから、続々と集まってきているぞ。


 「北の悪魔軍を攻撃する。距離を保ってグレネードランチャーを使うんだ。少しずつ南に下がり、追い掛けてきたなら襲撃第1大隊が囮になって後を追わせろ。第2大隊と戦闘工兵は無反動砲を中心にして鶴翼陣。第1大隊は陣をこのように貫いて両翼に移動。追撃してきた敵兵を蹂躙せよ!」


 俺の言葉に各隊長達が大きく頷く。

 「作戦開始は1時間後。それまでゆっくり休んでくれ」

 「11時丁度でよろしいですかな。亀兵隊3個大隊の一斉突撃は久しぶりです。語り草になりましょう」


 その言葉に、その場の全員が頷いた。士気は悪くない。今度は敵兵の数をかなり減らせそうだな。

 

 「爆裂球が残り少ないぞ!」

 「荷台の箱にまだたくさんあるから袋に詰めとくといいよ。少し敵の上を飛んで撒き散らそうと思ってるからね」

 

 俺の言葉が終らない内に、アルトさんは荷台に飛び乗って箱から爆裂球を取り出したようだ。

 明日には補給を受けられるから、存分に使ってやろう。

 

 ディーがコーヒーを入れたシェラカップを渡してくれた。

 携帯用コンロでお湯を沸かしたのかな? 通信兵も不思議な表情でコーヒーを飲んでいるぞ。

 

 「ミーミルは激戦じゃな」

 キャルミラさんがシェラカップでコーヒーを飲む姿は、いつもながら感じるものがある。何と言っても頭がネコそのものだからな。だが、その姿に騙されてはいけない。俺達以上に深い知性の持ち主だし、素手での試合ではいつも負けそうになってるからね。


 「あの大砲は正解でしたね。8門でしょうが、近場を狙うには丁度良い感じです」

 「イオンクラフトは北から断崖付近を掃射してミーミルに帰っていく。あれは北を爆撃した後じゃろう。南に一切手を付けておらぬ。我等の作戦を知っておるようじゃ」


 「通信兵。ミーミルの指揮官の名を尋ねてみろ!」

 北の戦の煙を眺めていた通信兵の1人が通信機に取り付いた。


 「確認取れました。レムリア王女です!」

 「やはりのう……。まるでレムルの再来じゃ。あやつが、この時の為に残してくれたに違いない」


 レムルは俺達と違って、異世界で寿命を全うした過去の世界からの迷い人だ。たぶん、レムル以外にもたくさんいたに違いない。そんな連中は悔いのない人生を送れたんだろうか?


 「となると、エイダスからの増援はもっと大勢でしょうね。最低でも2個中隊というところでしょう」

 「ミーミルに3個中隊か……。簡単に敗れぬのう」

 

 ならば、安心して俺達の攻撃を続けられる。

 スクリーンをもう1度確認する。俺達の背後に回り込もうとする悪魔軍はいないようだ。すべて亀兵隊に誘導される形で移動している。


 果たしてどれだけミーミルから離れるかが問題だな。そのまま20kmも南に下がって今夜は様子を見るか。

 ポーチからタバコを取り出してジッポーで火を付ける。

 温くなったコーヒーを飲んで、カップをバッグに詰め込んだ。AK47の銃弾はたっぷり持っている。存分に敵を倒す事が出来そうだ。


 「そろそろ11時です。亀兵隊は全員亀乗しています」

 「俺達が最後になるのか? それじゃあ、機銃を頼んだぞ。航空部隊が出てきたら優先して倒して欲しい」


 操縦はキャルミラさんだ。アルトさんは爆裂球を放り投げる方が良いに決まってる。俺も爆裂球の入った蓋を開けて、そこに10個ほど爆裂球を乗せて準備をしておく。安全ロープのカラビナをベルトに通してある事を全員に確認させたところで、イオンクラフトの発進準備は完了した。

 

 突然、ウオオォォ……という雄叫びが周囲に木霊する。

 周囲が砂塵で覆われたところを見ると、亀兵隊達が一斉に北に突撃して行ったのだろう。


 「ゴホン、ゴホン……。酷い土埃じゃ。我等は、まだ進まぬのか?」

 「第1大隊の囮に引っ掛かった敵兵の尻尾切りだから、もう少し後で良い。グレネード弾が炸裂してからで十分間に合うよ」


 仮想スクリーンで状況を見守る。ミーミルを攻略しようとしている悪魔軍の外縁まで5kmもない。

 千年前なら、激しくぶつかってで刈り取っていく戦法だったな。銃の発達で実際に切り結ぶことは殆どないようだが、腰のグルカは飾りではない。少し、アルトさん達に白兵戦を教えて貰おうかな?


 3個大隊約3千人近い亀兵隊が悪魔軍の手前で急停止してグレネード弾を放った。かなり接近しているな。100mは間を保つように指示したのだが……。


 「出掛けるぞ! キャルミラさん、湖の方向に進んでくれ。地上100mを担保すれば、敵は攻撃出来ない」

 「分かっておる。まだ我等の攻撃は先じゃからのう」

 そんな俺達の会話にアルトさんは不満顔だな。だけど、俺達だけで追撃部隊を分断しなければならないんだから、もう少し待って欲しい。期待には十分答えられると思うぞ。

 

 ゆっくりとイオンクラフトが北西に向けて移動する。

 アルトさんや通信兵達は、銃のカートリッジや爆裂球の位置を確認して、取出しやすいようにポーチの位置を直してるけど、片っ端から投げれば良いからあまり気にする必要はないと思うぞ。

 亀兵隊達の状況を右手に眺めながら、俺達を載せたイオンクラフトはゆっくりと湖の上に移動し終えた。

 既に、戦闘工兵は戦場を離れて後方に移動を始めている。

 散々にグレネードを放った襲撃大隊が少しずつ南に下がり始めた。


 「イオンクラフト部隊も協力してくれておるのう。75mm砲はこちら側を攻撃しておるぞ」

 「北の黒煙はナパーム弾によるものでしょう。その帰りに機銃掃射をしてくれるのはありがたい話ですが、それによってミーミルに相手の目が向けられるのも問題です」


 不思議な事にまだ航空部隊が出てこない。俺がこの位置を指示したのは、悪魔軍の航空部隊に備える目的もあったんだが……。


 「カニが出て来たそうです。北の斜路はサメの群れにより敵の襲撃がなくなったそうです」

 「なかなか良い味方だよな。上げ潮時にのみ協力してくれるんだが、出来れば常時渚を徘徊して欲しいものだ」


 一連の戦が終れば表彰したいぐらいの活躍だからな.記念碑位は作って保護してあげるぐらいの事はしてあげても良さそうだ。かつてこの世界を掛けて戦った仲間だという事が知られれば不用意な開発などで絶滅する事も無いだろう。

 

 「マスター。誘い出しで悪魔軍が1kmほど襲撃部隊を追い掛けています」

 「そろそろだな。キャルミラさん、高度に気を付けて東に進路を取ってくれ。速度は30kmで十分だ。爆裂球を2個残して、全部落として構わないぞ!」


 徒歩の悪魔軍にとって3倍以上の速度だ。

 イオンクラフトが悪魔軍の頭上に達した時から、アルトさんと2人の通信兵が左右に爆裂球を、ゴミを捨てるようにポイっと投げ始める。

 高度があるから、地上に達して直ぐに炸裂しているようだ。左右に20m程の範囲で爆裂球の被害が出ていることが、荷台からの眺めで確認できる。


 「ディー、気化爆弾はいつでも使えるのか?」

 「はい。でも1度使えば次の使用には30日ほど時間が必要です」

 

 少し離れた場所に爆裂球を投げていたディーが、俺に顔を向けて教えてくれた。

 レールガンも使える武器だが、大軍を相手にするなら気化爆弾が一番だ。あまり使いたくないが、使いどころは間違わないようにしなければならない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ